11:メスガキはライバルの情報を聞く

 ――とまあアタシが『超アイドル戦線 ~心技体』に参加している理由はそんなところ。


 レベルアップのためにレアアイテムが欲しいという清く正しい理由。アタシのレベルが早く上がればそれだけ皇帝<フルムーン>を蹴りに行けるから、この世界にとっても正しいことよね。


 ……でもアイドルはないんじゃない、って冷静な部分があるのも事実。もーちょっとやり方あったんじゃないとか『ティンクルスター』諦めるとかも考えはしたけど、物欲には勝てなかったわ。


 二年間(実時間一日)の教育はアタシの音感を思いっきり上げ、声の出し方も基礎を詰め込んでしまえば素の肉体能力でカバーできる。世界をいろいろ歩いたり戦ったりしたのは、伊達じゃないわ。


 ……まあ、それでもアイドルさんの動きとか歌とか聞くと『あ。ガチのアイドルってああなんだ』と差を感じる。逆に言えば差が分かるぐらいにはアタシも成長したというべき?


「まあ、歌や踊りだけが重要じゃないもんね」


 アタシは腕を組んでふんぞり返る。大会は二部制。このコンサートで選ばれたアイドルがトーナメント戦で殴り合う。つまり、ここでトップを取る意味は薄い。32位までに入ればいいのだ。


 かなりの数が様々な会場でコンサートをしているみたいで参加グループも200近くいるという。それがあの辛口メガネの審査を通過しているのだから、大したものね。それなりの大会という事もあって、やっぱり一筋縄ではいかない。


 魔法使い5名による魔法少女っぽいグループや、テイマーなどの使役系によるサーカスっぽいグループ。純粋なシンガー。騎士の槍スキルを駆使した演武っぽいのもある。兎にも角にも多種多様ね。


「魔王を倒した遊び人が、アイドル界に殴り込みですか」


 そんなアタシに話しかけてくるのは、砂漠の踊り子っぽい恰好をした女性だ。おっきい胸とへそ出しなジプシーっぽい服。アラビア? そんな感じの人ね。


「聞けば皇帝<フルムーン>に強さを奪われ、逃げかえったとか。聖母神に助けれられなかったらそのまま死んでいたと。そのまま大人しくしていればいいものを何故アイドルなどに」

「なによ、嫌味を言いに来たの? アイドルなんて余裕なんだから、軽く優勝してあげるわ」

「うふふふふ。威勢がいい。聞きしに勝る勝気ですね」


 口元を扇で覆って、ジプシーは笑う。アタシの視線とジプシーの視線が交差した。


「ですが、そう簡単に勝てると思わない方がいいですよ。確かに貴方はも歌も踊りも立派です。しかし、私を含めて優勝候補は多いのですから。

 おおっと、自己紹介が遅れました。私の名前はアム=ナディム。言語で惑わすジョブ、シェヘラザードでございます。以後お見知りおきを!」


 言ってポーズを決めて一礼するジプシーさん。礼儀正しいように見えて隙が無い。立ち振る舞いも芝居かかっているようで、だからこそ鋭さを感じる。頭を下げる動作一つさえ、息をのむほどの流麗さ。


 シェヘラザード。魔術系ジョブで、言語による集団バフや状態異常を主にする支援系ジョブだ。聖女ほどではないけど、レアリティの高いジョブ。


 ジプシーさんは頭をあげ、


「他にもクノイチ系ジョブの七人組グループモモイロセブン! 貴女が魔王を倒した衣裳で歌ってますよ。皆さん本家本元のあなたを意識しています。ニンジャとして負けられないようですね。

 そしてヤーシャの三姉妹グループ『大三元』! 赤白緑の格闘家による派手な動きが特徴です。ラクアンの事件時には彼女達も巻き込まれていたので、貴方にお礼を言いたいみたいですね。もちろん勝負は別でしょうけど。

 あっちはゴーレム使いのギリアムさん! 俺様イケメンなキャラで、見下すような視線が人気だとか。彼は刑務所で貴方が倒したウッドゴーレム。あのゴーレム使いの甥っ子みたいです。恨みを抱いているというよりは、興味を持っているようですよ」


 つらつらと他のアイドルの情報をアタシに語り始めた。言いがかりレベルもあるけど、ネガティブなものはない。っていうか、


「なんか世界狭いわね。ピンポイントにアタシに関係している人が集まってるの?」

「それは違いますよ。むしろ逆で貴方はそれだけ多くの事を為してきたのです。関係者がいてもおかしくはありません。

 もちろん一番の関係者はアミーさんでしょうね。共にラクアンを救った英雄! 6本腕の猛攻をものともせず、五行結界を打ち破った裁縫師と遊び人! それにより多くの人が救われたのです!」


 両手広げて大仰に言い放つジプシーさん。そんな言われ方するといろいろ恥ずかしいけど、疑問も浮かぶ。


「アンタ、なんでアタシの事そこまで知ってんのよ?」

「こういうお話を集めるのが大好きなんですよ。人が人を救う物語。圧倒的な怪物に挑む英雄の話! 努力し、人が救われる話に感動しない人はいません。これらの話を受け継ぎ、次代に紡いでいく。これが語り手の役割です」

「よくわかんないけど、ストーカーとかじゃないならどうでもいいわ」


 鬼ドクロ以外に変なのがいると思うと背中が震える。そうじゃないならどうでもいい。勝手にまとめサイトでも作っててちょうだい。


「およおよ? アムっち何してんのよ? このがきんちょに興味津々? 津々?」


 そんな会話をしているとアイドルさんが歌い終わったのか帰ってきた。ジプシーさんとアタシが一緒にいるのが不思議という顔をしていた。


「相変わらずかわかりませんね、貴方は」

「にゃははにゃはは。それがアミーちゃんだからね。誰も困らないんだしいいじゃんいいじゃん」

「私は困ります。貴方の物語を紡ぐときに男性名詞にすべきか女性名詞にすべきか、いつも迷うんですから」


 男の娘アイドルのアイドルさんを前に、ジプシーさんは眉をひそめていた。よくわからないけど、男か女か判断がつかないからいろいろ困るらしい。


「ごめんごめん。まあそれもアミーちゃんのキャラだから。好きな方でいいんじゃない? じゃないじゃない?」

「よくありません。聞き手がどう受け取るかを推敲し、その上で語らなくてはいけないんですから。踊り手が男か女か。歌い手が男か女か。言葉で聞くと名称に印象が引っ張られるんですよ」


 アタシには理解できない理由でジプシーさんはアイドルさんの格好に困っているようだ。苦情というよりは個人的な葛藤らしい。アイドルさんを否定しないけど、それだと困ると言った感じ。


「ふふんふふん。男だけど女に見える。女に見えるけど男。それがアミーちゃんの魅力なのさ。男も女も内包してる新時代のアイドルだよ。きらきらっ!」

「結局女に見えても男なんでしょ。彼でいいじゃないの」

「それで納得できれば苦労はしないのですよ。貴方もアミーさんの見た目を見て『男』の印象を受けますか?」

「……まあ、それは」


 茶色のショートパンツに黒のソックス。ネズミ色のパーカー。細い肩にしなっとした立ち様。言いたくはないけど、可愛いが先行するイメージだ。これ見て『男』って思える人はそう居ないだろう。……あざとくピースとかしやがって、マジカワイイムカつく。


「ぴーすぴーす! アミーちゃんの可愛さは天下一品だからね。可愛くて歌もうまくて強くて素敵で無敵! アミーちゃんの優勝は決まったも同然かな? かなかな?」

「それを世間ではフラグというのですよ、アミーさん。いい気になっていると新人に足元すくわれますからね」

「確かに確かに。アムっちいいこと言うね。期待の新星をチェックチェック! あ、この子はもう知ってるから。油断できない遊び人ちゃんだね。だねだね!」


 アタシをぐりぐりしながら言うアイドルさん。そのままフラグ踏んでしまえ。


『人間なんか皆死んじゃえ―!』


 舞台に目を向けると、結構過激な曲が歌われてた。ロックとかそんな感じ?


 彼岸花っぽい髪飾りをして、包帯やらハート型や星形の絆創膏やらをつけた病みカワなファッション。背丈はちっちゃく、アタシとそんなに変わらない。たとえるなら、のじゃ言葉で喋る小悪魔系アイドル――


『このアンジェラ様と一緒に死んでほしいのじゃ!』

「……………………何やってんの? あのちゅーにあくま」


 アタシはアイドルやってる本物の悪魔を見て、思いっきり脱力していた。

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