35:メスガキはかみちゃまと話す
ありのまま、今起きたことを話すと。
『生命の神シュトレインの名において、偽りの支配者から力奪われる人達を救いまちゅ!』
聖女ちゃんからかみちゃまの声が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間には野原にいた。
何を言っているのかわからないけど、アタシもわけわかんない。とりあえずかみちゃまが助けてくれたのは確かだ。ってもしかしてまた神格者とかそういう奴!? 勝手にあの子の体奪ったってこと!?
「こらぁ、かみちゃま! 勝手にこの子の体乗っ取るとかそれでも……あれ?」
怒りの声をあげて聖女ちゃんの方を見ると、見たことのある赤ちゃんを抱いていた。アルビオンで見たかみちゃま子供モードだ。……聖女ちゃんに憑りついているようには見えない。
「目覚めたようでちね。殴られた傷もいえてまちゅ。後遺症もないみたいでちね」
言われてアホ皇子に殴られた場所を触ってみる。魔法か何かで癒されたのか、痛みも痕跡もない。
「どういうこと? アンタこの子に勝手に憑りついたんじゃないの? もしかしてまた道を間違えて子供になったとかそういうの?」
「いいえ。そういうわけではないようです。シュトレイン様は私達を助けようと無理をしたみたいです」
かみちゃまを抱きながら、聖女ちゃんが答える。
「アタシ達を助けてくれた?」
「はい。私達だけではなく、皇帝<フルムーン>の聖杯から出た液体に触れ、力を奪われそうになっている人すべてをこの場所に移動させました。場所はヤーシャのラクアン近くです。
今、ヘルトリングさんたちを始めとした元オルスト皇国の騎士達が確認を取っているようです。ヤーシャ国の方にも事情を説明するために人を派遣しているとか」
見れば松明が炊かれていたりテントが立っていたりと、キャンプ場状態である。どっちかっていうと地震が起きた時にニュースで薙がれてる避難地みたいな感じだ。
いや、みたいではなく実際に避難地だ。被害の規模で言えば、首都一個が魔王級の魔物により水没したのだ。かみちゃまの神の力で転移させて人的被害はかなり少ないとはいえ、かなりの大事件には違いない。
「まだ全員に確認を取ったわけではありませんが、私達以外に力を抜かれた人はいないようです」
「そうよ、アタシ達レベル1にされたんだから! なんでもっと早く助けてくれなかったのよ!?」
「無茶言わないでほしいでち。これでも急いだんでちから」
がっくんがっくんとかみちゃまを揺らすアタシ。かみちゃまは揺らされながら力なく答えた。首座ってないのかがっくんがっくん揺れる。普通の赤ちゃんにやったらだめな行為だけど、かみちゃま普通じゃないし。
「悪魔達があの街で跋扈していたのは感じてまちた。お母さまの名前が付いた『
だけど神にはそれを止める力はなかったんでち。地上に干渉する術がないでちから」
資格ある人間ににしか神は宿れず、その形でしか神は人間を助けることができない。だから神は人間を乗っ取ろうとしているのだ。聖女ちゃんも不本意だけど一度神格者? そういうのになった。まあ、アタシが解除してあげたけどね!
そう、解除した。もう聖女ちゃんは神格者じゃない。っていうか、
「干渉したじゃん。止めてないけど。
っていうか、もう少し早くやってきてくれたらアタシのレベルも取られずに済んだんですけど」
どうせ助けてくれるんなら、もう少し早いタイミングにして欲しかったわ。無駄に殴られたじゃないの。
「でちからこれが最速だったんでち。
干渉できたのは『一度神格化した相手』という繋がりを時間軸を誤魔化して強引に道を作って、
「……説明がよく分からないけど、要するにかみちゃま的な裏技使ったって解釈でOK?」
よくわかっていないアタシの言葉にうなずくかみちゃま。
「あい。裏って言うか、効率悪い悪手でち。
ギルガスの例えを借りるなら『無理やり差し込んだガラス棒に強引に電気を通して、電球を光らせるようなもの』でち。こんな非常時でなければやらないでちよ。神力の消費量も大きいから、二度とできないでち」
ガラスに電気通るの、って疑問もあるけど要するにそんだけ無茶なことをしたんだろう。だから時間かかったんだって言われたら仕方ないけど。
「正直、うまく行く気がしなかったでち。テンマやリーンの存在もあったから、計算上はもう数か月はかかる筈だったでち」
「悪魔のいると時間かかってたの?」
「あい。あの二人にバレないように慎重に神力を通す必要があったでち。バレたら道の先にあるこの子は間違いなく殺されてたでち。
幸運なことに4分割されたテンマの力は不活性化されまちた。リーンは突如弱体化されて空間から消失。おかげで十数秒でこの子へ道を繋ぐことができたでち。
足掻きは無駄ではないというのは嘘ではないでち。皆ちゃんの努力の結果、あたちがどうにか介入できたんでち」
4分割されたテンマの力と、リーンの弱体化と空間から消失。
4分割っていうのは5流悪魔の武器の事だろう。アタシがどうにかした2つと、4男オジサンと斧戦士ちゃんが相手した2つ。あれを倒してくれたから5流悪魔の力は不活性化した。どちらかが負けていたら、ゲームオーバーだったのだ。
いや、あの2人がアタシと聖女ちゃんを先に行かせてくれなかったら離宮にたどり着く前にアホ皇子が町中全員からレベルドレインしてたかもしれない。そう考えると、あの二人が魔物を相手しなかったらその時点で詰んでたわけである。
リーンの弱体化。あれはアタシが巨乳の地雷踏んで、あの巨乳が自爆したことだ。アタシの口の悪さ……もとい、的確な交渉術により相手を怒らせたから、巨乳悪魔はお母様触手で撤退することになったのだ。
そして十数秒。アタシがアホ皇子を貶してバカにして反撃されて、大体そんな時間だ。それが無かったら間に合わなかった。あそこで口を閉じていたら、間に合わなかったかもしれない。
「つまり、結果としてアタシのおかげってわけね!」
ちょっといい気になってドヤってみる。最後はかみちゃまに助けられて逃げた形だけど、とりあえず面目は保ったわ。逃げれたのもいろんな要因の結果で、一つでも欠ければアウトだったわけである。
「そうですね。誰一人欠けていたら今の結果はなかったと思います。ヘルトリングさんやニダウィちゃんの勇気と力。トーカさんがクラインを怒らせて時間を稼ぎ、リーンを弱体化させるきっかけを作らなければ、皆さん力を抜かれて魔物の奴隷になっていたでしょう。
皇帝に支配されている間に私が殺されていたら、その時点で疑似的に神格化できる対象もいなくなって、誰も救われなかった未来もありえたわけです」
「そもそも、アンタが言ってくれなかったら気づきすらしなかったけどね。結局、アホ皇子倒せずに逃げたわけだけど……ああ、ムカつく!」
結局アホ皇子を一発蹴っただけで、倒せなかったのだ。
「皇帝<フルムーン>からすれば力を得ようとした国民やトーカさんを逃がしたわけですから、ものすごく痛手でしょう。そう思えば実質勝ちという事でいいのでは?」
「そうでちね。ドレインされたのもお二人だけでち。最悪、全世界の人間から力を奪われて何もできなくなる未来もあったわけでちから」
「そのドレインされたのはアタシなんだけどね」
奪われたレベルと経験点とアイテムは、帰って来ない。ゲームで言えば初期状態に戻されたのだ。今までの苦労が水の泡とか、何よそれクソゲーじゃない! ざんねんですが、アタシのぼうけんのしょはきえてしまいましたとさ!
「おのれアホ皇子、次会ったら踏んずけて土下座させてやるんだから! そのためにもレベルアップよ!」
「それが強くなる動機というのは、人としていいんでちか?」
「あれだけ酷い目にあって言葉通り奇跡的に助かったんですから、今はそれを喜びましょうよ」
怒りに燃えるアタシに、ため息をつくようにかみちゃまと聖女ちゃんがツッコミを入れた。
ふん、前向きって言ってほしいわね。
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