10:メスガキは河原で戦う

 ムワンガの森を出て、アウタナに向かって南下中。その途中にある川に目的のカニはいる。


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名前:レインボーキャンサー

種族:幻獣

Lv:1

HP:6


解説:虹色に輝く甲羅を持つカニ。硬く素早いヤツを倒した者には、栄光が与えられる。


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 レインボーキャンサー。通称虹カニ。倒すと膨大な経験点がもらえるわ。


 七色に輝くカニで、大きさは30センチほど。甲羅は固く大抵の攻撃や魔法を無効化する。逃げ足も速く、見たと思ったらその時には逃げているぐらいだ。攻撃手段は鋏による攻撃と泡による水魔法。ぶっちゃけ、ダメージは皆無。虹カニに殺されるのが難しいほどだ。


 んでもって『バステに対する高耐性』『クリティカル攻撃無効』という面倒な特徴がある。バステはまず効かないし、【笑裏蔵刀】で攻撃しても防御無視にはならない。アタシからすれば、最悪の相手ね。


 攻略法はマジカルカードみたいな『必ず1点ダメージを与える』仕様の武器で逃げないように祈りつつ、ちまちま削るしかない。まあでも裏技はある。その一つが人間属性にしてムワンガアックスの人間属性に対する防御無視でぶん殴ることだ。これなら初期レベルでも6点のHPをあっさり削り切れる。


「と言うわけで作戦確認よ。虹カニを見つけたら、【ハロウィンナイト】を使って人間属性にするから、すぐにアンタはカニをムワンガアックスで殴る」

「わ、わかってル! 変化させたら、攻撃。変化させたら、攻撃」


 ガチガチに硬直して頷く斧戦士ちゃん。大丈夫かなぁ?


「カニが沸くまではアタシ達がザコを排除するわ」

「それまでは私から離れないでくださいね、ニダウィさん」

「う、ウム! わ、わかってルゾ!」


 刻々と頷く斧戦士ちゃん。やっぱり動きは堅い。モンスター避けのお守りである『アポシルニクの守り』を外しているからだ。これをつけているとモンスターに狙われないけど、こちらからモンスターに殴りかかることもできない。ぎりぎりまで付けておくという案もあったが、


「だめダ! ダーは戦士になるカラ、そんな卑怯なことはできナイ!」


 曰く、その戦い方は勇気がないからミュマイ族の戦士にふさわしくないとのことだ。隠れているだけの臆病な自分から卒業したい。


「ま、お守りなくても聖女ちゃんに守られてるんだから同じだけどね」

「ムグぅ!」

「そう言いながらしっかりニダウィさんを守る作戦を立ててくれますもんね、トーカさん」

「死なれてなんとか族から恨まれるのがヤなだけよ」


 手を振って会話を打ち切る。軽口叩いているけど、ここは魔物の領域だ。いきなり襲われても文句が言えない場所である。


「早速来たわよ」


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名前:ウォーターハンド

種族:悪霊

Lv:62

HP:135


解説:水底から延びる溺死者の手。仲間を求め、水に引きずり込もうとする


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 川の水が隆起して、一本の腕になる。そのままこちらをつかもうと近づいてくるわ。水のつぶてを飛ばしたり、<足止>のバステを使ったりする。一気に複数現われて、数で圧してくるタイプだ。


「聖なるかな、聖なるかな――」


 でもまあ、悪霊系なら聖女ちゃんの出番だ。聖歌でまとめて一掃し、倒しきれなかったヤツをアタシが処分する。


「次はサカナ野郎ね。任せなさい」


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名前:フィッシャーマン

種族:幻獣

Lv:70

HP:198


解説:魚に人間の手足が生えたような生物。海底には彼らの王国があるという。


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 テキスト通り、人間大ほどの魚に手足が生えたキモイ存在。人魚っぽい下半身だけ魚のモンスターもいるので、区別的にサカナ野郎って呼ばれてるわ。手に槍を持つ近接ファイター。動きはとろいけど、重い一撃を放ってくるわ。


「海水に王国があるのに淡水に現れるのは……」


 いつもの現実的じゃない病にかかってる聖女ちゃんはさておいて、アタシは狼パーカーに着替えて一気に攻める。【微笑み返し】による<困惑>で命中率を下げて、【カワイイは正義】で上がった火力で一気に決める。【笑裏蔵刀】でクリティカルを入れて、怒涛に攻め込んで一気に倒す。


「ま、こんなもんね」

「すごい……。遊び人なのにニ」


 ドヤるアタシに、唾をのむように答える斧戦士ちゃん。


「遊び人は最強なのよ。覚えておきなさい」

「正確には、トーカさんが遊び人を最強にしているんです。試行錯誤と創意工夫。それさえ忘れなければ、勝てない敵はいません」


 笑みを浮かべるアタシに、補足するように告げる聖女ちゃん。


「しっかしカニ出ないわねー。もともと出現率低いから仕方ないけど」

「トーカさん、あそこ」


 聖女ちゃんが指さす先に、虹色に輝く何かがあった。目を凝らすと、確かにカニだ。レインボーキャンサーに間違いない。


「行くわよ」

「ウ、ム……! ダーに、任せ、任せロ!」


 ガチガチに固まってる。呼吸も荒く、明らかに緊張しているわね、この子。


「任せろ? 違うでしょ。カニを逃したってアンタが損するだけなんだから」

「……エ?」

「アタシらがサポートしてるから外せない、なんてしょーもない事考えてるんじゃないわよ。この程度のおぜん立て、アタシとこの子からすれば暇つぶしなんだから。

 むしろ豪快に外して、アタシを大笑いさせて頂戴ってカンジよ。ここまでして外すなんてこのざーこ。ミュマイ族ざーこって指さして笑わせてよね」

「ミュマイ族を馬鹿にスルナ!」


 叫ぶ斧戦士ちゃん。ガチガチも呼吸の乱れもなくなった、いつもの感じだ。


「馬鹿にされたくなかったらしっかり当ててきなさい。アンタにとって、大事なモンの為に戦うのよ」

「当然ダ! ダーは、負けない!」

「じゃあ行くわよ。【ハロウィンナイト】!」


 アビリティの発動でこちらの存在に気づく虹カニ。人間属性になると同時に逃亡を開始する。ゲームだと短時間でフェードアウトするように、甲羅の色を変えて周囲の景色に溶け込むように見えなくなる。まるでカメレオンみたい。見たことないけど。


「食らエ!」


 言ってムワンガアックスを投擲する斧戦士ちゃん。斧はさっきまでカニがいた場所を逸れて、少し外れた個所に突き刺さった。


「やったカ!?」


 あ、それダメなフラグだ。そう言おうとしたとき、


<ニダウィ・ミュマイ、レベルアップ!>


「オオ、これが……これガ、レベルアップなのカ!」


 生まれて初めてレベルが上がった、とばかりの感激の声である。こんな魔物の領域でレベル1とかだと、確かにそうなんだろう。しかも一気にレベルが20近く上がったとなれば、その喜びもかくや。山賊を倒したアタシの比じゃない成長だ。


「これでダーも戦士として戦えル――!」

「わけないでしょ。まだまだカニ狩ってもらうからね。最低でもアタシ達とパーティが組める程度だから……軽く見積もって後五匹ぐらい?」

「……へ?」

「スタートラインはそこからよ。戦いながらアビリティの特性とか掴んでもらうから、覚悟しなさい。アウタナに着くまで、みっちり仕込んであげるわよ」

「……戦士の道は、遠イナア」


 喜びもつかの間。虹カニ狩りは続く。


「ふふ、トーカさん嬉しそうですね。ちょっと嫉妬しちゃいそうです」

「嬉しくなんかないわよ。面倒だからさっさと終わらせたいだけ」

「そうですね。じゃあ続けましょうか」


 かくしてその日は一日中虹カニを狩り続けるのであった。

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