2:メスガキは再会する
RPGとかだと、ラスボス近くのフィールドに宿屋とか村がある。
めちゃくちゃ強い敵がいるのに、小規模ながら施設として成り立っている場所。ゲーム的にはそこがないと攻略が厳しいこともあり、レベルアップの拠点に使っていた場所だ。
この世界にもそれがあった。<フルムーンケイオス>でもあったアルビオンの教会。買い物NPCのと、宿屋NPC。教会内には魔物は現れず、セーブする場所としてうってつけだ。デーモン狩りの拠点として必要不可欠な場所である。
まさか妖精が別空間を作ってそこで止まることになるなんて思いもしなかったし、その妖精もあんなに喋ってくるなんて想像もしなかったけど。
「ブラウニーってあんな性格だったんだ……」
思いっきり世話焼きでおしゃべりな妖精にげんなりするアタシ。そのままベッドに倒れこむ。
教会にいたブラウニーは宿屋と買い物の二人だけなんだけど、妖精郷? こっちにいる妖精はかなり多い。正確な数を数えたわけではないけど、50人ぐらいはいる。ちっちゃい小人がすれ違うたびにあのレベルで話しかけてくるのだ。
「おかえりなさいませ。今日の戦いはどうでしたか? 皆様方の戦いが明日へとつながるのです。悪に対して勇猛果敢に挑むことは美徳ですが、どうかどうかご自愛ください。ところで紅茶に興味はありますか? いやじつはいい茶葉が入りまして――」
「無事で帰られて何よりです。我々ブラウニーはこうして皆様を待つことしかできない身。戦いにいそしむ皆様のためにこの場を整えることしかできないのですが、それだ皆様の憩いになれば幸いです。ところで紅茶に興味はありますか? 実は珍しいお茶請けが――」
「トーカ様にコトネ様! 無事で帰られて何よりです! ささ、こちらにおかけください。お二人の帰還を祈りながら、ベッドのメンテナンスをしておりました。お二人の体形に合わせて負荷がない硬さに調整しました。不具合あれば何なりと申し付けください。ところで紅茶に――」
だいたいこんなことを部屋に着くまでにどんだけ繰り返したか。いい加減うんざりよ。後、謎の紅茶推しは何なのよ。
「ブラウニーは家の妖精ですね。家の人がいない間に家事をしたりする妖精です。善意あふれてサンタクロースの弟子と言われています」
「善意溢れすぎでしょう。確かにベッドフカフカだけど」
悪意がないのはわかるんだけど、兎にも角にも世話を焼きたがる。帰ってくるなり褒めたりこっちをねぎらったり。家具やらなんやらを整えてくれて、しかもそれがちょうどよかったり。後、無意味に紅茶を進めてきたり。
「ちなみに悪意ある家の妖精はゴブリンと呼ばれます。いたずら好きで家具を引っ張って壊したりするそうです」
「ゴブリンてあのゴブリン? RPGで最初に出てきて、無駄に繁殖して、油断して挑んだら女騎士がいろいろ大変な目に合うあの?」
「何で女性の騎士限定なのかがよくわかりませんが、家にすむ不思議な存在は古今東西どこにでもあります。日本では座敷童あたりでしょうか」
いつもの聖女ちゃんの博識にはー、ってなりながらベッドの上で力を抜く。家の事を全部やってくれるとか、家政婦みたい。
「ま、どうでもいいわ。うっとうしくて迷惑なだけで仕事はきちんとしてるんだし。ゆっくり休めればアタシとしては問題ないわ」
実際、うっとうしいぐらいに話しかけられること以外の不満はない。部屋はきれいだし、料理はおいしい。気が付けばいろいろしてくれるし、気付かないこともやってくれて快適になってる。おしゃべり以外は何の問題も……。
「あったわね、問題。紅茶出しすぎ。トイレ行ってくる」
訪れた尿意に体を震わし、起き上がる。勧められるままに紅茶を飲んでいたので、トイレに行く回数が増えたのだ。
「トーカさん、飲みすぎですよ。ブラウニーさんも断ったらそのまま引っ込めますよ」
「だって美味しんだもん。スコーンとか」
ホイップクリームたっぷりのスコーンと、深みある紅茶。なんかやばいクスリでも入ってるんじゃないの、ってぐらいに癖になる。わかってるんだけど、ついつい飲んじゃうわ。
「あ、もう一つ問題があった。部屋にトイレがない事ね」
言いながら部屋をであるアタシ。トイレは共同で、泊っている部屋から少し遠い所にある。たいした距離じゃないけど、
「これはこれはトーカ様。ご就寝前に紅茶の香りは如何ですか? 鼻腔をくすぐる香が良き睡眠を――」
「あ、ごめん。今急いでるんで」
お腹を押さえながら謝罪のポーズをとるアタシ。いろいろ察したブラウニーは一礼して去っていく。
「まー、悪い奴じゃないのよね」
ゲームだと全く気にならなかったNPC。ぶっちゃけ、ここに来るまで忘れてたぐらいだ。アタシよりちょっと背の低い世話好き妖精。ちっちゃいっ子が好きな人が見たら、狂喜乱舞しそうだ。
「ミニョン! 素朴な茶色の服をまとった小さな妖精達! せっせと働く世話好きでそれでいて紳士的! 気が付けば何でもやってくれる気遣いたっぷりなイケメンにして可愛いこの姿! お一人お持ち帰りしてもいいですか! お持ちかえらせてくださああああああい! うにゃあああああああああ!」
うん。こんな感じで――
「…………え?」
なんか聞いたことのある声に振り向けば、
「はっはっは。お褒めにあずかり嬉しい限りですソレイユ様。しかし我々はこの家を守る妖精。ここから離れるわけにはいきませぬ。貴方様が我々に衣服を提供してくれる裁縫師だとしても――」
「分かってる、分かっています! イエスロリータノータッチ! ちっちゃい子の自由を妨げてはいけないということは! 大人が触れて汚してはいけないと知りつつも、それでも触れたいこのアンビバレンツ! ああ、人の業とはかくも深いものなのか!」
どっかで見たことのあるロリコンな裁縫師おねーさんがいた。
ブラウニーを前にじったんばったんと床を転がっている。傍目に見て、変態だ。あんな人、この世界にそうそういないだろう。っていうか、複数いてたまるかあんなの。
「何やってんの、おねーさん」
思わず素で突っ込むアタシ。いやまあ、このちっちゃい妖精をおねーさんが見たらそうなるよなー、って言うのはすんごく腑に落ちるんだけど。
「は……っ! ワタクシは今、夢を見ているのですか!? トーカさんがいる! まさかいつもトーカさんとコトネさんの事を妄想していた結果ですか! まさか無意識のうちに幻覚を見るようになるなんて!」
「ホント何やってんのよ、おねーさん。人生おわってんの?」
「きゃあああああああああああ! この冷たい反応! ワタクシの妄想を超えた冷めた反応! 間違いなく本物のトーカさんです! 可愛い妖精の国にS気質だけど寂しがり屋で可愛いトーカさんがいるなんて! ああ、妖精卿はここにあったんですね!」
「アタシをどんな人だと思ってんのよ! って、ちょー!?」
言うなり抱き着いてくるおねーさん。
「お元気でしたか!? 辛いことはありませんでしたか!? お二人の事はいつも気にかけていました! こうして再会できて、嬉しい限りです!」
「……もう、別れて一か月も経ってないじゃないの」
再会のハグ。優しく抱きしめられて、アタシもため息をついて背中に手を回す。うっとうしいけどあんまり悪い気はしない。
「そう言えば、コトネさんは?」
「部屋にいるわ。会いに行く? アタシトイレに行くからその後で」
「ええ。トイレの前で正座待機しています」
「…………ちょっと怖いから、トイレからは離れててね」
「音だけ! 音だけですから! 匂いとか見たいとか我慢しますから!」
「我慢してそれとか大人としてどーなのよ。ロリコンて不治の病なの?」
「はぅぅぅぅぅぅ! この突き放した反応、最高……」
思わぬ再会に喜ぶおねーさん。その態度にドン引きするアタシであった。
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