20:メスガキは気合を入れる
「原則的に、神格化の解除は不可能でち」
赤ちゃんかみちゃまの言葉に、アタシは凍り付いた。その反応を見たのか見ていないのか、淡々と説明は続けられる。
「あたちたち神は人類を守るために様々な手法をこらちまちた。
文字や文化などの教育。生きるためのサバイバル技術。貨幣制度などの社会構造。ステータスの情報。英雄召喚術。そして神格化でち。
悪魔の侵攻が予測できていたので、これらは悪魔にも邪魔ちゃれないようにおかあちゃま――あなたたちが<
……要は、悪魔の介入を避けるためにメチャクチャ強固にしたから神でもどうにもできないという事だ。
「待ってよ。あの巨乳悪魔の融合は倒したら解除できたじゃない。ここのおにーさんだってそうだったし」
「きょにゅー……多分リーンの事でちゅね。リーンは契約系の技術が洗礼されてまちゅ。契約した人間を酷使して、契約終了後もしくは人間側を使い潰した後で魔物を回収して再利用するためでちゅね」
暗黒騎士やナタの時は倒したら元の人間に戻ったが、それはあの巨乳悪魔のみ。そういえば5流悪魔の時は倒したらそのまま死んでいった。
神格化した聖女ちゃんを戻すことは、もうできない。
「な、何とかしなさいよ! そうだ! 魔王が死霊なんとかで魂と肉体とを分離するとか言ってたじゃない。そんな感じであの子だけを引っぺがすとか!」
「無理でち。神格化は人間と神の融合。その宣言が為されたら、もう分離はできまちぇん。
ミックスジュースをオレンジジュースとパインジュースに分けることはできないんでち」
「…………!」
多分アタシにわかりやすく説明したんだろう。しっくりくる例えだった。
結局、何もできないってことが証明されただけだ。その可能性もあるかもと思っていたけど、あえて無視していた可能性。
「待った、生命の母シュトレイン。原則的と言ったな。という事は例外もあるということか?」
言葉を失ったアタシの横から、天騎士おにーさんが問いかける。
「そうでちね。神格化は解除不可。それは同じ階梯の力を持った悪魔や神であっても同じこと。鍵穴の違うドアを開けるようなものでち。
でも全く同じ神なら話は異なりまちゅ」
おにーさんの言葉に、かみちゃまは説明を続けた。
「全く同じ神の力で融合を解除し、融合している人間が融合を拒否すれば神格化の解除は可能でち。本来あり得ない状況でちが、二分割ちゃれたあたちの現状なら理論上は可能でち」
……理論上、可能。
「なによそれ。そういうのがあるなだとっとと言いなさいよ」
「あくまで理論上でち。さっきのたとえで言うならミックスジュースの中にあるオレンジジュースとパインジュースにパインジュースの言葉で語りかけて説得するようなものでちよ」
「何よジュースの言葉って」
「あくまで例えでち。とにかくそれぐらい常識外だってことでち」
言葉のニュアンスから、かみちゃま自身もできるかどうかわからないようだ。
でも可能性はある。少なくともできないとばっさり切って捨てられたわけじゃない。そう思うと、ちょっと元気が出てきた。元気が出ると、口も回る。
「まあそりゃ? 二分割されて赤ちゃんになるなんて間抜けは普通ないもんねー。そのドジのせいでこんなことに巻き込まれたんだから、責任ぐらいはとってもらわないと割に合わないわ」
「話を聞くに、アンジェラに襲撃ちゃれたのはそちら側の都合のような気がちまちゅけど」
「そんなことはどーでもいいのよ」
悪魔に狙われた原因とか、そんなのは今はどうでもいい。アタシが悪魔を怒らせたからだという気もするけど、些末些末。
「具体的にはどうしたらいいの? アンタを神格化したあの子にぶつければいいとか? それともアンタを生贄にして分離するアイテムを作るとか?」
「神を何だと思ってるんでちか? 心情を察して敬意を抱けとまでは言いまちぇんが、物扱いするのは人として問題あると思うんでちよ?」
「女神は雑に扱っていいって、ラノベにも書いてるのよ」
「異世界の文化は恐ろしいでちね」
言ってその話題の追及を止めるかみちゃま。どうやら納得(?)してくれたようだ。いろいろぶつぶつ言っているけど、きっと納得してる。神様は懐広いもんね、うん。
「神格化した子の近くに連れて行ってほしいでち。あたちとの分離はそれで行いまちゅ。でも融合解除に集中するんで、一緒にいるだろうアンジェラと魔王<ケイオス>の対応、そちて融合している子の説得はできまちぇん」
「……そんだけ?」
「あい。でもアンジェラはステータスの微調整に長けていまちゅ。それにより強化された魔王<ケイオス>は簡単には倒せないでちよ。
それにその子も神格化を受け入れたのは確固たる意志がる筈でち。問いに対して肯定する程度では神格化はなされまちぇん。自らが変わると知りながらそれでもやらないといけない理由があるはずでち」
聖女ちゃんの意志。
『皆さんは、私が守りますから』
『絶対に、守りますから』
『それが私にできる罪滅ぼしですから』
アタシ達を魔王<ケイオス>と中二ロリ悪魔から逃がすために。
自分の罪を償うために。
前者はともかく、後者はあの子の心のキズだ。知っていたけど触らなかったキズ。触れなかったキズ。目を背けてきたキズ。触れたら、壊れそうだから。それが怖くて放置していたキズ。
「……わかってるわよ。あの子頑固だもん」
アタシはそう言って頭を掻いた。別に頭がかゆかったわけじゃない。言うべきことがまとまらず、イライラしただけだ。言わないといけない事なんて、わかってるくせに。
「まあ、方法はわかったわ。
問題はどうやってこのかみちゃまをアタシ達と一緒にあそこまで連れていくかね」
「聖域に蓄積された力を解放すればあの位置まで移動することはできるでち。でもここは二分割されてるから、パワーも少なめなんで一度行って帰ってくるだけでお
「チャンスは一度だけで時間制限付きってこと? 十分よ」
そんぐらいのハンデはあってもいいわね。ま、アタシからすればちっちゃなことよ。
「あの……魔王<ケイオス>を倒さないといけないという事をお忘れ……ではないと思うのですが、それはどうするのですか?」
「それに悪魔アンジェラだ。どちらも前の戦いでは手も足も出なかった。あの壮絶なネーミングセンスと言い、勝てる見込みがないように見えるのだが」
おずおずと挙手するおねーさん。そして頷く天騎士おにーさん。
「勝てる勝てる。アタシに任せて。
確かに魔王<ケイオス>にはボッコボコにされてても足も出なかったけど、それは準備不足っていうか不意打ちだったからよ。<魔王結界>解除アイテムや諸々の準備、それさえ完璧なら勝てる相手なのは間違いないわ。
あの悪魔に関しては……まあ悪魔は人間に手出しできないし、魔物改造に特化したタイプっぽいからね。魔王<ケイオス>を倒せば『おのれ、覚えておるのじゃぞー!』とか捨て台詞はいて帰っていくに違いないわ」
「確かに不憫可哀そうなロリっ子も悪くはありませんね」
「いいや、あのセンスを持つ悪魔なら退却のセリフもそんなのではないはずだ! 『波が引き、そして寄せるが如く。この撤退も時の流れの一部にすぎぬとしれ』とかかっこよく言ってくれるに違いない!」
アタシの説明に、なんかあまり関係ない感想を抱くおねーさんと無駄に熱血するおにーさん。……まあ、おにーさんのセンスがかっこいいかどうかはわかんないけど。
「ともあれ方針は決まったわ。魔王<ケイオス>対策をばっちり仕込んでからここに戻ってあの子のところに向かう。
んでもって魔王倒して悪魔泣かしてあの子を連れ戻すわ!」
「あたちら神と悪魔の因縁や人類を滅ぼすために生まれた魔王をついで扱いするのは如何なものかと思うでち」
気合を入れたアタシに、ツッコミを入れてくるかみちゃま。
うるさいわね。アタシからしたら、そんなのはどうでもいいのよ。
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