24:聖女は今後の方針を立てる
「5流悪魔がイキりで調子乗りで失敗を反省しないおかげで助かったわ。ありがと、ま・ぬ・け」
「「このクソガキがああああ!」」
武器に宿ったテンマを煽るトーカさん。
自分の精神を分割して武器に封じるというのはどういう感覚なのでしょうか? 自分という存在が二つある。どちらも本物でお互いそれを認識している。同一にして別人。それを当然と受け入れる精神性。
冷静に考えれば恐ろしい事ですが、今重要なのはそこではありません。相手にこちらが気付いていることを悟られる前に、悪魔の企みを止めなくてはいけないのです。そのためには――
「問題は武器が後いくつあるかですね」
テンマがどれだけの魔武器を用意したか。何度相手しないといけないか。それが分からないのは問題です。
「全部で4つね。だから後2つよ」
「な、何故分かった!?」
私の疑問に迷いなく答えるトーカさん。テンマの驚きの声が、それを裏付けています。テンマは演技ができる性格ではなさそうですし、間違いないでしょう。
「あの厨二悪魔が作ったんでしょ? 4とか7とかそう言う厨二心くすぐる数字に決まってるじゃない。……あ、でも13とか666もありそうか」
よくわからない理屈です。忌み数……でしょうか? 確かに漢字の『七』の成り立ちは切断された骨の形からと聞きます。博識ですね、トーカさん。
「色も赤黒ってきたから白と青とかじゃない? なんか東西南北でそんなのを見た記憶があるけど」
「四神……でしょうか? 四方角を示す青竜、白虎、朱雀、玄武。それが意味する色? この世界にその思想があるとは思えませんけど……」
「なゆた? かっこよさ重視とかでそう言うのを取り入れるんだから、こういうのもとりいれてそうでしょ?」
……どうやらあてずっぽうだったみたいです。結果として当たったのだからいいのですが。
「ま、違ったとしても出たところから対処していけばいいのよ。どうせ狙ってるヤツはわかってるんだし。全員殴っておしまいよ。何なら暴れる前に捕まえてもいいんじゃない?」
「何もしていない人を拘束するのはどうかと思いますけど」
「その方が早くて楽じゃない。兵は拙速を何とかって言うじゃない」
「『 兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり』ですね。確かに準備が不十分でも作戦に時間をかけるよりは早めに動いた方がいい状況なのは確かです。
でもさすがにまだ暴れていない人を拘束するのは……」
確かに魔物の強さと影響を考えればトーカさんの案がいいのは確かですが、それでも何もしていない人を悪人としてとらえるのは無理があります。
「あ、それそう言う意味だったんだ。アタシ早ければ早いほどいい、って意味だと思ってた。
まあとにかくそれができないならしばらく張り付いて監視かな? RTAみたいに相手に張り付いて、イベント起きたら即確保って感じで」
「あーるてぃーえー? はわかりませんが、その辺りが現実的ですね」
トーカさんの意見にうなずく私。元の世界の刑事みたいに遠くから監視し、異常があればすぐに駆け付ける。それができれば理想でしょう。
「あとは変態司祭がどれだけいるかよね。とりあえずここに三人いるし」
「何度も言うが私は変態ではない。細かな身長体重の差異に気づき、適切な調整法を知るギルガス審の司祭だ」
「自らの思想に沿わなければ異常者扱いか。やはり神の武器を持たぬ者は偏見が深い。神々しい聖武器の造形を見て心を豊かにせねばならぬか」
「理解できぬ者を受け入れられない小さき心とはまさにこのこと。人は大きな心とおっぱいを持たねばならない。おっぱいこそが、愛」
「変態ダナ」
「いろいろ申し訳ありません」
トーカさんの言葉にビュットナー司祭、ブランザ司祭、ザンブロッタ司祭が反論します。あきれ顔のニダウィちゃんと、沈痛な顔をするヘルトリングさん。
「変態メジャー司祭と変態聖武器司祭と変態マンマ司祭はひと固まりで監視できるからいいけど、後はどんだけいるの?」
「そのあからさまま蔑称はさすがにどうかと……。
大きな所では『断食による苦行』を強いるシーカヴィルタ司祭と『清らかなる15歳までの童貞』というノット司祭ですね。十数名規模では『高貴なる血族に神が宿る』を奉じるラバール司祭や『二つの巨星が重なったに生まれた子供』が神の生まれ変わりと信じるデュポン司祭。あとは……」
「あー、ちっちゃいのに興味はないわ。どーせこの派手好き雑味あふれる悪魔の事だから、おっきい所ばっかり狙うでしょ」
指折り候補を数える私に手を振るトーカさん。
事実、テンマが狙ったのは『修行の末に神が宿る』ロレンソ司祭……正確にはその弟でアウタナ山頂を目指した弟のロレンソ聖騎士団長と、『処女に神が宿る』と主張するクノー司祭。どちらも多くの賛同者がいます。
「雑味あふれるだと!?」
「雑でしょうが。大きければいいとかどんだけ雑なのよ。魔物にして自分の意のままに操ろうとしたんだろうけど、おててに馬? あんなダサダサな見た目に誰がついていくっていうのよ? 雑すぎて指さして笑うレベルよ」
反論するテンマを鼻で笑うトーカさん。
ただそれはトーカさんがステータス干渉が効かないから言えることで、実際に操られた私は何とも言えません。あの時、心の底からトーカさんを抱きしめて心の気持ちを吐露するのが正しいと思ってしまったんです。今思えば、恥ずかしくて顔から火が出そうで……。でも、その、いやだったというわけでもなく……むしろ心地よかったというか、むしろあのまま流されていたらと思うと……。
「とりあえず。今あげた方々を個別で面談するという形にするのはどうでしょうか? トーカ殿がいれば悪魔の影響を受けているかどうかわかるみたいですし」
「そうですね。急ぎ接触して、状況を確認しないと」
ヘルトリングさんの言葉で我に返ります。頬を叩いて気持ちを切り替え、頷きました。あれは悪魔の策謀。それを止めるために行動しましょう。トーカさんの誤用ではありませんが、時は金なりです。
「分かりました。連絡は私達が。神格化したコトネ様から話があると言えば、司祭の立場から無碍にはできないでしょう」
「糾弾するのではなく、神格化の件で意見交換したいという形にすれば交渉もスムーズに行けるかと思います」
「同じ神を奉じる者同士で話し合えば、軋轢も少なくなります。人選はお任せを」
私の頷きに応じるようにビュットナー司祭、ブランザ司祭、ザンブロッタ司祭は迅速に動き出します。ここだけを見ればかなり優秀な人なんですが……いえ、無能だったことは一度もないのですが……。
「身体測定とガラクタ武器と無駄脂肪が関わらないと、それなりに大人に見えるのよね、こいつら」
「トーカさん言いすぎです」
「言い過ぎってことは、アンタも少しは似た事考えてたってわけよね」
「ノーコメントです」
トーカさんの追及を、口を塞いで終わらせます。こんなやり取りができるのも、先の見通しが立ったからでしょう。残りの魔武器が2つで、テンマが大きな団体を狙っている。このすべてが正しいと仮定すれば、悪魔の企みを止めるのはさほど難しくはないでしょう。
「とりあえずテンマの関わりが終わらせて、神格化に関する誤解を解くためにいろいろ回らないといけないですね」
それが終われば、後は神格化に関する誤った知識の払拭です。楽ではありませんが、私が動いて歯止めになれば幸いです。
「あー、忘れてた。元々はそれだったわね。わけわかんないデマに踊らされるシューキョーの話だったわ」
「忘れないでください。確かにテンマの介入は予想外でしたが」
「どっちかっていうと変態司祭が多すぎて忘れたわ。これでも氷山の一角なんでしょ?」
「それは……そうかもしれませんね」
トーカさんの言葉になんともいえない表情になりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます