6:メスガキは闇系厨二と会話する
『夜使い』……夜に生き、夜を統べるモノ。死と呪いを振りまく夜の王。
そんなジョブ紹介の夜使い。即死攻撃とバッドステータスや呪い付き装備を活用するジョブよ。
育成タイプは大きく二種類。【影技】と言う隠密系をあげて敵に気づかれないうちに攻撃する暗殺者タイプと、【呪具同化】と呼ばれる呪い系武器を駆使する戦士系。
前者はモンスターにターゲットされる前に近づき、背後から攻撃することで即死もしくは大ダメージを与える。後者は自身にバステを与えたり呪い装備を積むことで使えるアビリティで様々な効果を与えるタイプ。
鬼ドクロ……正確な名前は『黒装束:鬼神楽』は防御力は高いけど自身に<死呪>の効果を与える呪いの装備だ。効果は種族がアンデッドになる。これにより回復魔法でダメージを受けるわ。呪い装備プラス自身へのバステとなり、【呪具同化】を使ってバステ付与率や即死率を上げる構成ね。
ちなみにめっちゃレア。東国エリアの地獄門ダンジョンで鬼を倒して手に入るレアアイテムである。それ以外だと開けるとランダムでアイテムが入る『運命の箱』を開けて10万分の1ぐらいのギャンブルするか。普通に考えたら東国でレア狩りね。
レア度はともかくアンデッドな状態なので、
「光の道を歩む聖女よ。我の元に来ればその光は穢されよう。汝は汝の道を進むといい。我は我が闇の道を運命と共に歩もうぞ。光と闇は交差せぬが、運命は交差するやもしれぬ」
聖歌を使う聖女ちゃんの元には近づけない。アンデッドになっているので、歌を聞くだけでダメージを受けるのである。
「変わった方なんですね。いえ、戦い方もありますが、その言葉使いとか」
「知るがいい。理解及ばぬ存在もいるということを。汝らが常識と呼ぶ概念も、ひとたび世界が揺れれば悪辣な風習となるやもしれぬのだ」
一事が万事こんな感じだ。レアジョブって変な人しかいないの? 天騎士おにーさんと言い、妖精衣アイドルさんと言い、聖女ちゃんと言い。
「いや、ただの厨二病じゃん」
「死と滅びこそが生物の安寧にして最後のゆりかご。ワシはそれを操る夜の王と言うことを」
……いつでも即死攻撃撃てるからそのこと忘れんなよ、って言われてるのかな。これ? 相手に理解できない脅しって何の役にも立たないわよねー。
「そう言えば、アタシが悪辣とかそんなこと言ってたけど。何? 皇子様の使いでアタシを非難しに来たクチ? 闘技場での態度が許せないとか? それとも遊び人がいい気になるなって釘さしに来たの?」
「トーカさんは確かに態度や口が悪いですけど、決して悪い子では……犯罪的なことはしない人ですから」
「犯罪をしないって、普通じゃないノカ? むしろ口が悪かったり態度が悪かったりデ、ヤな奴じゃないカ?」
「うるさいだまれ」
擁護になっているんだかなっていないんだかの聖女ちゃんのセリフに、追撃とばかりに正論をぶつけてくる斧戦士ちゃん。だまってて。そういう正論は痛くないけど聞きたくないから。
「罪なき者などこの世に存在せぬ。真に責められるべきは罪を購わぬ者。死と呪いを内包するワシにこそ、汝の道標があると知るがいい。和の道に回帰せよ」
「……いや、何ってんのかホントにわかんないんだけど……とりあえず狩りの邪魔はしないでよね。さっきのは出遅れたのを助けてくれたってことで、ノーカンにしとくから」
「問おう。汝らが求めるは血塗られた刃か。或いは悪魔の守りか。千の屍を積み上げ、我は呪いの先を見た。死を受け入れよ」
「だから何言ってんのかぜんぜんわかんなーい! 邪魔しないでどっか行ってよねー!」
しっし、と手で払うと鬼ドクロは無言で背を向けて森の奥に移動していく。結局何が言いたかったのか、全然わかんないままだった。
「気を取り直して狩りの再開と行きましょう。ムワンガアックス手に入れて、そっからが本番だからね」
「はい。もう少し先に進みますか?」
「んー。これ以上は進まないほうがいいかな。ボスの出てくるエリアに入っちゃうし」
ムワンガの森奥地は『ムワンガドラゴ』と呼ばれるこのダンジョンのボスがいる。龍のような仮面を被ったムキムキマッチョマン。身体能力がデタラメだったり人間なのに各種ブレスを吐いたり広範囲にバステをバラまいてくる。悪魔の仮面設定なのか、あるいはそういう部族なのか。ネットでも意見が分かれていた。
「倒してもウマみないんでパス。経験点もあんまりないし、ドロップもアタシやアンタにマッチしないし。ボスキラーのスキルポイントもらえるのは大きいけど、そんだけの為に挑むのもだるいし」
スキルポイントはそこそこ美味しいけど、それ以上のうまみはない。なんで無理に倒さなくてもいいや、っていうのがアタシの意見だ。
「じゃあいったん戻りましょう。入り口に戻るまでに斧は出るでしょう」
「出るといいなぁ……」
「? 128分の1ですよね? 数えていませんが、そろそろ128体は超えそうですけど」
「そううまくいったらレア狩りはうまくいかないのよ」
はぁ、とため息をつくアタシ。確率なんてあてになんないのよ。
「ナア? 何か騒がしくナイカ?」
戻ろうとするアタシ達を止めるように、斧戦士ちゃんが森の奥を指さす。木々に隠れて何も見えないけど、確かに何かが騒いでいるような……。
「ひぃぃぃぃぃぃ! なんなんだよあの仮面マッチョ! 物理系かと思ったのに砂嵐とか使ってくるし!?」
「HP回復を反転させるバステとか反則だろうが!」
「『スカーレット』のアビリティが使えない!? こんな化け物がいるだなんて聞いてないぞ! 離脱だ!」
「ぎゃあああああああ! アイテム使用禁止の呪い!?」
「バステで弱らせてから攻めてくるとか、どっかのメスガキかよ!」
「こんな原始人に『赤の三連星』である我らが逃げ帰るなんて……!」
そんな叫び声をあげながら走ってくる三人の男性。どこかで見たことあるようなないような……。とか思っていたら、いきなり目の前で姿が消えた。時間経過でバステか消えたので、アイテム使って町に帰還したんだろう。
「……なんか、ヤな予感。っていうかこのパターンは前にも――」
「ホロロロロロロロロロロ!」
三人を追いかけていたムワンガ族が茂みから現れる。数名のムワンガファイターと、そして龍のような仮面を被ったムワンガの酋長、ムワンガドラゴだ。
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名前:ムワンガドラゴ
種族:人間(ボス属性)
Lv:97
HP:1098
解説:仮面に魅入られしムワンガ族の酋長。ムワンガ族最強の戦士にして呪術者。
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HPとパワーこそオーガキングにわずかに劣るが、レベルはこっちの方が上。ドラゴは拳と魔法で戦う魔法戦士タイプね。物理攻撃は力を込めた拳の一撃。大地系攻撃の砂嵐や植物系攻撃の葉っぱカッターなどの魔法攻撃。
そしていろんな種類のバステを与えてくる。アビリティ使用禁止の<封印>や、アイテム使用禁止の<放心>。移動禁止の<足止>。そう言ったダメージは皆無だけど禁止系のバステばっかりである。
「ってなわけで、逃げるわよ」
「私の【人に善意あれ】で呪い系を無効化しながら戦うのはダメですか?」
「戦うならね。でも、斧戦士ちゃんかばいながらだといろいろ手数足りないわ。ついでに言うと、倒さないといけない理由もないし」
オーガキングの時は捕まった人を救いたいという聖女ちゃんの我儘から戦った。だけど今回はそれはない。準備不足もあるし、全員離脱が一番だ。
「逃げる、か。相変わらず弱虫だな、ミュマイ族」
そんなアタシ達を見て、ドラゴはそんなことを言い放った。知ったことないわよと逃げようとしたけど、斧戦士ちゃんが足を止めて向き直った。
「なんダト!?」
「自然との一体化だの大地の恵みだの言って、貴様らは戦うことを放棄した。力を求めることを放棄した。強さを究めることを忘れた貴様らは、虫だ。戦士の心を失った、弱虫だ」
「ミュマイ族は戦士の部族ダ! お前たちみたいに、悪魔に魂を売って強くなる卑怯者とは違ウ!」
言って斧を構える斧戦士ちゃん。ちょっとぉ!?
「震えているぞ、小娘。そんな腰と震えでは、ウサギすら倒せまい」
「黙レ! 確かに……確かにダーは弱イ! ウサギも狩れなイ! ミュマイ族の恥さらしダ!
だけど、だけどミュマイ族を……家族を馬鹿にするのは許さなイ!」
斧戦士ちゃんは弱い。それはこの場にいる誰もが認める事実だ。斧戦士ちゃん自身も、認めている事実。
ここでドラゴに挑んで勝てない事なんか、承知の上だろう。そして無残に殺されることぐらい理解している。自分が弱いことを知っていて、相手の強さを理解して。それが分かったうえで斧を向けているのだ。
ミュマイ族と言う家族のために。
「ホロロロロロ! 弱虫の遠吠えだな。無残に散って、テンマ様の贄となれ!」
言うと同時に手を組んで奇妙なポーズをとるドラゴ。葉っぱが舞い上がり、斬撃となって襲い掛かる。鋭い斬撃は初期レベルの斧戦士ちゃんなんかあっさり切り刻むだろう。オーバーキルにもほどがある。
「ま、自分で弱いってのを認めたんだから第一段階は合格って所ね」
だけどその刃は斧戦士ちゃんに届かない。
「あいにくと、複数属性攻撃持ちの相手には慣れてるのよ」
アタシは木属性を半減するエルブンクロースを着て、【カワイイは正義】で耐性を二倍にしてダメージを0にする。アタシの背後にいる斧戦士ちゃんは、アタシの背中を見て驚いたように声をあげた。
「庇ってくれた、ノカ?」
「気が変わったのよ。考えてみたらファイターもいるし、斧ドロップできるかもしれないわね」
「はい。そういうことで。ニダウィさんはあまり私達から離れないでください。貴方の家族を馬鹿にした人を、トーカさんがやっつけてくれますから」
別に斧戦士ちゃんの家族とかどーでもいいけど。
「語彙力低いヤツの罵りとか聞くと、なんかムカつくのよね」
だからこの仮面はぶっ飛ばす。そして罵り倒してやるんだから。
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