6章 遊び人と聖女と宗教戦争
1:メスガキは聖女に追放される
「アサギリ・トーカさん。貴方をこの聖女パーティから追放します!」
「ええ!? ど、どうしてよ?」
突然の宣告に、アタシことアサギリ・トーカは驚きの声をあげる。聖女であるコトネとはこれまでうまくやってきた。意見の食い違いもあったけど、基本的には仲良しだったのだ。なのに、なぜ!?
「決まってます。貴方のジョブが遊び人だからです。聖女と呼ばれる私と共に歩むには、ふさわしくありません。
スキルも【遊ぶ】とか【笑う】とか戦いの役に立たないモノばかり。そんなあなたは足手まといなのです。だからあなたはこのパーティにはいらないのです!」
言うと同時に<パーティリーダーの命令により、パーティから外されました>というメッセージが脳内に響く。そう、アタシはこれまで共に歩んできた聖女パーティから追放されたのだと実感する。
「そう。わかったわ。でも私がいなくなって後悔しないでね。呼び戻してももう遅いから」
こうしてアタシは聖女パーティから追放されて遊び人の超強い仕様で一気に成り上がり、聖女はこれまでパーティを支えてきたアタシがいなくなり一気に没落。戻ってきてと土下座するけど、もう遅いのであった……。
「……えーと、何なんですか、これ?」
手にしたカンペを振りながら、聖女ちゃんは言う。さっきまでの件をメモ書きして渡した台本だ。
「昨今の流行なのよ。ざまあとかもう遅いとか、なんかそう言うの? なんか弱いと思ってる人を追放したらそのまま落ち込んで、追放された方が急に成り上がるとかそう言うお話」
「いつの世も、逆境から脱出する物語は後を絶ちませんからね。
それにしても引継ぎとかその辺無しで追い出して集団が回ると思うリーダーにも難があると思いますけど」
「現実なんてそんなもんでしょ?」
そんな組織運営聞いたことありませんよ、と言いたげな聖女ちゃんに肩をすくめるアタシ。
「せっかくパーティ解散するんだから、やってみたかったのよ」
追放云々は茶番だけど、パーティ解散は本当の話だ。
オルスト皇国を出る際に組んだパーティだったが、それを解散する運びとなった。そのこと自体は二人で話し合って決めたことだ。で、ついでなんでアタシがやってみたーい、って駄々こねて聖女ちゃんにお芝居してもらったのである。
「トーカさんが弱いとか役立たずとかいらないとか、欠片も思ったことありませんよ。まったく、酷いこと言わせるんですから……」
ぶつぶつと文句を言う聖女ちゃん。この子的にはそれが一番気に入らないらしい。台本渡した時もすんごく嫌そうな顔したし。
「悪かったわよ。でもいつもと違ったキャラ演じるのも気持ちいいもんでしょ?」
「あいにくと変身願望はあまり高くありませんので」
「……あー。うん、ごめん。二度とやらない」
「はい。そういう事でお願いします」
怒りの深度が予想よりも深かったので、真面目に謝るアタシ。
「そもそも今回の件だってあまり納得してないんですから。仕方ないとはいえ、トーカさんと別れて行動するとか不本意です」
パーティを解散した理由は、一つ。アタシと聖女ちゃんが分かれて行動する必要が生まれたからだ。より正確には、2つのパーティを結成する必要があり――
「しょーがないじゃない。アタシが交じると嫌な顔されるんだから」
その1パーティ側に思いっきり嫌悪されているからだ。
「まあそれは……トーカさんがこの世界の宗教をあまりに軽視しているというのが原因なんですが」
「だってかみちゃまよ? 崇拝とか尊敬とか敬うとかできる?」
「色々助けてもらったじゃないですか」
「それを加味しても友情が限界よ。あれを上に見るとか、無理」
アタシを嫌悪しているのは、教会からのプリーストやパラディンと言った人たち。この世界に存在する神。それを信じる教会関係者。それがアタシたち……正確には聖女ちゃんにお願い事をしに来たのだ。
「彼らの話をまとめますと、こういう事です」
アタシ達にこの話を持ってきたのは、投げ格闘家の四男オジサンだ。久しぶりに会ったオジサンは結構
「神と融合したコトネ様に、暴走する教会の一派を説得してほしいそうです。
『悪魔に燃やされた神との一体化の秘伝。その成功例が現われたのだ。ならば我らにも可能なはず』……そう言って、命を捨てるに等しい儀式を繰り返す派閥が生まれたのです」
「な、何なんですかそれは……?」
「『神に我が身を捧げる』という題目で重体になる者や命を捧げる者もいます。この暴走が拡大すれば、最悪無辜の民にまで手を出しかねません」
曰く、かみちゃまと融合した神格化だっけ? それができたんなら強くなれるからやってみようぜとばかりに無茶な事をしまくっているのだ。単に無駄な努力をするならどうでもいいけど、それがグロかったりリョナだったりあと人襲ったり。そんな暴走だとか。
「かみちゃまと一緒になりたいとか、バッカじゃないの? 頭悪いとしか思えないわ」
そういうことを口にしたら、オジサンの後ろにいる人達の眉がピクンと動いた。何よぅ、本当のこと言ったのに。
「腕に抱えられる程度の赤ちゃん。思いっきり方向音痴な子供。オシメも自分で変えられない役立たず。あんなのただの赤ちゃんじゃない。ばーぶー」
てなことを口にしたら、烈火のごとく怒られたのである。
その辺もあってか、アタシは宗教家とは相性が悪かった。そしてタイミングがいいんだか悪いんだか、無視できない問題が発生したのだ。
『トーカ! コトネ! 一大事ダ! アウタナに入れろと言う奴らが沢山現れて、村が囲まれタ!』
アタシと聖女ちゃんにアウタナからそんなフレンド通信が飛んできた。送ってきたのは斧戦士ちゃんことニダウィだ。
「待って。囲まれたって、攻められそうな感じなの?」
『アア。鎧で武装して武器を構えてル。態度も威圧的ダ』
なんでもアウタナの頂上に行きたいという人間が沢山現れ、武器をもって村を囲っているのだ。斧戦士ちゃんの声のトーンから、仲良く話し合いをしに来たふうには感じられない。
「分かった、すぐに行くわ。まあ、アンタならその辺のザコに負けるとは思わないけど」
あの子がその辺の奴に負けるはずがない。でもあの子すぐカッとなってキレるからなぁ。急いだ方がいいかも?
「アウタナ……もしかしてですけど、その人たちは神との融合を行いたい方々なのではないでしょうか?
私がギルガス神と繋がったのはアウタナの山上です。聖地と呼ばれる場所をそう言った方々が目指したという可能性もあると思います」
アウタナ。確かにあそこの山の上で聖女ちゃんが変になった。天秤神? まあそう言うのと会話した。
そのことを知っているかはわからないけど、聖地に行けば神に会える。そう思ってるやつがいてもおかしくない。実際、暴走しているらしいし。でも、あの子の集落は聖地を守る部族の集まりだ。まさに一触即発状態。
「じゃあ、行ってぶん殴って説得ってことで一気に解決ね」
「さすがにそこまで短絡的にはいかないかと。暴走する教会側の一派を説得して押さえなければいけません」
戦闘終わらせて解決! と笑みを浮かべるアタシにストップをかける四男オジサン。なによぅ。
「はい。アウタナにいる方々は暴走する人達の一部でしかありません。
その頭を止めない限りは、事態は収まらないでしょう」
「なによー。じゃあ斧戦士ちゃんは見捨てるの?」
「……そういうわけでは」
そうよね、この子の性格からして見捨てるわけないもんね。
「じゃあしょうがないわね。二手に分かれて行動しましょ。説得と、戦闘。アンタは説得に欠かせないみたいだから、アタシがアウタナに行くわね」
そう言った瞬間に、教会の人達が手をあげて聖女ちゃんに意見する。
「聖女様。連携を高めるためにも我々教会の者とパーティを組んでいただけるとありがたく」
「……できれば、そこの遊び人はパーティに入れない形で」
「何でアタシをのけ者にするのよ」
「「貴様のような不信心者とは行動したくないからだ!」」
サラウンドで拒否され、あーはいはいと反論する気力を失うアタシ。
「シューキョーカってワガママね」
「トーカさんに言われる筋合いはないと思います」
かくしてアタシ達は二手に分かれて行動することになるのであった。
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