6:メスガキは火鼠に出会う
「ここより先は封印されし場所。ヤーシャ国に認められたものしか通さぬ」
扉の前に着くと、そんな声が聞こえてくる。この門自体が門番で通行書を持たないものを通さないNPC。確か国王が五行の術を用いて封じているとかそんな感じの設定だ。
「はい、こちらに」
「確認した。通るがいい」
おねーさんが許可書を示すと門が開き、そこから熱風が湧き出てくる。この先にあるステージを示すように。
門をくぐれば、そこはさっきまでの洞窟とはまるで様子が変わっていた。洞窟内なのは変わりないけど床には溶岩らしい赤くドロドロした液体が存在し、温度もめちゃくちゃ暑い。ゲーム的な補正はないんだろうけど、流れる汗がうっとうしい。エアコン欲しい。
「とっとと倒して帰るわよ。こんなところに長居してたら倒れちゃうわ」
「本物の溶岩地帯ならこんなものじゃ済みませんが、長居できないのは同意ですね」
「重ね重ね苦労かけますが、よろしくお願いします」
言いながら先に進むアタシ達。一本道を進むと、その先に火鼠がいた。赤い毛皮の直立したネズミ。ただし大きさは人間大ぐらい。炎を纏うエフェクトをもってるわ。そしてそのお供である野火を携えている。
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名前:
種族:幻獣(ボス属性)
Lv:82
HP:981
解説:炎を纏ったネズミの幻獣。その毛はけして燃えることはないと言われている。
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名前:野火
種族:アンデッド
Lv:45
HP:131
解説:死者の魂が炎と化した存在。生きているものを焼き尽くそうとする
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前にも言ったけど、炎の攻撃と速度を武器とするネズミ系のボスよ。主な攻撃は広範囲の炎攻撃、高速移動後の体当たり、尻尾による打撃、炎属性を伴った嚙みつきとかね。防御力も毛皮のおかげで高く、炎攻撃は完全遮断するわ。
加えて、火鼠がいる限りは一定時間ごとに野火が発生するわ。なので一般的な攻略法は野火を押さえながら、速攻で火鼠を倒すことよ。
「カソチュー!」
そんな鳴き声なんだか挑発なんだかよくわからない叫び声をあげる火鼠。こっちを見て、赤い瞳でにらみつけた。その後でため息をつく。
「……はぁ。なんや子供か。おもんないなぁ。もう少し大人の女性のほうがよかったわ」
「は?」
「でもそっちのねーちゃんはそこそこいけそうやし、僧侶っぽい子はガキやけど胸でかいし。まあまあ楽しめそうやな。あ、そこの原始人は帰ってええで。ガキに用はないわ」
しっし、と手を振る火鼠。
「アンタにはなくても、アタシにはあるのよ」
「知らんがな。胸もくびれも尻も貧相な女はおもろないねん。ワイの情熱がダダ下がりや。責任取ってーな」
「よし、ぶっ殺す」
なんでネズミごときにそこまで言われないといけないのよ。
「トーカさん、落ち着いてください」
「ワタクシは未成長のお方でも大丈夫ですからご安心を! 幼き者に貴賤はありません! 男女問わずに!」
素で殴りに行きそうになるアタシを止める聖女ちゃんとおねーさん。
「火鼠……五行において火は情熱を示すと言われています。感情の赴くままに喋るのはそれゆえでしょうね。いかに事実とはいえ、女性の体格を嘲笑うのは許してはおけません」
「事実じゃないもん! 少しはあるもん!」
「おおおお……。ささやかなる抵抗をするトーカさんがいじらしい。いいのですよ、小さいからこそ存在する魅力もあるのです」
「わかってへんなねーちゃん。柔らかおっぱいに張りのあるお腹に弾力あるおしり。これに勝るもんはないんや。大きいは正義なんや!」
「ぷくー!」
こぶしを握って力説する火鼠。あとなぜか同調する聖女ちゃんのドクハリセンボン。お前もか、お前もか。
「あー、そう。とにかくケモノはぶっ倒せってことね」
どうせ倒すんだし、これ以上会話しても意味がない。アタシは水行札を構えた。聖女ちゃんもおねーさんも戦いの準備に移る。
「ほないくで!」
最初に動いたのはクソネズミ。持ち前の素早さを生かしてまっすぐに突撃してくる。狙いは――聖女ちゃん。
「やわらか胸にダイブや!」
……まあ、アタシに来るよりは防御力に長けた聖女ちゃんに向かってくれるほうがパーティとしてはありがたいんだけど、それとは別に殺意ゲージが増したわ。
「ぷくー!」
「大丈夫です、とげまる。じゃあ行きますよ!」
ダメージの幾分かを【使い魔】のドクハリセンボンに移し、聖女ちゃんは聖杭シュペインを構える。ネズミの体に押し当て、魔力で形成された巨大な杭を打ち出す。バスン、という豪快な音と共に火鼠が吹き飛び、壁に縫い付けられた。
「この程度で!」
<足止め>されながらもまだまだ元気な火鼠。その瞳が輝き、赤い光を放った。光は地面を薙ぎ、そこから炎が噴出して波のようにアタシ達に襲い掛かる。赤嵐がアタシ達を包み込み――
「効かないわよ。そんなの」
「はわわああああああ! 炎の中曼殊沙華の着物を着て凛と立つトーカさん……萌えます! あまりのかっこよさにいいね連発です! ああ、心のいいねを100万回します!」
沙羅双樹曼殊沙華の炎無効能力と、水の羽衣を纏ったおねーさんは無傷。聖女ちゃんも聖歌を奏でて防御力を増し、ダメージは軽微だった。炎対策はばっちりなのよ。
「せやったら、肉弾戦や。MPが尽きたところで炎攻撃して一掃したる!」
<足止め>を解除して肉弾戦に移行する火鼠。壁を蹴って狙いを定めさせず、隙を伺っての攻撃。聖女ちゃんの聖歌による防御力上昇があるけど、じわじわとHPを削られていく。
「どや、高速で動くワイを捕らえることはでけへんやろ! じわじわ削って隙を見せたところで焼いたるわ!
へっへっへ。服を焼いて下着だけになった女は格別やぁ! ボロボロの服を必死に抱え、どうにか隠そうとする姿。必死に抵抗しながら絶望に陥る顔。ワイはこのために生きとるんや!」
なかなかゲスい性格ね、このネズミ。
「安心しぃ、殺しはせんわ。その代わり飽きるまで遊ばせてもらうで。ワイハーレムの一員として飼育したるわ」
「ネズミのハーレムとか真っ平御免よ」
「だからガキはこっちから御免やわ。成長するまでは下働きさせたる!」
言いながらも攻撃の手を緩めない火鼠。壁を飛び交い攻撃し、時折こちらに体当たりしてくる。炎攻撃が通じる聖女ちゃんに、火炎噛みつきを仕掛けてくる。
「ほらほらほら、どないやどないや! そろそろ降参したくなったんちゃうか?」
「そろそろHP半分ぐらいかな? んじゃ【ピクニック】で回復ー。おねーさんも食べる?」
「よ、幼女からの『あーん』……! なんというシチュエーション!
「……その、そういう言われ方をされると照れるというか。いえ、そうなんですけど」
持っていたケーキを使ってみんなのHPとMPを回復させるアタシ。ケーキをフォークで刺して、二人の口に持っていく。おねーさんはいろいろ悶えながら、聖女ちゃんは少し赤面しながらそれを口にする。二重の【スパイス】効果で三人のHPはほぼ回復する。
「…………は?」
「あ、好きに攻撃していいわよ。炎攻撃は効かないから、尻尾と体当たりぐらいしかダメージ通らないだろうけど」
「オーガキングに比べると手数は多いですけど一発のダメージは少ないですから、耐えるのは難しくありませんね」
「お二人がいい服を着ていただけるおかげで、私の支援がはかどります」
呆然とする火鼠に、アタシ達は余裕の声を返す。
聖女ちゃんの【深い慈愛】に加えて、おねーさんの【ランウェイ】の服効果2倍の二重バフ。このおかげでダメージは軽微。HPやMPの枯渇はアタシのダブル【スパイス】&【ピクニック】で回復できる。ケーキの数も十分あるし、しばらくは耐えられるわ。
むしろ火鼠はアタシ達にとってはどうでもいいのよ。
「ねえ、まだ『天使の癒し』取れないの?」
「はい。体感ですけどもう少しかかりそうです」
火鼠が生きている以上、無限に発生する野火。炎のアンデッド。
それを聖歌で倒して、聖女ちゃんの称号をゲットするのがアタシ達の目的なのだ。
「お、まてや! まさかワイの部下を倒すのが目的ぃ!? ワイの事はどうでもええんか!?」
「うん。まあ、ムカついたから痛めつけて殺すけど」
「おおおおお!? ワイをなめんなああああああ!」
「きゃー。こわーい。
全力出してもこんな子供倒せないとかどんな気持ち? 偉そうに見下してたのに、実はずっと掌の上だったのってどんな気持ちー? 『そろそろ降参したくなったんちゃうか』だっけ? どうなのー?」
「こんガキがあああああああああ!」
アタシの言葉に怒り狂う火鼠。でも何をしようが、火鼠がアタシ達に致命傷を与えることはない。そしてボスなので逃げるとか降参するとかそんな考えをしない。
「あ、覚えました。『天使の癒し』」
「おっけー。それじゃ、ばいばーい」
隙を見てプリスティンクロースに着替えて、【笑裏蔵刀】。どんだけ早かろうがクリティカルで絶対命中ね。それでごっそりHPを削って、あとはゆっくり水行札と聖杭シュペインで削っていく。
「ホントにレベル80のボス属性なの? ざこすぎー」
「あほなー!」
はい、おしまい。火鼠の皮ゲットね。らくしょーよ。
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