25:メスガキは五行結界に難儀する

「五行結界、限定発動!」


 顔が三つ激おこになったナタの周りに、五つのボールが現われる。それはナタの周囲を守るように回転し、淡く輝いていた。あれが五行とか言うのを表しているのね。


「五行相生! 陽の流れに沿い、朕の力を増せ!」


 ナタが叫ぶと同時に、五つのボールが強く発行してナタに力を送る。物理&魔法の攻撃力防御力増加。ダメージを与えた時にHP回復。雑だけど強いバフね。腕が多いからなんだろうけど攻撃回数が多いナタには相性ばっちりのバフ効果。


「五行相剋! 陰の流れに従い、国賊に綻びを!」

「にゃあにゃあ!? アミーちゃんの妖精たちがそっぽむいちゃった! どうしてどうして!?」


 ナタの言葉と同時にアイドルさんが叫ぶ。アタシもその理由は理解できた。


強化解除ディスペル? 今まで乗せてたバフ効果を全部一気に打ち消したのね」


 強化解除。要するにかけられた強化効果バフを全部一斉に解除する技だ。アタシにかかっている【太陽は東から】【ランウェイ】も効果が消えた。でも慌てることはない。解除されたならもう一度かければ――


「無駄だ」

「うそうそぉ!? 妖精さん拍手してくれない? やばいやばい!」

「そんな……ワタクシの支援が……」


 再びバフを乗せようとしたアイドルさんが慌てたように叫ぶ。アタシも聖女ちゃんやおねーさんの支援が来ないことに驚いた。二人が事態に気づかないなんてことはない。むしろきちんと行動しているのに、効果が発揮しないことに疑問を感じている。


「強化解除に強化不可のバッドステータス? デタラメね」

「五行相克。五行の流れを逆転させ、力を削ぐ考え方です。おそらくその影響かと」

「術に頼って力を増す卑劣な者たちが。これでようやく正々堂々と朕の恐ろしさを教えてやれるというモノよ」


 アンタ自身はバフもりもりなのに何言ってんのよコイツ。


 って罵りたいけど、そんな余裕もない。これまでの戦術が一気に崩壊したのだ。その立て直しのために情報を確認しないといけない。


「アビリティ自体は発動できる。常時発動系は問題ないし、回復も大丈夫」


 アタシは手持ちのお菓子を口にする。常時発動の【スパイス!】は発動しているので、回復量に問題はない。範囲内全員を回復する【ピクニック】も問題なく発動した。


「アンタ、【聖体】と【威光】はいける?」

「大丈夫です。あ、でも守りが硬くなったわけではなさそうです。あくまで光るだけみたいですね」


 アタシの言葉に迷うことなく二つのアビリティを行使する聖女ちゃん。以心伝心て素敵。【聖体】の攻撃力増加と、【威光】の防御力増加は付与されないが、聖属性や相手を<盲目>にする効果は行けるようだ。


「なるほど。数字の増減を妨げるだけみたいね」

「ちょっとちょっと! だけっていうけどアミーちゃん結構大ピンチなんだけど! きゃあきゃあ!」


 バスによる数値上昇で優位に立っていたアイドルさんは、その効果がなくなり必死になっている。高い敏捷のおかげで素の回避率が高く、それでどうにか避けてはいるが長くはもたないだろう。先ほどまでの余裕はなくなっている。


「センターやりたかったんでしょ? がんばってー。それとも交代したほうがいい?」

「ぐぬぐぬ……! アミーちゃんはアイドルだからコンサートの途中では抜けれないのだ。がまんがまん!」

「アミーさん。途中で新人に中継ぎさせるのも、コンサートの流れですよ」

「いえすいえす! 真打再登場までステージは任せた。ちゃおちゃお!」


 アタシの煽りに渋面になって踏みとどまるアイドルさん。それを見かねた聖女ちゃんがため息交じりにそう言った。その言葉を受け入れ、前衛と後衛が入れ替わる。


「ほう。貴様が朕の相手か。異国の僧兵がどの程度のものか、教えてもらおうか」

「未熟者ですが、よろしくお願いします」


 そう。聖女ちゃんが前衛だ。装備品やHPの高さから言って、バフなしで一番生存確率が高いのが聖女ちゃんなのだ。言っても、同レベルのガチタンクと比べると防御力自体は低い。はるか高レベルのナタの攻撃に耐えれるかと言われると疑問だ。


「聖なるかな、聖なるかな――」

「ぷくー!」


 そこをカバーするのが【深い慈愛】の常時HPを回復させる【聖歌】と【使い魔】だ。十全とは言えない防御力の穴を埋める回復と、使い魔のHP。んでもってアタシの【ピクニック】【スパイス!】による回復。


「ふんふん! バックダンサーだけど手は抜かないからね! 燃えろ燃えろー!」


 メイン火力は後衛に立つアイドルさんになる。おねーさんの【ランウェイ】と【カワイイは正義】の数値増大効果が乗らない以上は、アタシが前に出るのは危険だ。属性防御で半分カットされるとはいえ、素のHPの低さと防御力の低さで致命傷を負いかねない。


「浅知恵だな。どこまで工夫を重ねても、天性の帝に勝てる者ではないと知れ。生まれと才能の違いを理解して、地面に伏して朕の名を魂に刻め!」


 言ってナタは炎の槍を振るう。この状態でも6属性攻撃は変わらないようだ。聖女ちゃんは歌いながらその攻撃を受ける。ダメージの何割かを【使い魔】に割り振り、聖衣ローラの守りを突破した痛みで表情を歪める。


「脆い脆い。朕の剛力をもってすれば黒鉄の鎧でさえ紙のようだが、それすらないとはな。所詮は女子供の強がりよ」

「はい。私は子供です。それでもあなたのやっていることが正しくないことはわかります」

「正しくない、だと?」

「貴方はラクアンの領主を目指していたのに、我欲に溺れたと聞きました。町を自分の財産と勘違いし、住む人たちを苦しめたと」


 ナタが追放されるまでの話は、ラクアンオバサンから聞いている。壁の向こうで何かあったかまでは知らないけど。


「領主は民の為に働く立場です。それを勘違いして、しかも悪魔と手を組んで手に入れようなんて子供でも間違っているってわかります!」

「はん。だから貴様は子供だというのだ。朕はラクアンを統べるために生まれてきたのだぞ。朕のものであるラクアンをどうしようがかってだろうが」


 聖女ちゃんの言うことは正しいけど、それが通じない価値観もある。ナタからすればこの町が自分のものであることは生まれた時からの常識なのだ。今更覆るわけがない。だからこそ、クーデターなんて起こせたのだ。


「それに悪魔が間違っているなど、誰が決めた?」

「え? ……悪魔は、人と契約して不幸に陥らせます。現に私達はチャルストーンで悪魔に操られた騎士が街を襲ったのを――」

「それは人間が罪人だからだ。罪人は斬られなければならない。その騎士は、この世界の正義に目覚めたのだろう」


 言って笑みを浮かべるナタ。うわ、なんか悦に浸っててキモイ。


「人間が罪人とか何言ってんのよ。豚とか牛とか食べるから命を奪った罪とかそういうのなら一昨日来なさい。しょーもないわ」

「貴様らは『ステータス』がどういう存在なのか知っているか?」


 いきなり話が明後日の方向に飛んだ。一昨日来いって言ったのに明後日に飛ぶとかどういうことよ。


「ワタクシ達が神から与えられた加護……と聞いていますが」


 おねーさんが答えたのは、この世界の一般常識だ。アタシからすればゲームの設定で、そんな話もあったわねー。ぐらいのプレイに関係ないお話。


 確か剣の男性神、天秤の女性神の双子神と、その母親である聖母神が人を守るために与えたとかそういうの。剣の神が戦士系の技を。天秤の女神が魔法系の技を。それ以外は聖母からの贈り物。


 ちなみに聖女ちゃんの聖衣ローラにはその三つの神を示す印が刺繍されてるわ。


「神!? ふはははは! 確かに貴様らはその神から与えられたのだろう! だがその神はどこから『ステータス』の技法を得たと思う?

 貴様らが悪魔と呼ぶ存在こそが『ステータス』を作ったのだ! 貴様らが神と呼ばれる存在は貴様らが悪魔と呼ぶあの方々から『ステータス』を盗んだ罪人だ!」

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