11:メスガキは斧戦士をレベリングする
ムワンガアックスを使っての虹カニ狩りで一日を費やし、斧戦士ちゃんにはサクッと軽戦士のジョブとアビリティを習得してもらったわけなんだけど。
「ッ……ふぇ、ふっ、やァ……にゃぅ!?」
「きゃうん……ひん! あっ、あん、ああ、はゆぅン!」
「あっ、ひ、こ、れぇ……んんんんんっ!」
一気にアビリティを習得してもらい、茹ってしまったように地面に倒れ伏す斧戦士ちゃん。考えてみたら、アビリティの習得も初めてだもんね。うんうん。
「今更だけどエロいわよね、この仕様。『ステータス』に体いじられないと新しい力もらえないとはいえ、習得の度にこうなるんだもん」
「もともと悪魔の力だった、と言うのも納得です」
「もしかしたら盗んだ神様が改悪したかもよ。アタシには効かないはずだし。神様って結構エロいから」
「……否定はできませんね」
アタシと同じく脳内にいくつかの神様を思い浮かべる聖女ちゃん。
「本当にこれデ、強クなれたのカ!?」
未知の体験を終えた斧戦士ちゃんは、顔を真っ赤にしてアタシに突っかかってくる。気持ちはすんごくわかるけど誤解は解かないといけない。
「なれたなれた。アタシもこの子も何度も通ったコトだから」
「……ええ、そうですね。何度も……何度も……」
いろいろ思い出したくないのか、顔を逸らして応える聖女ちゃん。ちなみに昨日のうちに【聖人】のスキルを6にしていたのを知っている。トイレ行くフリして誰もいない場所でシてたけど、声漏れてたし。
『あっ! ひ、ひやらぁ! ん、ふ……ぁ……はぅぅぅんんっ!』
「レベル6だと、結構激しくクるからねー。声押さえられなくても仕方ないわ。はうぅぅん、って感じで」
「……っ!? ト、トーカ……さん? あの……」
「なーにー?」
「な、んでも……あり、ません」
顔を赤らめ、追及をやめる聖女ちゃん。下手に何かを言えば、ドツボにはまると思ったのだろう。
「アビリティを得るにはどうしようもないことだし、そう割り切っていきましょう」
「そう割り切れるトーカさんは、乙女としてどうかと思います……」
ため息をつく聖女ちゃんは置いといて、確認のために斧戦士ちゃんに聞く。
「スキルは【ダブルアーム】と【高速戦闘】をとったわよね?」
「ウム! 言われた通リ【ダブルアーム】6と【高速戦闘】4ダ! 【ダブルアーム】【ジャグリング】【夫婦剣】と【一閃】【分身ステップ】を覚えタゾ!」
よしよし。素直でよろしい。
覚えてもらったアビリティは【ダブルアーム】系列から3つ。【高速戦闘】から2つ。
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★アビリティ
【ダブルアーム】:二刀流。それはロマン。片手武器を一つずつ装備可能。常時発動。
【ジャグリング】:複数の武器を入れ替えながら戦う技法。片手武器に限り、戦闘状態でも武器の入れ替えが可能になる。常時発動。
【夫婦剣】:その武器、夫婦のごとき連携かな。片手ずつに同属性の武器を装備しているときのみ発動可能。4連続攻撃プラス3秒間回避上昇。MP15消費。
【一閃】:速さが刃となる。攻撃力を『敏捷×【高速戦闘】のスキルレベル/20(端数切り上げ)』上昇させる。金属鎧装備時、使用不可。常時発動。
【分身ステップ】:分身したかのように想わせる巧みな足さばき。5秒間回避率上昇。金属鎧装備時、使用不可。MP5消費。
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【ダブルアーム】系は両手に武器を持っていないと使えないアビリティよ。【ダブルアーム】で二刀流が可能になり、【ジャグリング】があると戦闘中でも武器が持ち替えられる。そして【夫婦剣】は攻防一体の主軸アビリティ。4回攻撃しながら低時間だけど回避も上がるわ。
【高速戦闘】は自分用バフの系列。ただし金属鎧を着ているときは使用できないわ。【一閃】は敏捷と【高速戦闘】スキルが上がるたびに火力が増し、【分身ステップ】は生存能力を高める防御バフ。これで形になったわね。
「ダブルアーム……? 二刀流ですか?」
「そうよ。両手に片手斧を一本ずつもって戦ってもらうわ。今はトマホークとムワンガアックスだけど、斧の数を増やしてもらうから」
「ム、ミュマイ族は一つの斧を一生友として使うのが習わしダゾ」
「友達がたくさんいてもいいじゃない」
そういう意味じゃなク! とか言いつのる斧戦士ちゃん。だが渋々納得したのか、両手に斧を持つ。トマホークとムワンガアックスだ。
「よし。そんじゃ実戦よ。アタシ達とパーティを組んでアウタナに向かいながらレベルアップよ。アビリティに慣れてもらう意味もあるから、基本はアンタが倒すこと」
「少し危険じゃないですか? ニダウィさんのレベルは45です。このあたりのモンスターは60から70です。まともに攻撃を受ければ死ぬかもしれませんよ」
「攻撃を受ければ、よ。それを避けるための【分身ステップ】と【夫婦剣】なんだから」
【分身ステップ】と【夫婦剣】。この二つで回避上昇しながら相手を殴る。アタシ達のサポートもう入れれば、それなりには行けるはずだ。ネックは斧全般に共通する速度減少だけど、これは斧戦士ちゃんのこだわりだから仕方ない。
とか話をしていると川からフィッシャーマンことサカナ野郎が上がってくる。手に槍を持ち、こちらに向かって突っ込んできた。
「そんじゃ行きなさい。サポートはしてあげるから」
「わかっタ!」
気合を入れてサカナ野郎に突撃する斧戦士ちゃん。アタシは【ハロウィンナイト】でサカナ野郎を人間属性にしてから近づいて【微笑み返し】をする。<困惑>させて命中率を下げるためだ。
「聖なるかな、聖なるかな――」
そして聖歌を歌いだす聖女ちゃん。その傍らには使い魔のドクハリセンボンとは別に、白く輝く翼が生えた天使がいる。大きさ10センチぐらいの手のひらサイズ。あれが聖女ちゃんが【聖人】レベル6で得た新しいアビリティ【守護天使】だ。
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★アビリティ
【守護天使】:聖人を守る天使は聖なる加護を与える。キャラクターとは別に【ヒーリング】【深い慈愛】【福音】を使用できる。MP消費5/秒
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【ヒーリング】【深い慈愛】【福音】はそれぞれ【聖魔法】【聖歌】【聖言】のレベル2で覚えられるアビリティ。それを天使が使ってくれるのが【守護天使】よ。効果はそれぞれ単体HP回復魔法、広範囲の防御力上昇バフ、バステを一つ解除、ね。
【聖人】コースは聖武器使った肉体系になるけど、このおかげで回復もできる。その気になればソロで高レベルの悪魔と殴り合う事もできるのだ。ここまで覚えるの大変だけど。
ともあれ、天使に防御上昇の【深い慈愛】を歌ってもらいながら聖女ちゃん本人は別の聖歌を歌ってもらう。今回は火力アップの【太陽は東から】。状況に応じて天使に【ヒーリング】で回復をしてもらう。そんな感じでやれることが増えたのだ。MP常時消費型だけど、取る価値はある。
「くらエ!」
いろいろバフ盛り盛り、相手にデバフ盛り盛り。しかも片方の武器は特攻&防御無視。20以上のレベル差も、ここまでやればどうにかなる。二本の斧を巧みに使い、斧戦士ちゃんはサカナ野郎と渡り合っていた。
「3秒ごとに【夫婦剣】を使うのよ。タイミングは体で覚えて」
「わかっタ! 2、1……ここダ!」
「コンマ4秒早い。誤差はできるだけゼロにしなさい。軽戦士はMP少ないんだから、管理はしっかり」
「あうあウ! 分かっタ! 3、2、1……」
「今度は遅いわ。今の隙に死んでたかもしれないわよ。はい【分身ステップ】切れそうよ」
「わーん! いじめダー!」
いじめじゃないわよ。れっきとした訓練なんだから。
「別のアビリティ覚えたら今度はそのタイミングも覚えてもらうからね。【夫婦剣】は3秒ごと。【分身ステップ】は5秒ごと。次に覚えてもらう【疾風怒濤】は12秒ごと。戦闘中は全部切らさずに維持してもらうわよ」
「3秒ト、5秒ト、12秒……無理ー!」
「泣き言っている暇なんてないからね。アウタナに着くまでには最低そこまでやってもらうんだから」
「うわーん!」
かくして、斧戦士ちゃんの本当の修行が始まるのであった。
「真剣になってる相手を馬鹿にしたり罵ったりしないのが、トーカさんの良い所ですよね。容赦しなくていい相手には本当に口が悪いのに」
教える背後でそんなことを聖女ちゃんが呟いてたけど、アタシは聞こえなかったフリをした。
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