26:メスガキはジリ貧に追い込まれる
ステータス――
ゲーム的な表現を言えば、強さを表す数値だ。HPやMPと言った生命を守ったり魔法を使うための資源だったり。あるいはアタシみたいな子供でもオーガやキョンシーを倒せるだけの力があるのは、このステータスに一定の数値があるからだ。
そしてスキルやアビリティと言った存在もステータス画面から選択して得られる。こういった力は『この世界の神様からの贈り物』と言う設定だ。正直、そこまで深く考えたことはなかった。
戦う前に聖女ちゃんにいろいろ言われるまでアタシも気にしてなかった。ゲーム世界だから当然よね、とか思ってたぐらいだ。
「この世界全ての人間は神が盗んだ『ステータス』の恩恵を受けている。本来の持ち主であるあの方々に牙をむくために、真の理由を告げられずに道具として利用されているのだ!
朕はこの世界をあの方々に捧げる! ラクアンはその始まりの場所として、新たな時代の繁栄の場所となるのだ!」
叫ぶのは悪魔に魂を売って力を得たナタ。自分に正当性があり、誤っているのは世界そのもの。だから世界を覆す。真実を世に広め、この世界をあるべき姿に戻すのだ。自分が支配するラクアンが、その始まりとなる。そう豪語していた。
「どうだ。朕の偉業に恐れ入ったか。だが今更謝っても許しはしない! 貴様らが今まで正しいと信じてきた正義が虚偽だと知り、己の矮小さを悔いながら死んでいくがいい! フハハハハハハ!」
怒りの面のまま、哄笑するナタ。自分は正しく、相手は間違っている。それを突き付けた快感に浸っている。正しいということはそれだけで人を酔わせる。すべてが許され、理性と言うタガが外れる。
でもまあ――
「や。アタシあまりこの世界の神様が正しいって思ってないし。そもそも神様とか設定程度にしかに興味ないから」
嗤ってるところ悪いんだけど、それが素直なアタシの感想だ。
「なに……?」
「知ってると思うけど、別の世界からアタシらこの世界に召喚された英雄だから。この世界の神様がどうとか言われても、フーンとしか言えないのよね」
「もともと宗教への関心が薄い国ですからね」
アタシと聖女ちゃんは言って頷いた。宗教がどうとか神様がどうとか言われても、あまりピンとこない。おねーさんは国が日本じゃないから若干神様には敬意を払っているみたい。アイドルさんは言わずもがなの我が道を進むだし。
「正義と神様ごっこはどうでもいいのよ。
この件でアタシが気になるのは『ステータス』をどうにかできるっていう悪魔の話。もともとのステータスの持ち主が悪魔なら、確かに操作できるっていうのは納得だわ」
「そ、そうだとも! 朕はあのお方からこの力を賜った! 人間などはるかに凌駕する魔物の力! 様々な武具! そして五行結界! 朕に勝てると思うな!」
アタシの言葉に我を取り返す朕。あのまま呆けさせてもよかったけど、実際どうでもいいことだったし気になったのはまさにそこだ。
ステータスをどうにかできる、と言うのがどの程度かはわからない。だけど仮にレベルを下げたりスキルを取り上げるとかができるなら手も足も出ない。アタシの強さは<フルムーンケイオス>のルールに沿っていることが大前提だ。そのルールを操作されたら前提がなくなる。
でも今の会話で分かったこともある。
「へー。ってことはアンタ自身はステータスに干渉できないんだ。それができるのは悪魔で、アンタは悪魔のパシリってことね」
「パ、パパ、パパパ、パシリだと!?」
「だってそうでしょ? 正義だのなんだの言ってるけど、アンタは悪魔そのものじゃない。悪魔の命令を聞いてイキってるだけの小物じゃない。
アンタは悪魔の力があるわけじゃない。悪魔の力でそのモンスターのガワを与えられただけの、人間なんだから」
「ち、違う! 朕は、朕はあのお方に認められた――」
「ぷぷ、小物が小物を披露してる。与えられた実力でイキがってるなんて、ざーこ。悪魔の力を盾に威張ってるだけなのに、なんでそんなに偉そうにできるかなー? 頭悪いんじゃないの、アンタ」
「ぐ、ぬ、ふざけるなああああああ!」
そうだ。こいつ自身は悪魔じゃない。いきなりステータスをいじられてレベルを1にされたり、スキル永久封印とかができるわけじゃない。ラクアンの住人の記憶を弄ったのも、聖女ちゃんやおねーさんの記憶がおかしいのも、こいつが何かしたわけじゃない。
あくまでこいつは悪魔のパシリ。アタシの戦略が通じる相手。
だから怖れることはないわ。
「うわー。もしかして図星言われて怒ってる? 朕がラクアンの支配者とか世界を変えるとか偉そうなこと言ってたくせに、結局他人の力で威張ってるだけだって指摘されて逆ギレ? ちっちゃーい。ナタちゃんちっちゃすぎー。
あ、ごめーん。ちっちゃいけど頑張ったんだよね、ナ・タ・ちゃん。ほら、もっとがんばれっがんばれっ。もしかしたら大きくなれるかもよ。人間的には小さいけど」
「なんでそこまで過剰に煽るんですか、トーカさん」
「いいじゃないの事実なんだし。アンタも程度はどうあれ似たようなことは思ったんでしょ?」
「ノーコメントです」
非難するような聖女ちゃんの言葉に、頷き返すアタシ。よしよし、調子戻ってきた。
「どこまで虚勢を張っても、貴様らが五行結界の中では朕に勝てないことは明白だということを忘れるな! すべてを自然のままに返すこの結界内では、貴様らの卑劣な術は全て無意味! じわじわと血を流しながら尽き果てるがいい!」
怒りの声をあげながら攻撃を繰り出すナタ。6属性の武器が乱舞し、その度に聖女ちゃんがダメージを受ける。聖歌で回復を施し、アタシも【ピクニック】で補助の回復をするが、じわじわと追い込まれているのは確かだ。
【威光】の効果でナタに<盲目>が入って命中率は下がっているが、それでも当てて来るコイツの命中率はさすがボスキャラ。あるいは、人間時はもともとそれぐらいできるだけの戦士だったのかもしれない。
「うみゅううみゅう! あまり火力が出ないよー! つまんないつまんない!」
炎の矢を放ちながら文句を言うアイドルさん。カウンターと自分の攻撃、そして魔眼の追撃で高速展開するアイドルさんの戦術は、大量のバフが大前提だ。安定した回避率があってのカウンター高速展開。それがない以上、前に出るのは危険だ。
ジリ貧。まさに今の状況を表すならその言葉だ。攻撃に対する回復は十分とは言えず、相手のHPを削りきるだけの火力はない。バフによる強化を封じられたのでできる手立ては半分以下になり、じわりじわりとリソースを削られていく。
「フハハハハ! この圧倒的な力を見ろ! そしてひれ伏せ! 激痛の中で許しを請え! 自らの矮小さを魂に刻みながら、朕の偉大さに恐怖せよ!」
「借り物の力でよくそこまで威張れるわね」
「借り物? 違うな、朕の器の大きさを信用したあの方々から下賜されたのだ。この世界を正すために、正しい存在として認められたのだ!」
手も足も出ないアタシ達を前に、増長するナタ。どれだけ生意気なことを言おうが、現実として手も足も出ない。否、これまで生意気にしていたからこそ何もできない子供のアタシ達にいい気になれるのだ。
「……もしかしてですけど。トーカさんのとばっちりじゃないですか、これ」
「ぷくー」
「アンタ鋭いわよねー」
相手の攻撃を受けながらそんなことを言う聖女ちゃん。それに守られながら肩をすくめるアタシ。まあどれだけ相手に寄り添っていたとしても、この状況で相手が手加減するわけもないんだけど。
「貴様らの運命はすでに決まっている! 身も心もズタズタにして、骸も惨めにさらしてやる! フハハハハハハ!」
ナタは小物だけど、この言葉だけは正しいわね。
アタシ達の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます