26:メスガキは魔王に挑む

「おぬしは……アサギリ・トーカ! ただの人間がデミナルト空間にはいりこんだじゃと!? それに、傍らにおるのはシュトレイン!?」


 アタシがやってきて、一番驚いているのはゴスロリ厨二悪魔だ。アタシの方を見て驚きの表情を浮かべている。万が一にも流れ弾がアタシに当たって傷ついては叶わないとばかりに攻撃の手を止めた。悪魔は人間に直接攻撃ができないからね。


 魔王は変わらず聖女ちゃんを見ているし、聖女ちゃんも魔王から目を離せないとばかりにこちらをちらっと見ただけで顔を動かさない。神と悪魔の戦いは、アタシの登場でいったん中断となった。


「成程、シュトレイン。力を分断して隠しておったということか。

 不測の事態に対応できるためのバックアップを置き、かつ二分割することで神格化の条件を引き下げようという狙いじゃな。道理でこの小娘からの出力が弱かったわけじゃ。

 見事見事。しかし妾が出たことで力を統合する必要が生まれ、急ぎその人間のステータスに干渉して洗脳し運ばせたという事か」


 悪魔の驚いた表情は、すぐに笑みに変わる。貴様の企みなどお見通しじゃとばかりに愉悦の笑みだ。……事情を知らないとそう思うんだろうけど、実際は迷ってトラブってアタシ達がいなかったら動けなかった状態だった。勘違いにもほどがある。


「……だって、かみちゃま。なんかいう事ある?」

「ノーコメントでち」


 アタシの問いかけに目を逸らすかみちゃま。ここまで運んでくれたお礼と言うか武士の情けとか。そう言うので真実は隠すことにしてあげるわ。実際、重要なのはそこじゃないし。


「かみちゃまが二つになってたのは事実だけど、アタシは洗脳なんかされてないわ。催眠されてエロエロなことされるのはアタシのキャラじゃないしね」


 口に手を当てて笑う厨二悪魔に向きなおって口を開く。


「っていうか。アタシは悪魔の洗脳とかステータスからの干渉とか効かないから。そんなことも知らないなんて、遅れてるー。情報のアップデートできてないんじゃない?」

「ぐぬぅ……! 少し忘れておっただけじゃ! この世界を破壊する可能性を持つことももちろん覚えておるぞ! リーンは『あくまで可能性ですので、そちらは無視していいでしょう』とは言っておったが、妾はわずかな可能性でも摘んでおかねばならんと思っておったからな!」


 言って胸を張る厨二悪魔。ああ、忘れたのね。


「その割にはこんなところで魔王と一緒に引きこもって遊んでたんじゃない」

「引きこもってなどおらぬ! この空間で戦うことでお母様の作った大地に影響を与えずにしていただけじゃ! 妾を引きこもりとか言うな! きちんと仕事しとるんじゃからな!」


 やたら引きこもりの単語に反応するわね、この厨二悪魔。


「……もしかして、ガチで引きこもりだったとか? あ、ごめん。トラウマに触れた?」

「憐れむな! 確かにリーンやテンマみたいにこちらの世界には来ておらんけど、きちんと魔物を作ったりしてたんじゃからな!」

「あー、うん。そうね」

「適当な返事で流すなー!?」


 目に涙浮かべて反論する厨二悪魔。……その、これまでの悪魔が口先で騙して魔物化する巨乳悪魔だとか、痛めつけて魔物化させる五流悪魔だとかだったんで、じゃあ三人目はどんなえげつないんだろうって思ってたら……。


「部屋に籠ってフォギュア作って満足してるヒキオタとかないわ。ヒキモオタ残念厨二とか、一生部屋に籠っててほしいわ」

「言葉の意味は分からぬが、馬鹿にされていることだけはわかるぞ! ぐぬぬ! テンマがお母さまの言いつけを守れずに殴りかかった気持ちが理解できたわ!」

「正直アンタはどうでもいいのよ。ちょっと黙っててくんない?

 アタシの用事はこの子なの。ついでに魔王倒すけど」


 ひらひらと手を振って厨二悪魔との会話を終わらせるアタシ。時間制限あるんだし、実のない会話は適当に切り上げるに限るわ。


「……私は話すことは、ありません」

「アタシにはあるのよ。かみちゃまとの融合を解いて、とっとと帰るわよ。勝手に主人公されて、アタシは迷惑なんだから」


 聖女ちゃんの口が動き、短く言葉が放たれる。喋ったのは聖女ちゃんかかみちゃまか、あるいは融合した全く別の人格か。どうでもいいわ。すぐに戻すんだし。


「できません。神格化の解除は同格の神及び悪魔であっても不可能です。仮に可能であったとしても、魔王<ケイオス>とアンジェラを放置はできません」

「できるわよ。そのためにかみちゃま連れてきたんだし。魔王は倒すし、悪魔は人間には手が出せないわ。アタシを守る必要はなくなるの」

「同存在であるシュトレインの干渉。確かに確率は低いですが神格化解除は不可能ではありません。ですが遊び人の貴方が魔王<ケイオス>を倒すのは、不可能です」

「……アンタの口からそれを言われるのは、ちょっとクるわね」


 アタシには不可能。どんな状況でもアタシを信じてくれた聖女ちゃんから否定されたのは、意外に堪えた。誰に否定されてもどこ吹く風だと思ってたけど、信じてた人にそう思われるのはやっぱり辛い。


「その通りじゃ。妾が生み出した魔王<ケイオス>はお母さまの名前を冠するだけあっての自信作! 貴様らがどれだけステータスを鍛えぬこうが、決して届かぬ領域があると知るがいい!

 強靭な体力、膨大な魔力、そして名前を通してお母さまの力を介することであらゆる魔物を強化するカリスマ! まさに魔なる存在の王! しかもこれもまた仮の姿。真なる姿は……ふふ、それは見てのお楽しみじゃ。恐怖におののき許しを請う姿を楽しみにしておるぞ」

「知ってるわよ。第二形態はデーモン世界にいるレインボードラゴンの色違いでしょ」

「……うぐぅ! そうであった。貴様この世界の事を熟知しておるんじゃったな……わ……忘れてたわけではないぞ! 情報が正しいかどうかの確認をしただけじゃ!」


 喋れば喋るほど残念になっていくなぁ、この厨二悪魔。ずっと引きこもってたほうがいいかも。


「とにかく、魔王倒したらあんたもここにいり理由はなくなるワケ。なんでサクッと倒させてもらうわ」

「アサギリ・トーカと言ったな。我に一度挑んで敗れた汝が立ち上がり、我の前に立った勇気を王として称賛しよう」


 指さすアタシに、魔王は静かにそう答える。アタシを侮りもしない。油断もしない。言葉から感じるのは、その重さ。圧倒的な実力を持ちながら慢心せず、弱き者が挑む気概を讃える風格。


「一応言っとくけど<魔王結界>解除アイテムは持ってるわよ。前みたいに勝負にすらならないなんてことはないからね」

「加えて無謀でもない。それが本来の貴様か。無力化できなかったのが惜しまれる」

「そういうことよ。悪いけどアンタは前座なの。今なら『今殺すのは惜しい。魔王城にて貴様を待つとしよう』とか言って逃げかえってもいいのよ」

「それこそ愚策。汝のような存在に時間を与えれば、更なる策を用意されて圧倒されかねん。今ならまだ、傷口が小さいままに処理できよう」


 ちっ、ここで帰ってくれたら聖女ちゃんもレベル上げさせて、魔王城モンスターのドロップアイテム全確保して気持ちよく魔王倒せたのに。


「そ。じゃあ悪いけど、倒させてもらうわ。いつでも逃げていいからね」

「勇気をもって挑む相手に撤退はしない。それが王の矜持だ」

「確かにボスキャラが逃げるって普通ないもんね」


 そんな会話を交わし、アタシと魔王は交戦状態に入る。こういうキャラは嫌いじゃないけど、かといって手加減はしないわよ。

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