17:メスガキは黒いメイスを手に入れる
四男オジサンと斧戦士ちゃんが復活してから、戦闘は一方的だった。
四男オジサンはでっかいメイスおててをぶん投げて、斧戦士ちゃんは二本の斧でザクザクメイスおててを刻んでいく。メイスおてても決して弱いわけじゃないんだけど、この二人の戦闘力には及ばない。
「なんだと!? あのでかい手を一本背負い!? 力ではなく技による投げ! 否、心技体すべてが一体化したフォーム! ……美しい。まさにビューティフォー!」
「柔
「そして異国の戦士の動きはまさに稲妻のごとく!
「足りぬ力を補うは圧倒的な速度と手数! 子供の軽戦士と馬鹿にしたが、一芸を極めればこうも強くなるというのか!?」
「何という戦い。俺達は今、後世に残る一枚絵を見ているかのようだ!」
……なんか、倒れてる騎士達が四男オジサンと斧戦士ちゃんの戦いっぷりを見てそんなことを叫んでる。メイスおててになった騎士団長のモブ部下騎士のくせに。
でもまあ当然よね。投げ格闘と二刀流。一点特化でここまで突き詰めれば弱いはずがないのよ。
「ふんぬ!」
そして四男オジサンの【当て身投げ】からの【CACC】が決まり、メイスおてては倒れ伏した。うん、アタシが出るまでもないわ。倒れたメイスおてては一瞬光ったかと思うとドロドロに溶け始め、元のメイス騎士が溶けたドロドロの中から現れる。
「う……私、は?」
頭を振るいながら起き上がるメイス騎士。そしてアタシ達の方を見て、ものすごい勢いで頭を下げた。
「すまない! 私は、私は何という事を……!」
どうやら自分がしでかしたことには記憶があるみたいだ。ま、そこまで潔く頭下げるなら許してあげなくもないわ。アタシって寛大だもんね。
「流石はヘルトリングの血族! かつて聖女を守りし騎士の系譜! その強さはまさに奇跡的! 私のような凡人など、手も足も出ないのが道理!」
っていうかアタシじゃなくて四男オジサンに頭下げてた。……おい。
「アウタナの者達よ! 私が悪かった! 罪はいくらでも償う。しかし我が部下だけは、我が部下達だけは慈悲をもらえないだろうか! 彼らは私に従っていただけに過ぎない! すべての罪は、私にあるのです!」
そして今度は斧戦士ちゃんとアウタナの人達に向かって頭を下げた。まあ、この状況で謝罪する相手は間違いなくこの集落の人達だけど。なんだけど。
「アンタ、アタシにも何か言うことはないの?」
こんな筋肉聖騎士の謝罪なんかもらっても嬉しくないけど、ガン無視されるのはなんかヤだ。そんな理由で問い詰める。
「う。アサギリ殿、いきなり殴りかかってすまなかった」
そう言えば、出会い頭に思いっきり殴られたわね。よし、その慰謝料はもらおう。それはそれとして。
「アンタをおてて状態から解放したのはアタシなんだからね。その事も感謝しなさいよ」
「え……? いや、それは。私を魔の手から解放したのはヘルトリング様の心技体兼ね備えた素晴らしき投げ技では? 鍛え上げられた筋肉と素晴らしき技法と命を奪わぬ優しさと油断なき残心。まさに心技体そろった――」
「HP0にしたのは確かにオジサンだけど。その前に」
「その前? 雷撃と思われし二斧の戦士の事か? 嗚呼、まさにあの動きは疾風迅雷、紫電一閃、電光石火、迅速果敢、霹靂閃電! その動きを捕らえることなどとてもとても出来やせぬ。力こそ至高と言う私の驕りは見事打ち砕かれました」
「あー、ちなみにアタシは?」
「……その、避けていたのと後ろで見てただけとしか」
ものすごく申し訳なさそうに言うメイス騎士。確かにここに来てから誰にも攻撃してないけどさぁ。
助けを求めるように四男オジサンと斧戦士ちゃんを見るけど、
「今回はトーカ殿が出るまでもなかったという事ですな」
「トーカが避けて耐えてなければ、ダーたちはよくわからないままに動けなかったから、やられていたかもだけどナ!」
フォローのつもりか、そんなことを言う。あの二人もアタシがメイスおててにしたことが分からない……というか全く気付いていないようだった。あのメイス騎士がメイスおててになった後から、アタシがメイスおてての攻撃を避けているの記憶はあるようだけど。
メイスおてての……文字? それに攻撃している間はまるで時間が止まっているかのようだった。正確に言えば、ゆっくりと時間が進んでいた感じ。再生速度0.25倍? もっと遅かったかも。そんぐらいにゆっくりとした感じだったわね。
「もしかして、全部アタシの妄想? でも5流悪魔は契約を破棄とかどうとか言ってたわね」
悪魔が驚くようなことを、あの時間がゆっくりになった時にやったのは事実だ。
「……そう言えばあの悪魔は何処よ? どっかに隠れてるの?」
アタシはきょろきょろと辺りを見回し……黒いメイスを見つけた。メイス騎士が持ってた聖武器ラウガではない。武器を目にした瞬間にステータスって言うか脳内にウィンドウ表記が浮かぶ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アイテム
アイテム名:
属性:魔武器
装備条件:アンカーに『破壊』『信仰』『恐怖』のいずれかをもつ。
解説:蛮勇なる破壊をもたらす黒き槌。黒き信仰を受けて神の光は反転する。
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……何これ? わけわかんない。<フルムーンケイオス>になかった武器だし、そもそもアンカーって何よそれ。
ちなみにアタシが持って使おうとすると、黒メイスをつかんだ手に静電気みたいな痛みが走り、『装備条件を満たしていません』とかいうウィンドウが開いた。よくわかんないけど、装備できないらしい。
「痛いなぁ、もう……。売れないみたいゴミ箱送りにするか」
「待て待て待て! それをすてるなんてとんでもない!」
「……は?」
指でつかんだ黒メイスから声が聞こえてきた。斧戦士ちゃんも四男オジサンも聞こえたらしく、キョトンとした目でこっちを見てる。
「今の……テンマの声ダ」
「はい。先ほどから聞こえていた姿なき存在の声です」
「うん。アタシもそういうふうに聞こえた。このメイスが、喋ったの?」
アタシは指でつかんだ黒メイスを凝視する。沈黙するメイス。いやまあメイスは普通喋らないけど。
「んなわけないわよねー。なんでこのメイスはとっとと破棄しましょ。誰も装備できないし」
「いや待ってくれ! 武器を壊されたら宿ってる俺の力も一緒に消えてしまう! せめてその辺に置いていくかにしてくれ!」
「ふーん。ゴミ箱行きにされると弱体化するんだ、アンタ」
にやにやと黒メイスを見るアタシ。
「トーカが『いいオモチャ拾った』って顔してル」
「事情はよくわかりませんが、人の弱みをつかんだようですな」
「そこ、アタシを悪女みたいに言わない」
後ろで好き勝手いう二人に釘をさす。アタシ悪くないもん。ちょっといたずら好きなだけだもん。
「仕方ないからゴミ箱意気は勘弁してあげるわ。でもアタシの質問に答えてもらうわよ。
基本的な事だけど、アンタはあのテンマとかいう5流悪魔でいいのね?」
「5流悪魔……だと!?」
「一度アタシに負けた挙句に再戦してきてまた負けて、こんな棒きれになって捕まった悪魔が何言ってるのよ。質問に答えないなら存在する価値ないからゴミ箱行きね」
「ぐ……! お、俺はテンマだ」
テンマ――黒メイスに宿った悪魔はそう言った。かつてアウタナでアタシと聖女ちゃんと斧戦士ちゃん。あともう一人変なドクロと一緒に戦った情けない悪魔だ。何がどうなってこうなっているのか、全然見当もつかないけど。
『トーカさん、大丈夫ですか? 火急で連絡したいことがあるんです』
どうやってこの悪魔をイジメ……情報を聞き出そうか考えているところに、聖女ちゃんからフレンドチャットが入ってきた。何よ、もう。
『リーンが……悪魔が私に接触してきました。今回の騒動には直接関与していないみたいですけど。いくつか質問されました』
「そっちにも悪魔が?」
『え? そっちにもって……』
「こっちのも悪魔が来たのよ。とりあえず捕まえたけどね」
『え、どういうことです? 捕まえた? ええ!?』
混乱する聖女ちゃん。これはチャットで話してもらちが明かなそうだ。一旦合流したほうがいいかもしれない。
「こっちはとりあえず落ち着いたみたいだし、アタシはいったん戻るわ」
「そうですな。騎士の暴走と集落の危機は去ったと言えましょう。一旦合流したほうがよさそうです」
「ダーもついていク! 聖地と悪魔が関係してるナラ、無視できないカラナ!」
アタシの言葉にうなずく四男オジサンと斧戦士ちゃん。
「そうね。そんじゃ戻りましょ」
こうしてアタシは集落の人に事情を説明した後で斧戦士ちゃんをパーティに加え、旅の追憶を使ってオルストシュタインに移動した。
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