12:メスガキは病みカワ系アイドルと話をする

『生きてるだけで酸素を吸って、野菜を食べてお肉を食べて。他の生き物に迷惑かけちゃう。ああネガティブじゃ!

 生きてたって何にもならないんだから死んじゃいたい! そうしたら迷惑かけないもん。そうじゃよね!』


 舞台の上で怪我人コスプレした幼女が死にたい死にたいソングを明るく元気よく歌っていた。そういうジャンルがあってもいいし、そういうキャラクターがいてもいい。エンタメってそんなもんだと思ってる。


 でも人間を滅ぼしたいとか言ってる悪魔がこんなところでそんな歌を歌うのは、シュールを通り越してツッコミどころ満載である。


『首吊り出血転落死、薬物溺死感電死! いろんな死に方沢山あるけどどれがいい? どれもこれもより取り見取り。死に方ぐらいは選びたいのじゃ!

 大事な場所で死ぬもよし。誰も知らない所で死ぬもよし。いろいろ選んでいろいろ悩んで。最後の花を咲かせましょう! 妾と一緒に咲かせるのじゃ!


 重力にひかれて首つりしましょ。帯にベルトにお縄にチェーン。わっかを首にかけるだけ。あとはぴょんと飛ぶだけじゃ。お気楽簡単即昇天!


 リコリン、アコニチン、メスアコニチン。セネシオニンにインテルメジン。おいしく食べて、そのままダウン! 満腹しながらあの世逝き!』


 歌詞を要約すると、最初から最後まで自殺の事ばかりだった。首吊りの方法と道具の説明だったり、よくわからない化学物質を早口でまくしたてたり(聖女ちゃん曰く、アルカノイドっていう毒の種類だとか)、まあそんな感じだ。


『レッツ自殺! カモンあの世! 生きるのに飽きたらデッドアンドデッド! 妾と一緒にデスデスデス!』


 最後はそんなシャウトでしめる。ちなみに歌は普通に上手かった。


「ふぅ、見事なアンジェラちゃんコールじゃったな。満足まんぞ――あいたぁ!」


 ステージを降りてきた病みカワに軽くチョップするアタシ。人間でもダメージはない程度の物だけど、何故か痛がる悪魔。っていうか悪魔ってこっちの攻撃利かないとかじゃないんだっけ?


「いきなり何をするんじゃ……おぬしはアサギリ・トーカ!? は? お主何してんの? 魔王倒したんじゃから裏世界でレベルアップしてるんじゃないのかえ?」

「うっさいわね。いろいろあんのよ。

 っていうかアンタこそ何してんのよ。しかもあんな曲歌うとか……まあ、悪魔が愛とか夢とか歌ったら指さして笑うけど」


 いやマジで。こいつらが『愛って素晴らしいです!』『世界平和!』とか言い出したらお腹抱えて笑い転げるわ。何のギャグよ。


「ふっふっふ。可愛かったじゃろ?」

「別に。アタシの方が可愛いから」

「ふふん、おヌシはナマイキメスガキキャラ。しかし妾は病みカワ幼女! どっちが可愛いかは一目瞭然。可愛い妾が心配される可愛さで自殺ソングで病み力増加。三重のかわかわわかわで妾に集まるいいねパワーは桁違いじゃ!」

「……もしかして、承認欲求満たしたいだけなの?」


 アタシはSNSとかで見かける承認欲求を隠そうともしない人を思い出していた。褒めないと逆ギレするんですぐにブロックしてたけど、だいたいこんなこと言ってた気がする。


「そそそそそそんなことはないぞ! 妾はこう見えても世界を作ったお母さまの子の1人。人間如きに褒められて嬉しいなんてことはない!

 これは人間に自殺願望を植えつけるためのアピール作戦じゃ! 崇高な目的じゃろ? 悪魔らしいじゃろ? あと可愛いじゃろ?」

「うそくさー。ないわー」


 悪魔のくせに人間に褒められたいとか、ないわー。


「アンタら人間滅ぼしたいんじゃないの? 滅ぼしたい相手に認められたいとか、さすがになくない?」

「まあ、そう言われると返す言葉もないんが……人間のパッションエナジーは効率がいいんじゃ」

「ぱっしょんえなじー?」

「強い願望や感情から生まれる無形のエネルギーじゃ。古くは信仰という形で賄っておったんじゃが、人間は多くの文化を生み出して様々な形の感情や信仰を作りおった。悔しいが、これは単一感情に優れる魔物には薄いんじゃ。

 新しい魔物や武器を作るのにエナジーが必要なんじゃが、効率のいい収集方法はエナジーを直接受けること――つまり可愛いとかアンジェラちゃんサイコーとか病みカワきゃわわとか言う感情を妾が直接認識することなんじゃよ」

「なによそれ」


 言いながら、アタシはそういうもんなんだと納得していた。宴や信仰のある場所に行くと神エネルギーが回復する。かみちゃまはそんなことを言っていた。それと似たような理屈なのだろう。


「やっぱり承認欲求満たしたいだけじゃないの。憎んでるはずの人間からチヤホヤされたいとかプライドないの、この悪魔。

 だいたい病みカワで自殺ソングとかマニアックすぎるのよ。あ、もしかして本気でそれが可愛いって思って選んだの? ごめーん。アンタのセンスが悪い事すっかり忘れてた。現実知って恥かく前に家帰って寝てた方がいいわよ」

「ぐぬぬぅ! おヌシなんか嫌いじゃ! ばーかばーか!」


 でもそれはそれとして罵らせてもらう。どうせこいつらは人間に手出しができないのだ。これまでの恨みとばかりに言わせてもらおう。


「こら。新人イジメ禁止」


 とかやってたら、アタシの脳天にチョップが振り下ろされた。アイドルさんだ。アタシと厨二悪魔の会話を知り合い同士なのかと黙って聞いてたけど、さすがに度が過ぎたと介入してきたってところか。


「いじめじゃないわよ。むしろアタシの方がこいつにイジメられたんだからね。嵌め殺しされて酷い目にあったんだから」

「それ妾のセリフじゃないか!? 千年単位の創作物である魔王をしょーもないズルで一方的に殺されたんじゃからな!」

「ステイステイ。殺すとか穏便じゃなくなってきたよ。聞くに病みカワ関係の持ちネタってわけじゃなさそうだね。いうか魔王? どういうことどういうこと?」

「……あー。ちょっとこっち来て」


 さすがにこんなところでする話じゃないと気づき、アタシはアイドルさんと厨二悪魔を誰もいない楽屋に所に引っ張っていく。今はコンサートに目が行ってるので、こっちにはあまり来ないだろう。そこでこの病みカワが本物の悪魔であることを説明する。


「まじまじ? 病みカワアンちゃんがマジ悪魔? あのリーンと同格? ちょっと信じられないんだけど。どうなのどうなの?」

「ふふん。リーンを知っているという事はおヌシも世界の真実に気づきかけておるという事じゃな。その通り、妾はステータスとなったお母さまの子の1柱、アンジェラ。魔王<ケイオス>を生み出し、この世を闇に染めた悪魔そのものじゃ!

 ほれ、褒めろ褒めろ。或いは恐怖におののくがいい」


 目を丸くするアイドルさんに胸を張る厨二悪魔。やたら褒めたり恐怖を煽ったり素のは、さっきのエナジーが理由なのだろう。それ知らないと単にウザい承認欲求オバケだけど。


「その魔王もアタシが100秒で毒殺したけどね」

「うわーん! なんで妾はHP回復手段を設けなかったんじゃ!?」


 そしてアタシがちょっとつつくと思いっきりへこむのであった。


「生きている以上後悔は避けられぬ。積み重ねた失敗、その傷こそが闇の深さ。悪魔とてそれは同じことか」

「アンタ、何処にでもいるのね」


 そして気が付いたら鬼ドクロがアタシの後ろでわけわかんないこと言ってた。楽屋って関係者以外禁止のはずなのに、ぬるっと入り込んでくるなぁ。


「うそ……。神話の6子が、こんなところに……」


 そしてアイドルさんと一緒にいたジプシーさんは顔を青ざめていた。何か面白い話になりそうとついてきたら、世界そのものにかかわる話だった。そりゃ、脱力もするわよね。


「うんうん。アムっち、この話はオフレコね。下手に公開すると大会が中止になりかねないし。お口チャックチャック」

「大会どころかムジークで戦争が起きてもおかしくない案件ですよ、これ。ラクアンのクーデターレベルの事が起こるかも知れないんですから。いいえ、300年前のエルモア大沈下も、550年前のデスライノスタンピートも悪魔の仕業と……」


 悪魔。その名前は結構知れ渡っている。この前のラクアンクーデタもそうだけど、昔の話にも色々出ているらしい。ジプシーさんがぶつぶつと何かを呟いている。


「ふっふっふ。妾の恐ろしさを正しく理解しておるようじゃな。甘露甘露。

 安心せぃ。今日の妾は病みカワアイドルアンジェラちゃん。そこの遊び人との雌雄を決するのは後日にしてやるわ。時が来れば、最強遊び人のおヌシを地に伏してくれようぞ。その時まで、この偽りの平和を謳歌するがいい」


 ジプシーさんのセリフにいい気になった厨二悪魔はアタシを流し目で見ながらふふんと笑みを浮かべる。……あ、アタシがレベルドレイン喰らったこと知らないんだ、コイツ。引きこもりだったし仕方ないか。


「って、待ちなさいよ。皇帝<フルムーン>とかはアンタが作ったんじゃないの?」

「うむ? 確かに皇帝を作ったのは妾じゃがなぜ知っとるんじゃ。教えたのはテンマかリーンかのぅ? 皇帝<フルムーン>は妾の傑作じゃ。切り札ともいえるのぅ。妾からその情報を聞き出そうとしているようじゃが、むりむりむり。諦めい。

 ふふん、しかし一つだけ教えてやろう。皇帝は血税を搾取する。意味が分からんじゃろうなぁ。その時になって怯えるがいいわ! のっほっほっほ!」


 どやぁ、と胸を張る厨二悪魔。自分からは何も教えない。ただ謎めいたことを言って、煙に巻こうとする。だけど――


「……血税を搾取、ってレベル奪われちゃったことだよね。え? この子、皇帝が出現してるってこと知らないの?」

「みたいね。教えてやる義理もないし、黙ってましょ」

「何事にも時がある。も同じこと。賢者と道化は表裏一体よ」


 耳打ちしてくるアイドルさんに小声で答えるアタシ。あと含蓄あるようなことを言う鬼ドクロ。


 今や世界中の人間が皇帝<フルムーン>の事と、あいつがレベルドレインすることを知っている。厨二悪魔だけが『皇帝の秘密は誰も知らない』と思っているわけである。


 すんごいもの作れるのに、頭が残念すぎるのは変わらないわね。

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