7章 遊び人と超アイドル戦線

1:メスガキはアイドルになる

 スポットライトがアタシを照らし、軽快な音楽が鳴り響く。


 正確には光魔法っぽい何かと楽器を奏でるゴーレムなんだけど、とにかくアタシを照らす光と音。それと同時に爆発的な歓声と拍手が響く。


「アンタら、そんなにアタシに罵ってほしいの? この豚たち!」


 そしてマイク――まあこれもそれっぽい魔法道具なんだけど、とにかくアタシの言葉は増幅されて会場内に響き渡った。


「いえええええええええええええす!」

「罵って下さああああああい!」

「トーカちゃんで人生終わりたいでえええええす!」


 アタシの声に反応するように会場内の豚たち――アタシのファンたちが喜びの声をあげる。大半がそこそこ大人のオジサンばっかり。このファン構成をみた聖女ちゃんは『リーンではありませんが、人間の愚かさを垣間見ました』と頭が頭痛で痛いポーズをしていた。アタシも同意だ。


 しかしそんなことは顔に出さない。アタシはやってきたファンのために歌う踊るアイドルなのだ。今はアタシに会いに来たファンのために、これまで培った訓練の成果を見る時。笑顔を浮かべ、持ち歌を披露する。


『あなたがいれば、もう何もいらない。

 ねえ、気付いてる? 私はここにいるよ。

 あなたの傍で、貴方を待ってるの。

 気づいて。私の気持ち。届いて、私の気持ち。

 あなたに手を伸ばそうとして、そっとひっこめるの――』


 リズムはアタシの世界で言うJ-POPっぽい感じ。乙女の気持ちを切なく届ける。そんな音楽が途切れ、沈黙3秒。そして、


『んなわけないでしょうが、バッカじゃない!』


 アタシの叫びと同時に、リズムが大きく変わる。客もそれを待っていたかのように歓声を上げた。


『アンタなんかいなくても世界はなんも変わらないわよ、ばーか!

 傍にいるのも利用するだけ。媚び売ってれば色々くれる貯金箱!

 アンタへの気持ち? 豚になんか感情抱くわけないじゃない、ぶーぶー泣いてろ!

 手を伸ばして引っ込めたのも、汚いのに触りたくないだけだってーの! きもきもー!

 あ、傷ついた? でも残念これが事実でーす! アンタがアタシと釣り合うなんて思ってるとか、100万光年経ってもあり得ないんだから!』


 激しくロック調な音楽と派手なギター。それに合わせてアタシの歌が派手に響き渡る。合間に入る歓声や手拍子。リズミカルに交互するペンライト……っぽい魔法道具。照明は激しく明滅し、最高潮に達した音楽はラストに向かっていく。


『アンタにできるのはちっちゃい事だけ。現実見て考えてよねYOU!

 アタシとアンタの距離考えて、高さも難易度もHARDMODE!

 それでもヤるならSTAND UP! 一秒でも早くACTION!

 YOLO! Fight your REALITY!』


 サビを歌い切って、手をあげるアタシ。会場は最高潮に沸き上がる。


 声も、ダンスも、完璧だ。パフォーマンスとして曲の節々で【早着替え】でいろいろ服を入れ替えている。レベル1で着れる服なのであまり派手なモノはないけど、色を変えたりして工夫を凝らしている。


「FOOOOOOOOOOOOOO!」

「メスガキサイコー! トーカちゃんサイコー!」

「俺、俺明日からガンバるぅぅぅぅぅぅぅ!」


 沸き上がる観客に手を振って、アタシは舞台を降りる。入れ替わるようにやってくるのは、アミーと呼ばれるアイドルだ。茶色のショートパンツに黒のソックス。だぶだぶサイズのネズミ色パーカー。男なんだけど男に見えない男の娘アイドル。


 本名は月……まあいいや、とにかくアイドルさんだ。


「よきよき! アミーちゃんも感激したよ。油断してると世代交代されちゃうかな? かなかな?」

「そんなこと全然思ってないくせによく言うわ。場は温めたんだから、とっとと行ってちょうだい。アタシはジュース飲んで休んでるから」

「おけおけ。喉を休めて待っててね。アイドル伝説作っちゃうぞ! いえいいえい!」


 言いながらお互い足を止めず交代する。アイドルさんの登場で会場はさらに湧いた。何せアタシとはアイドル暦が違う。土壌も実力も段違いだ。まあ可愛さだけはアタシが勝ってるけどね。


 舞台の袖に下がって、一休みする。<空間魔法>に収納していたジュースを飲み、喉を休めた。周囲の視線を感じながら、喉を通る甘く冷たい感覚に身を任せる。


『何あの子? ぽっと出のイロモノのくせに』

『ネタ枠と思ってたのに、意外とやるわね』

『アミーと知り合い? もしかして男? 胸も小さいし、実は少年?』


 突き刺さる視線を表現するなら、こんな感じだろう。尊敬と、驚き。そしてアタシの実力を認めての警戒ね。そして最後の奴は顔覚えたからな、覚えてなさい! 誰の胸が小さいってのよ!?


 怒りを胸に抑え込んでふつふつ煮込むアタシ。今殴りかからないのは、ここで攻撃したら失格になるからだ。音楽の都、ムジークで行われている『超アイドル戦線 ~心技体!』……最強アイドルを決める大会のルールに『コンサートの間は暴力行為禁止』と定められているからだ。


 しかしこの怒りは忘れない。コンサートが終われば怒りを晴らす機会が訪れる。その時は真っ先に殴ってやるからね。その前にレベル上げないといけないんだけど。


 ここに集った色とりどりの数多のアイドル達。男も女もいるけど、基本的には全員敵同士。この『超アイドル戦線 ~心技体!』の覇を競い合うライバルたちなのだ。基本的にはユニットを組んでおり、ソロのアイドルはアタシを含めて5人もいない。


 しかし、アタシは負けるわけにはいかない。並みいるアイドル達の上に立ち、この『超アイドル戦線 ~心技体!』で優勝しなければならないの。そのためにはあのアイドルさんも倒さないといけないわ。


 心――アイドルとしての心構え。笑顔や立ち方から感じ取れる気品。アイドルとしての方向性を示す。


 技――アイドルとしての芸術性。歌やダンス、そしてパフォーマンス。そう言った技術技法を示す。


 体――アイドルとしての戦闘力。強くなければ生きてはいけないアイドルの物理的な強さを示す。


 その全てにおいて頂点に立つ。それがこの『超アイドル戦線 ~心技体!』よ。デビューしたてのお子ちゃまアイドル。ただのネタ枠。レベルも1の遊び人が勝てる見込みは低いというのが前評価。


 しかし、アタシはそれを覆して優勝するのよ。アイドルを極め、その頂点に立って見せるわ!


 …………。


 ジュースの甘さと冷たさが体と脳を冷やす。コンサートのテンションが収まり、その分冷静な部分が起き上がる。


 必要性も事の経緯も全部理解したうえで、アタシは今更ながら疑問を口にするのだった。答えは全部分かってるけど、それでも口にしたくなる。


「何でアタシはアイドルなんかやってんのよ……?」


 ――事の経緯は、10日ほど前までさかのぼる。

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