5章 遊び人と聖母神

1:メスガキは魔の地に立つ

 アルビオン――


 かつては妖精と戦士が住まう島国だったが、悪魔の襲撃を受けて壊滅。今は悪魔族が跋扈する場所となった。


 悪魔と言っても無駄女悪魔リーンとか四流悪魔テンマのようなヤツじゃない。どっちかって言うと闘技場で召喚された全身真っ黒でコウモリの翼を生やした奴らが主だ。


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名前:デーモン

種族:悪魔

Lv:81

HP:691


解説:地獄より現れた存在。魔道に長け、強靭な肉体を持つ。


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<フルムーンケイオス>における悪魔は魔王<ケイオス>の部下的存在で、それもあってか同レベルの敵と比べてステータスが高い。ウェンディゴとかと比べてHPも3倍近くあり、物理&魔法の攻撃力防御力も段違い。同レベルのボスとそん色ないぐらいね。


「この『赤の三連星』が手も足も出ないとは!」

「硬すぎてダメージ通らない! これではHP回復できない!」

「死ぬし死ねし! 帰還だー!」


 何の対策を立てずに挑めば、返り討ち待ったなし。殴ってもダメージはあまり通らない。それでいて高HP。おまけに一撃は重く、広範囲。今突撃していった人たち……どっかで見たことあるんだけど誰だっけ? まあその人たちもボロボロになって逃げていったわ。


「健全な肉体と健全な精神! これこそが至高! 良く鍛え、良く学び、よく食べ、よく寝る! これこそが勝利の礎なのだ!」


 言ってポーズを決めるデーモン。いろいろキモイ。


「言ってることはまともですよね」

「そう? 闘いなんて勝てばいいのよ勝てば」

「そういう考えはどうかと思いますけど……」

「この世は結果が全てなのよ。サクッと倒しましょう」


 聖女ちゃんの言葉にそう言って、デーモンに向きなおる。対策はばっちりよ。


「行きます!」

「よかろう勇猛なる乙女達! 正々堂々と戦おうではないか! 我が名はザジデバガロ! 戦の為に鍛えぬいた肉体と魔力、いざご照覧あれ!」


 最初に挑むのは聖女ちゃんだ。先ずは攻撃を聖属性に変える【聖体】を使う。デーモンを始めとした悪魔種族の弱点は聖属性だ。聖属性を持っているかいないかで、デーモン戦は大きく変わる。


 聖女ちゃんの防御力は【聖武器】のレベル4で習得した【加護】でさらに増しているわ。デーモンの一撃にも問題なく耐えられる。


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★アビリティ

【加護】:聖武器の力を引き出し、守りの力を得る。聖武器装備中に限り、物理防御と魔法防御、バッドステータス耐性を『聖女のレベル(最大30%)』上昇。常時発動。


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 レアジョブならではのぶっ壊れ効果。【聖人】【聖武器】スキルは対悪魔といっても過言じゃないわ。聖杭シュペインでデーモンを釘付けにしていく聖女ちゃん。そこに、


「もうおしまいよ、あなた」


 聖女ちゃんの後ろからアタシが攻撃をする。『ウェンディゴの視線』を使っての遠距離攻撃。しかもこれに【まねっこ】で聖女ちゃんの【聖体】をコピーして得た聖属性攻撃が乗るわ。【笑裏蔵刀】でクリティカル攻撃にして、キッツい一撃を与える。


「ここここここここっちをみるなあああああああああ!?」


 聖属性クリティカル。ついでに<恐怖><喪失>でステータスを下げる。そうして弱ってる相手からカグヤドレスで物盗んだりしながら、聖女ちゃんと二人ではったおす。これがデーモン戦の基本戦法よ。


「み、見事だ乙女達。敗北を認めよう。しかし私を倒しても第二第三の悪魔がげふぅ」


 死に際になんかしゃべってるデーモンを踏んで黙らせんアタシ。はやく経験値とドロップアイテムになれってーの。


「ったく、たいしたもの持ってないじゃないの。『悪魔の武器』系とか落としなさいよね」

「どっちが悪魔なんでしょう……」


『悪魔の武器』とはデーモンの系列が落とす武器だ。呪われてるけど超強い系武器で、『デーモンナイフ』『悪魔のカード』『昏いダイヤ』あたりはアタシも装備できるわ。


「相手の弱点を突いて圧倒する。確かにそれが最適解なのですが、正々堂々戦おうと言った相手なだけにいろいろと良心の呵責が」

「なによぅ、文句ある?」

「いいえ。知識もまた力です。それを行使することを攻める気はありません。

 ありませんけど、その、いろいろ心が痛むと言いますか。相手が正々堂々としてる分、こちらが卑怯な手段を使って勝つ悪人みたいな気分になってると言いますか」


 ため息をつく聖女ちゃん。弱点を攻めるとか当然の戦術ことじゃない。


「でもゲームじゃ喋らない雑魚敵だから気にならなかったけど、デーモンてこんなキャラだったのね」


<フルムーンケイオス>におけるデーモンは喋ることはない。魔法を使ったり魔王の部下だったりなので、確かに頭が悪いわけじゃないんだろうけど。でもこんな性格だとは思わなかった。


「出会うヤツ皆がこんな感じだもんね。やれ正々堂々だの、やれ騎士道精神だの、やれ誇りにかけてだの。斧戦士ちゃんとか天騎士おにーさんと気が合いそうな感じ」

「奇襲を仕掛ける知恵や罠を張る文化もあるのでしょうが、そう言ったものはまるで見えませんね。私達もかなりの数を撃破しましたが、警戒されている様子もありません」

「ゲームだとポンポン沸いてくるモブだもん。気にしたら負けよ」


 言いながら、聖女ちゃんの指摘に眉をひそめていた。


 倒しても倒しても攻撃パターンや思考回路は変わらない。ゲームだとそう言うもんかと割り切れたけど、この世界はゲームじゃない。ある程度の知恵があるなら何度もやられれば警戒するなり学習するなりしそうなんだけど。


「我が名はデゴバグギラ。騎士道とは、勇気を讃えて名誉を重んじる精神! 幼き女子だからと言って油断はしない! 我はこの島に足を踏み入れし勇者達に敬意を表し、騎士道に則り戦いを挑むものである! いざいざ勝負――ぐっはぁ!」


 現れたデーモンを、同じように倒すアタシ達。油断しないとか言いながら、同じパターンでやられる当たり学習能力がないのかな? まあ楽だからいいけど。


 しばらく狩りを続けた後で、アタシ達は移動を開始する。向かう先は山の中にあるボロボロの教会だ。女神像らしいものを祭っている。曰く、人類を生み出した生命の母だとか。シュト……レイン? そんな名前。


「とにかくこの辺でレベル85まで上げるわよ。80になったら狩場を変えるけど、しばらくはこの辺が拠点ね」

「拠点……と呼ぶにはいささか寂しい場所ですけどね」


 壁に穴が開いた教会。扉も形だけの飾りだ。悪魔に蹂躙されたのか椅子もボロボロになっている。とても休むなんてできそうにないけど、机や椅子の瓦礫に隠れているモノがいる。


「おお、おかえりなさいませ、お嬢様方!」


 ブラウニー。大きさ1メートルほどの人間型の妖精だ。<フルムーンケイオス>ではこの教会は休憩所みたいな場所になっていて、アイテム売買や宿屋的な役割を果たしていた。そのNPCがこのブラウニーだ。


「この悪魔跋扈するアルビオンでよくぞよくぞ生きて帰られました。あなた方のようなうら若き乙女が悪魔と戦うなど本来ならあってはならぬこと。しかし円卓騎士団が壊滅してしまいこの地を守る者はなし。我々妖精達も泣く泣くこの地が蹂躙されるのを見るしかなかったのです。

 しかしそのようなときにさっそうと現れたのが異世界からの英雄達! 振るう剣はまさに王の聖剣! 唱える言葉は星をも砕く大魔術! 奏でる旋律が笑顔を作り、ペンが紡ぐは大物語! いやまさに――」


 ゲームだと『お休みになさいますか?』ぐらいしか言わなかったNPCなんだけど、止めないと延々としゃべり続ける。アタシがうんざりしているのを察したのか、聖女ちゃんが会話の合間を縫って声をかけた。


「只今帰りました、ブラウニーさん。よろしくお願いします」

「ええ。それではご案内いたしますね」

 

 ブラウニーは一礼して、指を鳴らす。空間が回転するような感覚。それと共にボロボロだった教会はきれいになる。ブラウニーいわく、『妖精郷に保存してあったかつての教会のモデルでございます』とのことだ。悪魔も入ってこず、安心して休める空間である。


「それではゆっくりお休みください。お夜食は3時間後にお届けします。良い紅茶が手に入ったのでご賞味ください。就寝前にお声をかけていただけば音楽なども用意しますよ。後朝起きる時間はいつも通りでしょうか? それなら気象に合わせて朝食を用意しますよ。その後は――」


 ……まあ、いろいろ妖精がうっとうしいけど。

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