15:メスガキはアイドルに捕捉される

「言っても具体的な策なんてないんだけどね」


 どうにかする、と言ってもどこから手を付けていいのかまるで分らないのが現状だ。思いつくのは、クーデターのボスである大臣かナタを倒せばいいんじゃない? ぐらいだ。


「大臣のところに乗り込むか、第二形態ナタを倒しておしまい、でいいのかな? 多分第三形態があって、最終形態がありそうだけど」

「形態とかよくわかりませんけど、クーデターの指導者を倒せば解決の可能性はあります。少なくとも、士気は大きく削がれるでしょう」

「でもアタシ、ナタのモンスターデータ知らないのよね。似たようなモンスターは何体か知ってるけど」

「抑え込むなら5大臣の方が戦闘力はなさそうですけど、おそらく兵士がいるでしょうしね」

「あー。そうね」


 あまり頭の中になかった大臣――だってアタシの記憶にないもん――は脇に置いておく。どのみち邪魔してくるだろうナタの強さが問題だ。


 アタシが高レベル帯のモンスターを倒せるのは、そのデータを知っているからだ。ゲームの知識でメタって、攻撃を無効化しながら殴る。んでもって罵る。これがアタシの戦い方よ。


 だけど元となるデータが分からないんじゃ、それもできない。手が多数生えているモンスターはいるけど、顔が三つあるのは知らない。顔3つで6本腕のアシュラっていうNPCはいるけど、あれは暗黒闘技場の管理人だ。戦いのデータなんてないはずだし。


「つまり、トーカさんでも対処できないということですか?」

「適当な目測つけて当たって砕けろ的に戦いを挑んでもいいけど、予測外したらかっこ悪いからね」

「かっこ悪いとかそういう問題ではありませんが、無策で突っ込むのは無謀なのは確かですね」

「とにかく相手の情報集めないとね。――あ、一応アタシが気付いたこと言っとくわ」


 言ってアタシは『前の』ナタの話を聖女ちゃんとおねーさんにする。一応一緒に行動していたから、もしかしたら思い出したりしてくれるかもと思ってたんだけど、


「……すみません。私の記憶と一致しません。トーカさんじゃなかったら、夢でも見たんじゃないですかと思うところです」

「はい。私が亜麻色髪のクール系美少年を忘れるなんて、そんなことがあるなんて信じられません」


 アタシが変な夢を見ていると一蹴こそしないけど、とても信じられるものじゃない。二人の反応はそんな感じだ。自分の見たものと整合性が合わない。人間は自分が感じたモノを最も信用するのだから、仕方ない。


「それは今は置いときましょ。気持ち悪いけど、無理に納得してもらう事じゃないわ」

「トーカさんはなんでそこで冷静に切り替えられるんです? 自分が見たことを否定されたんだから、むしろ感情的になってもいいと思うんですけど」

「否定してるアンタからそういう言葉が出ることが驚きなんだけど」

「トーカさんは『自分が信じてもらえない』ことに慣れすぎていると思います」

「……まあ、それも含めて置いときましょ」


 まっすぐにアタシのほうを見て告げる聖女ちゃん。そのキラキラに耐え切れずに手を振って話題を打ち切る。実際、今大事なことは行動方針だ。考えても答えの出ないことに拘泥するのはよくない。


「とにかく情報収集よ。ナタがどんな強さ持ってるのとか調べて、それを基に作戦を立てましょう」

「具体的にどうするんです?」

「こういうのは敵が占拠した場所を取り返せば、情報が集まるようになってるのよ」

「いやいやいやいや。そういうゲーム的思考はナイナイ!」

「そうですよ。いくら何でも強引すぎま――え?」


 突然割り込んだ能天気なぐらいに明るい声。アタシと聖女ちゃんとおねーさんではない、第四の声。


「やほやほー。元気してたかな。アミーちゃんですです!」


 そこには昨日であったアイドルさんがいた。昨日着ていたシルクハット衣装だ。もしかしてあのまま逃げ回ってたとか?


「まあ元気なんじゃない? アンタの顔見てそれもなくなったけど」

「あらあら。アミーちゃんが元気奪っちゃった? じゃあ返してあげるね、キッスキス!」


 投げキッスしてくるアイドルさん。その投げキッスに払うように手を振って、そのまま帰れとジェスチャーする。


「はいはい。アタシら忙しいからアイドルさんはよその街でコンサートでもしててよね。今ラクアン危険なんだし」

「やんやん。こんな大ステージで帰るとかしないわよ。クーデターで魔物が暴れそうでみんなが注目している渦中にいるんだもん。当然アミーちゃんは歌っちゃうよ。いえいいえい!」

「そういう状況じゃないんですけど……」


 呆れたようにツッコミを入れる聖女ちゃん。相手しちゃだめよ、って言おうとするアタシより先にアイドルさんが口を開いた。


「ところでところで、そこの遊び人ちゃんは『五つの宝』が誰の元にあるのか、わかってる? 5大臣? それともナタきゅん? きゅんきゅん?」


 そんなことを聞いてきた。


「…………もしかして、アンタ?」


 問いには答えず、言葉を選ぶように問い返した。もしかして、アタシ以外にも『前の』ナタの事を知っていて、覚えてるの?


「どっちどっち? あ、アミーちゃんは5大臣って思ってるよ。もしかして遊び人ちゃんもそう思ってる? てるてる?」

「なんなのよそれ。アンタはそう思ってるのに、違うと思うって質問する意味ある?」


 わけわかんない。自分はそう思ってないのに、そう思ってるなんて聞くとか。


「あるあるー! なんでもこの問いに疑問を抱いて『ナタだ』って答えられる人がこの状況打破のキーになるんだってラクアンちゃんが言ってたのよ。で、どうどう?」

「はぁ? どういうこと?」

「だからだから。どっちか答えたら教えてあげるよ。アミーちゃん嘘つかない! 早きゅ早きゅ!」


 ニコニコしながらアタシの答えを待つアイドルさん。聖女ちゃんとおねーさんはアタシが答えるのを待っている。


「そうよ。アタシはあのナタが持ってるって思ってるわ。5つのうち2つは自分で集めて、1つはアタシ達が渡して、残った2つはラクアンて女から強引に奪ったんでしょうね。このクーデター? その時に」

「わおわお! ラクアンちゃんの言ってることとおんなじおんなじ!」


 アタシの答えに指をパッチンと鳴らすアイドルさん。そのまま目をキラキラさせて、アタシに顔を近づけてくる。


「ねえねえ。ラクアンちゃんに会ってみる気ない? んでもって、このクーデターを一緒に解決してみない? 町の人から注目浴びて、危険もたくさんあって、ゾクゾクハラハラでドキドキキュンキュンしてみない? みないみない?」

「うっとーしー! そのラクアンて女にあったらどうなるのよ? ナタの事が分かったりするの?」

「わかるかもかも? アミーちゃんも自覚ないんだけど、この町の人達は『町の被害者』っていう役割を着せられたんだって。で、その役割を着せたのがあのナタきゅん? そんな感じなこと言ってたかなかな?」

「役割を着せるぅ? なによそれ?」

「なんだろなんだろ? アミーちゃんもいろいろ説明されたけど、チンプンカンプン。自分を正しく理解できなくなるとか、ステータスがどうこうとか、イミフイミフ」


 相変わらず訳が分からない説明ね。アイドルさんの性格なのか、それとももともと意味不明なのか。


「……それは」


 ただ、聖女ちゃんは何か感じ取ったようだ。アイドルさんの言葉を脳内で反芻させ、咀嚼するように思考を回転させている。


「なんか気付いたの、アンタ?」

「いえ、気付いたというか……もともと疑問に思っていることがあって。それと結びつきそうなんです」

「ふーん。……まあ、いいわ。情報が得られるならそっち行きましょ。空ぶったら兵士襲えばいいし」

「暴力行為は最終手段にしたいのですが、仕方ありませんね」


 アタシの言葉に不承不承ながら納得する聖女ちゃん。


「オッケーオッケー! それじゃあレッツらゴーゴー!」

「アンタに仕切られるのはなんかムカつくわね」

「自分のペースで動けない不満はわかりますが、八つ当たりはしないでください」

「相手の内心を理解して適切なフォローを行う……。通じ合っているお二人に尊死してしまいそう。二人用のマフラーを編みましょう。お互いのイメージカラーに合わせて」


 かくしてアイドルさんを筆頭に、アタシと聖女ちゃんとおねーさんはラクアンとかいう女がいる場所に移動するのであった。

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