12:メスガキは不意打ちから立て直す
「基本方針は変わんないわ。アタシがザコデーモン退治。おにーさん達が赤悪魔!」
赤悪魔ことレッドバロン戦の作戦は、『ミラースカーフ』を持つおねーさんが赤悪魔に近づき盾になり、天騎士おにーさんが攻撃。物理攻撃がメイン……っていうかそれしかできない赤悪魔はおねーさんを攻撃すれば反射でダメージが入る。防御無視の投げ攻撃も反射されるのだから、手も足も出ないだろう。こっちも攻撃できないけど。
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名前:レッドバロン
種族:悪魔(ボス属性)
Lv:121
HP:2018
解説:赤い肌を持つ悪魔。爵位は男爵。武術に長ける魔将軍。
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青悪魔と対になる赤悪魔。肉体派だけあってHPは若干高め。こいつも『聖魔の守り』を持っているのか、聖属性攻撃に耐性がある。『聖魔の守り』を盗んで聖攻撃で攻めないと、まともにダメージは通らないだろう。
そして戦場も不利ね。階段の踊り場は広くない。位置取りを誤ればアタシも聖女ちゃんも赤悪魔の攻撃範囲内だ。加えて言えば、ざこデーモンも階段で壁になって戦闘に参加する。
「アンタは【驚くべき恵み】よ。デーモン達にもかかるけど、気にせずやっちゃって」
【驚くべき恵み】に限らず、【聖歌】の欠点は敵味方関係なく効果を受けることだ。アンデッドのように回復でダメージを与えるとかじゃない限りは使いにくく、聖女唯一の死にスキルとまで言われてる。
でも、そんなのはアタシに言わせれば甘い話。その前提で作戦を組めばいいだけだ。デーモンのHPが増えてバステが効かなくなる。その上で戦えばいい。要はこっちのペースを維持できればいいのよ。
「我が名は天騎士ルーク! 勇猛果敢なるベドゴサリア、青のドグナデヴィアを討ちしは我ぞ! 汝を討ち、時計塔を制覇するためにいざ挑まん!」
名乗りを上げて天雷剣を構える天騎士おにーさん。毎度思うけどそれ、必要? いや、そういうキャラづけを否定はしないけど。
「ウッセエエエエエエエ!」
「うわああああああああ!」
名乗ってる間に殴りかかってくる赤い悪魔。その拳の連打に吹き飛ぶおにーさん。なぜか真上に吹き飛んで、頭から地面に叩きつけられた。うーん、先行き不安。
「ひぃえ! は、反射するって知ってますけど、怖いですぅ……!」
広範囲に放たれる【ハンドレッドブロウ】。その攻撃範囲内にいたおねーさんは震えながら言葉を返す。ミラースカーフは物理攻撃反射に設定しているわ。なのでレッドバロンの攻撃は通じない。ある程度は反射するが、それで倒れるほど相手も弱くもない。
「反射トカ反則ダロウガアアアア!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! なんで攻撃しないでくださーい!」
「アノ女ニ、魔法集中シロオオオ!」
赤悪魔が叫ぶと同時に、デーモン達が呪文を唱える。相手が物理攻撃反射を持つから魔法で仕留める。当然の作戦。【驚くべき恵み】の効果範囲内なので【光の演出】によるヘイト誘導も使えない。ヘイト集中は、バステ扱いなのよね。
「させません!」
「あ、ありがとうございますぅ! 幼女に守られる……。ああ、極楽……」
「あの、死なないでくださいね」
聖歌を止めて移動し、その射線上に割って入る聖女ちゃん。それでも階段の上下から放たれる全部の魔法を止めるには至らない。何発かは、自力で避けるか受けるかしてもらうしかない。
回避力を高める『みかわしローブ』と、【フェザーステップ】の合わせ技。後はおねーさん次第。ここは避けれない危険なギャンブル。ここでおねーさんが倒れたら敗北確定。打てる対策は全部打った。大丈夫だと思いながら、やっぱり怖い。もしおねーさんが倒れて死んだりしたら――
「きゃああああ!」
「……っ!? おねーさん!」
聞こえてくるおねーさんの悲鳴。息をのみ、そちらを見る。やっぱりギャンブル過ぎた。おねーさんは納得してくれたけど、危険な目に合わせたのはアタシの作戦だ。ばか、あたしのばか、やっぱりやるんじゃ――
「魔法の爆風を受ける凛々しいコトネさん! 戦う幼女もまた映える! でも傷つくのは困るものっ! なんてことなんでしょうか!?」
「だ、大丈夫です、トーカさん! 少し喰らいましたけど、ソレイユさんは生きてます!」
「しょーもないことで変な悲鳴上げてるんじゃないわよこの
アタシの叫びに笑みを浮かべてピースサインをするおねーさん。多少魔法を食らっているようだけど、元気そうだ。聖女ちゃんの聖歌と【守護天使】の癒しで十分立て直せるだろう。
……アタシを心配させないように無理してるんだろうけど、下手な演技と余計なお世話だってーの。ばーか。そんなことされたら、こっから失敗できないじゃないの。
「エエイ、攻撃続ケロ! 私ニ構ウナ! 私ハこの騎士ヲ葬ル!」
「いいだろう。命を賭してくるがいい! 聖なる雷剣と聖なる鎧。そして天より授かりし剣技にて、その武勇に応えよう!」
赤悪魔はデーモン達に命令を出した後に天騎士おにーさんに相対する。悪いけどしばらくはタイマンしてもらうわ。本人もノリノリだし、一応聖歌のバックアップはあるから何とかなるでしょ。
「一撃は雷霆、一撃は天撃! この剣は騎士の誓いと愛が籠められしモノ! 騎士が刻む十字架により、汝に安寧を与えん! ――【ホーリー・クロス】!」
天雷剣により放たれる【ホーリー・クロス】。聖属性撃と雷属性の二重属性攻撃。たとえ聖属性に耐性を持っていても、もう一つの属性攻撃がそれを貫く。
「ドグナデヴィアとその配下は正々堂々としていたのに……いや、ここにいるデーモン達以外はすがすがしい戦いをしていたのにっ! なぜ貴公らはこうも異なるのだっ!」
「黙レ侵略者! 貴様ラに語ル言葉ハ無イ!」
切り結びながら熱く叫ぶ天騎士おにーさん。それに返すのは、にべもない言葉。まあ確かにアタシらヒトんちに土足で張り込んでるんだけどね。
「それは否定しない。確かに我々は貴公らの敵! しかしっ、あからさまな豹変に心を痛め、そこに至る道程を心配して何が悪い! 変貌を疑問に思い、汝らを憂いることに何の不思議があるっ!」
「五月蠅イ、敵ダト知リナガラ、何故心配スルノダ!」
「敵だからこそ! 倒すべき相手だからこそ、強く思うのだっ! 油断ならぬ仲間もいれば、心通じ合う敵もいるっ! 刃と血だけで語り合うなど、悲しいだけだっ!」
暑苦しいわねぇ。どうあれデーモン側が豹変した理由は語ってくれないし、わからない。この赤悪魔自体が変わっちゃったみたいね。上が変われば部下も変わるってカンジ? どうあれ、押さえてくれるのなら問題ないわ。
「どうあれ立て直し完了ね。一気に盛り返すわ」
不意打ちを受けた時は焦ったけど、どうにか堪えた。狭いけど、想定通りの流れになったわ。
おねーさんの物理攻撃反射のおかげで、赤悪魔は広範囲の物理攻撃は仕掛けられない。なので攻撃手段はかなり絞られるわ。
直線攻撃の【キ・ブラスト】は物理反射を持つおねーさんがいい位置取りをしてくれるので、アタシや聖女ちゃんには届かない。バステ攻撃の【イアツ・アイズ】は聖女ちゃんの【驚くべき恵み】で意味をなさないわ。
でもこのままだと物量で押される。狭い足場に叩き込まれる魔法攻撃。青悪魔のように逃げ回るのは無理がある。
なんで如何にざこデーモンを倒すかがキモになる。天騎士おにーさんとおねーさんは赤悪魔の抑え。聖女ちゃんは聖歌で固定。かみちゃまあかちゃんはバリアーみたいなもの張って見てるだけなんで論外。
なんで、ざこデーモンをどうにかするのはアタシの役目。
「んじゃまあ、ちゃっちゃと倒れてもらうわよ」
「フン! 遊ビ人如キが、イイ気にナルナヨ!」
「ガキが粋ガルナヨ!」
久しぶりに遊び人だの
「今のうちに叫んどきなさい。アンタらはこれから遊び人の子供に負けるんだから」
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