22:メスガキは朕を煽りまくる
「……何者か。朕はラクアン。この国の王なるぞ」
目の前にいる六本腕と顔に三つの顔が張り付いているモンスター。ラクアンを名乗ったそれは深々と玉座に座りアタシ達に敵意を示す。顔が三つあってそれぞれに表情があるけど、あの時あった少年の面影が確かにあった。
「ラクアン……確かこの町の領主はそう名乗る風習と聞きましたが」
「町ではない。国だ。このラクアンはヤーシャから独立する。いずれヤーシャを飲み込み、そして世界を統一するのだ」
聖女ちゃんの問いに答えるモンスター。自分が優位に立っていると思っているのか、べらべらと野望を語る。町から発展して国になって世界を取る。それができると信じている声だ。
「はん、悪いけどアンタの野望なんてどーでもいいのよ。アタシは壁の向こうに行きたいんだから、サクッと倒されなさい。
ま、トランプ兵に四苦八苦する程度の兵士しか扱えないんだから無駄なんだろうけど」
「人間など使い捨てだ。五行結界が完成したら、向こう側の魔物をこちらに呼び寄せる。結界を解除したければ、五方向で結界を維持している大臣達を倒すんだな。もっとも、貴様らには見つけることもできまいが」
アタシの挑発に、嘲笑するように言葉を返すモンスター。ここに来たのは徒労だ。結界を解除したければ別のところに行け。
アタシ以外の人間ならそれに従ったかも知れない。なにせ大臣は『いる』と思っているからだ。
「んなわけないでしょ。『五つの宝』はアンタが持ってんでしょうが。大臣なんて脳内設定作ってるボッチ妄想お疲れ様。
あのオバサンのお兄さんだから、実年齢は30超え? じゃあボッチオジサンね。見た目は子供、中身はオッサン。やーだー、加齢臭がするー」
「――なに?」
アタシの言葉にモンスターの声に違う感情の色が乗る。余裕と言う仮面を外した素の声。
「自業自得で家から追い出されたから、悪魔の力を借りて仕返しに来たのよね、オジサン。やーだー、逆恨みもいい所じゃないの。しかも自分の力じゃなく、他人の力で。いい年して恥ずかしくないのかなー?」
「うぐ……!」
「しかもいもしない大臣使って時間稼ぎとかせこい真似しちゃって。そんなセコイ性格のくせに椅子に座ってふんぞり返って王様気取り。そして目的が世界征服? ぷぷぷ、もう一回言ってくれる? 『もっとも、貴様らには見つけることもできまいが』……だっけ? ねえ言ってみてよ。オ・ジ・サ・ン」
モンスターの真似をして告げるアタシ。セリフの度に顔を真っ赤にするモンスター。
「だ、黙れェ! ち、朕を愚弄するなぁ! そうだ、朕はラクアン。この地を統一し、世界の覇者になるために生まれてきたんだぁ!」
「はぁ? アンタの名前はナタでしょうが。ちっちゃいころにわがまま言って妹に家を取られたナーターちゃん。もしかして自分の名前を忘れるぐらいに年取ったの? オジサンだから仕方ないわよねー」
「朕をその名で呼ぶなぁ! 朕は、朕は……!」
うっわぁ、煽り耐性ゼロね。椅子から立ち上がり、肩で息をする。分かりやすいぐらいに怒ってるわ。超ウケる。
「事実ですけどそこまで言わなくてもいいじゃないですか」
「これもアタシに攻撃を集中させる作戦なのよ」
「本音は?」
「自分の作戦がうまくいってる、って思ってるオジサンにばーかって言ってやるの超楽しい♡」
アタシの素直な言葉にため息をつく聖女ちゃん。なによぅ、ヒトとして正しい事じゃないのよ。
「……まあ、ここで止めないといけないのは事実ですし」
「煽り顔のトーカさん、最高です! ああ、ワタクシもあんな感じで罵られたい……!」
「ぶーぶー。アミーちゃんがかわいいかわいい前口上決めたかったなー。でも仕方ないか。うんうん」
言いながら戦闘隊形に入る聖女ちゃんとおねーさん。そしてアイドルさん。アタシとアイドルさんが前衛に立ち、聖女ちゃんとおねーさんを後ろに回す形だ。アタシ達が着ている防具は全部『服』『ドレス』属性。テーラーおねーさんのアビリティとマッチする。
「貴様ら等ズタズタに引き裂いてやる! 特にそこのガキは絶対許さん! 傷だらけのまま毒ツボに浸して死ぬまで苦しめてやる!」
「きゃー。変態な大人に変なクスリを塗られちゃうー。トーカ、傷物にされちゃうわー」
「変な意味にとられかねないことは言わないでください」
顔を赤らめながらもしっかりツッコんでくれる聖女ちゃん。言いながら【太陽は東から】を歌いだす。歌っている間、周囲の仲間の攻撃力と攻撃速度を少しずつ上げていく聖歌だ。相手の攻撃は服の属性でカットするから、防御アップバフは不要と判断しての選択である。
「さあさあ! 可愛い幼女達のオンステージです! ライトアップ!」
んでもっておねーさんの【ランナウェイ】だ。アタシの【カワイイは正義】の全体版。おねーさんには効果が乗らないけど、ほかの三人は防具の効果が二倍になる。この戦いの要だ。
「いぇいいぇい! アミーちゃんのコンサートにようこそ! アミーちゃんのこと見てくれないと、泣いちゃうぞ泣いちゃうぞ!」
アイドルさんは言いながらポーズを決める。使用したスキルは【妖精舞踏】で得られるの4アビリティ。回避上昇、ヘイト集中、攻撃速度上昇、バステ抵抗率アップの四種バフがのる超強いアビリティだ。同時に使用している間は常時HPとMPを削られる諸刃でもある。
「来い、
ナタが叫ぶと同時に、6本の剣が飛んでくる。ダンシングソード。騎士系のボスがよく使っている取り巻きモンスターだ。中華っぽい剣なのはヤーシャのボスだからね。アイドルさんからの情報にはなかったけど、この程度なら誤差の範囲。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:ラクアン(ナタ)
種族:%$#(ボス属性)
Lv:153
HP:13981
解説:三つの顔と六本の腕を持つ魔物。6G$#(&(】FFFFFF――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:二龍剣
種族:魔法生物
Lv:71
HP:213
解説:宙を舞う双剣。持ち主の糸に従い、持ち手がいなくなくとも戦う剣。
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ナタの表記がバグってるのは、悪魔の影響なのかもともと<フルムーンケイオス>にいないモンスターだからか。事前情報通りなら6属性×3種類の範囲攻撃。でもその対策はばっちりよ。
んでヤーシャ風ダンシングソード。2本で1体のモンスター扱いだから実質増えたモンスターは3体になる。データ通りなら連続で攻撃してくる【スラッシュコンボ】かその上位系の【ダンスマカブル】を使って来る。おそらく無属性攻撃だから、アタシが食らうと大ダメージ。でもアイドルさんがひきつけてくれるから、そっちに任せればいいわ。
「アタシがナタオジサン。アイドルさんが剣を相手して。剣が後ろに行ったら聖女ちゃんは聖歌を解除して対応して。最悪、おねーさんは離脱!」
「はい、任せてください」
「はわわわ。了解しました。トーカさんりりしい。尊い……」
「ぶーぶー。センターを譲るなんてやーだー。サクッと倒してアミーちゃんもそっち行くからね。それまで残しといて残しといて!」
事前に伝えた作戦に若干の変更を加えた感じだ。アイドルさんの実力ならダンシングソード三体でも問題ないだろう。
「このラクアンに挑む愚を後悔させてやる。あんな紙の兵隊でどうにかできると思うなよ」
「トランプ兵はアンタなんかにもったいないわよ。トランプだって安くないんだからね。ざこ王様もどきの相手なんかトーカ一人でじゅーぶんよ」
「ざ、ざ、ざざこ王様もどきだとぉ!?」
「ぷぷ。ちっちゃいころの余裕ゼロ。大人になったほうが精神的にダメとか、ほーんとざこね。じっとちっちゃいままの方がよかったんじゃない?」
「う、うるさい! 陳は、朕は神童だ! 天才だ! バカにするやつは、殺してやる!」
叫ぶナタ。面白いぐらいに煽りに乗る。たーのーしー!
でもまあ油断はできない。愉悦に浸りながらも、意識はしっかりバトルモードに移行するアタシだった。
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