21:メスガキは首を斬られる

「瞬」

「殺」

「ダナ」


 アタシ、聖女ちゃん、そして斧戦士ちゃんの順番でそう言った。


「ああ、おやすみなさい……」

「もう、いたくなぁぁぁいい……」


 うん。言葉通りの瞬殺だ。アルラウネとキュウキは解放されたように地面に倒れ、安らかな声で力尽きた。


 何のことはない。アタシはアルラウネに精神系バステ解除アビリティの【パリピ!】を、聖女ちゃんにはキュウキに【守護天使】から【ヒーリング】をかけてHPを全快してもらった。たったそれだけで、二体の魔物は倒れて息絶えたのだ。


「あんだけ眠い眠いって眠れないんだから、眠れないバッドステータスでもかかってたんでしょ? 悪魔にしか知らないバステが」

「そうですね。そしてキュウキは痛がっていました。その傷を癒して安堵したんですね」


 エキドナやケルベロスがそうだったように、アルラウネやキュウキには弱点があった。エキドナが子供にこだわったように、ケルベロスが食べ物にこだわったように。アルラウネは眠らせることで終わり、キュウキはHPを全快にしたらそのまま昇天した。


 多分だけど、アルラウネは<眠り>効果のあるバステ攻撃を使っても効果がなかったのだろう。動きを見るにキノコからの幻聴か幻覚かでで眠れなかったんだと思う。なので精神的バステを解除する【パリピ!】でそれを解除したのだ。


 キュウキは解除不能の常時HP減少状態のデメリットを背負っていた。そのデメリットの分だけ火力が上がるとかそんなゲーム仕様? 普通のゲーマー思考ならやるかやられるかの短期決戦で攻めるんだろう。アタシもエキドナやケルベロスと戦ってなかったら、そうしていたわ。


「……悲しいですけど、救われたんでしょうか?」

「知らないわよ、そんなの。趣味が悪い格好から解放されてよかったんじゃない」

「そう……ダナ。見るに堪えナイ姿ダッタ」


 どこか憐れむように斧戦士ちゃんは倒れたアルラウネとキュウキに近づく。


「戦士として自ら選んで戦って死ぬのでは、ナイ。狂ったように暴れさせられたンダ。こんな事をするナンテ……!」


 戦士として思うところがあるのだろう。斧戦士ちゃんは強く拳を握って地面に叩きつける。こんなことをした悪魔への怒り。それをぶつけるように。


「おいおいおいおいおいおい! なんで負けてんだよお前ら!」


 ――それは、突然そこにいた。


 黒い肌をしたゴツい体躯の男。頭に角を生やし、不機嫌さを隠さない表情でアルラウネとキュウキに唾を吐く。たとえるなら、鬼。オーガほど大きくはないのに、オーガ以上にパワーがありそうな雰囲気をしている。


「ケルベロスも来ねぇのかよ。見当違いの方向に突撃したか? 面倒だな、認識阻害。まともに攻めることもできやしねぇな」


 唐突に、あのリーンとか言う女悪魔の事が頭に浮かんだ。突然現れたあの悪魔。そして直感で理解する。こいつはあの女悪魔と同類なんだと。


「アンタ……悪魔なの?」

「ああ? なんだお前は?」


 アタシの問いに、否定を返さない男。アタシの事など意に介さないとばかりにアルラウネとキュウキに蹴りを入れる。その態度にイラっと来て、鼻で笑う。


「別にー? ただここを襲った魔物を作った悪魔がアンタなら、あまりのセンスなさにクレーム入れようと思ったのよ」

「んだとこのクソガキ!?」

「だってそうでしょ? 見た目とバ火力で圧倒してるくせに、実際はただのギミックバトル。弱点もセリフでまるわかり。それが四回連続?

 もしかして頭悪いの? センスないの? ネタないの? サイテーのイベントよ」


 口元に手を当てて、笑うアタシ。言ってから改めて思うけど、同じネタを四回もやるとか、どうよ? 普通に飽き飽きするわ。


「あ、もしかして自分ではうまくやったつもりとか? うわすごい自惚れ。こんなの作って満足するとか、ありえなーい。さんりゅー」

「うぬぼ、れ……!? ああ!? どこがだ!」

「見た目もグロイし弱点もまるわかりだし。ホラーゲームにしたってないわー。まだゾンビ大量発生とかの方が怖いわよ。

 大方、王道を外した発想をする俺様カッケー! とか思ってるんでしょうけど、単にハズしてるだけだから。スベってるのを笑われる漫才とおんなじよ」


 図星だったのか、顔を歪ませる男悪魔。きゃー、単純。煽りがいがあるわー。


「黙りやがれ、クソメス! それ以上喋ると、命がないぞ!」

「ふふーん。悪魔って自分からこっちに攻撃できないの知ってるわよ。脅してるつもりなんだろうけど、どうやってアタシの命をとるのかなー? おしえてほしーなー」

「なんでそれを……!?」


 あー、やっぱりあの女悪魔と同類か。だったらあの時みたいに殴ってもいいかも。


「そうか。お前がリーンの邪魔をしたヤツだな。暗黒騎士とサンメンロッピ、テケ=リリを倒したって聞いたぜ」


 とか思ってたら、急に落ち着きを取り戻した声でソイツは口を開く。アタシへの怒りが消えたというよりは、リーンを小ばかにして溜飲が下がった感じだ。


「アンタの作った魔物も倒したわ。ホント、たいしたことなかったわね。まだ暗黒騎士おにーさんの方が強かったわよ」

「はん。俺がどれだけ天才だろうが、手駒がクズだとどうしようもないってことだな」

「きゃー。負け惜しみ、かわいー。アタシ達に手出しできないくせにイキっちゃって。天才さんは次はどんな負けセリフ吐くのかなー?」


 何言ったところで、こいつは何もできやしないのだ。憂さ晴らしに殴ってもいいけど、こいつは精神的な罵りが効くと見た。ざこなのに天才ってイキってるやつは、とことんこき下ろしてやるんだから。


「手出しできないのは、リーンみたいに型にはまってる凡人だ」


 男悪魔は言って、手のひらに収まる程度の光球を手にする。なんだかよくわからないけど、危険な気がする。アタシは警戒心を高めて一歩後ろに下がり――そのまま後ろに倒れこんだ。……は?


「え? トーカ……さん……」

「トーカ!?」


 聖女ちゃんと斧戦士ちゃんの表情が青ざめたものになる。聖女ちゃんは信じられないという顔に。斧戦士ちゃんは怒りを含んだ顔に。なによ、ちょっと足滑らせただけじゃない。そんな顔しなくても――


「――あれ?」


 アタシは自分が宙に浮いてることに気づいた。そして足元には、アタシの体。胴体と首が奇麗に別れた自分の体――え、待って? アタシの体、首が斬られてる!?


「俺は天才だからな。こういうこともできるんだ」


 男悪魔が笑みを浮かべる。手に巨大な鎌を持ち、黒いローブを羽織っている。死神っぽい恰好をしているけど、つまり、あいつが、アタシをころ――


「トーカの仇ダ!」


 男悪魔に襲い掛かる斧戦士ちゃん。男悪魔は斧戦士ちゃんの攻撃を鎌で受け止め、応戦する。矢次に出される斧戦士ちゃんの攻撃を鎌で弾き、反撃する男悪魔。


「うそ……うそ……とー、か……さんが……」


 アタシの体の傍で呆然となる聖女ちゃん。信じられないという表情でアタシの体に触れる。そして切断面に触れ、泣き崩れた。アタシの名前を呟きながら、否定するように首を振る。


「なかなかやるじゃないか、ガキ。だがこのテンマ様にはかなわないようだな!」

「あ、グ……!」


 男悪魔の一撃を受けて倒れる斧戦士ちゃん。死んではいないようだけど、戦うだけの体力は残っていないようだ。


「確か封印魔物みしようでーたのはもう一体あったな。せっかくだ、こいつに植え付けてやる。いい素体だから、最高の魔物ができるだろうな」


 言って男悪魔は斧戦士ちゃんを抱え、現れた時と同じように消えていった。


「あ……」


 聖女ちゃんがそのことに気づいたのは、消えてから数秒後。手を伸ばすも、その時にはもうそこには誰もいない。


「うう、ううううう……わああああああああああああ! トーカさんが、トーカさんが、死……ああああああああああああ!」」


 絶望に崩れ落ちる聖女ちゃん。集落の人達も、突然の事に驚き対応できずにいた。アタシだっていまだに混乱しているんだから、仕方ない。だって――


「あー。ごめん。アタシ生きてるっぽい?」

「……え?」


 アタシの声に、顔をあげる聖女ちゃん。アタシの声に反応したみたいだけど、アタシがどこにいるかはわかってないっぽい。きょろきょろと周囲を見回す。


「いや、死んでるのかな。これ? アタシ自身わけわかんない状態になってるわ」


 魂。霊体。幽霊。


 そんな状態になったアタシは、何とも言えない顔で自分の頭を搔いた。

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