24:メスガキはアイドルの戦闘を見る
「やほやほー! お久しぶりだね! アミーちゃん、りたーん! この前はけんもほろろだったけど、今日はばっちり決めちゃうからね。よろよろ!」
アイドルさんは言うなりVサインをしてナタの前に立つ。服装は炎をイメージした赤いひらひらのドレス。武器らしい武器は持っていないけど、『
「貴様……スーと一緒にいた護衛か! 珍妙な技を使って翻弄していたが、朕の武技の前に尻尾を撒いて逃げて言ったな」
「スー?」
「あらあら? トーカちゃんも会ったじゃないの。ラクアンちゃんの前の名前だよ。言ってなかったっけ? なかったっけ?」
「言ったかもしんないけど覚えてないわよ。んな名前」
ラクアンオバサンの本名とか、あまり興味ないし。
「ふん! 負け犬がおめおめと帰ってきたか。朕の恐ろしさがまだ理解できなかったようだな」
「アタシ相手に傷一つつけれなかったくせに、なに偉そうに言ってるのよ」
「しーしー! 今は悪役のターンなんだから喋らせてあげてよ! ここで盛り上げないと、アミーちゃんが輝けないじゃないから! お願いお願い!」
肩をすくめるアタシに唇に指をあてて言うアイドルさん。
「そもそもそもそも! トーカちゃんは容赦なさすぎ! 完全封殺しての勝利とかキラキラできないじゃない。相手を立たせて、その上で勝たないとダメなの! ダメダメ!」
「完璧に手を尽くすことの何が悪いのよ?」
「のーのー! 悪くないけど輝けないの! 艱難辛苦を乗り越え、相手をうまく輝かせ、その上でもっとアミーちゃんが輝く! キラキラピカピカなアイドルには、演出が必要なんだから。わかるわかる?」
「要するにヤラセ?」
「ぶーぶー! トーカちゃんの意地悪意地悪ー!」
頬を膨らませるアイドルさん。
でも主張したいことは何となくわかった。自分が目立つ踏み台にしたいから、その踏み台はきれいで高いほうがいいってことね。適当に相手の強さを見せつけて、その上を行く自分がすごい。そう褒めたたえられたいのだ。
「はいはい。じゃあアンタにしばらく任せるわ。危ないって判断したら介入するから、そん時は文句言わないでよね」
「うぃうぃ。アミーちゃんにお任せお任せ!」
「ほう。朕と一騎打ちを挑むのか? 二対一ならまだ勝算はあるものの。その選択を後悔させてやる」
さっきまで一対一でアタシに勝てなかったヤツがなんか言ってる。滑稽ね。
「当然当然! あの時はキミの妹を守りながらの戦いだったからね。今のアミーちゃんは何物にもとらわれない自由な風! さあ、妖精の歌と踊りを見せてあげるよ。レッツダンスダンス!」
しかもナタとアイドルさんとの最初の戦いは、アイドルさん側の撤退戦。護衛対象を見事守り切って撤退したアイドルさんの勝ちだ。ナタは相手が逃げたことで優位に立っている気になってるんだけど、実質こいつが負けてるのよね。
いろいろツッコミたいけど、言うとアイドルさんがぶーぶー文句言いそうなんで黙ってる。一歩引いた場所で、いつでも参戦できる用意はしておくことにした。
「ぎゅんぎゅーん! 踊れ四精霊! 奏でよ天の果てまで! 今、悪魔を倒すコンサートの開始だよ! ごーごー!」
【妖精舞踏】の4アビリティ――【風のバレエ】【水の舞】【炎のベリーダンス】【大地のステップ】を一気に発動させるアイドルさん。前も言った回避上昇、ヘイト集中、攻撃速度上昇、バステ抵抗率アップの四つが乗る。常時リソースを削る厄介なデメリットはあるけど、その分効果が高い。
「それではそれでは! 先ずは派手に花火をあげちゃおう! ばんばーん!」
最初に使ったのは【精霊術】二番目のアビリティ、【妖精花火】だ。四属性のうち一つを選んで炸裂させる範囲攻撃。これと一番目の単体攻撃アビリティ【精霊矢】を駆使するのが、妖精の名を冠する魔法使い系ジョブの戦い方だ。
「ぬるいぬるい! この程度の圧力で朕を止められると思ったのか!」
純粋な威力はクリティカルが出ないアタシの一撃なんかよりもずっと高い。だけどナタを倒すには至らない。ナタは土属性の爪を振るいアイドルさんに迫る。
「きゃんきゃん! アミーちゃんを捕まえたいのならもっと頑張れ頑張れ!」
その攻撃を自分でかけたバフと素のステータスで回避するアイドルさん。そして攻撃対象になったので、【幻想術衣】のアビリティの一つが発動する。8レベルで覚えられる【羽衣武舞】だ。
「ひらひらー。風のように舞い、水のように流れ、土の香りを振りまきながら、火のように熱いアミーちゃんのダンス! 一緒に踊ろう、さあさあ!」
攻撃してきた対象に着ている衣装に合わせた魔法攻撃を仕掛けるカウンターアビリティ。今アイドルさんが着ているのは炎の衣装。スカートが回転に合わせてふわりと舞い、その回転を追うように炎が生まれる。炎は蛇のようにナタに絡みつき、そして爆ぜた。さらに、
「キラキラッ! キミに届け、この熱い想い! ウィンクウィンク!」
さらに【精霊術】6レベルで覚えられる【魔眼装備】で装備している灼眼の効果が発動する。相手にダメージを与えた時、一定確率で魔眼の属性に沿った魔法追撃が入る。カウンターだろうが自分の攻撃だろうが関係ない。装備者がダメージの発生源ならいいっていうぶっ壊れ。
「グ……オオオオオオオオ!」
これが妖精衣の戦い方。自分専用の服や回避力を中心に防御力を高め、ヘイトを集めて自分の攻撃とカウンターで一気に仕留める。前に立ち踊ってるだけでモンスターは殲滅されるのだ。
「く……! 属性転換! 鎧よ、炎を纏え!」
「次は次は! 氷の舞だよ! 雪の妖精さんと一緒に輪となって踊れ踊れー!」
ナタが自分の防御属性を変化させるのに合わせてアイドルさんも魔眼と服を入れ替える。【幻想術衣】4レベルのアビリティ【妖精円舞】だ。魔眼や、妖精衣が作った服限定で、戦闘中でも武器や防具の装備が変更できるアビリティ。
回避力を抜けてナタの攻撃が当たったとしても、妖精衣の作った服は並大抵の鎧よりもずっと防御力がある。リソース管理さえ怠らなければ、一撃で戦闘不能と言うことはまずないだろう。
「予想通りだけど、えげつないわね」
援護は要らない、とばかりにアタシは後ろの聖女ちゃんとおねーさんのところに移動する。【太陽は東から】でMPを削られている聖女ちゃんを回復させるためにジュースを飲む。【ピクニック】の効果で聖女ちゃんとおねーさんも回復した。
「すごいですね、アミーさん。トーカさんとは違った形でナタを圧倒しています」
「回復方法さえしっかりしてればたいていの状況でも切り抜けれるわ。
圧倒していると言っても見えないところでアイドルさんはリソース管理で必死になっているはずだ。あの状態の妖精衣は時間ごとにHPもMPもガンガン減っている。手が空いているからポーションは飲めるけど、それでも余裕はあまりない。
あの強烈な連続攻撃は、多大なデメリットを追っている短期決戦型の速攻スタイル。あるいはポーションがぶ飲みの被弾覚悟の戦い方だ。
「LALALALA~。豊かなる大地の慈愛♪ 今日のアミーちゃんは主人公! 妖精さんもノリノリだよ。いぇいいぇい!」
まあ、当人はそんな様子もなくいつもの調子でポーズを決めている。でも見えないところでこっそりポーション飲んでるのは見えた。HPとMPを同時に回復させるたっかい奴だ。アタシのトランプとか服とドレスもそうだけど、アイドルさんも相応のアイテムを削ってる。
「朕を……朕を愚弄するなぁああああああ!」
その結果が、今のナタだ。アタシ相手には傷一つ与えられず、アイドルさんはダメージを与えられるけどその度に手痛い追撃を食らう。聖女ちゃんやおねーさんのバフ効果もあって、効果は絶大だ。
「盗人ごときが正当なる支配者の朕に逆らうなど、許せぬ許せぬ許せぬぅ!」
激昂するナタ。三つの顔が全部怒りの顔に変わる。地面からオーラが吹きあがり、周囲の温度が下がった気がする。HPが一定以下になったんで、形態変化したのね。このまま勝てたら楽だったのに、そういうわけにはいかないか。
「五行結界、限定発動! 貴様らごときには過ぎた術だが、世界の理と己の罪を味わうがいい!」
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