9:メスガキは人狩り斧を手に入れる
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
<条件達成! トロフィー:『ボスキラー』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
3桁レベルボスを倒して、一気にレベルが上がったアタシ達。アウタナに着く前に60に到達したわ。スキルポイントもゲットできて、いい感じで成長できそうよ。
そしてさっきのムワンガファイターから念願の斧ゲット! これで一歩進んだわ。
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★アイテム
アイテム名:ムワンガアックス
属性:片手斧
装備条件:なし
筋力:+10 速度:-5 投擲可能 <特攻>人間属性 <防御無視>人間属性
解説:多くの人の首を狩ったムワンガ族戦士の斧。
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威力自体は初期装備片手斧と変わらないけど、人間に対してえげつない効果を発揮する斧よ。特攻でダメージ増加し、さらには防御を無視する。だけど素の威力がお察しなのでカスレア扱いされていたわ。
実際、こういう状況じゃなかったらアタシも要らないってスルーしていたアイテムだ。これを斧戦士ちゃんに持たせて、人狩りをする。これで軽戦士の打点の低さをフォローするのだ。
他にもドロップはあるけど、アタシ達には不要。換金して使用したトランプの補填にするつもりよ。総額的には若干赤字かな。
「てなわけで、これあげるわ」
斧戦士ちゃんにはムワンガアックスを使った人狩りの事は前もって説明していた。そう言うこともあって斧自体はあっさり受け取った。受け取ったんだけど、
「……本当ニ、ダーは強くなれるのカ?」
初めて会った時の勢いはどこへやら。斧を握り締めて俯いていた。
「なによ今更」
「だって、ダーの攻撃は全然役に立たなかっタ! あっさり止められテ、見下されテ! ダーは弱――」
「弱くなんかありません。ニダウィさんはあの状況で恐れずに攻撃できる勇気ある戦士です」
叫ぶ斧戦士ちゃんを、聖女ちゃんは優しく止める。
「実際、アンタの攻撃ヘボかったもんね。へっぽこ斧戦士」
「ウウウウウ……」
「トーカさん」
アタシの言葉に、聖女ちゃんは短く言いつのる。言いたいことはそっちじゃないでしょう、と言う視線を向けた。わかってるわよ、もう。
「でもあの攻撃のおかげで次に繋げたわ。ぶっちゃけ、ヤバかったし。アンタのおかげで勝てたのよ」
これは事実だ。あの攻撃がなかったらやられていた。もともと手数足らずの遭遇戦。薄氷を踏む状況だったけど、うまくいったのは間違いなくあの一撃のおかげだ。
「ダーの……おかげ?」
「全然役に立たなかった? そう思えるのはアンタの視野が狭いからよ。ダメージとかにしか興味がないおこちゃまってこれだから困るわ。こまるわー」
「なんで素直に褒め続けないんですか」
「うっさいわね。褒めるのはいい子ちゃんのアンタの仕事でしょう」
「そういう役割分担は初耳です」
アタシの中ではそう言うことになってたのよ。
「とにかく、アンタはこれから強くなるんだから。がっつりレベル上げてもらうわ。なんとか族で一番強くしてあげるから」
「ミュマイ族一番ノ戦士!? イヤ、父様に勝つトカ、ムリ!」
「やる前から心折れるとか許さないわよ。目指すなら最強一択よ。近距離遠距離両対応の二斧軽戦士。
覚えてもらう事も多いからね。まっすぐ突っ込むだけの脳筋じゃ務まらないから」
レベルを上げてスキル上げ。それで覚えたアビリティの的確な使い方。そんなプレイヤースキルも一緒に叩き込むつもりよ。テクニカルにいけば、同レベルの重戦士よりも立ち回れるんだから。
そんなことを言っていると、背後から声をかけられた。
「重畳。危ういところもあったが、乗り越えられたようだな。小娘にしては上出来だ」
刀を納めた鬼ドクロだ。何様よ、この人。っていうか属性アンデッド。
「いや……『己が運命を乗り越えた』のほうがいいか。決定打が斧がだけに」
「言いなおさなくていいからね」
鬱陶しくなったんで先にツッコんでおく。ドクロの動きが止まり、3秒ほど悩んで背を向けた。
「此度の戦、ワシが出るまでもなかったようだな。奪った命を糧とし、さらなる道に進むがいい。その先にある闇の中で交差したならば……いや、それは神すらわからぬ未来。時の流れに身をゆだねるとしよう」
なんかよくわかんないことを言いながら、帰っていく。
「……なんなの、あれ?」
「さあ?
でも悪い人じゃなさそうですよ。私達が戦っている間、茂みから現れたムワンガ族を相手してくれましたし」
「へ? そうなの?」
アタシの問いかけにうなずく聖女ちゃん。ドラゴとの戦いに集中していたアタシは気づかなかったけど、沸いてくるムワンガ族が邪魔しないように戦っていたらしい。斧戦士ちゃんもうなずいているところを見ると、間違いないようだ。
「たしかにこの森の沸き速度から考えたら、邪魔が入らなかったのは奇蹟よね」
ムワンガ狩りの長所と短所は、とにかく敵の圧政速度と数だ。一気に4体から6体ぐらい現れ、その頻度も高い。殲滅速度を上げた構成なら問題ないが、そうでないなら数で圧されかねない。実際ドラゴ戦中も敵沸きで途中で詰みかけたし。
「そうならそうと言えばいいのに。素直じゃないっていうか頭おかしいっていうか」
「それ、トーカさんが言うんですか」
「アタシの頭がおかしい意味不明な厨二病をこじらせてるって言いたいの?」
「そっちじゃなくて素直の方です。あとそこまで思ってません」
「アタシいつだって素直でいい子だもん」
はいはい、とため息をつく聖女ちゃん。そんないつものやり取りを終えた後で、じっと見てくる聖女ちゃんを前にアタシも根負けしたようにため息をついた。
「……まあ、今度会ったらお礼ぐらいは言っとかないとね」
ニッコニコになる聖女ちゃん。いろいろ何かに負けた気がする。別に勝負とかしてないんだけど、いろいろと。
「とりあえず森出るわよ。もう仮面見飽きたし」
「え? ムワンガ族を狩るんじゃないのカ?」
「狩らない。アンタのHPだと【仮面の呪い】食らったらそのまま倒れちゃうでしょう」
斧戦士ちゃんの疑問に肩をすくめるアタシ。ムワンガ族特有のアビリティ。倒した相手に防御無視のダメージを与えるヤツ。素のHPが低い斧戦士ちゃんがこれを食らえば、カウンターでやられてしまうのだ。
「でも、ムワンガ族以外の人間はこのあたりにはいないゾ。どうするんダ?」
そんな疑問を挟む斧戦士ちゃん。その認識は正しい。ここは魔物の領域。人間属性の敵キャラは数少ない。山賊なんているはずもないし、悪魔に魂を売ったムワンガ族ぐらいだ。ちょっと遠出すれば闇エルフや黒ドワーフもいけど、あれは妖精属性になる。
「抜かりないわ。なければ作るのよ」
「人間を作るとか、それだけ聞くと恐ろしいですけどね」
「錬金術とかクローンとかそんな感じ?」
当然だけど、アタシがやるのはそんなことじゃない。
「【ハロウィンナイト】で人間属性にして、そいつを叩いてもらうわ。
せっかくの防御無視なんだし、硬くて逃げ足早くて経験点たっぷりのヤツをね」
RPGあるある。HPは一桁だけど防御力が超高くて逃げ率90%を超えるモンスター。一匹当たりの経験点が豊富で、倒すと超レベルアップできるヤツ。アウタナのまでの通り道にいるし、サクッと倒してレベル上げといきましょう。
「レインボーキャンサー。通称虹カニよ」
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