18:メスガキはナタの対策を考える
「――てな感じだったんだよ。だよだよ」
アイドルさんの説明は――悔しいけどよく頭に入った。若干派手な言い回しはあったけど、逆に強調すべき点はしっかり強調していたのでものすごく印象に残る。
「相手の攻撃は六本腕による属性武器攻撃。炎、水、雷、土、光、闇。顔が回転することでの攻撃モードが直線貫通と扇型と強単体攻撃に変化。鎧はこちらが攻撃を受けるたびにそれに合わせて防御属性が変化していく……。
うわ厄介ねー。確かに『妖精衣』じゃなきゃソロで戦うの無理よこんなの」
『妖精衣』は妖精による火、水、土、風の四属性による攻防が主体だ。服やアイテムなどを駆使してこれら属性の攻撃と防御を行う。戦闘中に攻撃属性を自在に変化できる変則スタイルね。
ナタの攻撃や防御が変化するので、攻撃属性を変化できないジョブだとそれで詰む。例えば聖女ちゃんは聖属性特化だから、聖属性の防御で固められたらダメージを与えられなくなる。
「三面六臂のごとく攻守ともに隙がない、と言うのはわかりました」
とは説明を聞いた聖女ちゃんの意見だ。
「そうそう。アミーちゃんの『ファイヤーラブソング』とか『ウィンディーネの恋心』とか全曲聞かせてもノリが悪くて。おまけにセクハラタッチしてくるんだよ。『シルフドレス』とか『ライトスカート』とか振るって避けたり止めたりしたりしたけど、もうやだやだー」
なお、説明の仕方はだいたいこんな感じで、アイドルさんの攻撃手段が自分の持ち歌。防御方法がアイドル衣装の説明とかである。具体的に何してんのかはわかんないけど、とりあえず属性攻撃と防御っぽいのはわかる。わかるけど。
「具体的なアビリティ名とか全然明かさないのね、アンタ」
「だってだって。それはライブで見てほしいもん。PVとかよりも直で見てもらえるほうが感動するよ。どうどう?」
とにかく徹底した秘密主義だ。アイドルってこういうモノなの?
まあ、アイドルさんの強さは二の次。大事な情報は知れたわ。ナタの強さというか特性はわかった。多属性による攻撃防御の切り替え。ボスだからHP減少とかで変化はあるだろうけど、軸は大きく変わらないはずだ。
「どうにかなりそうですか、トーカさん」
「多分大丈夫。底が見えない部分があるけど、そこは出たとこ勝負になるわ」
聖女ちゃんの問いかけに、思考しながら頷く。この特性で、第二形態になって『物理攻撃無効』とか『首切りによる即死攻撃』とかにははならないはずだ。多彩な攻撃を売りにしてる魔物がいきなり一点防御系になるとか、どんな酷さか。
でも底が見えないのは事実。そればっかりはもう想像するしかない。予測できる変化パターンはいくつかあるけど、傾向は多属性攻撃&防御への対策で行けるはず。となると……。
「おねーさんがキモになるわ」
「はひぃ!? あの、ワタクシがなにか。いえいえ、幼女に期待を込められた目で見られるのはすごく嬉しいんですけど。あの、モブAのごときワタクシにそのような幸せ、ああ、辞世の句を詠みましょう! 『幼きは 素晴らしきかな 可愛くて 見れば見るほど 溶けゆく我が身 ――ソレイユ』」
それまで話に加わらずにいつ逃げようかとおたおたしていたおねーさんに目を向ける。慌てて反応するおねーさん。いや、そこでいきなり人生悟らなくていいから。っていうか死んでもらったら困るから。
「いやそんなの詠んでる時間ないからね。おねーさんに作ってほしい服がたくさんあるの。あとドレスも」
ナタの攻撃が多属性攻撃だというのなら、アタシの【早着替え】&【カワイイは正義】コンボが光る。6属性に対応する服を着て戦えば、アタシが受けるダメージは0になるのだ。
「へ? ……そ、それは、トーカさんの服をワタクシが作るということですか?」
「そーよ。外に出れない以上、おねーさんに作ってもらうしかないの。材料もちょっと前にいろいろあってたくさんあるわ」
具体的には暗黒騎士のレイドドロップだ。お金に困ったときに小出しにして売ろうと思って溜めていたドロップ品の中には、属性服を作るための材料もある。それを使えば、6属性の服は用意できる。
「ドレスも2着ほど作ってもらうわ。時間ないから、ちゃっちゃと行くわよ」
「ま、まっまま、待ってください! あの、確認の意味も含めて何ですけど、これからそのナタと戦うんですよね。その為の準備で、ワタクシに服を……と言う事ですよね。いいんですか、ワタクシのようなテーラーにそれをお任せして」
「むしろおねーさんじゃないとダメなのよ。この場で服を作れるのはおねーさんだけなんだし」
言ってアタシはアイドルさんを見る。
「何せ『妖精衣』は自分用の服しか作れないんだから」
「いえいいえい! アミーちゃんの衣装はアミーちゃん専用! オンリーワンなんだよ。わんわん!」
『妖精衣』は属性服を作ることはできるけど、本人専用になる。だからこそ制度も効果も高くなるんだけど。
「で、でですけど……その、あまり理解が及んでいないかもしれませんけど、国家規模どころかそれ以上の戦いかも知れないんですよね、この戦い。そんな戦いにワタクシごときがかかわるなんて、そんなことが許されるわけが――」
おねーさんはこれまでずっと地道に服を作ってきた。勝てるモンスターも少なく、苦労に苦労を重ねてやってきた。服を作り、それを誰かに着てもらいたい。その思いでひたすら作り続けてきた。
自分が物語の主役になれるだなんて、想像もしなかったのだろう。何かの物語にかかわれるなんて、夢にも思わなかったのだろう。ただ地道に、ひたすら服を作ってきた。
だから、こんな反乱に巻き込まれて膝を抱えるしかないと思っていたんだろう。誰かが解決してくれる。蹲っていたら通り過ぎる。そう考えていたのに、脚光が当てられた。自分の服が、戦いのキモになると言われて――
「無理です! ワタクシごときがこんな重要な事件にかかわるなんて。失敗したら、おしまいじゃないですか。ほころびがあればトーカさんが死んじゃうかもしれないのに、そんなこと――」
「ふーん。自信ないんだ、おねーさん。なさけなーい」
おねーさんの言葉をさえぎって、アタシは言ってやる。
「そうよねー。おねーさんこれまでずっとモブキャラだったもんね。いきなり光浴びせられて、驚いて隠れちゃう陰キャだもん。ストーカー属性持った子供大好きな変態さんだもんね。ヤだキモーい」
「う、ひあぁ」
アタシの言葉に、瞳に涙をためるおねーさん。……ちょっと嬉しそうなのは、見ないふりする。
「そんだけこじらせてうじうじしても、その針だけは手放さなかったんでしょ。モブでざこで人生終わってるぐらいに変態で周囲からドン引きされても、ずっと服作ってきたんでしょ。
だったらおねーさんはそれでいいのよ。アタシは服作ってるおねーさんはかっこいいって思ったし、おねーさんの服なら着てみたいって思ったのよ!」
どうしようもないぐらいの変態で、見てらんないくらいの子供愛好家だけど、服を作るおねーさんはさすがだと思った。職人てこういうモノなんだ、ってすとんと胸に落ちるぐらいに感動した。
「おねーさんはアタシが大丈夫だって信じて認めたテーラーなんだから。四の五の言わずにアタシの為に服を作りなさい!」
「は、はひぃぃ! 毒舌ツンツン幼女のデレ命令シーンいただきましゅ!」
なんか顔を紅潮させて敬礼するおねーさん。よくわかんないけど、服を作る気にはなったみたい。
「……えーと……トーカさん結構いいこと言っていたんですけど、なんか別のところに突き刺さったみたいですね」
「ノンノン! あのテーラーちゃんも真意は伝わってるよ。信じてもらえるって言葉は、どんな時でも力になるのさ。がんばれがんばれ!」
後ろで聖女ちゃんとアイドルさんがそんなことを言ってるのを聞きながら、アタシは自分も赤面してることを自覚していた。
……信じたとか認めてるとか、クサいセリフだわ。
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