10:メスガキはアイドル戦線に出る

 とまあ、そんな流れで『超アイドル戦線 ~心技体』の審査を合格し、参加権を得たアタシである。


「おめでとう。でもここからがスタートラインよ。貴方がアイドルとして輝けるかどうかは、これからの行動にかかっているわ」


 審査を終えた後でメガネ女は悔しがるでもなく、ただ静かにそう言った。


「ふん、どーでもいいわ。アタシにとって必要なのは『ティンクルスター』よ。それをもらったら速攻でアイドル引退してやるわ」

「一時的でも輝けるならそれもアイドルよ。むしろその方が話題性があるわ。

 でも――簡単に優勝できるなんて思わない事ね」


 最後は鋭く突きさすような気迫を感じた。アイドルの道は楽じゃない。そんな強いメッセージ。


「やったやった! 心配はしてなかったけど、合格おめでとう! 努力が実ってよかったよかった!」

「我が見出した才能が輝かぬはずがない。一時的とはいえ光の道を進むがいい。興ずるのが遊び人の本質だからな」


 音楽ギルドのロビーに戻ると、アイドルさんと鬼ドクロが迎えてくれた。あ、待っててくれたんだ。何も言わなかったから、帰ったかと思ってた。


「なによ、待ってたの? 暇人ね、アンタら」

「んふふんふふ。あのコトネって子が言ってた通りだね。照れ隠しに悪態付くって。寂しがり屋だからお願いしますって言われたけど、そう思うと可愛い可愛い」


 アタシのため息ににやにや笑いながらアイドルさんは応える。……むぅ、あの子余計な事を。別に一人でもいいのに。


 ちなみに聖女ちゃんは今日も5000人ヒール目指して何とか寺院でヒーラーやってるわ。いっしょに行けないことを悔しがってた。


「うるさいわね。っていうか、アタシが優勝したらアンタは良くて準優勝なんだけどそれでいいの?」

「あららあらら。アミーちゃんに勝てるつもりでいるのかな? 生意気もここまでくるとむしろ気持ちいいね。ノエルさんのセリフじゃないけど、優勝できるならやってみなってね。かもんかもん」

「アタシなんかが優勝できるわけがないって高く食ってるワケ?」

「まさかまさか。誰だって優勝するかもしれないんだよ。油断なんかしないし相手を侮りもしないよ。アイドル全てをリスペクトして、その上で頂点に立つ。これがアミーちゃんのスタイルスタイル!」


 びし、っとポーズを決めるアイドルさん。動きにキレがあり、しかも笑顔も計算された動き。万人に好かれるアイドルとはこういう事なのだろう。男だけど。信じられないけど男だけど。


「さあさあ! 大会まではあと二日あるし、その間にライブしてお客さん確保しないと! たった二日でもやるとやらないとでは大違い! 地道な努力が大事大事!」


 アイドルさんは言ってアタシを引っ張っていく。合格したら路上ライブ。すでに場所は押さえてあるという。合格しないかもしれないのに、そんな手間暇かけてくれたのだ。


「アンタも物好きね。そこまでアタシに世話役必要あるの? そりゃ、本名バレされたくないっていうのもあるかもだけど」

「……あー。そう言えばそんな話の流れだったっけか。でもキミはやんないでしょ?」


 なんでここまでするか聞いたら、アイドルさんは素になって答えてくれた。


「アイドルをやる人間を助けたいのはアイドルが楽しいからだよ。歌って踊ってみんなの笑顔が見れて。辛い練習も嫌味を言われても、その瞬間に輝けるからできるんだ。

 キミの動機はちょっと違うけど、それでもやりたいっていうのなら全力で助けるよ。色々助けてもらったりしたこともあるけど、皆でキラキラしたいもん!」


 キラキラ、っていうのはよくわからないけどアイドルさんがアイドルが好きだからアタシを助けてくれたのはよくわかった。舞台に立ち、輝ける瞬間の為に努力する。そんな気持ちはかけらも理解できないけど。


「ふ、これが星を掴む人間か。その光が強い我ゆえに人の闇を照らそうとする素晴らしき心。しかし、それですくえぬ者もいる。我が刃はそう言ったものを守る刀なり」


 後、鬼ドクロの行っていることは全然理解できない。多分陽キャすぎて陰キャは近づけないから、陰キャは陰キャ同士寄り添って生きていく。そんな事なんだろう。知らないけど。


「まあどうでもいいわ。とにかく『ティンクルスター』目指して頑張るわ」

「そうそう。目標目指してれっつふぁいと! 初戦のコンサートを突破して、決勝トーナメントを勝ち進め! いぇいいぇい!」

「どっちかっていうと問題はトーナメント戦よね。決勝トーナメントまでにレベルをある程度上げておかないと。って言うか、目の前に魔法カウンター使いがいるのよね」


『妖精衣』アミー。その戦法は以前ヤーシャでも見たけどカウンター型だ。ヘイトを集めて回避し、魔法カウンター&アイテムで追撃。加えて本人も属性魔法攻撃をするという戦法だ。


「あれあれ? アミーちゃんの戦いにビビってるビビってる?」

「ビビってないわよ。めんどくさいって思ってるだけで」


 優勝するならこのアイドルさんも仮想敵なのだ。それを考えて育成プランを考えないといけない。ラクアンの時にレベル80ぐらいだったから、今はレベル90を超えていてもおかしくないのだ。


 とはいえ、相手が属性魔法攻撃が主体というのが分かっているのなら対策はいくらでも取れる。【早着替え】+【カワイイは正義】の服による属性防御。ぶっちゃけ、相性はアタシが有利だ。相手の戦法を知っているなら、勝ち目はある。


「強気強気! ま、その前に予選だね。歌はともかく、パフォーマンス考えておかないと。人に向けて撃たなかったら攻撃アビリティも使っていいけど、どうするのどうするの?」


<フルムーンケイオス>のゲーム内でも、『アイドル戦線』ではアビリティを使ったエフェクト演出があった。派手な攻撃魔法によるイルミネーションや、音楽に合わせた効果音などだ。


「アタシの可愛さを生かすんだから、とーぜん【着る】系で行くわ。【早着替え】で踊りながら可愛い服に色々着替えて、可愛い可愛いダンスよ」

「いいだろう。貴様のその道、我が見届ける。あえてその泥沼にはまり、破滅の道を歩むとしよう。投げ銭、スパチャ、グッツ販売。我が道に後悔などない」


 相変わらず何言ってるのかよくわからない鬼ドクロ。投げ銭とかスパチャとか言ってるから、いろいろお金払うってことかな? 沼とかよくわからないけど。


 とにかく方向性は決まった。この二日で路上パフォーマンスを行い、ついでに音楽ギルドで失敗した『初めての歌唱』『初めての楽器演奏』『初めてのダンス』を受け直す。


<クエスト『初めての歌唱』に成功しました。トロフィー:『歌手の一歩』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


<クエスト『初めての楽器演奏』に成功しました。トロフィー:『奏者の一歩』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


<クエスト『初めてのダンス』に成功しました。トロフィー:『踊子の一歩』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


 当然だけど全部成功して、トロフィーゲット。そしてスキルポイントもゲットしたわ。それを全部【着る】につぎ込んで、一気に【着る】をレベル4にして【早着替え】【カワイイは正義】を一気に習得よ。


「ひぅ!? ふぁ、あああ、あ! へ、へんになっちゃ、う……あぁぁ、らめっ、んっ!」


 下腹部を襲う熱く奔流が体中を駆け巡る。甘く溶けるようなドロドロした液体が火山がはじけるように突き上げてくる。太ももとを閉じて渦巻く痺れを抑えようとするけど、無駄な抵抗とばかりにアタシははじける感覚に支配されて崩れ落ちた。


 …………忘れてたぁ、この仕様……。下半身の力が抜けて、しばらく立てなかったわ。


 ともあれ『超アイドル戦線 ~心技体』の準備は整った。アタシの前評価は『魔王を倒した英雄がアイドル界にやってきた』『レベル1の遊び人』『戦線がデビュー戦の無謀アイドル』等だ。アイドル活動らしいモノがほとんどなく、魔王退治やレベル1の方が目立つのだから仕方ない。


 アタシの出番がやってくる。アタシを見る奇異な瞳。実力を測ろうとする瞳。相手するまでもないという冷たい瞳。ふん、その度肝を抜いてやるわ。


 アタシは舞台に立ち、そして歌いだした――

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