5:メスガキは夜使いと出会う
「ホワワワワ!」
「オロロロロ!」
ムワンガ族はとにかく数が多い。
このあたりのレベル帯からすれば少し低い程度(それでもアタシより高い)なんだけど、それをカバーするように数で圧倒する。森を移動すればすぐに仮面と出会い、そして対処していく。
「うわァ!?」
「大丈夫です。ニダウィさんには攻撃は届かせません」
数の多さも相まって時折取りこぼすけど、そこをしっかりフォローする聖女ちゃん。聖杭シュペインで吹き飛ばして足止め。そこをアタシがしっかりハメる。シャーマンやアーチャーなら【笑裏蔵刀】のクリティカル攻撃。ファイターならカグヤドレスで<魅了>。
「ドロップ品しょぼいわねー。サクッと斧落しなさいよー」
数が多いとドロップ品も多くなる。殲滅数は多いが、単体のドロップはあんまりたいしたことはない。使ったトランプ台の補填ができるぐらいで、総額的には赤字だろう。<フルムーンケイオス>でも、効率の悪いダンジョンだったし。
「128分の1ですから、戦士さんを128人倒さないと出ないのでは?」
「……そう都合よくいけばいいけどね」
「?」
ドロップ率なんか目安になんない。アタシを始めとしたゲーマーが身に染みてわかっている事実だ。ドロップの神様とか、物欲センサーとか、そういう類の何かは確かに存在する。するったらする。
報酬が芳しくない以外は順調なムワンガ族狩り。斧さえドロップできれば終わりなのに、肝心の斧が全然出てこない。代わりというか嫌がらせれレベルでアーチャーから『ムワンガアロー』がシャーマンから『ムワンガタリスマン』やらが手に入る。
「いらないわよー! 戦士のが欲しいの!」
「荒れてますねー。これで代わりにならないんですか?」
「弓とお守りは軽戦士のスキルにマッチしないのよ。斧も片手斧だけだし」
「当然ダ! ミュマイ族の戦士は斧で戦ウ! 弓矢を使う役割は、戦士ジャナイ!
遠くから弓を撃つのハ、勇気がなくてもできル! 斧は近づいて攻撃する勇気ある戦士の武器だ!」
斧戦士ちゃんも部族のこだわりを見せている。遠くから攻撃することは臆病者でもできる。殺されることを覚悟して相手に近づき攻撃する。その象徴が斧だという。
「勇気なんてなくても勝てばいいじゃないの。っていうかアンタ最初に斧投げてきたじゃない。当たらなかったけど」
「最後にとどめを斧で刺せばいいのダ!」
「実際、トマホークは投げに適していますからね。アメリカ陸軍でも使用している汎用性の高い武器ですし」
「だからなんでアンタはそんな知識もってるのよ」
聖女ちゃんの知識に呆れるやらなんやらの声を返すアタシ。トマホークなんか片手斧系の初期にある武器だってこと以外知らないわよ。
「投射可能な片手武器って中途半端なのよね。遠距離系になるから威力も弱いし」
<フルムーンケイオス>における武器の基本知識として。攻撃力増加量は遠距離武器より近接武器の方が高い。近接距離にしか当てれない武器への配慮なのだけど、逆に遠距離攻撃可能なナイフ系や槍武器などは遠距離武器扱いになる。
斧戦士ちゃんが持ってるトマホークもその例にもれず、斧系なのに威力が低い。初期キャラの筋力でも扱える斧ではあるが、利点はその程度。軽戦士なら斧じゃなくナイフか片手剣が理想的だ。
「ねえ、もう一回聞くけど斧以外で戦う気ない?」
「ナイ! 斧はミュマイ族の誇りダ!」
何度か斧以外で戦うつもりはないかと言ってみたけど、この調子である。レベルが上がったら斧以外の武器にしたほうが効率がいいんだけど、部族の誇りだか何だかで斧にこだわるのである。
「レベルが上がったら『卍型ナイフ』にしたほうが都合がいいのに」
「人にはこだわりがありますからね。ニダウィちゃんの場合は、部族的な考えみたいですけど」
「あー、めんどくさい。みんな効率重視で考えればいいのに」
おかげで育成計画を大きく修正することになった。めんどくさいったらありゃしない。
「そういいながら、人の意見と主張を無視しないトーカさんに尊敬します」
「言い合いするのがめんどくさいだけよ。言っても聞かないもん、ああいうタイプは」
間髪入れずに行ってくる聖女ちゃん。アタシは手を振りながら答える。めんどくさいことは避けるのが効率的なんだから。
「そうですね。そう言うことにしておきましょう」
「そう言うこともこういうことも、そうなんだから」
「ええ。面倒ですけどがんばりましょう」
分かってますよ、と言いたげな聖女ちゃん。ああ、もう。あの子にかかれば誰だっていい子に見えるんだから。
「尊敬してると言われて怒るトカ、どういうことナンダ? 褒めてるノニ。仲良くシロ」
「大丈夫ですよ、ニダウィさん。トーカさんは怒ってません。褒められて困っているだけです」
「困ってないもーん。誰でも彼でも褒めたり尊敬する聖女ちゃんに呆れているだけだもーん。悪意とか持たないいい子ちゃんと話が合わないだけだもーん」
「確かに私は他人にあまり悪意を持ちませんが、一番尊敬しているのはトーカさんですよ」
「……っ。よっし敵沸いた。ドロップ品落とせー!」
――戦闘中じゃなかったら言葉に詰まってるところだった。会話を強引に打ち切って終了する。これ以上この会話続けたら、いろいろやばい。HPとかそういうのじゃなく、アタシの精神面が。
「むぅー。出ないなぁ」
ファイターを倒した数は覚えていないけど、体感的にそろそろ100体ぐらいじゃないかな? でも斧は出ない。逃げる際に斧持って逃げたり、持っている武器が斧じゃなかったり。ドロップしないってことはそう言うことなんだなぁ、とゲームの理由付けを見ている気分だった。
「ハハハ、アサギリトーカだな」
落胆するアタシに声をかけてくる。だれ、と思って振り向くとそこにはドクロを被った人がいた。角の生えた鬼っぽい頭蓋骨を被り、ボロボロの黒い和服を着ている。手には<フルムーンケイオス>では呪い系武器の日本刀。
「この邂逅は運命。しかるに必然。汝の罪と我が呪いが引きわせた。悪辣なる小娘がたどる道は破滅なり」
声の低さから、おそらく男だ。もうだまされない。アイドルさんからこっち、そういうのは注意するようになった。声で分かるぐらいに男性だ。よく言えば渋めの、悪く言えば重ったるい響きの声。
「……えーと?」
「しかるにワシが手を下すまでもない。犯した罪を猛省しながら、冥府の道を進むのだ。それが貴様にできるただ一つのコト」
いきなり表れて、わけわかんないことを言う鬼ドクロ。聖女ちゃんも斧戦士ちゃんも誰これって顔をしている。アタシに聞かれてもなぁ?
「いやまて。ただ一つのコトではなく、唯一の贖罪。この方がかっこいいか」
しかも言った後で自分のセリフを言いなおしているし。なんなのよ、このヒト。
「ではリテイク。しかるにワシが手をくだす……聞けぃ、話の途中だぞ」
「たわごと聞いてる余裕なんてないわよ。ムワンガ沸いたんだし」
ドクロが喋っている間に沸いたムワンガにアタシが向きなる。実際、意味不明だし相手なんかしてらんない。行動が少しでも遅れると、後ろの聖女ちゃんや斧戦士ちゃんに危険が及ぶのだから。
っていうかアタシも一斉に殴られたらそのまま落ちかねない。HPが低いんで、流れを取られるとそのままやられちゃう。遊び人の戦術はメタって先手必勝なのよ。
「無粋な。所詮は夜を理解せぬ子供か。怖れよ、恐れよ、夜を恐れよ。原初の闇、無限の虚空、その真意を理解し、そして理解した知性を怨め」
鬼ドクロは言うなり歩き出し、ムワンガの横を通り抜ける。ムワンガ達の動きが止まり、無数の線が走るとともに切り裂かれた。【影歩き】――【闇狩人】スキル8レベルで覚えられるアビリティだ。ダメージはないけど、自分から一直線に並んだ相手全員に対する確率即死効果を持つアビリティ。
こんなぶっ壊れアビリティが使えるジョブなんで一つしかない。
「夜の斬撃、その身と共に心に刻め。我が名はトバリ。『夜使い』トバリなり」
鬼ドクロは刀を振るい、アタシ達にそう言い放つ。『夜使い』。<フルムーンケイオス>のレアジョブだ。それを使える証拠こそが、先ほど使った【影歩き】。アタシはそれを理解して、口を開いた。
「即死攻撃だとドロップ品が手に入らないんですけどー。邪魔しないでくれないかしら」
「そういう問題ですか?」
アタシは不満たらたらにそう言い返し、聖女ちゃんは呆れたようにツッコんだ。
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