27:メスガキは五行を崩す
「貴様らの運命はすでに決まっている! 身も心もズタズタにして、骸も惨めにさらしてやる! フハハハハハハ!」
6本の腕。6属性の攻撃。6属性の防御属性。これらに加え、自分にはバフもりもり。そして相手のバフを封じる。
はっきり言ってありえない。初見殺しもいい所。これが実際にゲームに出てきたら、それこそネットで批判待ったなし。そんな強さだ。
「そうね、運命はもう決まってるわ」
でもアタシははっきりとナタに向かって言ってやる。
「アタシ達の勝ちってね」
「ふん、強がりを言うな! 今の貴様らに何ができる? 今の貴様らには何もできまい! 朕の五行結界の前には手も足も出ず、攻撃を凌いでいるだけにすぎぬではないか!」
「その結界が完成するまではいいようにやられていたくせによく言うわね。アタシにはダメージ与えられず、アイドルさんにはボロボロになって。情けなく叫んでたのはどこの誰かしらねー?」
「黙れ! いいや、黙らずともよい。その生意気な口がいつまで叩けるか見ものだな。仲間を倒され、自らを守る術を失い、傷つけられて泣き叫ぶさまを朕に見せつけろ! 無様に許しを請い、朕を悦ばせるがいい!」
愉悦に浸っている朕が笑う。実際この状況は誰が見ても押されている。回復は追い付かず、アイドルさんの火力は決定打には程遠く、アタシとおねーさんは何もできない状況だ。
「そこの女、その子供を見捨てるなら逃げてもいいぞ? 朕は寛大だからな」
なかなか倒れない聖女ちゃんにイラついたのか、ナタはそんなことを言う。確かに聖女ちゃんが守ってくれなければ、アタシはすぐにやられるだろう。
「あいにくですがトーカさんを見捨てるつもりはありません」
「愚かな。つまらぬ情で命を落とすか。口の悪いだけの何もできない者と心中するなど愚か愚か愚か!
そこで棒立ちしている仕立屋もろとも、縊り殺してくれるわ!」
アタシとおねーさんを馬鹿にするように鼻を鳴らすナタ。
「確かにトーカさんの口は悪いですけど」
「何か言った?」
「トーカさんの口はものすごく悪いですけど!」
「言い直した!? しかも付け加えた!」
「遠慮のないお二人のやり取り。その裏にある様々な感情! ああ、素晴らしい! 妄想滾ります! 永久保存!」
アタシの不満の言葉を無視して、聖女ちゃんはナタに向かって言い放つ。
「トーカさんやソレイユさんが何もできない、なんてことはありません」
「はん! 現に五行結界を前に何もできずに突っ立っているではないか! 虚勢を張るのも大概にしろ! 役に立たないクズ者が朕の前に立つなど――」
「役に立たない? 立っているだけ? それこそ笑っちゃうわ」
ナタの言葉に割り込むアタシ。
「おねーさんの仕事はもう終わってるのよ。つまりね、戦うまでもないのよ」
「何を言っている、このガキが」
「まーだわかんないのかな。もう勝負は決まったって言ってるのよ。アタシ達とアンタが出会う前からね。
おねーさんが何年もかけて築き上げた
言ってアタシは【早着替え】でドレスに着替える。
おねーさんに頼んでもらって作った、もう一つのドレスに。
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★アイテム
アイテム名:カグヤドレス(高品質)
属性:ドレス
装備条件:【ドレス装備】習得
解説:月より来た姫が着たとされるドレス。天帝さえ魅了する美しさ。
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いわゆる着物ドレスってやつね。薄い青色と桃色の花の意匠が施されたひらひらのドレス。着物の袖に裾の部分がフリフリのスカートになっている和風面多めのドレス。
「アドーラブル! 朝の空のような美しい青と春に咲く桃色の花開く可愛らしさ! 和と洋の融合! 清楚可憐にして触れられぬ姫のごとく! ぴゃ、ぴゃ、ぴゃあああああああ! 幼女! プラス! 和洋折衷! はふああああああああん!」
なんか大人の女性が軽々に出しちゃいけない声を出しながら悶えるおねーさん。いや、アンタ昨日さんざん仕立てで見たじゃないの。仮縫いとかで。
「ごめん、ドン引きなんだけど」
あのアイドルさんも素で突っ込むぐらいである。
「なるほど。朝空と桃の花。トーカさんの名前にかけた着物ですね」
「そうなんです! 実はお二人に出会った次の日にあの布を見つけて! これは、って走った電撃的出会い! それがこんな形になるなんて! ああ、ああ、ワタクシ、このために頑張ってきたんですぅ! 報われました! ワタクシの人生、報われましたぁ!」
聖女ちゃんが頷き、おねーさんが興奮したようにまくしたてる。朝霧桃華。確かにアタシの名前だ。
…………なんかちょっとむず痒い。そんなメッセージ入れられると、いろいろ気恥ずかしいじゃないの。
「ふん! 今更着替えてどうするつもりだ。貴様は服の効果で攻撃を凌ぐしかできない臆病者のようだが、その種類が一つ増えただけだろうが。
まさかまさか、その服を着たら朕と同レベルの戦闘力が得られるというのか? 武芸百般の朕に匹敵するほどの朕と同等に。そのような事、あり得ぬあり得ぬ!」
相変わらず小馬鹿にするナタ。
確かにこの服を着て、いきなりパワーアップと言うことはない。実際、ドレス事態にステータスの補正はない。何の効果もないドレスだけど、このドレスを着ている間は、前に着たクイーンオブハート同様にアビリティが一つ増えるのだ。
「アンタ、とことん脳筋ね。殴って勝つとか野蛮な事しか考えられないの? そんなんだから妹の方が優秀だって言われるのよ」
「なんだと!?」
「勝つっていうのはね、力で圧倒するだけじゃないのよ。卑怯? ズルい? だからどーしたっていうのよ。最終的にアタシが気持ち良ければなんだっていいのよ。そんなこともわかんない筋肉脳みそだから負けるって言ってんのよ、ざーこ」
言ってアタシはカグヤドレスを着て増えたアビリティを使う。
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★アビリティ
【姫の要求】:高貴な姫が望めば、如何なる物も手に入る。敵単体が持つアイテムを一定確率で入手。相手に<魅了>のバッドステータスを与える。MP25消費。
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【盗む】系アビリティ+<魅了>のアビリティよ。相手が持っているアイテムのうち一つをこちらにもらえるわ。レアリティが高いアイテムが盗める確率は相手のHP減少による増えていく。相手はボスだから<魅了>耐性あるけど、アイテム自体は関係なく手に入るわ。
「その服アンタにはもったいないのよ。アタシによこしなさい。く・ず♡」
言葉と同時に発動するアビリティ。その対象は――
「な、朕の、朕の火鼠の皮衣が!?」
ナタの周りを浮遊する五つの玉の一つが割れ、アタシの方に飛んでくる。革ジャンと革ズボンと言ったパンクな衣装。おねーさんが作った火鼠の皮衣。五行結界を構成するアイテムの一つ。
「やっややった! 妖精さんがこっち向てくれた! コンサート再開だねだね!」
「ワタクシのアビリティも問題なく使えそうです」
それを奪われ、五行結界は消えた。バフも普通にかかるようになるのを感じるわ。
「あはははははは! ねえどんな気持ち? 無敵無敵って言ってたナントカ結界がこんな形で解除されてどんな気持ちー? ねえ教えてー、ナ・タちゃん♡」
ここぞとばかりに煽るアタシ。
最悪『五つの宝』をこれで奪って逃げればいいやっていう程度の理由でドレス作ってもらったんだけど、まさかこういう形になるなんてもうサイコー!
「その……かぐや姫はけしてそういう高圧的な態度で大臣達に要求したわけじゃないんですけど……いえ、史実と違うというのはわかってはいるんですけど……」
アタシの煽りを見ながら聖女ちゃんがツッコミを入れる。違うってわかってんならいいじゃない。今楽しんでる最中なんだからさ。
「どう? これがアンタがバカにしたおねーさんの努力の結果よ。戦闘で役に立たない? 立ってるだけ?
おねーさんの仕事は全部終わって、アタシらは勝ち確だったのよ。アンタみたいなざこモンスターの負けは、戦う前からすでに決まってたのよ。それもわからずにいきり立てて、あー面白かった」
「う、朕を、朕を笑うなあああああああああ!」
「あーはっはっは。き・も♡」
五行結界は崩壊して、形勢は逆転した。ナタがこれ以上パワーアップする可能性は、あの様子からはなさそうだ。
「朕は、朕は世界を正すものだぞ! 正義が、正義が負けるはずが――!」
みっともなく騒ぐナタの背後に、
「それ以上騒がないでもらえますか? 私たちの格が下がりますので」
いきなりそいつは現れた。コウモリの羽をもつ、露出高めの女。青い肌、ヤギの角、その表情。それを一言で表すなら、誰もがこう答えるだろう。
――悪魔。
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