22:メスガキはボス戦を考える
「この世界を根底から破壊するつもりでち」
「せかいをはかい?」
かみちゃまがいきなりわけわかんないことを言い出したので、アタシはおうむ返しにしか言葉を言えなかった。何よ、それ。
「この世界と言うのは<ミルガトース>を含めたお母さまが作った世界でち。あ、そちらの世界は無関係でちゅから」
「逆にこっちの世界まで影響あるとかだったらさすがに焦るけど……あまり焦らないかも」
「それはひととしてどーなんでちか?」
言ってから別に元の世界にはあまり執着ない自分に気づく。戻らないといけない理由はないけど、かといって壊れていいかと言われると……うーん、って感じ? っていうか、
「正直ピンとこないわよ。世界を根底から破壊? 洪水起こすとか隕石が落ちてくるとか病気が萬栄して全部の生物が死ぬとかそんな感じなの?」
世界を破壊する、なんてのが想像できない。ラノベに出る悪役とかが『世界に破滅を!』とか言う輩の破壊方法を言ってみるけど、それはそれで死なない人間はいるんじゃない、って思ってたりする。シェルター用意してたり、運よく生き延びたり。
「そうでちね、大雑把でちが……。将棋とかチェスとかそういうものを想像してほしいでち。駒はその世界に生きている人で、盤面は住んでいる大地とかそいう言う感じで。
それを、こう、するんでち」
かみちゃまはちっちゃな手を動かして、何かをひっくり返すようなジェスチャーをした。おそらく盤面をひっくり返したんだろう。……ええ?
「何よそれ」
「雑な説明でちが、この<ミルガトース>を含んだ世界をゲームとして見れるという事は、こういう発想もできるという事でち。もちろん物理的ではなく概念的にという意味でち。世界の終わりをゲームを終わらせるように想像できる。そのイメージの有無でち。
お母さまと同じ場所に行って、正しく世界の終わりをイメージできればそう言うことも可能と言うことでち」
「ゲームとして……世界を終わらせる?」
わけわかんない、と言いかけてどこか納得できる部分もある。
家庭用ゲームならリセットボタンを押せばいいだろうし、MMOでもサービス終了っていう終わりがある。それはある意味世界の終わりなのではないだろうか? ゲーム世界の終わり。それをイメージできるかと言われれば、できる。
「話を聞くに、貴方はそのゲーム思考で短期間で成長を遂げ、悪魔のステータス変更の影響を免れてまちゅ。
お母さまが生み出した技法から逃れられるという時点で、この世界にとって革命的な存在なんでち」
「えー。アタシがチートで特別で主人公だって? そんなの当然じゃない」
「毒物的な意味での
「誰が毒舌だっていうのよ」
「言ってないでち。自覚あるんでちか?」
ないわよ。アタシはカワイイ良い子なの。可愛いから何言っても許されるんだから。……と言おうとしてやめた。聖女ちゃんがいないから言っても面白くないし。
「ともかく、誰かが情報横流ししてそういうことを考えてるっていう事ね。
でも知ったこっちゃないわよ。アタシはこの世界がどうなろうが関係ないわ。壊すにしても、存分に楽しんでからにするし」
「できれば壊さないでほしいでち。少なくともステータスを通して洗脳されているという事はなさそうでちから安心ちてまちゅけど。
――と、『三神の宝珠』できたでち」
なんかくだらない話をしている間にかみちゃまの周りをまわっていた三つのアイテムは融合し、5センチぐらいの半透明な丸い球になる。これが<魔王結界>を破壊できる『三神の宝珠』だ。
「うっし。これで魔王に戦いに挑めるわ。あとはレアアイテム狩りよ。一日一個で三日で終わらせる!
……あ。もしかしてかみちゃまの力でレアアイテムも手に入れることとかできる?」
「無理でち。モンスターは悪魔側の管轄でちから」
「ちっ。となると悪魔に魂を売るしかないわね」
「本末転倒でち」
割と本気の舌打ちと提案にツッコミをいれるかみちゃま。
「大体<ケイオス>相手にどうやって戦うつもりでちか? お母さまの名前を冠するだけあってかなりの強さでちゅよ。
知っているかもちれまちぇんが、あの魔法使い姿は仮初で本性はドラゴンなんでち。魔法の対策だけではなく竜の爪や硬い鱗、そして七種類の吐息への対策がいりまちゅ。アイテム三つでどうにかなるとは思えまちぇん」
呆れたように問いかけるかみちゃま。
魔王<ケイオス>は二段階変形のボスだ。最初は黒ローブの人間状態。この時は魔法戦が主になる。魔法戦と言っても動きも素早く画面の端から端まで残像を残して移動したり、取り巻きのデーモンを召喚したり。回復役の僧侶キャラを後衛においても、一瞬で距離を詰められて終わるパターンが多い。
そして第二形態のドラゴン状態。全属性に耐性がある硬い鱗に加えて、無属性の鋭い爪はシンプルに攻撃力が高い。翼を駆使した移動攻撃【ドラゴントランプル】は戦況をあっさり覆す。加えて【
加えて、あのアンジェラとか言う悪魔がいろいろ改造しているのだ。なんだっけ……? だーくすぱいらる? よくわかんない魔法が追加されている。名前はともかく、威力は無視できない。
っていうか<魔王結界>壊すアイテムがないのに魔王をぶつけたり、【早着替え】&【カワイイは正義!】コンボを崩すために無属性魔法使ったり。あの悪魔は明らかにアタシを倒すためにメタってた。ゲーム知識でメタって倒すとか、卑怯よ。アタシがやるのはいいけど、他人にやられるとムカつくわ!
ともあれ魔王は<フルムーンケイオス>でも難敵の部類に入るわ。レベル99パーティでも準備を怠れば第二形態で押し切られる。ステータスの数字の暴力で押し切るボスなので、デーモン族を弱体化させる【聖母の歌】がないと勝負にすらならない。
でもそれは普通の戦い方だ。遊び人には遊び人の戦法があるわ。
「どうにかなるのよ。正直、魔王はどうでもいいの。あのイタいネーミングロリ悪魔も知らないわ」
そうだ。アタシにとっては魔王はついで。目的はかみちゃまと融合しているあの子だ。
「本当にアンタの分身との融合は解除できるんでしょうね?」
「わかりまちぇん。あたちが直接行って、解除する。できるとしたらこの方法しかないでち。しかも人間側がそれを望まないなら失敗ちまちゅ」
「魔王を倒したらあの子が神とかにこだわり理由はないわ。だから魔王倒して、もうそんなことしなくていいって言っておしまい」
言いながら、そう簡単にはいかないだろうことは理解していた。
『それが私にできる罪滅ぼしですから』
聖女ちゃんは、人を殺した。
<魅了>されて抵抗できなかったとはいえ、あの子はそこから目をそらさない。背負って苦しもうとしている。ゲーム世界の住人だからとか、そんな誤魔化しも何もかもしない。
罪を償う為なら、何でもするだろう。幸運なことに、あの子を責め立てる人はいなかった。皆が『仕方なかった』と認めている。でも、あの子だけが自分を許せない。無かったことにはしない。
「……あの子、頑固だからなぁ」
それはこの旅の中でイヤになるぐらいに知ってることだ。そしてアタシはその頑固さに何度も折れてきた。その度に頭を回してやらなくていい回り道をしてきた。あの子がいなかったら、今頃魔王倒してたかも?
だけど今回だけは、その頑固に折れてやるつもりはない。
あの子がどんだけワガママ言っても知ったことじゃないわ。アタシにだって引けないことはあるんだから。
「気合い入れないとね」
何を言うべきかなんていまだにわからないけど、それでもここで止まってやるつもりなんてないんだからね。
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