13:メスガキはデーモンになる
踊り場で決着をつけようという意気込みもあってか、階段を占拠するデーモンの数は多い。ここで直線系とか範囲系攻撃を使うと一気に巻き込めるんだけど、遊び人にそんな攻撃系アビリティはないわ。
正確には1個だけあるけど、ランダム性高いし【遊ぶ】の10レベルだからスキルポイントも足りない。なんで一網打尽は初めから除外している。デーモン側もそれが分かってここで決着をつけようとしてる節もあるわね。
クイーン・オブ・ハートのトランプ兵を大量に出して数を補う手もあるけど、実力差を考えれば無駄な足搔き。言葉通りの紙装甲なんで、魔法か拳の一発で倒れかねない。そもそもデーモンはトランプ兵を作るアタシを集中砲火するぐらいの知性を持っているわ。
何が言いたいかっていうと、この数のデーモンをアタシ一人で対処しないといけない。当然相手だって反撃する。アタシのか弱いHPだと3体に狙われただけでもデッドエンド。
「ヤルッテ、カ? カカッテキナ!」
「オラオラァ! ビビッテルノカ?」
「怖イナラ、大人シク震エテナ! 小便垂ラシテ、土下座スレバ命ダケハ助ケテヤルヨ!」
ガラ悪くデーモン達が挑発してくる。おにーさんの言葉じゃないけど、ここまで正確が違うのはドン引きね。でもそんな挑発に乗るアタシじゃないわ。クールにやることをやるだけよ。
「女ゴトキが、戦場ニ出ルノガ間違イナンダヨ!」
「胸ガ無イカラ、男カモナ!」
「違イナイ!」
――よーし、最初のターゲットはあいつね。決定。絶対ぶっ殺す。アタシはがぜんやる気を出して暴言吐いたデーモンを睨みつける。
「それじゃあ覚悟しなさい。一体ずつ骨抜きしてあげるから」
アタシは青悪魔を倒した時に得たレアアイテムの『悪魔のカード』を手にする。タロットとかそういうので見るカードね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アイテム
アイテム名:悪魔のカード
属性:カード
装備条件:レベル75以上。【カード装備】習得
筋力:+65
解説:呪われたカード。使用すると心身ともに魔に染まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カード系装備の中では高い攻撃力だけど、天騎士おにーさんの天雷剣に比べればしょぼい増加率。だけどこのアイテムの真価は攻撃力じゃなくアイテムとして使用したときにある。
「へーんしん!」
カードを掲げると同時に、カードから黒い靄のようなものが現われる。体を包み込んだモヤは強制的にアタシが着ていたカグヤドレスを脱がす。足に、腰に、胸に、頭部にまとわりつく黒い気体は水のように質感をもって水着のように形を変え、そして固体化する。
黒いビキニ。お尻に尻尾。背中にコウモリの羽。そんな姿に。
「やああああああああああん! 変身バンク! 変身バンクゥゥゥゥゥ! トーカさん姿が小悪魔ッ娘に! 黒のボンテージビキニにエロカワ変身とか、それだけでいろいろ滾っちゃうううううう! 1カメ2カメ3カメ!」
……なんかおねーさんがいつものを発病してるけど、とりあえず無視。
『悪魔のカード』使用効果は魔物化。味方から支援魔法を一切受けることができない代わりに、攻撃しない限りはモンスターからターゲットされることがなくなるわ。これがあればダンジョンの奥深くまで単独先行できる優れもの……と言うほど便利でもない。
変身中は常時MP消費状態。なんで調子に乗ってるとMP枯渇した状態で変身が溶けて、そんな状態でモンスターと戦うことになる。変身中は装備も全部なくなるので、はっきり言ってネタ武器扱い。
でも多数に囲まれた状態の緊急回避としては優れものよ。
「アレ? あのガキ、ドコダ!?」
「消エタダト!? 透明化ノ魔法カ!」
「オイ、オ前モ探セ!」
アタシが目の前にいるのに、デーモン達は気づかない。むしろアタシを仲間と思ってるのか、話しかけてくる始末だ。ゲームの仕様とはいえ、面白い状況ね。
でも悠長に楽しんでる余裕はないわ。アタシのMPはガンガン減ってるし、デーモンはおねーさんに向けての呪文詠唱中。とっとと止めないと、今度こそおねーさんがやられるかもしれないのだ。
「さっきアタシを男だとか言ったアナタ。どういうことか教えてもらおうかしら」
当然だけどそれも問題ないわ。隊デーモン戦の為に【食う】を8まで上げてきたわ。ため込んだスキルポイント全部つぎ込んだんだからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アビリティ
【精吸収】:貴方の元気、頂きまーす。【食う】レベルに応じた量のMP吸収。MP20消費。
【究極至高の味】:おいしいモノ食べたいっ。【スパイス!】の効果が『遊び人のレベル%』に変わる。常時発動。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【精吸収】はMP吸収攻撃。攻撃とは言ってるけどMP攻撃という事もあってか防御無視。なんで『聖魔の守り』で聖属性耐性をとっても意味がない。威力は【食う】レベルに応じた固定ダメージ……なんだけどこれには【食う】レベル2アビリティの【スパイス!】の効果が乗る。
そして【究極至高の味】は【スパイス!】の制限解除。これまで最大30%増だった増加率が、レベルの数字そのままになるわ。アタシのレベルが今80だから、食べ物系アイテムの効果が8割増しになる。サブスキルの方でとった【スパイス!】も制限解除されるので、二重の効果増しになっておおよそ3倍強になる。
要するに、MPをごっそりいただけるってわけよ。視界にとらえた相手から不可視のエネルギーを奪い、それを口の中に入れて飲み込んだ。
「吸ワレ、ゥ……ォ……。オオオオオ!?」
HPにダメージを与えないけど、攻撃には変わりない。MP吸収されたデーモンはアタシを敵と認識する。唱えていた魔法をアタシに向けようとして、それができないことに気づく。
「もうMPなくなっちゃたんだー。しおしおー」
デーモンのデータはアタシの頭の中にある。W【スパイス!】&【究極至高の味】で強化された【精吸収】。これを数度使えば相手のMPは完全に枯渇することは把握しているわ。
「ねえ。元気ないの? あれだけイキってたのにトーカに吸われただけでへなへなになったんだー。情けなくない?」
「ウルセェ! 殴リ倒シテ――ホグア!?」
MPがないなら物理で殴ればいい。だけどそれも予測済み。おねーさんの物理反射を【まねっこ】してコピーしてるから、殴って着たデーモンは逆にダメージを負うことになるわ。
「魔法も使えないし、殴ることもできない。ねえ、デーモン強いんでしょ? トーカにそれをわからせてほしいなー」
「コノ、ガキが……!」
「きゃー、こわーい。ねえ、早くわからせてよ。ミ・ジ・ン・コ」
これでデーモンの一体は完全に無力化したわ。後はこれと同じことをここにいるざこデーモン達にやるだけよ。
「オイ。仲間割レスル暇はナイゾ!」
ここまで騒いでるのに、他のデーモンは仲間同士でじゃれてるようにしか見えないらしい。うーん、なんという間抜けっぷり。まあそういうレアアイテムなんだけどね。
「はーい。じゃあ次は、アナタね。ちょーだい」
「濃いのたーっぷりでてるわよ。おいしー」
「あは。もう限界なんだ。よわよわー」
こうしてデーモンを一体ずつ【精吸収】して無力化していくアタシ。MP0になったデーモンが増える度におねーさんの生存率が上がっていく。群がってくるデーモンは最後に一掃すればいい。
「その……そういうのは乙女としてどうかと!」
赤悪魔の方を向きながら、天騎士おにーさんがそんなことを言ってくる。また卑怯とか正々堂々とかそういう話?
「要は相手を無力化すればいいのよ。っていうかアタシがMP攻撃するってことは事前に話してたじゃない」
「そういう意味ではなく、その、恥じらいとかそういうモノを!」
「言いたいことはわかります。ルークさん。私も常々トーカさんの格好と言動を改めてほしいと言ってるんですが……」
「ロリサキュバスなトーカさんに、吸われる……。私は今だけデーモンになりたいですぅ!」
言葉にならない抗議をするおにーさん。それに同意する聖女ちゃん。いろいろ熱暴走してるおねーさん。
「下着同然の姿で勘違いされる発言をするとか、人としてどうかと思うでちゅ」
黙れかみちゃま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます