23:メスガキは悪魔を煽りながらわかってることを知る

「現状で分かっていることが4つほどあります」


 指を四つ立てて言う聖女ちゃん。アタシもある程度情報は出そろっているんで、ここでまとめる意味も含めて頷いた。


「先ずわかっていることは、この国の司祭キモイってことね」

「……私の口からはそこまでは」


 そこまでは言えなくても、否定をしない聖女ちゃんでした。


「いえ、そういう事ではなくて……その、それが無関係でもないのですが。ですがキモ……悪し様に言うつもりはなく」


 歯切れが悪いけど、言いたいことはわかるわ。アタシはそれを言語化してみる。


「要するに、この国の司祭連中は悪魔に利用されかねない『アンカー』を持ってるってことね」


 悪魔は人間の心の願いをかなえるように魔物化させる。その願いが強ければ強いほど、強力な魔物にできる。


 それなら悪魔が選ぶのは、強い思いを持った人間だ。その願いが強ければ強いほど、普通の人とは考え方がズレてくる。端的に言えば、司祭キモい。間違ってないわね。


「はい。人間の願いを利用する悪魔にとって、神に仕える人の信仰やそこから派生する思いは強いと感じるはずです。それを利用することができれば、教会内に強力な魔物を生み出すことも可能なのです。

 リーンは『神の考えに同調するのが耐えられない』と拒否していましたが、テンマのやり方は問いかけて武器を渡すだけです」


 アタシは回収した赤い杖を手にする。アタシの身長ほどの長い杖。これにもあの5流悪魔の力だか意思だかが宿っている。処女厨ウザイからゴミ箱送りにしようかと思ったら、本気で拒否された。


『待ってくれ! 気持ち悪いのはあの人間の方だろうが! 俺は願いを増幅しただけだ!』


 実際に行動したのは別人で俺は何もしていない的な事を言うけど、キモイ願いを増幅して行動させたのはコイツである。なら同罪よ。


「よーするに、あの巨乳悪魔は『キモイのヤだ』って分別はあったけどアンタは『キモイけど我慢して同意した』ってことじゃない。キモキモに頭下げてヨイショしないといけないとか、悪魔ってよっぽど人材不足なのね。数じゃなく質が」

「な……っ!? 俺は……!」

「あ、言い訳しなくていいわよ。んなことはアンタが現役な時点で分かってることだから。神も悪魔もたいしたことないわね。キモい司祭の頭下げないとやってけないざっこざこ♡」

「ぐおおおおおお……!」


 顔があったら顔赤くしてるんじゃない、ってぐらいに在られてるざこ悪魔。やーん、メンタル弱すぎ。


「煽りすぎですよ、トーカさん」

「アタシからすればまだまだ序の口だけどね。

 んで、後3つは何? さっき聞いた巨乳悪魔と厨二悪魔がかかわってないってこと?」

「そうですね。武器に関しては名前からアンジェラの作ったものでしょうが、実働として動いているのはテンマ一人です」


 それに関してはアタシもなんとなく感じていた。


 この三人の悪魔のやり方には特徴がある。リーンはねちっこく、裏で動くタイプ。アンジェラはバカだけど、こっちをハメ殺ししてくる。この悪魔はというと、


「そうね、やり方が行き当たりばったりにもほどがあるわ。なんて言うか、雑?」

「雑、だと……!?」

「行き当たりばったりで力押しで自己中心すぎ。天才アピール強くて目立ちたがり屋。挙句失敗しても反省しない無能っぷり」

「な、な、な……!」

「最後は感情的になって暴力を振るおうとするとか、今時子供でもしないわよ。殴ってで言うこと聞かせようとか自分の矮小さの証明じゃない。あ、もしかして天才天才言ってるのもそう言わないと自分に自信が持てないから?

 やーん、ごめんね。ホントの事言って。む・の・う」

「「うがああああああああ!」」


 アタシの素直な感想に怒りの声をあげる黒メイスと赤杖。


「人を罵って嬉しそうにするトカ、トーカは相変わらず性格悪いゾ」

「すみませんトーカさんがこんなので。ニダウィちゃんはこうならないでください」

「反面教師は大事ですからな」


 なんか斧戦士ちゃん達に白い目で見られてる気もするけど、無視。聞かなかったことにするわ。だってアタシいい子だもん。


「ふん、ステータスいじって言うこと聞かせるしかできないくせにアタシに逆らおうなんて思い上がりなのよ」

「この世界の人間はそれをされれば手も足も出ないのですが……その傲慢もあるのでしょうね。3つ目ですが、行動に連携が取れていません」


 どういうこと?


「テンマの力が宿った武器の動きは散発的すぎます。効率的に動くなら同時に動いて、同時に混乱を呼ぶ方が効率がいいです。世界各国の常識を同時に変えられてしまえば、たとえ世界中に移動できて『契約』を解除できるトーカさんでも手も足も出ないです」


 言われてから想像してみる。いきなり世界が変態司祭ワールドに変更されたとしたら?


 ある国では全国民がコピーされたみたいに身長体重が統一されている。それから外れると強制ダイエットの刑。


 ある国では聖武器マンセー、それ以外の武器は破棄。聖武器装備できないと素手と裸で戦わなくちゃいけない。


 ある国では胸囲の格差社会。おっぱいの大きさがすべてを決める。小さいと憐みをうける。


 それが常識として定着していて、アタシ以外誰もそれを疑えないし逆らえない。武器持ったやつを探せば解除できるけど、聖女ちゃんも他の人達もその常識に染まっちゃう。どうにかできるのはアタシだけ。


 うかつに近づけばさっきみたいな目にあう。常識改変された聖女ちゃんに、それが常識なんですよと言われるのだ。ダイエットさせられたり、武器取り上げられたり、おっぱいの大きさを語られたり……。だめ、頭抱えそうになる。


「……アタシはアンタに(ごにょごにょむねのおおきさ)のことを言われたら心折れる自信があるわ」

「なんのことを言われたらですか、トーカさん?」

「聞くな。とにかく1個ずつでも面倒なのに、世界同時とかやられたら厄介なのは理解したわ。そう言う意味じゃ、この悪魔の行き当たりばったりな性格に助けられたわね」

「テンマを擁護するわけではありませんが、『契約』を解除できる人がいるなんて想定してなかったんでしょうね。

 契約が成立すれば、後はその魔物による支配が成立します。その願いに無関係な人の戦意は折るみたいです。逆らう意思すら抱けないほどに」


 聖女ちゃんの言葉に四男オジサンと斧戦士ちゃんが頷く。猪突猛進な斧戦士ちゃんや、国を守るために頑張るオジサンですら戦おうと思わせないのだ。しかもそれが解除できないとなれば、確かにワンサイドゲームだ。


「連携が取れてないってことは、他の武器にアタシの事が伝わってないって考えでいいのね?」

「ですね。少なくともこの赤い杖にはその様子は見られませんでした。仮に知っていたら真っ先にトーカさんをどうにかしたでしょうし」


 聖女ちゃんの意見には納得できる。アタシだって自分の邪魔をする可能性がある相手がいるなら、真っ先に潰すだろう。


 ……ついさっきアタシにクリティカルな先制攻撃を食らったんだけど……それは偶然だ。忘れよう。脳内のもやを追い払って、会話を続けた。


「んでもって連携が取れてないってことは、次狙う奴もこれまで通りの変態司祭でまるわかりよね。もしかして4つ目ってそれ?」


 アタシの問いかけにうなずく聖女ちゃん。そうよね、この子なら気付くわよね。


「はい。テンマが狙うのは変……神格化で暴走している人たちですね。正確に言えば、それだけ強力な『アンカー』を持っているのがそう言う人だという事です。

 神に仕える勢力を削ぐことも含めての作戦だったのでしょうけど、逆に次の対象を絞らせる結果になりましたね」

「お互い連絡がとれれば『じゃあ次は狙いを変えるか』ってなるんだろうけどね。やーん、そんなことされたらトーカ追いきれない。負けちゃうところだったー。

 5流悪魔がイキりで調子乗りで失敗を反省しない性格のおかげで助かったわ。ありがと、ま・ぬ・け」

「「このクソガキがああああ!」」


 反論もできないのか、無駄に叫ぶ武器2つ。ここまで煽り耐性ないとか、指さして笑いたくなってきたわ。

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