16:メスガキはオバサンから話を聞く
ラクアン。
この町の名前で、領主の名前。世襲制とかではなく、町の領主になった時にラクアンの名前を襲名するとか。なんだかよくわからない制度だけど、まあそういうこともあるんじゃない?
そんな名前を受け継いだのが彼女だ。アタシのお母さんと同年代なおばさん。どっちかって言うとキャリアウーマンぽい印象を受ける。ぼろは着てても心は錦とでもいうか、ボロボロの服なのにどこかぴしっとしている感じだ。
「各状況をまとめなさい! 被害報告と兵站! 最悪は民を連れて町からの脱出を図ることも! ヤーシャ本国との連絡次第、行動を開始します!」
アタシ達は路地裏をグネグネ移動して移動した先にある倉庫っぽい所に連れてこられた。アイドルさんいわく『んとねんとね、こういう時の為に用意した秘密基地みたいなもんだって。秘密秘密』だとか。
つまるに、このクーデターはある程度想定されていた可能性がある。ナタが台頭し、町を押さえるという事態は。
アイドルさんがいろいろ人のつなぎをして、伝令の人がラクアンおばさんに言葉を伝え、そのあとすぐにこちらにやってくる。
「先ずは自己紹介からね。私の名前はラクアン。この町の領主……だったものです。確認ですが、貴方達が火鼠の皮衣を持ってきた人たちで間違いありませんね?」
「そうよ。そしてアンタの部下に襲われそうになったのよ。火鼠の皮衣っよこせ、って」
「兵士が高圧的な対応になったのは謝りますわ」
厭味ったらしく返したら、逆に謝罪されておおう、ってなるアタシ。
「ふん、つまりアタシ達が捕まって拷問されても構わないって考えだったのね。権力者って横暴ね」
「拷問までするつもりはありません。火鼠の皮衣を渡してもらえれば、それで終わりの予定だったのよ」
「ただのレアアイテム収集のために権力使うとかいう時点でどうかしてるのよ。どこかの姫にあげるためかもしんないけど、それも構わず残念ね。しかも全部奪われるとかご愁傷さま」
「返す言葉もないわ。貴方達からすればいい迷惑だったわね。ごめんなさい」
「謝るなら態度で示してもらうわ。そーね、鉄板の上で――」
「トーカさん、それぐらいに」
ここぞとばかりに言いつのるけど、言い返さずに謝罪するオバサン。聖女ちゃんが止めるので、言葉を止めた。むぅ、まだ言い足りないのにぃ。
「で。何なのよこの騒動は? 独立したいとか、魔物の壁を解放するとか、五つの宝とか、わけわかんないんですけど。
ナタって子も意味不明よ。最初見た時はちんまい子供だったのに、6本腕の魔物になってて、しかも誰も覚えてないとか」
「つまり、貴方はああなる前のナタを知っている、ということで間違いありませんね」
いろいろ問いかけるアタシに質問で返してくるラクアンおばさん。……違う、これは確認だ。アタシが知っているという事実を再確認している。
「知ってるわよ。亜麻色の髪したクールっぽい男子。礼儀正しいけどどこか気持ち悪い感じだったわ。なんか受け入れられない感じの気持ち悪さだったけど、何なのよあの子」
「悪魔、です」
「はい?」
「ナタは悪魔……この世界の異物です。魔王ケイオスの部下の一人で、この世界を滅ぼそうとする存在です」
いきなりぶっ飛んだ情報が出てきたので、アタシの勢いが止まった。待って待って待って。悪魔?
<フルムーンケイオス>において、悪魔っていうのは種族の一つだ。結構レベルの高い連中で、聖属性に弱い、っていう共通項こそあるけど逆に言うとその弱点を突かないとめちゃくちゃ強い相手ね。
んで、設定とかにも出てくる存在だ。曰く『悪魔にそそのかされた』『悪魔との契約で街を支配された』『悪魔に魅入られたアイテムを装備した元騎士』とか。ついちょっと前の天騎士おにーさんなんかもそんな感じ? 悪堕ちとかダサい。
「つまりアンタは悪魔を将軍にして、寝首かかれたんだ。情けないわねー」
「ええ、そういうことになります。それが悪魔の力だったんです」
「悪魔の力? 気づかれずに懐に入るのが、ですか? それは私たちとトーカさんの記憶に齟齬があるのと関係があるんですか?」
問い返したのは聖女ちゃんだ。そういえば、何か思うところがあるとか疑問に感じることがあるとか言ってたような。
「はい。悪魔は『役』を着せます。私たちラクアンの民は『ナタという将軍を慕う人々』を演じさせられていました」
「演じさせられてた……?」
わけわかんない。洗脳されてたとかそういうこと?
「はい。悪魔は他人のステータスと精神を変化させることができます。町の人間すべての心を支配し、自分をあたかも『ナタの守護を司る将軍』というふうに思わせていたのです」
ステータスを変化させる。
それって要するにゲーム的なことを言うと運営と同じ力、ってことになるわね。GMキャラとかそんな感じ? 各NPCに『役割』を与えて、アップデートした瞬間にセリフやらなんやらを入れ替えるとかそんな感覚でいいのかな?
昨日まで『ここはラクアンの街です』とか言っていた村人Aが。いきなり『ひぃ、革命だー! たすけてー!』とか言うような。ガワとかは変わらないけど、悪魔っていうのはそういうことができる。
だとすると無敵じゃん。少なくとも変化させられた側は何にも気付かない。気が付けば被害者になり、あるいは殺されるかもしれないのだ。
「幸い……かどうかはわかりませんが、悪魔は契約に縛られます。自由気ままにこの能力を使えません」
「契約?」
「はい。『願いをかなえる』という形でしか悪魔はこの『役を着せる』力を使えません。逆に言えば願った人間がいれば、これだけの事を起こせるのです」
「つまり、誰かが願ったってことなのね。この状況を」
アタシの問いかけに、オバサンは神妙な顔で頷いた。
「兄です。8年前、ラクアン独立を願い挙兵を企てていました」
「いました……ということは過去形ですか?」
「はい。企ては未然に防ぐことができました。兄は壁の向こうに逃亡し、捜索はそこで打ち切られました。壁の向こう側に逃げたのなら生きてはいまい。少なくとも、兵を集めることはできないだろうと」
ラクアンの壁より向こう側は、人間の街らしいものはほとんどない。隠れ里的に村があるぐらいだ。それも森のエルフとか、中立的な魔物のケンタウロスとかそんな感じの村。反乱を起こせるぐらいの人間を集めるとか、まあ無理だろう。
「そのおにーさんが生きていて、悪魔と契約して帰って来たってことね? 結局アンタの不始末じゃん。自業自得よ」
「返す言葉もありません。気が付けば、ナタはラクアン内に侵入し、地位を得て、そして多くの人の心をつかんでいました」
「待ってください。悪魔と契約しないと精神を支配できないのですよね? 町の人とも『契約』したのですか? それに私たちも気づかなかったということは、私たちとも『契約』したことになります。そんなことはありません!」
はっきりと言い放つ聖女ちゃん。町の人はともかく、聖女ちゃんは悪魔少年ナタに出会ったのはパレードの時と火鼠の皮衣を渡した時の二回だけだ。パレードはすれ違っただけ。火鼠の皮衣もあまりしゃべってなかったのだ。
「多分だけど」
推測交じりでアタシは意見を口にする。
「『ラクアンの街を支配する』とかそんな感じの願いで、ラクアンに入った人は全員『契約』の影響下になったんじゃない? 一人一人に『契約』したんじゃなく、ラクアンの街に入った人間だけにかかる『契約』。なんでかアタシにはかかんなかったみたいだけど。
そこのオバサンがナタに気づかなかったのも、そういう感じだと思うけど」
「オバっ……こほん。そういうことでしょうね。そして五つの宝を全て得て、本性を現したのです」
何か言いかけたオバサンは咳払いをして冷静さを取り戻し、話を進める。
「気になることはまだいろいろあるけど、あの五つの宝は結局なんなの? 強いレアアイテムなのはわかるけど、それで町一つをどうこうできるものじゃないと思うけど」
「あれら一つ一つは確かにそれほど強い力を持っていません。しかし五つ集まれば『五行結界』を形成できます」
「ごぎょうけっかい?」
「万物を形成する五行。それを支配し、栄枯盛衰循環する世界を作り出せる結界です。
ナタはこれを作り、自分だけの
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