27:メスガキは魔王(第一形態)と戦う

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名前:魔王<ケイオス>

種族:悪魔(ボス)

Lv:153

HP:1778


解説:デーモンを始めとした魔物を治める王。しかしこれは仮初の姿。


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 黒マントの魔術師風な男。レベルもHPも赤青悪魔よりも一段階高い。悪魔族なので聖属性には弱いという弱点こそあるが、素のHPが高いので生半可な強さだと押し切られるわ。


 堅牢な盾役。聖属性を主軸とした攻撃陣。安定した回復と支援役。オーソドックスだけど、これらをしっかり意識するのが一番の攻略だ。幸いと言うか当然というか、魔王は回復系のアビリティを持っていない。小さくともダメージを刻むのが重要になってくる。


 でもそれは普通の戦い方だ。アタシはチマチマやる気はないわ。『三神の宝珠』が自動で動きだし、<魔王結界>を無効化する。ガラスのように砕ける音と同時に、アタシは動き出す。


「読めておるぞ、アサギリ・トーカ。大方悪魔化するカードを用いてこそこそ隠れながら戦うつもりじゃろう。卑劣なお主にはお似合いの戦術じゃ。

 しかし無意味と教えてやろう! <ケイオス>に施した慧眼はその程度の偽装などあっさり見抜くぞ。無様をさらし己の器を知るがいい!」


 厨二悪魔がなんか言ってるけど、要するに『悪魔のカード』を用いてターゲットされない状態になるのはボスキャラには効かない。<フルムーンケイオス>でもそう言う仕様だ。


「貧相な肉体では魔王の一撃を受けて潰えるしかなかろう。骨すら残らぬわ」

「誰の胸が貧相でぺちゃんこで断崖絶壁で無限に広がる大平原で山ナシだっていうのよ! アンタだってそうじゃないの! このまな板まったいら薄くて背中と区別がつかなくて紙装甲な子供体形!」

「わ、妾そこまで言ってないぞ! って言うか胸じゃなく肉体的な強度の意味あいじゃぞ!」


 分かってはいるけどとりあえず反論しておく。アタシの胸は貧相じゃないし山だってちょっとはあるんだから。あと自分で言っててダメージとか受けてないもんね!


「そもそも巨乳でオラオラ系で厨二ロリババア? 悪魔って変なのしかしないのよね。そりゃアタシに出し抜かれるわけだわ」

「減らず口もそこまでじゃ。いけ、魔王<ケイオス>! 前回同様『絶対領域アブソリュート虚の極みゼロアルティメット』できめてやれ!」

「あぶ……えーと……? アタシがやられたのって、ただの通常攻撃だったんだけど」

「うむ。味気ないから初級攻撃にも名前を付けた。どうじゃ、妾のさに恐れおののいたか」

「いろんな意味でおののいたわ」


 魔王の手首が動く。くい、と指だけをあげる小さな動作。それだけでアタシの周囲10mを魔力が走り、噴き上げるような衝撃が発生した。エレベーターが下るときのような浮遊感は一瞬。


「ふ、ぐぅ……!」


 全身の骨を砕くような衝撃が、アタシの体を襲った。悲鳴をあげようにもそれさえも許さない圧力と痛み。無属性の攻撃に対して、アタシは防ぐことも耐えることもできない。今回は手加減する必要もないとばかりに、殺意を込めた一撃。


 仮におねーさんを連れてきた魔法反射をしたとしても、物理の無属性攻撃が飛んできただろう。アタシとおねーさんが同時にそれでやられ、結果は同じだった。遊び人と裁縫師。共にHPは低いのだから、当然の帰結だ。おにーさんなら一発は耐えられるけど、二度目は無理。結果は変わらない。


「こらぁ、技名をきちんと言わぬか!」

「申し訳ありません、アンジェラ様。次はそのように」

「……次?」

「次なんてないわよ。これでおしまいなんだから」


 痛みに耐えながら、アタシは言ってやる。足ががくがく震えて、呼吸するのも難しい。目の前がチカチカして、吐き気も止まらない。


 でも、生きてる。確実にHPが0になる攻撃を受けたのに。殺すつもりで放った魔王の攻撃を受けて、アタシはかろうじて立っていた。レアアイテムの一つ『遁甲符』の効果だ。


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★アイテム

アイテム名:遁甲符

属性:消耗品

装備条件:なし

HPが0以下になった時に自動で発動。死亡状態を解除し、HPを1にする。


解説:神仙術の力を込めた札。せまりくる死を一度だけ避けられる。


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 いわゆる死亡キャンセルアイテムね。HPが0以下になったら、HPを1にして復活させてくれるアイテムよ。これで魔王の攻撃に一度だけ耐えた。復活の代償として遁甲符はなくなっちゃうけどね。


 あるだけで死なない便利アイテム。じゃあたくさん持ってれば死なないのかって言われればそうでもなく、複数枚持っていてもHPが0になったら全部一気に消える仕様よ。なんで2枚以上持つメリットはないわ。


「っていうか、痛いはのどうにかしてよ……HPがあるうちは、痛みがないとか、そういう仕様にしてほしいわね」

「痛みは危険のシグナルでちから。それをなくすと危険な場所が分からないとか、他人を傷つけても構わないとか別の問題が発生するでちよ」

「アビリティ覚える時のといい、こういう仕様といい……ホント、ステータスはかゆいところに手が届かないわね。えっちなところには手が届くのに」


 痛みをこらえながらかみちゃまに文句を言うアタシ。アビリティ覚える時は麻酔と称してアレコレなっちゃうのに、こういう痛みは自分で我慢しろとか。


「はん! 一度だけの保険とはな。しかし二度目はなかろう。無駄な足搔きじゃな。死に体で起き上がって、何の意味があったというんじゃ」

「そうね、二度目はないわ。でも意味はあるんだから」


 死にかけになった意味は当然ある。この状態だからこそできるアタシの最大火力技。クリティカルバニーアタックよ。【早着替え】でバニースーツに着替え、【カワイイは正義!】でその効果を倍増する。


「アンタの聖属性パクるわよ!」


 そしてかみちゃまイン聖女ちゃんに【まねっこ】を使って、【聖体】の聖属性攻撃を借りる。あれから時間経ってるから消えている可能性はあったけど、未だに継続しているようだ。


 HPが一桁の時にクリティカルダメージが3倍になる状態。加えて相手の弱点である聖属性攻撃。『辰砂』の最大HPと現在HPの差が攻撃力になる仕様。レベルアップしたアタシのステータス。これを【笑裏蔵刀】でクリティカル攻撃にして叩き付ける!


「その辺色々のっけたドロップキーック!」

「何じゃとー!?」


 走って跳躍し、両足を魔王に叩き付ける。『辰砂』は近接武器だから仕方ないわ。ぎりぎりまで攻撃力を高めた相手の弱点属性攻撃を叩き込み、


「み、見事……人の身でありながら、魔王に土をつかせる、とは……!」


 魔王のHPを一気に削り取った。セリフと共に倒れる魔王。厨二悪魔の驚きの声が、大きく響く。


「ま、まさか魔王<ケイオス>を一撃で倒すとは!? 弱点属性をクリティカルに叩き込むとか……! ウサギ服のことは見て知ってたが、遁甲符レアアイテム使ってHPをぎりぎりに落とすとか普通やるか!? 辰砂も含めて結構出にくいアイテムのはずじゃぞ!」


 アタシの戦術に文句を言う厨二悪魔。


 確かに遁甲符は出にくいアイテムだ。何かあった時の保険に持っておくのが普通の使い方よ。それをまさか攻撃の起点に使うとか、そんなのはまずありえない。厨二悪魔は自分の価値観とは違う戦術に驚きの声をあげていた。


 なんでHP1の状態のまま、アタシはドヤ顔決めて言ってやる。


「勝てばいいのよ。勝てば」

「それ、悪役のセリフでち」


 うっさいわね、かみちゃま。


「……ふ。所詮は悪あがきよ。今の姿は魔王にとってかりそめの姿。切り札を切っていい気になっているようだが、第二形態をみて絶望するがいい!

 人間状態が霞むほどの強さじゃからな。同じやり方はもう通じぬと思え!」


 ショックから立ち直った厨二悪魔が叫ぶ。


 確かに第二形態の<ケイオス>は強い。弱点属性もなくなり、HPも段違いに跳ね上がる。今の一撃では削り切れない量のHPがあるわ。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 それでも、勝てる。アタシは息を整えながら、ドラゴン状態に変化していく魔王を見ていた。

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