15:メスガキは契約を破棄する
時間が止まったみたいな感覚。そして表示される訳の分からないメイスおててステータス表示。
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アンカー
信仰:リーズハルグ 「なので」「戦を支配する」
目的:神を宿し、世界を守る 「なので」「力を示す」
劣等:己の肉体 「なので」「力が欲しい」
契約:「戦を支配する」「力を示す」「力が欲しい」
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アンカー。錨とかリレーの最後の人とかそんな感じ? 当たり前だけどこんなパラメータは<フルムーンケイオス>でも見たことない。なにがなんだかわかんない。
でも、内容は理解できる。このメイスおてての前の人……ロレンソ騎士団長? メイス騎士の性格だ。りーずはるぐ……確か戦争の神様を信じていて、神格化にこだわってた。やたら鍛えた肉体を誇示するのは、素の肉体にコンプレックスあったのかって言われればそうかもしんない。
そしてその後に続くカギカッコ。「なので」の後に書かれているモノが『契約』の項目に繋がっている。
そしてその契約のカギカッコ三項目から、何かが流れているのが見えた。矢印、糸、とにかくそう言った何か。それはアタシ以外の人間に繋がっている。
「戦を支配する」「力を示す」の二つからは地面に伸びて、そしてそこから四男オジサンと斧戦士ちゃん、怯えてる騎士達や集落の人達に繋がっていた。
そしてよくわからない何かが「戦を支配する」「力を示す」から流れている。血管の中に血が流れるように、コードの中を電気が流れるように、何かが流れて繋がっている人たちに注がれている。
「力が欲しい」からはメイスおててに矢印が刺さり、自分に何かを流している。それが流れる度に、メイスおてての筋肉が脈うっていく。
契約。
それは悪魔が人間に持ち掛けるものだ。<フルムーンケイオス>の設定でも時々出てきたし、実際アタシもそれで魔物になった人たちを見てきた。悪魔じゃないけど、かみちゃまと同化した聖女ちゃんもその類なのかもしれない。
『悪魔は契約に縛られます。自由気ままにこの能力を使えません』
かつて、ラクアンで聞いたことを思い出す。領主妹……名前は確かスー? ラクアンオバサンの言葉だ。
『はい。『願いをかなえる』という形でしか悪魔はこの『役を着せる』力を使えません。逆に言えば願った人間がいれば、これだけの事を起こせるのです』
ステータスを操作し、魔物という『役』を着せる。それが悪魔の契約。
今メイス騎士は、願いをかなえるという形で魔物化した。それがどんな願いかが、文字通り目に見える。
戦の神様を信じる、だから戦を支配したい。
神様を宿して世界を守りたい、だから力を示す。
自分の肉体に自信がない、だから力を求める。
そしてそこから流れるよくわからない流れ。それはその願いをかなえるための『力』なのだろう。ラクアンでいもしない大臣を聖女ちゃん達が信じたように、四男オジサンや斧戦士ちゃんはそのせいでビビッてる。戦を支配し、力を示されて。
そして力を求めた結果、パワーが増大している。筋肉至高主義で筋肉で思考するメイス騎士らしく、マッチョな方向で。
なんでいきなりこんなもんが見えたのか。そう思った瞬間に、かみちゃまとの会話を思い出す。聖女ちゃんを取り戻す前の、よくわからなかった会話。アタシが世界を壊すとか、そんな物騒な内容だ。
『将棋とかチェスとかそういうものを想像してほしいでち。駒はその世界に生きている人で、盤面は住んでいる大地とかそいう言う感じで。それを、こう、するんでち』
『雑な説明でちが、この<ミルガトース>を含んだ世界をゲームとして見れるという事は、こういう発想もできるという事でち』
『もちろん物理的ではなく概念的にという意味でち。世界の終わりをゲームを終わらせるように想像できる。そのイメージの有無でち』
アタシはこの世界を概念的に捕らえることができる。そのつもりがあれば盤面をひっくり返して世界を滅ぼすことも。
将棋やチェスの駒の動きを知れるように。ゲームのデータを見れるように。
アタシはこの世界を見れる。悪魔とか神が施したことも世界の流れなら、アタシはそれを見て理解できるのだ。そして、データを知っているという事は干渉もできる。データで作られたモンスターにダメージを与えるように、ステータスであるHPを回復するように。
体は一ミリも動かないけど、思考だけは働く。ゆっくりと振り下ろされるメイスを見ながら、アタシはこの仮定が正しいことを何となく理解していた。
だけど、どうやって? そう言うアビリティを習得するの? あるいはフリックしてどかしたら消えるとか? 意識ははっきりしてるけど、指一本動かすこともできない。脳内でコピペとか消えろとか思ってみても、まったく反応がない。
でも、できる。アタシにはできる。それは理解していた。ただ、そのやり方が分からないだけで。「こうげき」とか「まほう」とかのコマンドは見えない。触ろうにも手足は動かない。アタシにできるのは、考えて喋るだけ――
「トーカの事を貧弱貧弱って罵っていたくせに、自分は悪魔の力でパワーアップ? それで自慢するとか情けなくない? そんなのに頼る方が貧弱じゃない。体じゃなく、心が」
アタシが喋ると同時に、ステータス内の『劣等:己の肉体「なので」「力が欲しい」』が揺れた。RPGで言えばダメージを受けた感じで。あと『うぐはぁ!』とか言うメイス騎士の悲鳴が聞こえた気がした。
「ひよわひよわー。自分よりちっちゃい女の子に翻弄されて一対一で負けたひよわきしー。剣と戦の神様のために頑張ってきたのにあっさり負けちゃたよわよわきしー。そんなのでかみちゃま宿して大丈夫? 恥かかない?」
『信仰:リーズハルグ「なので」「戦を支配する」』と『目的:神を宿し、世界を守る 「なので」「力を示す」』もガツンと揺れた。このRPG的表現はおそらくアタシの脳が分かりやすくしているんだろうけど……こういうのでいいんだ。
「暴力で支配する神様のくせに暴力で斧戦士ちゃんに負けたま・け・い・ぬ。無駄に鍛えた筋肉を誇示するよりもわんわん吠えるのがお似合いよ。ほら、吠えなさいよ。わんわん♪ わんわん♪」
「鍛えて鍛えてそれでも負けて。ねえ、悔しい? 鍛えたら勝てると思ってたのにあっさり負けて悔しい? ちっちゃい軽戦士に負けて、現実知った? 筋肉なんて、無・駄。むだきんにくのむだむだ騎士さん」
「部下の人達もかわいそー。無駄筋肉信仰に付き合わされて、オジサンにあっさり投げ飛ばされて。アタシが教えたやり方を貫いたオジサンにぽいぽい投げられたんだよ? 無駄筋肉信仰よりも、トーカの教えの方が強かったの。分かんない? 現実みれないってぶざまー」
「思考放棄して鍛え続けて、負けた挙句に変な人の教えにコロッと騙されて。子供のアタシでも怪しいって思うのに信じちゃうなんて、頭悪ーい。筋肉騎士さん頭わるーい。頭まで筋肉だと悪魔のいいカモね。きっと神様も呆れてるわ」
アタシの言葉の度にメイス騎士の悲鳴が聞こえ、契約の文字がガンガン揺れる。ダメージを与えている証拠とばかりに何回か揺れた後に『信仰:リーズハルグ「なので」「戦を支配する」』の「なので」「戦を支配する」が消え去った。
「……む、今まで吾輩は何を?」
「もう怖くないゾ!」
その瞬間『契約』の「戦を支配する」も消え去った。そこから流れる力の流れも途絶え、四男オジサンと斧戦士ちゃんが復活する。「戦を支配する」望みをかなえるためにそう言う力が流れて、相手を支配していたとかそんなところか。
「馬鹿な……『契約』が破棄させられただと!? 同質存在による正規破棄ではなく、破壊による強制破棄……! アンジェラの作り出したプロテクトを破壊するなどお母さま以外にできるものがいるはずないのに……!」
驚愕の声が聞こえてくる。五流悪魔の声だ。もともと感情的なヤツだけど、今回の驚きはアタシに対する畏怖すら感じる驚きだ。どうやらアタシがしたことは、よほどの事らしい。
「はん、アタシにかかればこの程度どーってことないわよ」
アタシ自身も理屈はよく理解してないけど、とりあえずドヤっとくわ。
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