21:メスガキは女王になる
ラクアンの街は、来た時と空気が異なっていた。
アタシ達がやってきたときはそれなりに活気があったけど、今は活気なんて欠片もない。クーデターという非常時に恐れをなしていることもあるけど、街のいたるところに兵士が武器を構えて立っていることが大きい。
「大臣様に逆らう者は即逮捕だ!」
「ここを通る者は、検問させてもらう!」
「武器などの危険物は所持自体が犯罪だ!」
通りの角ごとに複数の兵士が立ち、そこを通ろうとする人たちが並んでいる。検問も決して優しいものではなく、少しでも怪しいそぶりがあれば押さえられ、それに反抗すれば殴られる。むしろ殴るためにイチャモンをつける兵士もいるぐらいだ。
「居もしない大臣のためにご苦労様ね」
「彼らの中には大臣はいることになっているわけですから……いえ、正確に言えばトーカさんに言われなければ私たちも『いる』と思っていたわけですし」
「うんうん。ぶっちゃけ、今でも疑ってるもんね。大臣のほうに行ったほうが輝けるんじゃないかなって。アミーちゃん悩んじゃう悩んじゃう!」
アタシ以外の人間はナタが持つ悪魔の力で大臣が『いる』と思っている。そしてその大臣におびえ、忠誠を誓っている者達の裏でナタは嗤っているのだ。五行結界完成までの時間稼ぎに引っかかる者たちを。
「ナタが城にいるのは確実なんだから、正面突破で突っ切るわよ」
ナタまでの道中は正面突破だ。小細工なんてしない力押し。ラクアンの兵士の強さはキョンシーや虎男並だけど、とにかく数が多い。加えて言えば魔物を守る壁を守護する兵士だけあって、連携能力も高い。
『にゃあにゃあ! あいつら隙ないからアミーちゃん苦手ー! きっちり防御して回復してくるし! もっとアミーちゃんを見てよぴえんぴえん!』
とは兵士と一戦構えたアイドルさんの意見だ。タンク役を前面に出し、回復役でHP回復と同時に状態異常を解除。無属性攻撃でアイドルさんの属性防御衣装を突破して攻撃。相手の特性を理解し、それに適した陣形を取る。
「頭の悪いモンスターじゃないんだから、連携ぐらいは取るわよね」
「ですがこの状況だと面倒な話です。時間を稼がれて、その間に五行結界が完成すればおしまいですから」
頷くアタシに応える聖女ちゃん。実際その通りで、時間さえかければ突破は可能だろうけどその時間が惜しい。戦いを仕掛ければその瞬間に兵士が殺到して、数の暴力でその壁も多くなる。個人の戦闘能力では強いアイドルさんも不満を言うほどだ。
「なんで数の暴力には数の暴力よ。一気に突っ切るわ」
兵士が数と連携で反逆者を抑え込むなら、こっちも数を増やして挑めばいい。問題はその数をどうやって増やすかだけど、
「そんじゃいつもの【早着替え】!」
言ってアタシはおねーさんに作ってもらったドレスの一つに着替える。
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★アイテム
アイテム名:クイーンオブハート(高品質)
属性:ドレス
装備条件:【ドレス装備】習得
解説:トランプの世界を統べる女王が纏うドレス。トランプ兵を従えることができる。
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ハートを模した冠。赤と黒を基調としたワンピースドレス。黒いソックスに赤い靴。ところどころにハートマークが見える可愛い系ドレスよ。
「ファンタスティック! 子供の純粋さと貴族の気品が組み合わさり最強に見える! ここに立つのは純粋なワガママ女王様! 権力さえもおもちゃにする最高の幼女! 踏んで!」
縫ってくれたのはおねーさんなんだけど、いろいろぶっ壊れて自分を抱きながら悶えてる。
「ねえねえ。このヒトどうしたの? 怖いんだけど怖いんだけど」
「すみません。いろいろありまして」
初見のアイドルさんはちょっとドン引きして、それを聖女ちゃんがため息つきなががら答えている。答えになってないんだけど、アタシでもそういうしかない。
能力値上昇もなく、属性防御も何もないドレス。何も知らないとハズレアイテムにしか見えないこのドレスには、とあるアイテムを持つと化ける特殊な能力がある。それが――
「んでもって【デリバリー】! トランプ購入よ!」
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★アイテム
アイテム名:トランプ
属性:カード
装備条件:【カード装備】習得
筋力:+5
解説:投擲可能なカード。
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カードアイテムの中でも一番弱いアイテム、トランプ。これとこのドレスを同時装備すると、その間だけアビリティが一個増える。その名も――
「命令よ。行きなさい【使役:トランプ兵】!」
アタシの言葉と同時に人間大の53体のトランプ兵士が現れる。女王に従うトランプ兵。それはアタシの命令通りに戦ってくれるペーパーゴーレム。トランプは消費してなくなるけど、簡易の戦力として盾にも矛にもなるわ。
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名前:トランプ兵
種族:魔法生物
Lv:53
HP:70
解説:ハートの女王に従うトランプ兵。女王の命令には絶対服従。
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53枚で一塊のモンスター扱い。レベルもHPもアタシと同じになるわ。全能力値もレベルに合わせたフラットタイプ。性能的には特化型ステータスには及ばない器用貧乏。逆に言えば、どんな相手でもそこそこダメージを与えて耐えられる。
「何をしている貴様ら!」
往来でアビリティを使ったことで兵士達の殺気がこっちに向く。【早着替え】の段階で目をつけられていたけど、トランプ兵を召喚したことで決定的に敵対行為とみられたようね。
だけど判断が遅かったわ。トランプ兵はこちらに向かってくる兵士達とぶつかり合う。兵士達は応援を呼び、トランプ兵にダメージを与えていくわ。所詮は紙の兵士。ラクアン兵士の連携を前に敗れ去る。
「そこのガキども! 騒ぎを起こした罪で……え?」
トランプを倒した兵士は唖然とした様子でこちらを見る。正確には、新しく生まれたトランプ兵を見て。
「お疲れさま、兵士のオジサン。それじゃあ追加の【使役:トランプ兵】ね」
【使役:トランプ兵】はトランプの所持数だけトランプ兵を生み出せる。アタシが【デリバリー】で買ったトランプが一つだけだと、誰が言った?
「トランプ300個ぐらいあるから、頑張ってねー」
どんどん増え続けるトランプ兵。逐次投入なんて愚は犯さない。一気に増えたトランプ兵に通りは大騒動になる。
「何だこの数は!」
「応援を呼べ!」
「向こうの通りでも同様のモンスターが出たと!」
「おい、あのガキはどこに行った!?」
「知るか! それどころじゃないぞ!」
トランプ兵を押さえるために大騒動が起き、その混乱に乗じてアタシ達は移動する。移動しながら【使役:トランプ兵】を使って混乱個所を増やし、兵士を分散させていく。
「ばーかばーか。こんな作戦に引っかかって翻弄される兵士達ってホントざーこ。トーカの思うままに誘導されて、悔しくないのかなー?」
ぷーくすくす。トランプ兵と戦う兵士を嘲笑う余裕すらある。数は正義ね。
「わざわざ挑発しないでください。急ぎますよ」
「いーじゃない。これぐらい。元手かかってるんだしこれぐらいしなきゃ割合わないのよ」
トランプだって安くはない。こんなバカげた物量作戦ができるのは、暗黒騎士相手にさんざんドロップしたからだ。その資金があってのこの作戦である。お金は正義よ。
「なんというか……本当に女王のようです。ワタクシ、感激しました!」
「ぶーぶー。アミーちゃん輝けなかったよー。いじいじ」
おねーさんは体を震わせて喜んで、アイドルさんは不満げにしている。
「このままナタのところまで突っ切るわよ。本番はここからなんだからね」
「はい! ラクアンを救いましょう!」
一気に城内に攻め入り、トランプ兵を出しながら城内の兵士を抑え込み、まっすぐに玉座に向かう。階段を上ったその先にあるラクアン城の玉座。オリエンタルな照明と赤い絨毯の先にある椅子に座っている六本腕のモンスター。
「……何者か。朕はラクアン。この国の王なるぞ」
ラクアンを名乗るモンスターがそこにいた。
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