23:メスガキはナタと戦う

「殺す! オマエだけは朕が苦しめて殺してやる!」


 ナタは言いながら首を回転させる。ちょっとキモイ。怒りの表情を出し、炎の槍を手にした。


「できもしないことを叫ぶと自分の器の小ささを露呈するわよ。やめなさい」

「言ってろガキ!」


 燃え盛る炎の槍を薙ぐように振るうナタ。アイドルさんの話だと、この顔の時は単体強攻撃だ。ダメージが2倍になる属性攻撃。手にしている武器が炎なんで、火傷系のバッドステータスも乗るだろう。


 でも無意味。アタシは【早着替え】で沙羅双樹曼殊沙華に着替える。炎属性を完全にカットするドレスを着て、振るわれる炎の槍攻撃を受け止めた。


「ぷぷ、『言ってろガキ』? 偉そうなことを言っておいて、何その攻撃? もしかして今ので殺すつもりだったのぉ? ねえ、おしえてー」

「無傷だと……! そ、そうか。朕の主武器をスーから聞いて対策を立てたのだな! おのれ卑劣な! 正々堂々と戦わず、相手の弱点を突いてのし上がる女々しいあいつが考えそうなことだ!」


 アタシがまるで傷を受けていないことを見て驚くナタだけど、すぐに顔を笑みに歪める。


「してやったり、と言う顔だな。だが朕の武器はこれだけではない! 稲妻を纏いし鞭を食らうがいい!」


 言うなり炎の槍が消え、その手には黒くて長い棒が握られている。鞭とか言ったけどどっちかって言うと金属の棒だ。映画で見たアメリカの特殊警棒に近い感じね。畳んで収納はできなさそうだけど。


「朕が複数の武器を有しているとは知らなかっただろう? 対策したつもりがそれも無駄だったよ言うことだ。所詮は子供の浅知恵。朕の崇高なる知恵と力の前には言葉通りの児戯と言う事よ!

 死ね死ね死ねぇ! 天の怒りをその身に受けて朕を愚弄した罪を悔いるのだ! 貴様の涙が枯れるまで許すつもりはないがな!」


 言葉通り、稲光を放つその武器をアタシに向けて振り下ろすナタ。見た目通りに雷属性が乗った武器だ。さっきと同じく【早着替え】でパンクロッカーに着替える。おねーさんの【ランウェイ】の効果で、雷への耐性が100%になるわ。


 とーぜん攻撃は全部カット。振り下ろされた武器は、アタシに毛ほどのダメージも与えずに止まったわ。


「あはははははは! おかしー。全然痛くないんですけどー。もしかしてアタシを笑い殺したいの? 笑って涙流しそう。枯れるまで頑張ってねー」

「なん……だと……!?」


 アタシは全然無事な状態で相手を嘲笑う。


「子供の浅知恵? 児戯? そりゃそーよ、トーカ子供だもん。その子供の知恵に翻弄される朕さんは子供以下じゃない?」

「うぐ……!」

「ねえ、どんな気分? 相手の裏をかいたつもりが実は裏をかかれてたのってどんな気分? ねえ、おしえてー。アタシ子供だからわかんなーい」

「この、ガキ……!」

「きゃー。語彙力消失してるー。あれだけ偉そうに知恵とか力とか言ってたくせに、何も言い返せないなんて頭悪ーい。そんなんで王様になりたいとか、ばーかじゃない? 身の程を知りなさいよ」


 アタシの言葉に感情のままに攻撃を繰り返すナタ。羽衣のような水の武器、モグラの爪のような格闘武器、弓から放たれる光の矢、黒い宝珠から放たれた闇の触手。攻撃手段も扇形や貫通型と様々に変化していく。


 その度にアタシは【早着替え】で属性に対応した服に着替え、その攻撃を受け止めていく。属性攻撃とそれに伴うバッドステータスでまともに食らえばタンク職でも半壊しそうな連続攻撃。それをアタシはノーダメージでいなしていく。


 これができるのはアイドルさんから情報を得ていたからに過ぎない。無策で突っ込んでいたら、間違いなくやられていただろう。さすがに前の暗黒騎士おにーさんみたいに『殺さない』とかいうことはなさそうだし。


「クッソ、クソ、クソクソ、クソクソクソクソ! 死ね、死ね、死ね死ね死ねぇ!」


 顔真っ赤に秘して必死にアタシに攻撃を仕掛けるナタ。うん、演技には見えない。殺さないで手加減するとか、絶対そんなことない。


「ねえ、おーさま」


 アタシはトランプを手にして微笑んだ。


「ざ・こ」


【笑裏蔵刀】。アタシの初撃が必ずクリティカルになるアビリティ。


 トランプ自体の攻撃力と遊び人であるアタシのステータスの低さゆえに素の攻撃力自体は低いが、『格上殺し』系のトロフィーによる自分よりレベルが上の存在に対しての攻撃力増加。更には『単独撃破』によるボスキャラへのダメージ補正。【太陽は東から】による攻撃力増加。これらを乗せたクリティカル攻撃がナタに叩き込まれる。


 さんざん無力感を与えて疲弊したところに衝撃的な一撃が襲い掛かってきた。しかもさんざん子供と罵っていた相手にだ。


「がぁ……! なんだ、この威力は……! こいつは遊び人のガキじゃなかったのか!?」

「そーよ。トーカは遊び人の子供よ。そんなトーカにこんだけダメージ食らうとか、情けなくない? しかもこんなトランプで」

「ふざけるなぁ! そ、そんなことが……! 貴様のジョブは……間違いなく遊び人……ならなぜ!」

「子供の遊び人にいいようにされて、しかも痛いって泣き叫んで。なっさけない姿ね、おーさま。鏡見る? それともそのまま田舎に帰る? ああ、ここが実家だったんだっけ、追い出されたけど。帰る所ないじゃん、このニート。人生詰んでない?」


 ここぞとばかりに煽るアタシ。やーん、たのしー。


 最高の一撃を与えるためだけにあえて最初は攻撃させて、時間ごとに攻撃力が増していく【太陽は東から】の攻撃力増加が最大値になるまで待ってたんだから。


「き、き、キサマぁ……!」

「どうしたのぁ? もしかして言い返せない? ここを出たら行くところないとか言っちゃダメだった? ごめーん。ここがアンタの唯一の居場所だもんね、くず」

「……!」


 アタシに叫ぶことさえないぐらいに怒りに身を任せて攻撃してくるナタ。しかしやることは同じだ。ならばアタシもやることは変わらない。服を着替え、トランプを投げ、少しずつナタのHPを削っていく。


 とはいえ状況はいいとは言えないわ。アタシはノーダメージでMP全く消費していないんだけどナタに与えるダメージも微々たるものだ。クリティカルが出ればダメージは大きいけど、それでもナタの総HPからすればまだまだだ。


 結局のところ、戦況はあまり変わっていない。アタシとナタがこのまま一対一で戦い続けた場合、日が暮れても終わらないだろう。兵士の援軍が来るか、あるいはアタシが飽きるか。どっちにしても勝利の目は見えない。


 なんでできるだけ早くアイドルさんがこっちに来てほしいんだけど。


「きゃんきゃん! アミーちゃんとダンス勝負したいだなんて身の程を知るんだね。アミーちゃんは歌だけじゃなく踊りもサイコーなんだよ。こっちこっち!」


 ダンシングソードのヘイトを一気に集め、回避上昇のバフを自分にかけて踊るように動き回るアイドルさん。一応攻撃はしているみたいだけど、傷つかないようにしていることもあってか攻撃への割合は低い。


「早くこっちに来なさいよアンタ」

「やーんやん。せっかくのダンスバトルなんだからもう少し楽しみたいのー。アイドルなんだからもっと踊りたーい。ダンスダンス!」

「……遊んでる間にアタシがナタを倒すかもだけど?」

「やだやだー! 速攻で倒してそっち行くから待ってよね、よね!」


 うん。なんとなくだけどアイドルさんの扱い方が分かってきたわ。


 ――アイドルさんがダンシングソードを倒してこっちに合流するまで、さしたる時間はかからなかった。

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