12:メスガキはアウタナに着く

 アウタナまで移動しながら斧戦士ちゃんのレベルアップを続けるアタシ達。移動に専念すれば1日ほどの道のりだけど、3日かけて戦いながら移動する。


「親御さんへの連絡とかは大丈夫でしょうか? かなりの間家から離れているんですが、心配されているんじゃないですか?」

「狩りに行くなら、一週間ぐらい帰らないことは普通ダゾ」


 聖女ちゃんの問いになんでそんなことを聞くんだ、とばかりに応える斧戦士ちゃん。チャットで無事は伝えてあるが、文化の違いを感じさせる。


 川沿いを進みながらサカナ野郎を中心にレベルを上げていく。レベルが25も上の相手を倒したので『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』のトロフィーをゲット。レベルが上の相手に対するダメージ上昇効果を得たのて、殲滅速度が増す。


 そして――


「ん……ッ、ひぃ、ああ、む、むりぃ……んきゅううう!」


 足をぎゅっと閉じて、内からくる奔流に悶える斧戦士ちゃん。顔を紅潮させて下腹部から脊髄を駆け巡って脳をかき乱す感覚にこらえきれず、口から声が漏れた。息絶え絶えになりながら、糸が切れたかのように崩れ落ちる。


 あ、斧戦士ちゃんにアビリティ習得してもらったのよ。トロフィーゲットとレベルアップでかなりスキルポイントゲットしたので、一気に使ってもらったの。


「へばってないでとっとと起きる。休んでる暇ないんだからね」

「待、テ……。これ、戦士の戦いト、何か違ウ……。強くなってるのハ、認めるケド」

「とっとと慣れなさい。アタシなんか敵との戦闘中にやってたんだから」

「それはそれでどうかと思いますけど……」


 ちょっとヒいてる聖女ちゃん。いろいろ緊急事態だったんだから仕方ないわよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アビリティ

【疾風怒濤】:吹けよ風、荒れ狂え波。12秒間、攻撃速度が『【高速戦闘】のスキルレベル×5』%上昇。金属鎧装備時は使用不可。MP25消費。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【高速戦闘】6レベルで覚えてもらったのが、この【疾風怒濤】。効果は単純だけど軽戦士のキモともいえる手数を上昇させるわ。6レベルだから3割増し。大雑把に1秒で2回攻撃するとして、アビリティ未使用だと12秒で24回。【疾風怒濤】中だと31回。小数点以下をいろいろ弄ればもう少し上がるかも?


「基本形はこれで完成ね。そんじゃ、みっちりしごいてあげるわ。時間間隔は体で覚えなさい。実践あるのみよ」

「わかっタ! 行くゾ!」


 言って新たに現れたサカナ野郎に突撃していく斧戦士ちゃん。


「ダーの斧をくらエ! 【夫婦剣】!」

「すぐに【分身ステップ】と【疾風怒濤】!」

「うおおおおオ!? これでどうダ!」

「ブレ幅大きい! 悪魔相手だと今のコンマ2秒の隙間で死んでたわよ!」

「MP! MP不足ッ!」

「リソース管理も忘れない! 【ジャグリング】で片手を開けてポーションを飲む! 軽戦士はMP少ないんだから無駄なく動く! 片手にして効果がなくなった【夫婦剣】を再度発動までが流れよ!」


 元気よく突撃する斧戦士ちゃんと、それを指導するアタシ。斧戦士ちゃんの性格もあるんだろうけど、元気が先行して時間とリソース管理が甘い甘い。そんなこんなで時間もかかっているのである。


「……あー、疲れた」


 そして先に音を上げたのはアタシだった。こんなに叫んだのってどれだけぶりだろうってぐらいに大声出してたわ。四男オジサンの時は防御カウンター系だからそんなにややこしくなかったし、聖女ちゃんは賢いから勝手に理解してくれたし。


「次いくゾー!」


 全然元気な斧戦士ちゃんに休憩させるのが一苦労だったぐらいだ。聖女ちゃんが『休めるときに休むも戦士の務めですよ』と言ってくれなかったら、一人で戦っていたかもしれない。


「なんであんなに元気なのよ、あの子は」

「これまで戦えなかった分を取り戻そうとしているんでしょうね。ニダウィちゃんにとって、戦士として戦うのは誇りでもあり、育ててくれた部族への恩を返すことなんでしょうから」

「誇りとか恩義とかめんどくさーい。自分の為だけに戦えばいいのに」


 ジュースを飲みながらそんなことを愚痴っていると、聖女ちゃんが笑ってるのを見た。


「む。何がおかしいのよ」

「いいえ。そう言いながらもトーカさんも他人のために戦ってくれたじゃないですか。私の時も、ルークさんの時も。裁縫師のソレイユさんが何もできないと尊厳を傷つけられた時も怒りましたし」

「あんなのその場のノリよ。アタシは誇りとかにこだわって馬鹿をするヤツが許せないの」

「はい。確かにトーカさんはそういう人には容赦ないですから」


 そうそう。あの何とかっていう皇子とか、この前倒した六本腕の何とかとか。


「……そう言えば気になってたんだけど、今回なんでアンタあの子育てるって言いだしたの? 今回、誰かの命がかかってたわけじゃないのに」


 斧戦士ちゃんを育てるきっかけを思い出し、聖女ちゃんに尋ねる。無類のいい子ちゃんだけど、どっちかっていうと人が傷つかないように自分から前に出るタイプだ。


 わざわざ安全な場所にいる子を戦わせようとするのは、ちょっと違和感があったのだ。


 聖女ちゃんは、斧戦士ちゃんがこっちを見ていないのを確認してから口を開く。


「私がクライン皇子にされたことは覚えていますか?」

「あー、<魅了><洗脳><喪失>の状態にされて……無理やり変な事をサレたんだっけ?」

「変な意味にとれそうなことを言わないでください」


 あ、これふざけちゃダメな奴だ。声色から察して謝罪のポーズをとるアタシ。


 聖女ちゃんは皇子に逆らえない状態にされて、高レベルの人達を強制的に殺害してレベルをあげさせられたのだ。短時間で聖女ジョブをアタシのレベリングと同じだけにしたのだから、かなりの数とレベルの人を殺害させられたのだろう。


「私は……多くの命を奪って強さを得ました。この強さは、歪んだ方法で得た強さなんです」

「アンタのせいじゃないわよ。大体アタシだって山賊とか人間モンスター倒してるんだから。経験点得るってことは命を奪うことと一緒よ」

「そうですね。でも、その人たちはクライン皇子に冤罪をかけられた人達。罪もなく、本来死ななくてもよかった人達です。……それを忘れるわけにはいきません」


 それはこの子の中で、未だに傷となっている。その罪滅ぼしこそが、魔王を倒すこの旅の理由なのだ。


「もうこのことはそれは受け入れてます。俯いたりはしません。

 ただニダウィちゃんはそう言うことがないように、優しく育ってほしい。そう思っているだけです」


 憂いを含んだ聖女ちゃんの言葉にアタシは何かを言おうとして、やめた。言いたいことはあるけど、言葉になりそうでならなかったのだ。


「アタシが優しいかどうかは疑問だけどね」


 なんでとりあえずそう答えた。聖女ちゃんの答えを聞かずに、腰を上げる。


「休憩終わり。再開するわよ」

「オー! ビシビシやってくレ!」

「言ったわね。じゃあ誤差なしでやりなさい。頭の中できちんと計算して」

「うう……。頭を使うのハ、苦手ダ……」


 これまで見敵必殺猪突猛進だった斧戦士ちゃん。そのネックはアビリティのタイムコントロール。


 だけど三日間もみっちり続ければ、頭で考えるよりも体が覚えてきたようだ。アウタナと、そのふもとにある村が見えるころには、問題なくアビリティの連結が可能になりつつあった。


 そして――


「あれがダーたちの集落ダ!」


 複数のテントと移動用の動物。町の城壁からすれば申し訳程度の囲い。それを指さし、斧戦士ちゃんは走り出す。


「これで教育係とお守りはお終いね。とっととアタシ達もレベル上げしましょ」


 その集落に向かいながらアタシは愚痴る。ここまで強くしたんならもう後は大丈夫だろう。今後どう強くなるかは斧戦士ちゃん次第だ。敏捷をあげるために【敏捷増加】をとってもいいし、【ダブルアーム】を10まであげて【二天一流】までいってもいい。【高速戦闘】を極めて【スピードキング】を得るのもいい。


 集落で消耗品の補充をした後は山周辺でナグアル退治。そしてウェンディゴからのレアドロップ狙い。各種ステータスを下げる<恐怖>を与える『ウェンディゴの視線』があれば、アタシのバステ戦法に拍車がかかるわ。


「トーカさん。あそこ――!」


 今後の事を考えながら歩いていると、聖女ちゃんが集落の方を指さす。……遠くてよく見えないけど、なんかわちゃわちゃしてるわね。もみ合っているような……。


「集落ガ、襲われてル!」


 アタシよりも目がよく遠くまで見える斧戦士ちゃんが、はっきりとそう言い放つ。


「悪魔ダ! アウタナを狙っている悪魔ガ、集落ヲ攻撃してルンダ!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る