8:メスガキは方針を出す
赤悪魔ことレッドバロン。『時計大橋跡』ダンジョンのもう一人のボスデーモン。
「あいつ、無属性の物理攻撃主系なのよね」
青悪魔が魔法の連続攻撃を得意としていたことに対し、赤悪魔は物理攻撃の力押し。範囲連続攻撃の【ハンドレッドブロウ】や<麻痺>付与の投げ攻撃【
ちなみにこの名前センスはどーなの、と愚痴ったところ、
「トーヨーの神秘じゃないか!」
などと天騎士おにーさんが妙に興奮していた。わかんなーい。
「まあそういうわけで、アタシの戦法がまるで通じない相手なのよ」
青悪魔のように多属性の魔法攻撃なら【早着替え】による服チェンジでどうにかなる。だけど赤悪魔は属性なしのぶん殴り攻撃だ。そのやり方は使えない。バステも効きにくいから、ハメることもできない。
素のステータスで戦う。これが赤悪魔戦の戦い方になる。
「正攻法が最適解とか、卑怯なのよ。ズルとかハメとかできないじゃないの!」
「それを卑怯と言うのはさすがに……ズルとハメは卑怯じゃないんですか?」
「システム的に許される行為だから卑怯じゃないのよ」
肩をすくめる聖女ちゃんにきっぱりと言い放つアタシ。どうあれ、今のままならアタシはほとんど役立たず。ひっきりなしに回復する聖女ちゃんも、<麻痺>攻撃の【
「行くにしてもいろいろ準備が必要ね。このまま突っ込んだら赤悪魔にボロボロになるわ」
アタシの説明に聖女ちゃんとおねーさんは頷いて、天騎士おにーさんが少しゴネそうになったけど押し黙った。ほっとくと一人で突っ込みかねないけど、自重したみたい。
「てなわけで、ちょっと時間かかるわ。なるはやで済ますけど、5日ぐらいは見てて」
「ばぶー。しかたないでち」
アタシの言葉にそう返す赤ちゃん。アタシの説明に納得するぐらいの知性はあるようだ。納得しなくても準備はするけど。
「先ずおにーさんはその剣を『
「無論ッ! 製造できる鍛冶屋も知っている。この翼でひとっ飛びだ!」
言っておにーさんはアビリティで作った白い翼を見せる。そう言えば【天使の翼】持ちだったわね。登録した場所に文字通り飛んでいけるわ。
「ついでにいろいろ買い物してきて。ちょっとメモするから」
アルビオンは人間が住んでないので、買い物できる場所がほとんどない。ブラウニーの経営するショップは在るけど、そこでは売ってない物が必要になるわ。なんでおにーさんに買ってきてもらう。
アタシの【デリバリー】は『最後に言ったお店』が対象になる。そこでも買い物はするけど、それでは足りないのだ。赤悪魔攻略するなんて考慮してなかったからね。
「おねーさんは妖精クエストこなして景品ゲットして。その素材でいろいろ作ってもらうわ」
「はあ。ですがトーカさんの『キャッキャウフフ服入れ替えコスプレパーティ』戦法はレッドバロンには通じないのでは?」
「……そんな戦法、名乗った覚えないんだけど」
「うふふ。移り変わるトーカさんの衣裳。それを目にして心の中でキャッキャウフフするワタクシ。眼福です」
ブレないなぁ、この変態。いろいろ言いたいことはあるけど、それを飲み込んで話を戻す。
「アタシ用の服じゃないわ。おねーさん用のよ。布武器と洋服。おねーさんは前に出てもらうから」
「はぁぁっ!? うぇ、あの、ワタクシそう言った野蛮な事には向かないというか!?」
「や・れ」
「はふぅぅぅぅん! 容赦のないトーカさんの一言。ああ、腰が砕けそう。砕けた! やりましゅううううううう!」
アタシの一言でメロメロになるおねーさん。そういう反応は予想外だったけど、とりあえず了承してくれたわ。よしよし。
「アンタとアタシはレベルアップ。ちょっと予定は狂うけど【聖歌】8の【驚くべき恵み】を得てもらうわ。アタシもいろいろアビリティを覚えるし。青悪魔からのレアイテムもあるから、これでどうにかなるでしょ」
アタシは聖女ちゃんにそう告げる。アタシ達はアビリティの数を増やす方向でいくわ。サポートに回る形になるけど、相性の問題もあるし仕方ないわ。
「『
「? なんか辛そうだけど?」
「いえ、気にしないでください。少し、思うところがあるだけです」
【驚くべき恵み】をアメイジンググレイスと言いながら、胸を押さえる聖女ちゃん。よくわからないけど、首を振ってため息をつく。
ちなみに【驚くべき恵み】の効果は最大HP増加&HP常時回復と、バッドステータスの完全無効化。歌った瞬間にHPがもりもり増えて、バステが全部解除。それ以降は状態異常にかからなくなる。
「レッドバロンには天騎士おにーさんとおねーさんが接近して押さえ。アタシと聖女ちゃんはサポート。こういう布陣よ」
「そのための天雷剣と言うことだな。理解したっ!」
「はうぅぅぅぅ。ワタクシごときが何かできるとは思いませんが、幼女の命令とあらば仕方ありません。もっと命令して!」
「その、ソレイユさんはもう少し冷静になったほうが……」
ざっくりとしたアタシの指示にうなずく皆。いろいろ一般的な納得とは程遠い気もするけど、アタシがそう思ったんだから問題ないわ。
「ですが5日ですか……大丈夫でしょうか?」
「何か心配事でもあるの?」
難色を示す聖女ちゃん。反対ではないけど、思うところがある。そんな声だ。アタシの質問に、頷いて答える。
「ええ。私達が片方の塔の悪魔を倒したことは、もう片方の悪魔にも伝わっているはずです。何かしらの対策を立ててくるのではないでしょうか?」
時間は平等に流れる。アタシ達が何かしている間に、あっちも何かするかもしれないのだ。
だけどまあ、それはさすがに気にしすぎだと思う。<フルムーンケイオス>はゲームだからリアル時間で敵が変化するとかはまずない。アップデートでいろいろ仕様が変わることはあるけど、それぐらいだ。
この世界はゲームじゃないからこの意見は場違いなんだけど、そうならないと思う理由は別にある。
「あのガチガチ正々堂々な体育会系悪魔が筋トレ以外の対策とか立ててくると思う? 不意打ちとか罠しかけたりとか」
「……なさそうですね」
アタシの言葉に、少し考えて納得する聖女ちゃん。
「ま、そういうこと。しっかり準備して、万全の態勢で乗り込みましょ。とっとと赤ちゃん家に帰して、レベルアップの続きしなくちゃ」
「あかちゃんじゃないでち。かみちゃまでち」
「はいはい。かみちゃまかみちゃま」
やることは決まったのだ。後は動くだけ。面倒なことになったけど、とりあえずの見通しは立った。『時計大橋跡』でレベルも上げられるし、赤悪魔のドロップも悪いものじゃない。そう考えると面倒だけどやる気も出てきた。
「罠や不意打ちはないにしても、知性ある方々なら何かしらの動きがあると思うんですけど……」
「どう動いたって相手がデーモン系でボスが赤悪魔なら、不意討たれない限りどうにかなるわ」
聖女ちゃんはまだ不満気だが、デーモンのデータは知っている。恐れることは何もないわ。
敵の方針が、変わらない限りは――
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