11:メスガキはなにもしない
<フルムーンケイオス>においては騎士の方が比重が高く、硬い鎧を着れて、回復系魔法を使える言ってしまえば『前に立つ回復役』よ。ステータスもやや肉体寄りで、聖女ちゃんから少し回復力が減って、硬くなった感じ。
まあ何が言いたいかというと――
「聞けば魔王を卑劣な手段で毒殺したようだが、我々には効かぬ! 神の威光を味わうがいい!」
バステ除去能力があるわ回復するわ硬いわで、素の火力が低くてバステ主体で戦うアタシとはとことん相性が悪い相手である。加えて言えば、範囲攻撃もないので数で押されればどうしようもない。
要するに、聖騎士が大人数で攻めてくるなんてアタシのスペックじゃ手の打ちようがないわ。まあ【貴方を買う】を使えばどうにかはなるんだけど、こんな奴らの為にお金払うとかヤダし。
「やーよ。アンタらみたいな筋肉信仰者とか相手したらこっちまでキンニクになるじゃない。てなわけで任せたわ」
なんで言って少し下がるアタシ。
「よわよわトーカは下がって見てるんだナ」
「うわムカつく! 川で転んでたへっぽこのくせに!」
「なにおぅ、朝起きれないねぼすけのくせニ!」
「仲が良いのは美徳ですが今は戦いに集中しましょう」
「「仲良くなんかない!(ナイ!)」」
四男オジサンにサラウンドでツッコミを入れて、アタシは迫ってくる筋肉性騎士達を見る。
「オジサンは集落に迫るマッチョ聖騎士の群れをひたすらぶん投げて。アンタはあのメイス騎士! 一気に倒してオジサンに加勢して!」
「任されました。無辜の民を脅かす輩に鉄槌を食らわせましょう」
「強くなったダーの強さ、見せてやル!」
アタシの言葉と同時に動き出す四男オジサンと斧戦士ちゃん。
「神の降臨を邪魔する者たちよ! この一撃は神の鉄槌と知るがいい!」
トカゲで突っ込んできながらオジサンにメイスを振るう騎士。騎士系ジョブが持つ騎乗しているときに威力が増す【騎乗突撃】だ。機動力の速さもあって、先制パンチにはうってつけ。
「如何なる理想があろうとも、罪なき者に刃を向けることが正しいわけがない。騎士として人として、それを恥じるがいい!」
オジサンはその一撃を真っ向から受ける。鍛えられたステータスと【騎士の心得】による高いHP、そして『皇国騎士鎧『弐式』』の高い防御力。それらがその衝撃を受け止めた。決して無傷ではないが、足を止めるには至らない。
「ハイパアアアアアアアア! ボォォォォォム!」
そして【当身投げ】。攻撃を受け止めた個所を起点に騎士の体が回転する。そのまま地面に叩きつけられて、【投げ打ち】の効果でその周囲にいる機士も巻き込んだ。
【投技】のダメージを増幅する格闘武器『キャッチザレインボー』の効果もあり、一気にマッチョ聖騎士のHPを削り取る。【柔の心】の効果もあってか、トカゲごと投げられてるのはシュールとしか言いようのない。
「キャッチ! アズ! キャッチ! キャン!」
すでに【CACC】を使っていたのだろう。投げた騎士の腕をつかみ、回転させて捻り上げ、離れて構えるオジサン。瞬く間の動き。
「流れを崩し、その瞬間には投げている! しかも最小限の動きで!」
「投げからの、腕関節! なんだこの動きは!?」
「一瞬で腕を外し、そして離れる! まさに戦場格闘技!」
「極め技に偶然無し。まさに技巧の極み!」
格闘とかよくわかんないけど、周りの騎士達はそんな感じでどよめいている。体育会系のノリかな? まあ【投技】10レベルだしね。すごいんじゃない?
「力のみを至高とする者たちよ。それが汝らの信念というのなら、その信念受け止めよう! そして知るがいい、我が技巧を。力に依らぬ戦い方を!」
「いいだろう、汝の挑戦受けようではないか!」
「剣と戦の神の名にかけて!」
オジサンの挑発にメイスを掲げて挑む騎士達。トカゲの突撃力を考えたら、何名かはオジサンを通り抜けてアタシか集落に向かってくると思ってたけど……みんなオジサンの方に向かっていく。体育会系のノリってついてけない。
「これが鍛えられし聖なる鉄槌! 聖武器ラウガの一撃を受けて、神の偉大さにひれ伏すのだ!」
メイス騎士と斧戦士ちゃんの攻防に目を剥けると、こっちもこっちで少年漫画のノリになってた。
「ほらほらほらぁ! 避けるだけじゃ何もできんぞ! 仮に当たったとしても、そんなボロボロの斧でこの鎧を傷つけられるはずもない!」
戦いはメイス騎士が振るう聖武器を、ひたすら避ける斧戦士ちゃんという感じになってた。斧戦士ちゃんの二本の斧はメイス騎士の鎧に当たって入るが、あまりダメージは入らない。高防御を突破できないのが軽戦士の弱点だ。
加えてメイス騎士は聖騎士なんで回復力もある。自動回復のバフを入れればメイスを止めずに回復できるだろう。メイス騎士の余裕はそこからきていた。
「今降参して改宗するなら命だけは助けてやろう。先ずは筋トレキャンプでその肉体を鍛え上げて、そのあと快眠快食による回復で無理なく効率よくブートアップ! 数年後には皆健康的で力強い肉体となるのだ!」
「……結構、健全ぽいわね」
漫画とかで出てくるスケベ宗教家よりは善人なんだけど、アタシはまっぴらごめんな事を言うメイス騎士。
「断ル! ダーはダーの信じるままに強くナル! トーカが示した先にある道ヲ進むンダ!」
……何気に嬉しい事を言われて、そっぽむくアタシ。あー、もう勝手に強くなればいいじゃない。
「その割には時間かかってんじゃない。ムワンガアックス使えば鎧の防御力無視して攻撃できるのに」
ずっと部族のトマホークを使ってる斧戦士ちゃんにアドバイスするアタシ。ムワンガアックスは人間属性に使えば防御無視の効果がある。【聖武器】の鎧でも同じことだ。それを使ってればとっくに終わってるのに。
「それだと殺シテしまうからナ」
「……なんだと?」
「トーカとその仲間が来たノなら、殺すまでもナイ」
「現実の見えていない子供が何を言うか。勝負はすでに決まってる!」
うん、そうね。現実が見えてないとか、勝負はすでに決まってるとか。まさにその通り。
先ずメイス騎士から斧戦士ちゃんへの攻撃は当たらない。【分身ステップ】を駆使した戦いに加えて【高速戦闘】6レベルで覚える【風に舞う羽】がシンプルに強い。金属鎧を装備していない状態だと回避が増すアビリティね。
んでもって【二刀流】のレベル8と10で覚える。【スパイラスブレイク】と【二天一流】が戦いを決定づけていた。【スパイラルブレイク】は二刀流状態なら攻撃の際に一定確率で相手のバフを剥がす状態になる。【夫婦剣】で攻撃回数が増してるから、メイス騎士の肉体強化は気が付けば剥がされてるわ。
で【二刀流】の最終アビリティ【二天一流】がこれまたデタラメに強い奴で。
「手数が多いだけの貧弱なパワーで我が筋肉と鎧をチマチマ削っているようだが……何故だ? 何故、ここまで……!」
「ダーの二本の斧を侮ったナ!」
斧戦士ちゃんの動きを追随するように、斧戦士ちゃんの影だかオーラだかが攻撃を繰り返す。【二天一流】の効果は攻撃の追従。要するに二倍攻撃。【夫婦剣】の4回攻撃が2倍になって8回になる。これに【一閃】の攻撃力増加や【惑わす渦】まで乗っかるから、手が付けらんないわ。
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★アビリティ
【スパイラスブレイク】:回転する二の武器が構えを崩す。二刀流時に『攻撃命中時に【二刀流】レベルに応じた確率でバフ効果を剥がす』効果を付与。MP40消費。
【二天一流】:二刀流の究極の形。二刀流時、ダメージを食らうまで影が貴方と同じ攻撃を繰り返す。MP全消費。
【風に舞う羽】:羽のように舞い、攻撃を避けろ。回避力を『敏捷×【高速戦闘】のスキルレベル/20(端数切り上げ)』上昇させる。金属鎧装備時、使用不可。常時発動。
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「軽い……はずなのに、ダメージが積み重なる! 神の加護もすぐに途切れる! ちぃ!」
自動回復のバフが切れれば、小さくともダメージは積み重なる。そうなると自分で回復するしかないけど、その分攻撃の手数が減る。その間に斧戦士ちゃんは攻める。
あとは一方的だ。小さくともダメージを重ねるのが軽戦士。鎧でダメージを阻まれても、ゼロでなければ積み重なっていく。回復だって無限じゃないのだ。メイス騎士は見る間に追い詰められていく。
「降参シロ。今なら遠方から手合わせしたと思って見逃してヤル」
「降参、だと!? 神の降臨をあきらめるわけには!」
雌雄は決したとばかりに降伏勧告をする斧戦士ちゃん。メイス騎士は受け入れないが、逆転の目はないのは明白だ。
「でもあっちも全滅よ。悪いけど、勝負あったわ」
「貴公らの肉体と信念は素晴らしいものだった。吾輩の心にしかと刻まれたぞ」
アタシは四男オジサンの方を指さし、言い放つ。その先には倒れ伏した騎士達と勝利ポーズをとるオジサンがいた。【投技】極めた重戦士ってああなるんだ。
「ま、そんな程度でアタシ達に挑もうなんて言葉通り命知らず。神をも恐れぬ所業だったわね。ああ、神様にたちゅけてーってお願いしに来たんだっけ? ごめーん」
「トーカ何もしてないジャン」
「うっさい」
斧戦士ちゃんのツッコミにちょっと傷つくアタシ。ヤバかったらフォローしようとは思ったけど、全然必要なかったし。
「とにかくとっとと家に帰って。そんでもって聖女ちゃんのありがたいお話を聞いて改心するのね」
こいつらがここからオルスト皇国に戻るころには、聖女ちゃんの『説得』も終わってるだろう。これでこの集落は守られたも同然だ。サクッと帰って聖女ちゃんと合流しよっと。
「……なぜ、だ。何故神の使途が負ける!? 神を此処まで慕う我らが、何故ここで諦めねばならぬのだ!」
負けは認めたけど、諦めが悪いメイス騎士。何よ、もう一回痛い目に会いたいの?
『力が、欲しいか?』
アタシが何かを言おうとする前に、そんな声が響いた。重く、そしてまとわりつくような重い声。
「この声は!?」
「へ? 知ってるのアンタ?」
「トーカも知ってるだロ、テンマとか言う悪魔ダ!」
驚く斧戦士ちゃん。テンマ? ええと、あの五流悪魔?
『戦の神を信じる者よ。敗北に嘆く者よ。神に近づこうとする者よ。力を求める者よ。その願い、我に届いた。その嘆きを力に変えよう。
力が欲しければ、答えよ……!』
「欲しい! 神となるため、敵を倒す力が欲しい!」
声に答えるメイス騎士。その瞬間に、空から黒い光が降ってきた。黒い光線はメイス騎士の目の前に振り、光が消えた時には黒いメイスが宙に浮いていた。
『ならば受け取れ。その武器が、貴様に新たな力を与えよう』
ヤバイ。黒いメイスを見た瞬間、アタシの背筋がゾクっとした。暗黒騎士やナタ、五流悪魔の作り出したぐちゃぐちゃ魔物とは違う、悪寒と吐気。とめようと声を出すより先に、メイス騎士はその武器を手にして――
「おおおおおおおおおおおおおお!」
手にした黒いメイスから触手が伸び、メイス騎士にまとわりつく。黒い粘液状の何かは一瞬でメイス騎士を飲み込んで、ぐにょぐにょと形を変えた。
「おおおお、これは、神の、力」
巨大なメイスを持つ黒い腕。そうとしか言いようのないモノが、そこにあった。
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