11:メスガキは時計塔を突き進む
そして快進撃が始まった。
言ってもアタシが罠を見切って、ちょっと足止め食らうから進撃と言うほどじゃない。わざと罠にかかる必要もあるので、イタイしウザいしメンドウ。でもこうしないと効率よく『釣れ』ないんだから仕方ない。
どーでもいい話だけど、誰が罠にかかるかは結構もめた。
「……っていう作戦で行くから。アタシが最初に罠にかかって――」
「いかん! 幼き乙女を盾にするなど騎士として許されざる行為だ!」
「駄目ですよ、トーカさん! 危険すぎます!」
「お二人とも落ち着いて……。ですがトーカさんがその役になるのはなにか理由があるんですか?」
猛反対したのは天騎士おにーさんと聖女ちゃんだ。仲裁役でおねーさんが割って入るが、顔を見る限りはあまり賛成ってわけでもなさそうだった。
「理由っていうか、罠がどの辺にあるかとか予測つけれる?」
アタシの言葉に押し黙る皆。マップの全景が頭に入っているのはアタシだけ。そこから不意打ちポイントを割り出すわけだから、自然とその予測はアタシの仕事になる。
「いや、しかし! それは事前に教えてくれれば俺が食らう! そのための聖なる鎧で、鍛え上げた肉体だ!」
「駄目よ。おにーさんの『天雷剣』は攻撃のキモなんだから。罠が麻痺毒とかだったら肝心の打撃力がなくなるわ」
予想通り来ると思った天騎士おにーさんの意見を、あっさり却下する。HP的には確かに適任だけど、おにーさんが動けなくなったら意味がないのだ。
「同じ理由でおねーさんもダメ。『ミラースカーフ』は物理か魔法のどっちかしかはじけないんだから」
素のHPが高くないおねーさんも罠の喰らい役には向いてない。『ミラースカーフ』の反射は罠にも通じるだろうけど、魔法罠か物理罠かわからない状態で突っ込ませるのは危険すぎる。二択ギャンブルで外したら不利になるとか、あまりいい選択じゃない。
「当然あんたもダメだからね。回復役が動けなくなるとか論外だから。
てなわけで、アタシが適任なのよ」
何か言いたそうな聖女ちゃんをぴしゃりと止めて、アタシは言い放つ。囮役は状況立て直しに貢献できない者。論理的かつ最適解だ。問題はアタシのHPがあんまり高くないことだけど、罠が足止めを目的としているなら一発は耐えられる……はず。
とまあ、論理的な意見でみんな納得するかと思ったんだけど……。
「いやです」
アタシの腕をつかんで、聖女ちゃんが反対した。1ミリも納得してまいません。そんな顔だ。
「私はトーカさんを守るために強くなったんです。トーカさんを囮にして後ろにいるなんて我慢できません」
「いや待って。でもこれが最適解で」
「待ちません」
「罠がどんなのでも立て直しが簡単なのは、この構成なのよ」
「そんなのどうにかします」
いつもの頑固モード。しかも今回のはちょっぴり怒ってる。何を言っても言葉短くぶった切られる。なんなのよ、もー。
「どうにかするってどうするのよ」
「いつも通りです。トーカさんは私が守ります」
「二人一緒に罠にかかって動けなくなったらどーするのよ。罠があるってわかってるんだから、被害は最小限に抑えるのが一番でしょ」
「その被害をトーカさんだけが受けるのは納得できないんです!」
こうなったらテコでも動かないのがこの子だ。説得とか聞く耳持たない。いろいろ諦めて、ため息をついた。
「わかったわよ。罠の喰らい役はアタシとアンタ。どっちかが動けなくなったら即フォロー。二人動けなくなったら、おにーさんがフォローにはいる。これでいい?」
「はい!」
ものすごく嬉しそうな顔で頷く聖女ちゃん。
「ったく、わざわざ不利になってまで罠喰らいたいとか。そういうケでもあるの?」
「ケ?」
「何でもない。じゃあ行きましょ」
とまあ、そんなすったもんだがあったわけだけど……悔しいことにこれが功を奏した。拘束系バッドステータスにかかってもすぐに解除できるし、ダメージ系罠もすぐに回復できる。アタシもすぐ近くに聖女ちゃんがいるから【ピクニック】でお菓子食べてお互いに立て直しができるのだ。
そもそも論として、遊び人一人がこんなところにフラフラしてるという状況がおかしいのだ。アタシがデーモンの立場なら囮を疑う。少なくとも知性あるなら、考えはするだろう。そういう意味でも、二人で行くのは正解だった。
……ていうことを口にしたらいろいろ負けそうだから、何も言わない。横を見たら聖女ちゃんと目が合った。嬉しいんだか楽しいんだか分らないけど、アタシを見て微笑む。何とも言えない気分になって、目をそらした。
「どうしたんですか、トーカさん?」
「何でもないわよ」
「絶対なんでもあるじゃないですか。拗ねて唇尖らせて」
「何でもない何でもない何でもなーい。
あ、デーモン達もこっちの作戦に気づくころだから、パターン変えてくるかもね」
なんでか知らないけどデーモン達は血走ってるが、その判断ができないほど頭悪いわけでもない。
「ウラアアアア! 人間死ネエエ!」
「ヤッタラアアア!」
なんで罠にハメるのは諦めて、直接殴りに来るデーモンも増えてきた。或いは罠近くで襲撃し、罠の位置に誘導しようとするデーモンも。
「あは。無い知恵絞って無駄に足搔くとか、かーわいー」
でもそれも読まれているのなら意味はない。おびき出した後のパターンで撃破できる。おねーさんの『ミラースカーフ』で魔法もしくは物理攻撃を限定し、アタシが『聖魔の守り』を盗んで、その後で天騎士おにーさんと聖女ちゃんで聖属性攻撃ラッシュ。
「よわよわー。それともアタシが強すぎるだけ?」
最初はちょっとびっくりしたけど、アタシにかかれば何のことはない。デーモンはデーモンなんだし、罠もゲーム勘で乗り切れる。デーモンも一気に倒せて、レベルもがっつり上がったわ。
「はぅぅぅぅ。いい気になってるトーカさん、かっこいいですぅぅぅ」
「……褒めてるの? 貶してるの?」
「もちろん褒めてます! いい気になってるのも含めて!」
嘘偽りなく称賛してます、と言う顔でおねーさんが親指を立てる。そーなんだ。まあいいけど。
「このまま一気に進むわよ。赤悪魔のいる屋上まであと少しだから――」
「シャアアアアアアアアアア!」
上に続く階段。そこから飛び降りるように何かが降ってくる。複数の腕を持つ、赤い肌を持つデーモン。ブルーバロンと対になるボス、レッドバロン。飛び蹴りの要領でアタシ達に襲い掛かり、そのまま矢次に攻めてくる。
「ちょ、ボスがボスエリアから出てくるとか卑怯じゃない!?」
ボスは一定エリアから出ることはない。<フルムーンケイオス>だとそういうふうに設定されている。少なくとも青悪魔はアタシが知ってるボスエリアで待ち受けていた。
だから油断してた、っていうか完全に予想外だった。確かに階段の不意打ちは警戒してたけど、ボスが降ってくるとかは想定外だ。近くにいた聖女ちゃんが守ってくれたけど、完全に後手を取ってる。
「レッドバロン様ニ、ツヅケエエエエ!」
「ヤッチマエエエエエ!」
「此処デ抹殺ジャアアアアア!」
そしてぞろぞろ現れるデーモン達。明らかに待ち伏せた。階段の狭い踊り場で挟み撃ちの形になる。踊り場には赤悪魔。階段の上下を塞ぐようにデーモンが数体ずつ鎮座する。
「脳筋が考えた罠にしちゃ、上出来じゃない」
格闘中心の赤悪魔が有利な狭い環境。挟み撃ちと言うプレッシャー。少なくとも、青悪魔側を攻略したときの強さなら、打つ手なしだった。
「こんな程度、いいハンデよ。ざこがなにしたって勝てないってこと、教えてあげるわ」
当然だけど、赤悪魔対策は立てている。アタシをどうにかするには、全然足りないわよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます