27:メスガキは最大火力を出す

<【遊ぶ】が8になりました。アビリティ【まねっこ】を獲得しました>


 全てが分解されそうなぐらいの感覚。一瞬見えた白昼夢。その後にアタシの頭に響いたファンファーレといつもの声。体があれば汗びっしょりで、酷い呼吸をしていたんだと思う。それぐらい、怖かった。


 うん、怖い。その感覚が多分一番近いと思う。アタシがいるこの世界そのもの。それを見たのだから。自分の想像外の物を見せつけられた感情を言うのなら、恐怖が一番近い。


「あの、トーカさん……状況が状況だから仕方ないかもしれませんけど、人までそんな声をあげるのは……」


 ムワンガ斧戦士ちゃんの攻撃を受けながら、聖女ちゃんがそんなことを言ってくる。いやまあ、しかたないじゃないの。なに叫んだのかあまり覚えてないけど、耳まで赤いのを見ると、よっぽど恥ずかしい声をあげてたんだろう。


「切羽詰まってるんだから仕方ないわ。とにかく一気に行くわよ」


 言ってアタシはステータスを確認する。死亡状態でレベルアップやアビリティ習得ができるか不安だったけど、問題はなさそうだ。


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★アビリティ

【まねっこ】:わたしはあなた。わたしはだあれ? 対象にかけられている特殊効果とバッドステータスのすべてを付与する。MP60消費。


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 効果は読んで字の如く。味方一人にかけられている上昇効果バフ下降効果デバフを含めた付与効果をアタシも得ることができる。バステも一緒にコピーするので下手に使うと危険な目にあうわ。


 作った人はバフ盛り盛りの味方に使ってそれをコピーして戦う……という使い方を想定してたんだろうけど、遊び人の素のステータスを考えれば焼け石に水。良くて劣化コピー、悪くてポイントの無駄使い。そんなネタアビリティになってたわ。


 だけど、今はコイツがないとどうにもならない。これを使っても、二回危ない橋を渡る必要がある。一つでも渡り損ねたら、おしまい。男悪魔は向こうから攻めてこないけど、仮面被った斧戦士ちゃんは止められない。


 ムワンガアックスの人間特攻と二斧軽戦士の攻撃は厄介すぎる。聖女ちゃんが回復能力でこらえているけど、逆に言えばそれでようやく止められる。回復能力のない鬼ドクロは良くて即死相打ちを狙うしかない。


 現状待っているのはそんな全滅パターン。逃げようにも男悪魔が変な壁作ったから逃げられない。沸点低いけど、あの悪魔は最善手を打っている。


 やるしかない。先ずは第一に――鬼ドクロに向けて【まねっこ】を使う。鬼ドクロの【呪詛同調】【滅びの手】【呪言暴走】【深淵からの声】の効果がアタシにもつくけど、重要なのはそっちじゃない。


「もらうわよ、それ」


 状態異常の<死呪>。自らをアンデッドにするバッドステータス。これが欲しかった。


 アタシの中で<死亡>と<死呪>が混ざり合う。死んでいる状態の<死亡>と死なない体になる<死呪>。本来重ならないバッドステータス同士。相反する法則がぶつかり合い、


「ふっかーつ!」


 その結果、<死亡>の効果が消えて<死呪>の効果が表に出た。魂状態だったアタシに肉体が生まれる。きちんと首も繋がってるし、呼吸もできる。生きてるってこんな感覚なんだってちょっと感激した。


 先ずは一つ目の橋を突破! もしかしたら<死亡>の方が勝って何も起きない可能性もあったもんね。


「トーカさん!」

「トー、カ……よか、っタ」

「ふ。悪人世に憚る。かの娘が易々とくたばる筈はなかろう。

(訳:ひゃっほおおおおおい、トーカちゃん復活!? なんで死んでたのかよくわからないけど、ふとももぺろぺろ)」


 聖女ちゃん、ムワンガ斧使いちゃん、鬼ドクロがアタシの声を聞いてそんなことを言う。そして男悪魔は驚愕の声をあげた。


「し、死亡状態からの復活、だと!? 聖職者系の力が動いた様子はないということは、自力復活! ……まさかお前が、シュトレインの加護を受けた神格者ディバイン! そうか、アウタナの頂上にいるのは……!」


 どっちかって言うとよくわからないことに驚いている。こいつからしたらどこからともなく殺した相手の声が聞こえてきて、しかも目の前で復活したんだから驚いても仕方ないけど。でぃばいん? アウタナの山の上に誰がいるって?


「選手交代よ。アタシがやるわ」


 だけど今はそれに鎌ってる余裕はない。目下の脅威であるアウタナ斧戦士ちゃん。こいつを止めないとどうしようもない。防御力を無視する二本の斧の猛攻。回復力高めの聖女ちゃんじゃなかったら3秒ももたないだろう。


「だ、メ……トーカ、にげ……」

「生意気言ってるんじゃないわよ。どのみち逃げられないんだから」


 斧戦士ちゃんは逃げろと言う。実際、アタシのHPだと文字通り秒殺だろう。素の敏捷力に加えて、仮面の力でさらに能力が増している。仮にムワンガドラゴと同じとかだったら、手も足も出ない。


「それにアンタも言ったでしょ。だーは家族とかの為に強くなるって。そんな仮面被って強くなるとか、アタシだって許さないわ。

 その仮面引っぺがして、センスわるーいって笑ってやるから」


 前に進む。ムワンガの仮面に操られた斧戦士ちゃんは自分の意志に反して斧を構えてアタシに近づく。【分身ステップ】【夫婦剣】そのバフを自分に宿して。


 高い回避は問題にならない。攻撃はクリティカルを出せば絶対命中する。だけど、アタシの素の火力では仮面を割れるとは思えない。今のアタシだとムワンガファイターのHPも一撃じゃ削れない。今の斧戦士ちゃんはそれ以上だろう。


 ここが二つ目の橋。斧戦士ちゃんに2回攻撃されたら、アタシは確実に落ちる。<死呪>状態だから、通常の回復手段は効果がないので聖女ちゃんの回復も意味はない。


 そして純前衛職と遊び人だ。真正面での殴り合いとなれば、間違いなく斧戦士ちゃんが有利。その全てを飲み込み、あえて真正面から迫るアタシ。


 一瞬時間が止まったように感じる。達人同士のにらみ合いとか、そんな感じのシーンだ。実際は、一秒も止まってはいないんだろうけど。


 アタシは<収容魔法>から武器を取り出し、前に進む。互いの攻撃圏内に、触れた。――動いたのは、斧。


「……っ!」


 斬られた。容赦のない斧の一撃。一気に削られるアタシのHP。一撃で瀕死寸前まで追い込まれた。痛みと衝撃で倒れそうになるのを何とか耐える。


 斧戦士ちゃんはすでに次の攻撃のために斧を振りかぶっている。あの時川で出会った斧戦士ちゃんとは、見違えるような動き。こんな状況じゃなかったら、笑っていたかも。


 ごめん、嘘。


 こんな状況だから、アタシは笑うのだ。


「ホント、強くなったわね。もう教えることなんかないわ」

「……トーカ……」


【微笑み返し】。相手に<困惑>のバッドステータスを与えるアビリティ。その効果か、あるいは言葉を聞いた斧戦士ちゃんの意志なのかはわからないけど、2撃目の攻撃はわずかに逸れた。


 でも動きは止まらない。三度目の攻撃が振り上げられている。<困惑>の命中低下もレベル60代の戦士からすれば微差だ。あの斧は今度こそアタシの胸に突き刺さるだろう。


 だけど、アタシの方も準備は整った。


 手にしたムワンガタリスマン。<収容魔法>から取り出したムワンガの森で散々狩って手に入れた呪いの武器。魔力を引き上げる代わりに、習得経験点が1割減る呪いだ。これ自体はアタシに不要だけど、呪いのアイテムと言うだけで価値がある。


 鬼ドクロから【まねっこ】した【呪詛同調】。呪い武器を装備したことでこの特性がアタシにも与えられる。鬼ドクロの【呪具同化】レベル×5だけ筋力と魔力がプラスされた。


 そして【呪言暴走】。バッドステータスがかかっている相手に追加ダメージが入る。今のムワンガ斧戦士ちゃんにかかってる<困惑>。一個だけだけど、それでも条件は満たしてる。


「なんてね。アンタがアタシに勝とうなんか――」


 そしていつもの【早着替え】&【カワイイは正義】。着替えるのはHP一桁時にクリティカルダメージが+200%になるバニースーツ。これが今のアタシが叩き出せる最大火力!


「――100万光年早いのよ!」


 指を鳴らして、ムワンガタリスマンから呪いの力を飛ばす。【呪詛同調】により得られたハイリスクハイリターンなバフ。そして【呪言暴走】の追加ダメージ。それが圧縮され、斧戦士ちゃんの正面で爆ぜた。


「ッ!?」


 不可視の衝撃に飛ばされる斧戦士ちゃん。仮面は二つに割れて地面に落ちた。


 痛む傷を抑えながら、アタシは倒れた斧戦士ちゃんに近づく。


「……光年って、距離の単位、ダゾ……」

「倒れてるくせに、口が減らないわね、アンタ」


 いつもの憎まれ口にいつも通り返し、アタシは笑みを浮かべた。

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