19:メスガキはいろいろ話をする
「作ってほしいのはこんだけあるけど、大丈夫?」
アタシは紙に作ってほしい服とドレスをリストアップし、それを渡す。
「……そうですね。一日徹夜でやればなんとか」
リストを見るや否や、真剣な表情になって答えるおねーさん。その目はまさに職人の目だ。頭の中でスケジュールとかを計算しているのだろう。
「服をそれだけ作るのに一日で終わるとか、普通じゃありえませんよ。それがスキルやアビリティなんでしょうけど」
「だからその辺にツッコんだら――ってなによ」
「いろいろあって言い損ねたんですけど、私が疑問に思ってることを言ってもいいですか?」
現実世界だとあり得ないことに驚き、アタシがゲーム設定だしファンタジーだしと突っ込むのはもう慣れたやり取りだ。だけど聖女ちゃんの瞳はそれ以上のことを言いたそうにしていた。
「それ、今言わないとダメなこと?」
「できれば。悪魔の能力に関係しているかもしれない話です。ステータスを変化というモノですけど」
ステータスの変化。
ラクアンのオバサンが言っていたことね。契約した人を『そういうNPC』にして、その関係者とかにその役割に応じた対応をさせる。その影響なのか、ここにいる兵士達はいもしない大臣が『いる』と言うと思わされている。
「厄介だけど、契約しなければ弄られないっていうんなら問題ないわ。しかもアタシには効かないっぽいし」
「はい。その理由はわかりませんが、こう考えられませんか? 『悪魔の能力が効かない』と言う役を演じさせられているかも、と」
「どういうこと?」
アタシの言葉に、慎重に言葉を選びながら聖女ちゃんは答えた。
「私たちは、ステータスにより魔法や戦闘ができます。ですが、これは冷静に考えたらおかしいと思います。私たちみたいな子供が、オーガや大人の兵士に対抗できるだけの戦力があるのは」
「まあそこは」
ゲームの設定だし、と言いかけて言葉を止めた。聖女ちゃんが言いたいのはこの次だと、雰囲気で察したからだ。
「悪魔がステータスを操作できるのなら、今の私たちが操作されていないと言い切れますか?
もっと言及すれば、今の私たちは……本当に十六夜琴音で、朝桐桃華なんですか?」
ラクアンオバサンはキョトンとした表情を浮かべているけど、アタシには聖女ちゃんが言いたいことは理解できた。
この世界の人間は、ステータスがあって当然だ。周囲に空気があるように、ステータスがある。これをおかしいと思えるのは、ステータスなんてものがない世界の考え方だ。この世界に召喚されて、まるでそうであることが当然だとばかりに受け入れていたステータスの存在。
スキル。アビリティ。ステータスウィンドウによる操作。そしてステータス。これらの存在は、アタシが元居た世界ではありえない。その力をさも当然のように受け入れた。最初は『ラノベだとそんなモンよね』とか程度だったけど、おかしいことだ。
聖女ちゃんがそれに気づけたのはゲーム感覚が皆無だったせいか、はたまたその慧眼か。ともあれ、この世界にいる人間――召喚されたアタシ達も含めて――は、ほぼすべてそれをおかしいとなんて思わなかった。
なんでおかしいと思わないかと言われれば、それを受け入れてしまったからだろう。無意識に。あるいは意識に介入されて。
『今の私たちは本当に十六夜琴音で、朝桐桃華なんですか?』
その上で、この問いだ。ステータスと言う異物をあっさり受け入れ、ステータスがあって当然という元の世界なら非現実的な考えを持つアタシ。それは召喚される前のアタシとは違うだろう。
『ステータス? つまんない妄想お疲れ様。今すぐ病院行ったら? 現実についてけないざーこに効く薬なんてないでしょうけど』
召喚前のアタシなら、今のアタシに対してそう言いかねない。ムカつくわね、アタシ!
「……あー。ごめん、後回し。言いたいことはあるけど、ちょっと言葉にならないかも」
「そう……ですね。すみませんでした」
考えれば考えるほど深みにはまる。違うと否定するのももしかしたら『そういうふうにステータスで弄られてる』かもしれないのだ。
「うんうん。話は終わったみたいだね。よきよき」
アタシ達の話が終わったのを見計らってか、アイドルさんが話しかけてくる。隣にいたんだろうから話自体は聞いていたんだと思うけど、この件に関しては触れないでいるようだ。
「ねえねえ。そんなことよりもどうやって乗り込むか作戦決めない? あ、テーマソングはかっこいいのがいいかな? 軍人系? それとも魔法少女っぽくポップにする? どうするどうする?」
「そんなこととか言ったわよ、このアイドル」
あっけらかんとした声に肩をすくめるアタシ。
でも今考えることは確かにそちらが優先だ。テーマソングはともかく、どう乗り込むかは考えておかないといけない。
というか――
「なんでアンタもついてくる気なのよ?」
「およおよ? アミーちゃんついていかないとか言ったっけ? 言ってないよね? よねよね?」
「言ってないけどアンタの事は信用してないのよ」
「わおわお。しんらつしんらつー!」
露骨に不信を示すアタシだけど、アイドルさんは笑顔でそう返してくる。そんなことにかまわずアタシは続けた。
「アンタ、都合のいい所に都合よく現れすぎなのよ。昨日だってアタシ達が迷ってるときに現れたり、今日にいたってはクーデター勃発で足止めされてるところに現れたり。そもそもあの領主オバサンが襲われてるところに偶然出てきたみたいだし。
偶然にしてはできすぎなのよ」
このアイドルさんは、なんというか狙ったタイミングで現れて自分の都合よく場を動かしている。
「大体ラクアンで会った時は『ナタに服を着てもらいたい』って言っときながらラクアンオバサンを助けたり。どっちの味方なのかもわかんないんだから」
それでいて、狙いが読めない。昨日は昨日でアタシらの為にゲリラライブして目を引いてくれたり、今日は今日で領主オバサンに引き合わせてくれたり。目的が読めない分、信用ができない。
「んふんふ。アイドルは最高のタイミングで舞台に現れるんだよ。知ってた知ってた?」
「知らないわよ。大体狙ってその状況に現れたっていうんなら、アンタの目的なんなのよ? 昨日のはおねーさんの作った作品のためって納得してあげるけど、今回は何なの?
アンタ、正義の為とか言う聖女ちゃんみたいな事いうキャラじゃないでしょ」
詰問するアタシに、アイドルさんは笑顔のままポーズを決める。
「えへへえへへ。アミーちゃんはアイドルだから最高の舞台に現れて、脚光を浴びたいの。最高に輝くために、最高の舞台を演出して、最高の歌をみんなに届けるの。わかるわかる?」
「わっかんないわよ。要するに目立ちたいの?」
「ちがうちがうー。最高にキラキラして、最高にピカピカして、最高にギラギラに輝いて、最高にキャアキャアされたいの! 目立つとかそんなんじゃなくて、多くの人ににこにこになってほしいの! わーかーれー、わーかーれー!」
ぐりぐりと人差し指をアタシの額に押し付けるアイドルさん。アタシはそれをはねのけ、腰に手を当てる。アイドルさんに指を突き返しながら言葉を返した。
「あー、うっとい! 全然欠片も理解できないけど、暫定味方ってことでいいのね? ナタを倒した後でラスボス化するとかないわよね?」
「ないない。暫定どころかズッ友だお。サインしてあげようか? あげるあげる」
「いらない。とりあえずアタシらには理解できないメリットがアンタにあるって思っとくわ」
「ぶーぶー。ずっと説明してるのにー。アミーちゃんのこともっと理解してくれてもいいのよ? ファンになってくれてもいいのよ。のよのよ?」
可愛らしく腕を振るアイドルさんから目を逸らすアタシ。これ以上会話をするのは不毛だ。うっとうしいけど、多属性攻撃のナタを相手するのに『妖精衣』が戦力として有用なのは間違いない。
「おねーさんが服を作り終えるまで、やれることは何もないわね。今日はゆっくり体を休めて――」
「何を言ってるんですかトーカさん。採寸さえていただきますよ」
何にもしてないけど精神的に疲れたんでゆっくりしようと思ったアタシは、おねーさんにがっちり肩をつかまれて部屋に引っ張られる。誰も見てないところで着ているキョンシー服を脱がされ、下着姿にされた。ちょー!?
「さ、採寸!? っていうかなんで脱がすの!?」
ゲームだと、服買ったら勝手にサイズがあったりしたんで、そういうことがなかったんだけど!? っていうかめちゃくちゃ手際よく脱がされたんだけど!?
「最高品質の物を作るには着る人の情報がいるんです。それも正確な。
服ごとに何度も採寸しますのでお覚悟くださいね」
「服ごとに、何度も……?」
「ええ、必要とあらば何度でも。トイレの時だろうがお風呂に入っていようが寝ていようが採寸させていただきますので」
「プライバシーの侵害ー!」
「時間がないんです。さあさあ!」
そんなわけで、この日アタシはことあるごとに服を脱がされおねーさんに体中をじろじろ見られながら採寸されたり服を着せられたりだった。
「服を作っている時はいつもの『発作』が出ないのは、職人魂なのでしょうね」
採寸するおねーさんの様子を見ながら、聖女ちゃんがそんなことを言っていた。
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