17:メスガキは頭を悩ませる

「状況を確認するわ」


 あえて声を出し、アタシは頭を回す。いろいろごちゃごちゃしてるので、ここでまとめとかないとわけわかんなくなる。


「クーデターを起こしたのは、ナタ。目的はこのラクアンの独立。ナタは魔物だから壁の向こう側の魔物を引き入れるかもしれない。

 んで、五行結界とか言うのが張られていてその為におねーさんが作った『火鼠の皮衣』が使われた」


 此処まではアタシを含めて、皆が共通して思っていることだ。問題はこっから。


「アタシ以外の人間は、その五行結界を形成しているのがナントカっていう大臣達が持っている『五つの宝』だと認識しているのね?」

「イシズクリ、クラモチ、アベ、オオトモ、イソノカミの5大臣です。

 竹取物語の原作にちなんでいるのか、イシズクリ大臣が『仏の御石の鉢』、クラモチ大臣が『蓬莱の玉の枝』、アベ大臣が『火鼠の皮衣』、オオトモ大臣が『龍の首の珠』、イソノカミ大臣が『燕の子安貝』です」


 そう。アタシからすればいきなり出てきた5人のおっさんが街のボスとして君臨しているのである。ラクアンて言うオバサンとそれが率いている兵士達も、おっさんたちが守っている五行結界の起点と呼ばれる場所をどう攻めるかを相談しているのだ。


「そうそう。そもそもアミーちゃんからすればナタは大臣達に操られてる実行部隊、っていうイメージだね。大臣が魔物を操って、兵士達はそれにおびえて従っているってカンジ? やーん怖い怖い」


 あまり怖がってなさそうな声で、アイドルさんは補足してくれる。どっからどう見ても『面白いことになってきた(はあと』って顔してるけど。


「五行結界はクーデターの要です。結界はその内側の森羅万象を操ります。完成すれば、その内部にいる存在の生死は思うがままです。結界が完成するまで、おおよそ三日かかると推測されています」

「あー。規定ターン以内にどうにかしないとゲームオーバーパターンね。おけおけ。んで、結界破壊のために宝物を取り返せばいいと」

「言葉の意味は分かりませんが、おおむねその通りです。ただ――」

「ほとんどの人間が『五つの宝』は大臣が持っているものだと思っている。だからみんな大臣のいる場所を攻めようとしている。

 だけど、そんな大臣はどこにもいない。いもしない大臣を捜索している間に結界が完成しちゃうって寸法ね」


 まだわかんないことはいくつかあるけど、ようやく状況がつかめてきた。


 実行犯のナタは結界を完成させるための時間が欲しい。そのために悪魔の力かなんかを使って、ダミーの大臣ていうスケープゴートをあらかじめ用意していた。みんながみんなその大臣がいると洗脳(?)されてるけど、アタシだけはなぜかそれが通じていない。


 ラクアンてオバサンはナタと身内とかそういう理由でナタの存在に気づいた。だけどほかの人達はそんなことに気づかない。説得しようにも大臣討つべしRTAのムードとなってそんな時間もない。そもそも説得しようにも証拠もなにもないのだ。


「そいでそいで、そんな事を聞いたアミーちゃんは『そういえば昨日ナタがどうとか言っていた子がいたよね』っていうの思い出して、キミのもとを訪ねたのでした! そしたらドンピシャ! 大当たり大当たり!」

「聞いたって……そういえば、なんてアイドルと領主の娘が知り合いなのよ?」

「ゲリラ勃発時に助けていただいたんです。アミーさんがいなければ、私は殺されていたでしょう」


 アタシの疑問に答えたのは、ラクアンオバサンだ。そういえば領主の館を襲ったとか言ってたわね。ってことは?


「んじゃアンタ、あのナタっていうのと出会って戦った?」

「もちもち! アミーちゃんのゲリラライブ第二弾だったね! 手持ちのリソースほとんど削られてなんとか逃げたけど、防衛戦だからアミーちゃんの勝利勝利!」


 Vサインをして笑うアイドルさん。実際、相手が殺そうとしたオバサンを防衛して生き延びたんだから、勝ちだ。


「よっしゃ、データ教えて。どんなアビリティ使ったとかそういうの」

「わおわお、アミーちゃんに興味津々だね! 使ったのは――」

「アンタじゃないわよ。ナタの方」


 嬉しそうに眼をハートにして顔を近づけるアイドルさんを、押し返しながら訂正するアタシ。ナタの戦闘データ。たとえ全部じゃなくても、そこから相手を攻略する方法を導き出せる。


「ぶーぶー。アミーちゃんよりもあんなのがいいんだ。そんなこと言うなら教えてあげないもーん。しょっくしょっくー」

「面倒くさいわねー」


 腕を組んでそっぽを向いてすねるアイドルさん。あまりの子供っぽい行動に、アタシは素で言葉を返した。これは話聞かないと話してくれないってフラグ?


「トーカさんの言うことが真実として――いえ、初めから疑ってませんが。ただ信じられないってだけで」


 疑ってないけど信じられない。矛盾しているけど、聖女ちゃんの感覚は真理だ。自分が感じて信じていることが虚構だった。悪魔の作った舞台の上だった。そう知らされた時の混乱はそういうモノなのだろう。


 たとえるなら、災害とかでこれまで安全と信じていた生活が実はそうではないと知った世間の反応だ。明日、当たり前のように自分が生きている。それが虚構だと知った時、人は安全だった嘘にすがる。現実を嘘だと否定し、それ以外の意見を否定する。


 だけど聖女ちゃんはそれがない。自分の信じていたことをあっさり否定し、アタシの意見を受け入れた。


「あっさり信じるわねー。正直、その感覚が信じらんない」

「トーカさんが嘘を言うわけがありませんから」

「まあ、アタシ清く正しいいい子だし」

「全くいい子ではありませんし日々の生活で言いたいことはかなりありますが、嘘をついたり騙したりはしない人ですから」


 さりげなくディスられた気もするけど、この子のアタシに対する信頼は半端ない。正直、ちょっとむず痒い。


「話を戻して、トーカさんの話が真実だとすると、いち早いナタへの対策が必要なのではないでしょうか?

 ヤーシャから応援を呼ぶとかはできないんですか?」

「無理よ。五行結界は内部から人を出さないようになっている。伝達を飛ばすことはできないわ。おそらくだけど、外部からの侵入も難しいんじゃないかしら」


 聖女ちゃんの言葉に、ラクアンオバサンは肩をすくめた。


「つまり今ここにいる数でナタに従ってる兵士倒して、ナタ本人を倒すか『五つの宝』をどうにかしないといけないわけね」

「推測ですが、ナタがいるラクアン城には200を下らない守備兵がいるはずです。城に向かうまでにも兵士達はいるでしょうから、数はそれ以上になるでしょう」

「初めからムリゲーじゃないの。防衛する相手に対して兵数で負けてるとか」


 軽く見ただけでも、ここにいる兵士は50人を超えない。これがオバサンの人望なのか、クーデターでやられたのかはわからないけど。


 アタシはちょこっとだけかじった戦略シミュレーションゲームを思い出してた。城とか防御効果がある場所を攻撃する際には、2倍ほどの兵数で攻めなきゃいけないとかそんなバランスだった気がする。


「さすがのトーカさんでも無理ですか」

「できるわよ」

「できるんですか!?」

「兵士はね。だけどナタはわかんない。そこのアイドルさんが教えてくれたら対策たてれるかもなんだけど」

「ふんだふんだ! アミーちゃんに興味がない子なんか嫌い嫌い!」


 驚く聖女ちゃんを横目に見ながら、アイドルさんを見る。すねてる、と言うよりはわがまま言ってる子供だ。うっざいわねぇ。


「うっざいわねぇ」

「トーカさん、心の声漏れてます」

「えへへえへへ。ウザカワもジャンルだもん。アイドルは可愛く愛されキャラなんだから、愛されないとウサギみたいに自殺しちゃうかも。ぴょんぴょん」

「脳みそから情報を取り出すアイテムとか魔法とかないかしら」

「気持ちはわかりますが、物騒なことを言わないでください」


 アタシの怒りの声に、首を横に振りながら聖女ちゃんが肩を叩いて制止する。


 ――結局いろいろ根負けし、アイドルさんのうっざい自慢話を聞く羽目になった。

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