10:メスガキは罠+不意打ちをやり返す

「あ、ッ……!」


 地面から突き出る鉄の杭。それがアタシと聖女ちゃんの動きを止める。数本の杭はアタシの肌を裂き、痛みで蹲る。


「トーカさん!?」


 聖女ちゃんの【守護天使】が回復術を放つ。だけどそれは悪手。相手が後手に回ったところを一気に攻めるのが戦術だ。事実、この瞬間を待ち受けていたとばかりにデーモン達が襲い掛かってくる。


「罠ニ引ッカッタゾ!」

「合図ダラッシャアアアア!」

「トドメジャゴラアアアアア!」


『聖魔の守り』を持つデーモンに聖属性攻撃はあまり効かない。アタシも聖女ちゃんも有効な攻撃はなく、後手に回ったまま一気に攻められる。ジリ貧どころじゃない。もって数秒。避けれえぬ敗北が確定していた。


 ――でもそれはアタシ達が何も知らずに罠にかかったら、と言う話だ。


「今です。行きますよ!」


『隠れ蓑』で周囲に溶け込んでいたおねーさんが動き、持っている武器を振るう。長さにすれば3mほどの長い布。おねーさんが回転すると同時にふわりと布も動く。まるで旗のように。


「ムゥ、コノ武器ハ!?」

「知ッテイルノカ、ボグドバザル!」

「アア、アレハ伝説の妖精布『ミラースカーフ』!」


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★アイテム

アイテム名:ミラースカーフ

属性:布武器

装備条件:レベル65以上。【布武器装備】習得 

<魔法攻撃反射>もしくは<物理攻撃反射>付与(どちらか片方。装備時に選択)


解説:鏡の妖精の加護を受けた旗。表と裏で跳ね返すモノが異なる。


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 武器と言うか防具に近い布武器。持ってるだけで効果を発揮するわ。攻撃力もなく攻撃自体ができない武器だけど、効果は物理か魔法のどちらかの攻撃を反射する。妖精クエストで手に入るいくつかの素材で作られるぶっ壊れ武器よ。


 装備中は自分からは攻撃行動ができないけど、テーラーであるお姉さんは攻撃力なんてないし魔法も使えないから関係ない。相手が攻撃を放ってくればそれを返す。その置物だ。これでデーモンは迂闊に魔法攻撃ができなくなる。


 でも魔法じゃなきゃ弾き返せない。そういう武器。


「ナラ直接殴レバ、イイダケダァ!」

「ッテ言ウカ、ソイツ以外を魔法デ攻撃ダァァァ!」

「燃エヤガレェ!」


 そしてある程度頭がいい奴ならおねーさんを魔法攻撃なんかしない。そして罠にかかってるアタシ達を放置はしない。デーモンの一体がおねーさんに迫って殴りかかり、二体がアタシに魔法攻撃を仕掛ける。


 聖女ちゃんは聖衣ローラと回復で耐えれるけど、戦闘職じゃないアタシとおねーさんは耐えられない。そう見越しての集中砲火。確実に仕留めに来てるわね。


「貴方が幼い子供だったらじゃれてあげてもいいのですけどね」


 そんなことを言いながら、おねーさんは踊るようにステップを踏んで攻撃を回避する。サブジョブの【ダンサー】レベル4のアビリティ【フェザーステップ】だ。使用後数秒間回避力をあげるアビリティ。装備も回避特化の服を作って着ているので、そこそこの確率で回避できる。


 んでもってアタシ。いつもの【早着替え】&【カワイイは正義!】は通用しない。ご丁寧に炎と雷の別属性で攻撃を仕掛けてきてる。アタシの持つ服でこの二つを止める服はない、だけど、


「甘いわね。全部お返しよ!」


 おねーさんを【まねっこ】して魔法防御反射をコピーする。放たれた火炎と稲妻はアタシに当たる前に跳ね返り、デーモン達を襲う。それで死にはしないだろうが、今度は逆にアタシ達がデーモンの不意を衝く形になった。


 とーぜん、このチャンスを逃すつもりはない。おねーさんの元に迫ったデーモンに天騎士おにーさんが斬りかかる。聖なる光と稲光。二重属性を持つ聖なる剣『天雷剣タケミカヅチ』だ。


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★アイテム

アイテム名:天雷剣

属性:大剣

装備条件:ジョブLv85以上

筋力:+115 <聖><雷>属性付与


解説:東方の雷神の名を冠する両手剣。天の雷を封じたとされている。


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「貴婦人に暴力を振るうとは、何たる非道! かつて貴殿らが胸に掲げていた騎士道は地に落ちたということか!? ならば引導をくれてやろう!」


『聖魔の守り』により聖属性攻撃の耐性を得ていても天雷剣は雷属性も持つ。そちらの防御を持っていないなら、ダメージは相応に通る。


「ねえオジサン、そのお守りトーカにちょーだい」


 アタシはカグヤドレスを使って『聖魔の守り』をデーモンから盗む。デーモンから献上されるお守り。当然だけど、その瞬間にそのデーモンは聖属性の守りがなくなる。


「よっしゃ一気に叩くわ!」


 そこを聖女ちゃんと、そして聖女ちゃんの聖属性を【まねっこ】したアタシが一気に叩く。こっちのペースに巻き込み、一気に相手を抑え込んだ。


 作戦を簡単に告げると『あえて罠にかかってデーモンをおびき出し、一気に叩く』ってことね。


 アタシはこの『時計大橋跡』のマップを覚えている。それを元にどこで待ち伏せれば効率がいいかのポイントを予想する。罠と、そして隠れている場所。その目測を立てる。


 そこでわざと罠にかかり、隠れているデーモンをおびき寄せる。だけどそれがこっちの狙い。おねーさんには隠れ蓑で隠れてもらい、おにーさんは通路の影で待機。アタシと聖女ちゃんで罠にかかって、出てきたところを迎撃する。


 おねーさんの役割は回避壁。これは元からそのつもりだった。バリバリ回避を高めて前に立ってもらう。物理もしくは魔法反射を【まねっこ】できるから、アタシの戦術も増えるしね。


 メインアタッカーは天騎士おにーさん。聖属性の守りがあっても天雷剣の雷属性で押し切れる。そしてアタシが『聖魔の守り』を盗んでしまえば、もうこっちの流れだ。聖女ちゃんも火力になるし、アタシも【まねっこ】を使えば十分火力源だ。


 キモは相手の不意打ちを受ける同時に展開すること。奪われたペースを取り返すことね。 

 

「はん、ざっとこんなもんね」


 ちょっと手間取ったけど、アタシにかかればこんなもんよ。


「どう? 罠にハメたと思ったら実は罠にハメられたのは自分だったって知った時は? ねえ、どんなきもちー?」

「ウグググ……!」

「敗者をあまり嬲らないでください」


 デーモンを踏んず蹴るアタシ。この悔しそうな顔が見たかったのよ。これまでのデーモンは騎士道精神とかで負けても『見事だ。汝の策に完敗だ』とか言ってすがすがしく消えていくし。


 聖女ちゃんがいろいろ言いたそうなのでこれぐらいにするけど、聞きたいことは一応ある。なんでそれを聞いてみた。


「で、何なのこの罠と不意打ちは? アンタら、昨日までは名乗りあったりしてたのに。うざいぐらいに暑苦しかったのに、どんな趣旨替えなのよ」

「卑劣ナ人間共ニ、語ル言葉ハナイ!」

「我ガ王ニ、勝利ヲ! 人間ニ、死ヲ!」


 アタシの問いかけに応えることなく、デーモン達は消えていく。これまでと同じパターンだ。セリフまで同じだから、申し合わせてるみたいね。


「ま、いいわ。こいつらが学習しようが関係ないもん。アタシの方が数段頭がいいもんね。まず負けないわ」

「確かにトーカさんの方が上手ですけど……なんでそこまで的確に相手の罠を予測できるんですか?」


 この作戦は相手の罠がある場所を事前にわかっていることが大前提だ。罠にかかり、相手の突撃にカウンターを仕掛ける。想定外の罠にかかってもたついたら、そのままやられちゃうわ。


 だけど、アタシにはどこに罠がまるわかりだ。それはマップを熟知していることが大きいわね。んでもってもう一つは、


「アタシならここに罠仕掛けるからね。っていうか、もっと凶悪な罠仕掛けてるかと思ってたわ。麻痺雷撃とか拘束触手とか猛毒槍とか爆弾とか魅了妖精粉とか」


 罠を仕掛けて一網打尽。だったら場所はここがいい。そんなのすぐに思いつくわ。


「仕掛けるにしても露骨すぎるわよ。落書きとか血痕で視線を誘導したり、移動床で相手を罠まで運んだり、罠の裏に罠を仕掛けて一つ目を回避させてその足元をすくうとか。あとは――」

「トーカさんが罠を仕掛ける側じゃなくて、良かったです」


 アタシの知恵が頼りになるとかじゃなく、どこか呆れたような口調で聖女ちゃんはため息をついた。

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