19:メスガキは開幕3行で赤悪魔を倒す
「人間如キガ、このベドゴサリアに挑モウナド片腹痛――」
「うっさい。アンタに用はないのよ」
「グハァアアアアア!? バカ、ナアアアアアア!」
宿屋でウダウダしていた後、アタシはデーモン狩をしている天騎士おにーさんとおねーさんを引っ張って『時計大橋跡』の赤悪魔の塔に突撃した。そんでもって一気に屋上まで言って赤悪魔と対決。撃破したところよ。
おねーさんがもつミラースカーフを物理反射にすれば赤悪魔の攻撃はオールカット。聖属性攻撃のアタッカーである天騎士おにーさんと聖属性をコピーできるアタシがいればはっきり言ってよゆー。回復がアタシの【ピクニック】&【究極至高の味】だけになるけど、どうにかなる。
「もう、甘いものは……しかし、遊び人トーカの差し入れなら……」
「幼女にお菓子を差し出されるとか羨ましいぃぃぃぃぃぃ! ああ、物理反射でなければ! ダメージ受けると死んじゃうこの弱さが憎い!」
道中、天騎士おにーさんとおねーさんがいろいろ嘆いていたけど、無視。アタシも『悪魔のカード』&【精吸収】のコンボでいろいろやり過ごしながらMP確保し、兎にも角にも最上階にいる赤悪魔をはっ倒したのだ。
「ベドゴサリア……貴様もまた、強者だった! 魔王に狂わされていなければ、もっといい勝負ができただろう。その血肉と技を受けつぎ、俺は未来へと進む!」
「はいはい。勝手にやってて。ドロップドロップ!」
倒れ伏す赤悪魔に涙するおにーさんは無視して、アタシはドロップ品を探る。そこそこいいレアアイテム引けたけど、今はそれはどうでもいいわ。一番重要なのは、
「ばぶー。あたち、かみちゃまでちー」
アタシの胸元に現れる赤ちゃん。青悪魔のところでも同じことが来たんだから、こっちでも起きて当然よね。
「とまどっているようでちゅので説明をちまちゅけど、あたちは――」
「神様のシュトなんとかでアウタナに行こうとしてこの塔に来て、二分割されたんでしょ。んなことはどうでもいいのよ」
「生命の……あ、あれぇ? なんでしってるでちか?」
いろいろ説明しようとするかみちゃまの話をスキップする。ムービーモードはキャンセルできるなら速攻キャンセルよ。
「アンタの片割れが融合した子を取り返したいから力を貸しなさい。っていうか責任取れ! ついでに中二病の悪魔をはっ倒して魔王もぶった押して!」
「なんのことでち?」
「いろいろありまして。ワタクシが説明します」
アタシから赤ちゃんを取り上げて、これまでの事情を説明するおねーさん。あー、もう。もたもたしてらんないのに。
「落ち着け、遊び人トーカ」
イライラ足踏みするアタシに声をかけるのは天騎士おにーさんだ。
「何よ。アタシは落ち着いてるわよ。落ち着いているから作業を効率的にこなそうと頭が回るのよ。ここでちんたら足踏みしてる時間があったらざこデーモン相手に経験点稼いだ方がいいって考えてるだけなんだから。
MP全部吸い取られて物理攻撃反射されて何もできないデーモンに『何もできない負け犬おつー。アタシの事懲らしめるんじゃなかったの? どうやって懲らしめるの? こわーい』とか言いたいなーとか考えてるだけだから」
「お、おう……。そうか」
アタシの言葉に、若干ドン引きする天騎士おにーさん。なんだか脂汗っぽいものを流しているけど、アタシなんか変な事言ったっけ?
「いや、落ち着いているようには見えない。キミは聖女コトネがいなくなってから、情緒が安定していなかった」
「……ちょっと泣いただけじゃない。今は大丈夫よ」
アタシが泣いたのは、おにーさんも見ている。いろいろ情けないところ見られたけど、今はもう大丈夫。なんでちょっぱやで聖女ちゃんのところ言って、頭殴って連れ戻さないと。
「今は落ち込んではいないが、逸りすぎだ。キミは奇策を弄するように見えて、綿密な作戦と入念な準備を元に行動する思慮深い子だ。
その最大の武器を、今君は見失いかけている」
…………む。
「へえ。以外ね。おにーさんからすればアタシはレベルに合わない場所でレベルアップする運だけの遊び人なんじゃないの?」
「そういうふうに見ていた時期があるのは否定しない。それは深く謝罪する」
アタシの皮肉に、おにーさんは熱血で勢いだけのおにーさんとは思えないぐらいの声で頭を下げた。
「一度相対すれば、その人間の事は理解できる。……暗黒騎士になって一度どころじゃない数だけ戦ったが」
「二万回だもんね。ほとんどアタシがカード投げて終わっただけだけど」
「話を戻そう。大事な人を助けたくて焦る気持ちは理解できるが、いつもの落ち着きを忘れないでほしい。聖女コトネもそんな君を見たくないはずだ」
おにーさんの真摯な言葉。一瞬だけ『じゃあどんなアタシが見たいのかなぁ? こういうのー? おにーさんえろーい』とか茶化してやろうと思ったけど、空気読んでやめた。アタシ偉い。……おにーさん、マジ顔過ぎるし。
「わかったわよ。安心しなさい、アタシはクールだから」
「それでこそいつもの遊び人トーカ。剣を捧げるに値する乙女だ」
「遊び人は剣なんかもらっても使えないわよ。もらっても嬉しくないわ」
「無論だ。だから代わりに俺が貴方の代わりに剣を振るう」
おにーさんは自分の胸に手を当て、そう宣言する。前にも別れ際に言ってたわね、こういうの。騎士として、剣を捧げるとか。
「いいんじゃない? 少なくともデーモンとか魔王とかには効果あるし」
その辺はよくわからないけど、データ的に聖属性攻撃は有利なんだから力を貸してくれる分にはラッキーね。アタシは手を振ってそう言った。
「……まあ、拒否はされていないのだからヨシ!」
「罪づくりな幼女ですねぇ……そこにしびれるんですけど!」
そんな軽い気持ちで頷いたんだけど、おにーさんとおねーさんはなぜか強く反応する。なんか変な事言った?
「事態は理解したでち」
おねーさんに抱えられているかみちゃまはそう言って頷いた。おねーさんが事情を説明し終わったようだ。実際には首が座ってないから首は動かせないんで、雰囲気的に納得したって空気を読み取ったんだけど。
「その子は半分だけのあたちと神格化したみたいでちね」
「神格化……。アウタナの頂上でも似たようなこと聞いたけど、要するに悪魔が使うモンスターと人間を融合させるってやつよね。
人の弱みに付け込んで契約させて悪堕ちさせて、いいように扱った後でポイ捨てするってカンジの」
「なんなんでちか? この口の悪いお子ちゃまは」
「いろいろあるんです。ご容赦ください」
アタシの意見に眉を顰める赤ちゃん。それをなだめるおねーさん。なによう、思ったことを素直に言っただけじゃん。
「赤ちゃんにお子ちゃま扱いされてもねー」
「100年も生きていない外の人間に言われる筋合いはないでち。……筋合いはあるでちね。この格好でちゅから」
どう見ても赤ちゃんにしか見えないかみちゃまは、自分で言ってから、そう言いなおした。うんうん、見た目大事。
「アタシが聞きたいことは1つよ。その神格化ってのを解除する手段。あの子と半分かみちゃまを分離する方法よ。
あ、ついでにあの空に行く方法とかその辺も教えてほしいわね。あとかみちゃまにしか知らないレアアイテムとかアビリティとかあったらそれも教えて。ついでにラノベみたいにチート能力とかあるんならちょうだい」
「1つじゃないでち」
「細かいことは気にしたら負けよ」
「細かくないでちけど」
いろいろ文句を言いたそうだけど、それを飲み込んでかみちゃまは言葉を紡いだ。
「原則的に、神格化の解除は不可能でち」
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