11:メスガキはアイドルを協力者にする
「えとねえとね。何かあったらソレイユちゃんの火鼠の皮衣を、回収したいかなってアミーちゃんは思ってるかもかも」
アイドルさんはおねーさんの持っている袋を指して、そう宣言した。その中には『火鼠の皮衣』が入っている。さっきアイドルさんが確認したし、そのデザインも確認したし、それを称賛もしていた無理やり奪うつもりがないこともさっき言ってたわよね。
「ごめん。回収って自分のものにしたいってこと?」
「ういうい。ラクアンちゃんに奪われるならその前にげっちゅう! ソレイユちゃんはナタきゅんに渡したいんでしょ? 作った人の望まないところに行くのはだめだめ!」
「……つまり、一緒に火鼠の皮衣を守ってくれるということでしょうか?」
「きゃんきゃん、そういうこと! アミーちゃんの言いたいことを理解してくれて感謝感謝!」
「なんでアンタがそんなことすんのよ」
黄色い声上げて聖女ちゃんの頭をなでるアイドルさん。そんなアイドルさんに水を差すように問いかける。
「なんでなんで? なんでわかんないの? アミーちゃん何か難しいこと言ってるかなかな?」
指を唇に当てて小首をかしげるアイドルさん。あああ、もう。このペースに付き合ってたら一生話進まないわ。
「アンタが火鼠の皮を求めたのは知ってるわよ。それで衣装作ろうとしていたのもね。だったら先に火鼠の皮を手に入れたアタシ達を憎いとか嫉妬してるとかはないの?」
「ナイナイ。アミーちゃんが作ったら派手派手のフリフリになってたけど、ソレイユちゃんのこれはアリアリ! なんでアミーちゃんは服が完成するのを見たいのでした! おけまるおけまる?」
「完成? 服はできてるじゃない」
わけわかんないことを言うアイドルさんに言葉を返すアタシ。
「ちがうちがうー! この服は『出来てる』だけなの! ソレイユちゃんがその人の事を思って作った服の『完成』はそれに袖を通した時! 服は着てもらってこその服なのよ! わかれわかれー!」
アタシのおでこに人差し指を押し付け、ぐりぐり回すアイドルさん。痛くはないけど、うっざい。
「要するに、アミーさんはナタさんに服を着てもらうことが目的……ということですか? お手伝い自体はありがたいのですけど、アミーさんにメリットがあまりないように思いますが」
「あるある。メリットあるよ。アミーちゃんのインスピレーションが刺激されそうだもん。きゅんきゅん? もしかしたらゾクゾク?」
「それは……。ですが話を総合すると、ラクアンの兵士とぶつかり合う可能性があるわけですし、危険と思うのですけど」
「でんじゃーでんじゃー! だからこそいいんじゃないの。最っ高のステージじゃない? じゃないじゃない!?」
何かに酔うように、アイドルさんは両手を広げる。顔を紅潮させ、蕩けるような笑顔を浮かべていた。
「注目注目! このラクアンの軍全てがアミーちゃんに注目するの! 軍だけじゃなくラクアンの全員が! アミーちゃんの歌と衣装に釘付けになって、そして歓声を上げるの! そして最後にハッピーエンド! アイドルはこうじゃなくちゃね! どうどう? イケてるイケてる?」
自分の欲望――喝采願望を隠すことなく、むしろ誇らしげに叫ぶアイドルさん。目立ちたい。みんなに注目されたい。そのシチュエーションを想像して興奮しているアイドルさん。
「イケ……あの、さすがに釘付けは。一応、追われている身ですし」
「
「手伝ってくれる理由とアンタの目立ちたがりはわかったわ。で、アタシ達がラクアンにつかまりそうになったら代わりにナタって子に皮衣を渡してくれるってことね?」
「ぶーぶー。目立ちたいんじゃなく、ゾクゾクしてキュンキュンしてキラキラしたいの! 単に目立つだけなら魔王きゅん倒しに行くし。アミーちゃんはアイドルでみんなに希望を与えたいのですです。キラキラって!」
「人を虐げるモンスターの王を倒すのも希望を与えると思いますが……」
「まあ、信用はできないけど信頼はするわ。最終的にどうするかは、おねーさんに決めてもらいましょ」
皮衣を預けるわけにはいかないけど、同行は認める。そんなアタシのアイドルさんへの評価を述べた後で、おねーさんに視線を向ける。
「ふぇ? ワタクシですか?」
「ええ。皮衣を作ったのはおねーさんだし。おねーさんがアイドルさんを信用できないなら、アタシもアンタの同行はお断りするわ」
「そうですね。私もトーカさんと同意見です。私自身は信頼を置くには危険すぎるという意見です。主に性格面で」
「やんやん。この子達きびしー。でもアミーちゃんもソレイユちゃんにお任せしていいよん。どうするどうする?」
アタシ、聖女ちゃん、そしてアイドルさん。三人の視線が注目する中、おねーさんは自分が作った火鼠の皮衣が入った袋をしっかりと抱きしめ、口を開く。
「『服は着てもらってこその服』……ええ、その通りです。ワタクシはナタ様に来てもらうために精魂込めて針を通しました。すべては着てもらうその時のために。
アミーさん、ワタクシは貴方を信用します。実力と方向性は違えど、同じ服を作る者同士として共に歩んでもらえませんか?」
「おっけーおっけー! アミーちゃん頑張るからから!」
頭を下げるおねーさんに、Vサインで答えるアイドルさん。
「んじゃんじゃ、みんなは情報収集よろよろ! 町に散って兵士達の動きをチェックチェック!」
「イエス! アミー様!」
「アミー様のために頑張ります!」
「この目立たない能力が役に立つ時が来たぁ!」
「日々鍛えたストーカー能力、今こそ発揮する時!」
「気づかれずに盗撮盗聴するのなら任せろ!」
アイドルさんの号令に合わせて、事務所? の人達が動き出す。町でアタシ達を探している兵士の動向を調べるために。すんごくありがたいんだけど、なんかやばい人混じってない? アイドルの追っかけってそんなものなの?
「ところで同行するならステータスぐらい見せてほしいんだけど」
「やんやん。アイドルの個人情報は秘密なのなの!」
何ができるのか知りたかったので聞いてみたら、首振って拒否された。かわいい動作のつもりなんだろうけど、断固とした拒否の意志が見える。
「ふーん。他人に見せられないプライベートなんだ。アイドルって腹黒だもんね。仕方ないか」
「えーんえーん。トーカちゃんがいじめるー。アミーちゃん悲しい悲しい!」
イラっと来て挑発してみたけど、やんわりかわされた。慣れているのか海千山千の対応ね。うっざ。
「んじゃ何ができるかだけ言ってよ。妖精衣でアイドルやってるんだから【妖精舞踏】とか?」
「違う違う! アイドルで妖精衣! アミーちゃんがアイドルなのは運命づけられた事実なのなの!
あ。スキルは【妖精舞踏】と【幻想術衣】が8。【精霊術】が6だよだよ! あとは【歌う】も8!」
うわ強っ! レベル90ぐらいあるんじゃないの、このアイドル。モンスター退治系と創作系のトロフィーがっつり集めてもここまで上げるの大変なのに。
スペック的には回避盾ができる魔法使いで、自分用の魔法の衣を作って装備できる。よく言えば属性攻撃でどんな敵でも相手できる万能、悪く言えばどれも中途半端な器用貧乏。そんな戦闘スペックね。
「それでそれで作戦なんだけど、アミーちゃんが兵士たちを引き付けてコンサートするからその間にナタきゅんのところに行くってことでどうどう?」
「そうね。そんだけ強いならできるんじゃない」
ラクアン兵士の強さとアイドルさんのアビリティを秤にかけて、そう結論付けるアタシ。
「それでどう? なんか意見ある?」
「賛成です。トーカさんがそういうのですから、アミーさんはかなり強いんですね」
「トーカさんに無類の信頼を置くコトネさん、尊い……! あ、ワタクシ荒事は専門外なのでお任せします」
意見を求めて聖女ちゃん達に話を振ったら、躊躇なく同意してくれた。言っても聖女ちゃんは妖精衣のスペックとか知らないだろうし、おねーさんは言葉どおり戦いなれしていないんでしかたないかな。
「強いっていうか相性ね。アイドルさんのアビリティはモンスターの集団を一か所に集めて足止するのにうってつけなのよ」
「えへえへ! アミーちゃんの魅力にみんな釘付けだおだお!」
妙な語尾でポーズを決めるアイドルさん。どうあれ、兵士の注目を集めてくれるのならありがたいわ。
こうしてアイドルさんという協力者を得たアタシ達は、兵士達がうろつくラクアンの街に出るのであった。
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