9:メスガキは足止めを食らう
「オリャアアアアア!」
「死ニ晒セェェェェ!」
「往生セイイイイイ!」
三体のデーモンが通路の角から現れるなり襲い掛かってくる。二体が殴り掛かってきて、後方から魔法を放つという連携だ。
「ちょ、待ち伏せとか酷くない!?」
しかもこっちは数秒前に発生した毒ガスで呼吸が乱れている。突然壁の穴から紫色の錐が噴出されて、激しくせき込んでいたところだ。バッドステータスの<毒>で動きが止まっているところにこの不意打ち。どう見ても待ち伏せだ。
「この程度で屈する天騎士ではないっ! この剣に誓ってこの卑劣な罠を打破してや――!」
「一旦向こうまで引くわよ。ガスの中で戦うとかやってらんないわ」
「はい、了解です!」
「…………え? 乙女を守るが騎士の務め! 今は屈辱に耐える時っ!」
危なくなったら即逃げる、これ基本。アタシの号令と共に、皆は戦線を離脱した。天騎士おにーさんがいい感じで殿になったので、被害は多くなかったわラッキー。周囲に敵がいないことを確認し、回復するアタシ達。
「何なのよ、この異常なトラップと敵配置は」
ここは『時計大橋跡』のもう片方の塔。基本的にはアタシ達が攻略した青悪魔のいた塔と変わらないはずだった。デーモンを美味しく退治しながら、赤悪魔だけはちょっと気合い入れるかと言う予定だったんだけど……。
「これまでのデーモンとは違いますね。名乗りをあげることもなく、明らかに待ち伏せしてきています」
「死角からの不意打ち。罠で足止して襲撃。地理的優位を生かしての戦い方です。
ここが彼らの陣地である以上、むしろそれが当然の戦術なんですが」
呼吸を整えながらおねーさんと聖女ちゃんが口を開く。赤悪魔がいる塔内のデーモンの動きは、まさにそんな感じだった。青悪魔の塔とは真逆と言ってもいい。
「塔に入ると同時に入り口封鎖。帰還アイテム使用禁止の魔法結界。おまけにデーモンには『聖魔の守り』? 用意周到にもほどがあるわよ」
アタシ達が塔に入ったと同時に出入り口の扉が閉まり、帰還アイテム使用不可のアナウンスが流れた。どのみち赤悪魔倒すまでは出るつもりはないからいいやと思ったら、デーモンの首に『聖魔の守り』っていうアイテムがついてたのだ。
「デーモンの分際で聖属性耐性アイテム持つとか、どーいうことよ!」
『聖魔の守り』は聖属性と闇属性に対する属性防御アイテムだ。アタシの【早着替え】+【カワイイは正義!】と同じ原理ね。属性防御100%なので、属性攻撃はほぼ効かない。
例外は聖剣もった天騎士おにーさんの聖属性攻撃だ。聖属性武器+【聖剣技】による聖属性100%超えだとダメージは通るけど、コストパフォーマンスを考えればどっこいどっこい。
一体ずつ襲ってくるのならその度に回復していけばいいんだけど、それをカバーするようにデーモン達が攻めてくる。弱点のないデーモンが戦術的に連携をとってくるのだから、はっきり言って詐欺である。
「デーモンは『まともに戦えば強いのに弱点つかれたら弱い』キャラなのに。その弱点補うとかどうにかしてるわ」
「自らの弱点を補うのは普通の事では?」
「なによぅ。イキってた人がいきなりよわよわになってわからせられるとか胸がスカッとするじゃないの。弱点を補われるとその面白さがなくなるのよ。弱点をついて相手を馬鹿にするとか人として当然のことよ」
「それはトーカさんだけだと思います」
アタシの言葉に首を振る聖女ちゃん。ナマイキ強キャラが情けなく敗北するとか、良くあるエンタメじゃないのよ。
「小生意気で傍若無人なトーカさんが弱点をつかれてわからせられる……いいですね、それ! あ、妄想というかイフ前提でですよ! リアルな幼女泣かせ、絶対ダメ!」
「アタシのどこが小生意気で傍若無人なのよ」
「……自覚ないんですか?」
鼻血出して興奮するおねーさんに半眼で突っ込むアタシ。そんなアタシに冷徹にツッコミを入れる聖女ちゃん。アタシ、可愛い普通の子だもん。ちょっとアレかもしれないけど、きっと普通の範囲だもん。
「あの威風堂々としたデーモン達が、ああも変貌するとは……!」
「そうね。想定外だったわ」
天騎士おにーさんの言葉で話を戻すアタシ。決して小生意気とか傍若無人とかを深く追及されたくないわけじゃないから。自覚とか全くないんだから。ないったらないんだから。今はこっちの方が重要なんだから。
「理由はわかんないけど、デーモンはそういうやり方で襲ってくるっていう前提で戦いを組みなおす必要があるわね。
本当なら一旦教会に戻って体力とか回復させたいんだけど」
「そうですね。仕切り直しは必要だと思います」
アタシの言葉にうなずく聖女ちゃん。空気と言うかそういうモノが悪いので一旦リセット。HPとかリソース面の回復も含めて、ベストは塔を出て体力回復だ。だけど、それは真っ先に封じられた。
塔の窓から見える赤い光。これが帰還アイテム使用不可の魔法結界とやらなのだろう。実際にアイテムを試してみたが、何の反応もなかった。
「厄介ね。こんなことできるヤツって……」
この光にアタシは見覚えがある。斧戦士ちゃんを助けに行くときに死神男悪魔が作ったあの光だ。アタシ達を閉じ込め、外に出れないようにしたヤツ。
「悪魔、ですね」
「ええ。黒い腕に捕まって情けなく命乞いしてたセンスと性格の悪い四流死神もどきか、あるいは無駄におっきいものつけてアタシがフルボッコにしても1ミリも動けなかったやつね」
聖女ちゃんの言葉にうなずくアタシ。ラクアンやアウタナで出会った悪魔。この世界を作った存在に仕えるモノ。ルールに則って人間を滅ぼそうとする存在。
「いろいろ私怨が混じっていますが……トーカさんの話からもう一人悪魔はいるはずです。その可能性もあるかもしれません」
アタシが【まねっこ】を覚える際に見た『夢』は聖女ちゃんにも言ってある。信じてもらえないかと思ったけど、特に疑念を挟まれることはなかった。どちらかと言うとアタシ同様、スケールの大きさに言葉を失った部分はあるかもだけど。
「どーせたいしたことないわよ。これまで同様、隙をついてマウント取ってから罵るだけ罵って『覚えてろー』って言わせて帰ってもらえばいいんだから」
「あの二人は別にそんなこと言ってませんでしたけど」
「細かいことはいいのよ。とにかくそういう感じで」
ともあれ背後に悪魔がいるのだ。それを踏まえた上で、いろいろ考えないといけない。となると大事なのは情報だ。
「……一応聞くけど、アンタ何か知ってるの?」
アタシはふよふよと浮いている球場の中にいる赤ちゃんに尋ねる。言わずとしてた、自称かみちゃまだ。この塔の屋上にいる自分の片割れに会う。そもそもそれがなければ塔の片側には来なかった。
最初は塔に連れていくのは危険だと天騎士おにーさんとおねーさんが言うので置いていくつもりだったけど、「だいじょうぶでちー。ついていくでちー」とか言った後に自分を青い球場の物で包み込み、宙を浮いてついてきたのだ。さすが不思議ベイビー。
「ばーぶ。なんのことでち?」
「アンタ神様なんでしょ。悪魔がいるってことはアンタがらみじゃないの?」
「さー。よくわからないでちー」
「迷子の赤ちゃんに聞くのが間違っていたわ」
予想通りなんだけど真面目に聞いて損した。アタシはため息をついて、頭を切り替える。
「とにかく上に登りましょう。塔のボスを倒せば多分どうにかなるわ」
「打開策はそれしかないでしょうけど……大丈夫なんですか? かなり苦戦していますけど」
「大丈夫よ。装備もレベルも上がってるから、やれることも増えてるからね。それに――」
言ってアタシは笑みを浮かべる。
「やーらしい戦い方なら熟知してるのよ」
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