21:メスガキはかみちゃまに世界の話を聞く

 魔王<ケイオス>を守る<魔王結界>。


 このクソダサでひねりもない上に『あらゆるダメージを0にする』とか言う頭の悪い効果を解除するには、とあるアイテムが必要になるわ。


『赤き石』『青の聖杯』『黄色の天秤』


 これら三つを集めて交換するアイテム『三神の宝珠』を使えば<魔王結界>を解除できるわ。


「てなわけで最後の『青の聖杯』ゲットよ!」


 ある場所もわかっているし守ってる敵も知ってる。なんでサクサク言ってバトって全部ゲットしたわ。


「……はふ、さすがにハード、でし、た……」

「遊び人トーカ……できれば、休憩を……睡眠を……」


 そういうのは地面に這いつくばってるおねーさんと、剣を杖にして息絶え絶えにしている天騎士おにーさん。


「なによ。三日寝てないぐらいで根をあげるとか情けなくない?」

「幼女の罵り……ゲット……。いえ、徹夜は慣れてますけど、ここまで走り回るのは……」

「普通は、無理……だ……」


 ため息つくアタシにもう限界とばかりに手を振る二人。


 おねーさんには余裕あらば隠れ蓑を作ってもらい、モンスターエンカウントをほぼゼロにしてもらった。三人分……かみちゃまを入れれば四人分だから負担も四倍? 当然ミラースカーフ常時装備でアタシの【まねっこ】でコピらせてもらったわ。属性持ちボスもいたからいろいろ服を作ってもらったりしたし。


 天騎士おにーさんは【天使の翼】での移動要員。登録した町に一緒にひとっ飛びしてもらったり、崖とか高所移動の際に抱えてもらったわ。その際に赤面してたけど、風邪? あとは純粋に前衛職としての火力。雷と聖の二属性持ちなので、その二つに耐性を持つボス以外はダメージは通るし。


<ミルガトース>の北の端から西の果てまでを行ったり来たり。おにーさんの【天使の翼】で最寄りの街に移動して、そっからは高くて速い乗り物を借りてダンジョンにGO。ダンジョン内は隠れ蓑と悪魔のカードを使ってモンスターガン無視してアイテムゲット。帰りも当然強行軍。


 そんなスケジュールで一日で一個アイテムをゲットするペース。あとは『三神の宝珠』を交換した後に対魔王戦のレアアイテム狩り。これも徹夜して一日一個ペースで三つほど手に入れないといけないのに。


「もー、しょうがないわね。交換に行ってくるから二人は休んでて」

「はふぅ、そうさせてもらいます……」

「口惜しいが、MPも気力も限界……だ……」


 あの暴走ロリコンおねーさんや無駄熱血おにーさんがあそこまで大人しくなるなんて。……まあその、ちょっっっっっとこき使ったかなぁ、っていう気はしないでもない。でもまだまだいけるかなぁ、って感じで気にしなかったら急にぶっ倒れた。うん、まあ、そういう事もあるわよね。


「言ってもアイテム交換できる『三神の祠』はおにーさんの【天使の翼】がないと遠いのよね。すぐにたたき起こして移動させないと」

「鬼でちか、貴方は」


 アタシの言葉にかみちゃまが呆れたように言う。おねーさんに抱えられてないときは、ふわふわと宙に浮いている。今もそんな状態だ。


「鬼って失礼ね、この可愛いアタシに対して。使えるものは叩いて絞って最後まで使うのが効率的なのよ。休んだら体力全快するんだから」

「作業の効率化は人の良心を損なう物なんでちね。二人はいい加減限界なんでちから、寝かちぇてあげなちゃい。

『三神の宝珠』ならいまここであたちが生成するでち」

「へ?」

「わざわざあたち達三神の力が通じやすい祠に行かなくても、神自身がここにいるでち。なんであの二人は寝かせてやるでち」


 言うと同時にアタシの<収容魔法>内から『赤き石』『青の聖杯』『黄色の天秤』の三つが取り出されて、誰も持っていないのに宙に浮いていた。


「おおー。かみちゃまが役立ってるの初めて見た」

「言葉に棘があるでちね。あたちらの事が嫌いなんでちか?」

「こんぐらいフツーよ。まあ、アンタらにはいろいろ言いたいことがあるのは確かだけど」


 腕を組んで目の前にいる神を見る。言ってから、確かに聞きたいことが沢山あることに気づく。別に忘れてたわけじゃなく、あの子がいなくなって心の余裕がなくなってただけだ。今は、取り戻せる算段があるから若干余裕がある。


「<フルムーンケイオス>……アンタらを作ったお母さま? って何者よ?」

「ざっくりとした質問でちね。神や悪魔やこの<ミルガトース>の人類以外を作った存在でち」

「質問そのまんまじゃないの。そうじゃなくて<フルムーンケイオス>……ややこしいわね。なんでそのお母さまはアタシの世界にあるゲームを模した世界を作ったのよ」

「推測交じりなんでちが」


 そう前置きして、かみちゃまは説明を続ける。


「あたしはお母様やこの世界を模して、そのゲーム? が作られたんだと思うでち」

「……は?」

「そもそもこの世界ができたのはそちらの時間表記で2万年ほど前でち。人類の街とかが発展ちたのはここ1000年ぐらいなんでちが、そのゲームとかができたのはそれより昔なんでちか?」


<フルムーンケイオス>がリリースされたのは……正確な数字は覚えてないけど確かこの前3周年フェアがあったからそれぐらいだと思う。


 2万年ぐらい前に大陸が作られ、ここ1000年で人が街を作り出した世界。3年前に作られたゲーム。どっちがパクリかと言われれば……ゲームの方?


「いやいや待って。確かに時系列はそうかもしんないけど。でもこの世界……ゲームの方? とにかく割とアタシらの世界から文化パクッてるわよ。ヤーシャは中国だし、アウタナとかもそうだし。武器だってマニアックな奴ばっかだし。モンスターだって他のゲームに出てるもんばっかよ」


 どっちがオリジナルか、とかは正直どうでもいいんだけど。それでもアタシらはやっぱり自分の世界基準で考えてしまう。でもこっちの世界で作ったゲームのモンスターとかとほぼ同じなのは意図的なものを感じるわ。


「この世界と貴方達の世界とは次元的な繋がりがあるでち。貴方達の言葉では並行世界とか言うみたいでちゅね。あたちら神はそのつながりを通して貴方達英雄を召喚するでちよ。

 世界の繋がる経路を通して、互いの世界の映像や音やにおいなどのイメージが流れ込んでるんでち。『ひらめき』『アイデアが下りてくる』『天才的なアイデア』『変な夢見』……そう言ったモノの正体はそういうものなんだと思いまちゅ」


 ふと奇妙なアイデアが思い浮かんだり想像もしない夢を見るのは、異世界からつながったシンパシーが原因なのだ。このかみちゃまはそう言っているのだ。


「なによそれ。異世界文化が現実と似通ってる言い訳設定? SNSでよく燃えるからってお疲れ様ね」

「何を言ってるのかよくわかんないでちけど、この世界とそっちの世界のゲームが似てるのはそんな理由だと思うでち。繰り返しまちゅけど、どっちが原点オリジナルかはわかりまちぇん。

 でも、ここまで似ているのはさすがに異常なんでちゅ。誰かが意図的に情報を流しているとしか思えまちぇん」


 構図や色合いみたいなのが似てたりするならあるかもしれないけど、丸パクリされるのはさすがに人為的なものを感じる。それはあたしも同感だ。


「誰かって誰よ?」

「分かりまちぇん。でも世界そのものの構造を知っているのは神か悪魔、後お母さまぐらいでち。そもそも<フルムーンケイオス>なんて名前を知っているのは、お母さまの6子以外にいまちぇん。……魂だけの状態でお母様と接触した貴方みたいな特殊な例外はありまちゅが。

 その中の誰かが意図して情報を流ちて――」


 正直、自分から質問しといて全然関係ない話になったなぁ、と興味が失せていた。なんでこの後のかみちゃまの言葉は全く予想できなかった。


「この世界を根底から破壊するつもりでち」


 ……はい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る