7:メスガキはアイドル?と出会う

<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>


<条件達成! トロフィー:『ボスキラー』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


 雑魚だったけど一応アタシより高いレベルでボス属性。経験点も豊富で、トロフィーももらえてスキルポイントがゲットできるわ。野火はアタシよりレベル低かったから、マイナス補正が入ってるんでそこまでおいしくはなかったけど。


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★トロフィー

天使の癒し:3000人を癒した者に与えられるトロフィー。聖魔法と回復系魔法の効果が常時上昇。


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 聖女ちゃんもトロフィーを得られたので、めでたしめでたし。これで【聖歌】の回復量もだいぶ上がるし、【聖武器】か【聖人】あたりも上げれるんじゃない。


「はわわわわわ。ワクタシもトロフィーが入ったんですが、よろしいんでしょうか? 傍にいただけですのに」

「いーのよ、そういう仕様だし。大体おねーさんの【ランナウェイ】がなかったらMPは結構削られてたんだわ」


 おねーさんが慌てたように確認してくる。同じ戦場内にいるパーティでボスを倒したのだから『ボスキラー』はパーティ全員に入る。なのでおねーさんがもらえることは何の問題もないわ。


「ワタクシは火鼠の皮をいただければそれで十分なのに。トロフィーとスキルポイントまでもらえるなんて……」

「あって困るもんじゃないでしょ? なら貰っときなさいよ」

「はい。何から何までありがとうございます。これで、これでナタ様にお会いできます。ああ、いつもは遠くから見ることしかできないあのお顔、あの瞳、あの髪の毛。運が良ければにおいをかげるかもしれません。ウヒ、ゲフフフフフ!」

「その、嬉しいのはわかりますけどもう少し落ち着いていただけると……できればヨダレは」


 火鼠の皮を手にして礼を言い、喜ぶおねーさん。いやまあ、嬉しいのはわかるけど、その、うん。


「と、とにかく帰りましょ。もうここに用はないわ」


 火鼠のドロップを回収し、アタシはそう告げる。聖女ちゃんのトロフィー燃えて、火鼠の皮もゲットできた。あとムカつくネズミに悔しい顔もさせた。もうやることはないわ。帰還用アイテムの『トンボガエリ』を使って、ヤーシャに戻る。寝落ちするようなふわりとした感覚に包まれた。


「よし、牛頭馬頭に会わずにこれたぞ!」

「さあ火鼠! 我ら『赤の三連星』が相手だ! 我らの究極コンビネーションを前に驚いて死ぬがいい!」

「その皮をアミー様に捧げ、あわよくばお褒めの言葉をかけてもらうの……だ?」


 転移する瞬間に扉が開いてそんな声が聞こえてきた気がするけど、どうでもいいわね。気が付くと、ヤーシャの門前。聖女ちゃんとおねーさんもすぐ隣にいる。


「そんじゃドロップ品配分ね。換金できるのは3等分するとして――」

「待ってください。ワタクシは火鼠の皮をもらえればそれでいいので、お金はお二人で2等分してください。むしろお手伝いしてもらってありがたいぐらいですのに」

「何言ってんのよ。通行書がないと火鼠に挑めなかったんだから。その手間賃と思えばいいわ」

「はい。幸い私たちは現在お金に苦労しているわけではありません。遠慮なく受け取ってください」

「ですが――」


 そんな感じでもらう貰わないでちょっともめた後、最終的にはおねーさんは了承した。些か申し訳なさそうな顔をしていたけど、


「わかりました。でしたらいつか貴方達に服をプレゼントします。今はまだお二人の装備にかなうものは作れませんが、いずれ」


 と、言ってくれた。


「その時を楽しみにしていますわ」

「そうね。期待してるわ」


 テーラーの作るドレスは低確率で激レア並みの修正値が付く。おねーさんがそこに到達するかどうかはわからないけど、そうなったら着てあげてもいいわ。


「でも変な服は嫌だからね。トーカの魅力をふんだんに引き出す者じゃなくちゃ着てあげないから」

「お任せください! むしろ少女が着る服はお得意ですとも! げへへへ、メイド服とか巫女服……いやいや、むしろ原点に返ってランドセルとか園児服……! はうぁああああ!? たぎってまいりましたぁ!」

「クリエイターの熱が入ったみたいですね」


 それとは別の熱が入っている気がするけど、あんまり触れたくない。


「確定ドロップの火鼠の皮と炎の牙、爪、尻尾。野火の欠片がたくさん。あとはレアアイテムの灼眼。これ、アタシ達が持ってても役に立たないよね。またオークションかな?」

「どういうアイテムなんです?」

「魔法使い系武器の材料になるわ。でもオークションはねー……」


 ライトニングバスターをオークションにかけた時のことを思い出し、テンサゲになるアタシ。あのコメント欄を見るのはもううざい。お金に困ってるわけじゃないし、倉庫の肥やしにするか、と思ってる。


「ねえねえキミキミ。いま灼眼って言ったかな。言ったかな?」


 そんなアタシに話しかけてくる声。振り向くと、赤を基調とした服を着た女の子がいた。年齢はアタシとおねーさんの真ん中ぐらい。白いシャツに赤と黒のチェックスカート。胸には赤いリボン。頭にのせる程度の小さなシルクハットは黒。


「不思議不思議。アミーちゃんが今欲しいなー、って思ってたアイテムの話が聞けるなんて運命? ねえ、売ってほしいなー。灼眼ほしいなーほしいなー」


 ニコニコしながら距離を詰めてくる。人懐っこくするりと迫る。聖女ちゃんもおねーさんも呆然としていた。


「別にいいわよ。んじゃ値段は――」

「おっけーおっけー。んじゃこれでこれで! わーい、灼眼ゲット! これで『魔眼』シリーズはコンプだねだね! 早速装備装備♪」


 適正価格を提示したこともあるけど、取引は一瞬で成立した。


「まがんしりーず?」

「属性攻撃ができる瞳系アイテムの事よ。加工して武器にできるの。一部のジョブだとそのまま装備できるけど……あれ?」


 魔眼を装備できるジョブは、そう多くない。妖精と名のつく3つだけ。そしてアミーという名前。……んー、どこかで聞いたことが……?


「はぅわああああああ!? まさかあなたが妖精衣フェアリードレッサーアミー様……! 噂はかねがねお聞きしています! フェンリルマフラーは実にお見事な出来栄えで……!」

「イエスイエス! アミーでーす! あのコンサート観てくれたんだ、感謝感謝!」


 驚いたように叫ぶおねーさん。


「ああ、赤のナントカが言ってたあれか」

「ファンクラブがどうとか言ってましたけど……アイドルとかそういうジョブなんですか?」

「ブイブイ! アミーは妖精衣フェアリードレッサーでシンガー! 自分が作った衣装で舞台に立つアイドルなのですです!」


 Vサインを作るアミー。なんというか、やたら元気な子ね。


「実は実はぁ、ここに来たのは火鼠の皮がほしかったからなのよ。でも灼眼買えてラッキー! アミーの日ごろの行いがよきよきだからね!

 アミーが新しい衣装のために火鼠の皮が欲しい、って言ったらファンの人達が『とってきますから待っててください!』って言ったんで待ってるんだけど、知らない? 知らない?」

「三暗の第二区域でそういう人たち見たわ。倒せてなかったみたいだけど」


 嘘は言っていないわ。見たのは確かだし、火鼠は倒せそうになかったもん。火鼠の皮をアタシ達が持っている、ってのを言ってないだけで。


「えー。えー。まだ倒せてないの? もう、役立たずなんだから。こうなったらアミーちゃんが直接取りに行くんだから。ネズミとか汚いんで任せてたけど、ダメダメね!

 それじゃどこかで会いましょ! よかったらアミーのコンサートを見に来てね。待ってるからから!」


 腰に手を当ててぷりぷり怒った後でアタシ達に笑顔を見せて、三暗のほうに向かっていくアイドルさん。怒ったり笑ったりくるくる表情が変わる。


「それじゃ、行こうか」


 その背中が消えるまで呆然とした後、アタシはそう言って移動を促した。


「……いいんですかね? 火鼠の皮衣はもうないのに」

「アタシの知ったことじゃないわ」


 ボス狩りは早い者勝ちなのよ。だから問題ないわ。 

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