4:メスガキは第二区域を進む
そして次の日、いろいろ買い物を済ませてアタシ達は三暗に向かう。
「言っても火鼠対策で新しいカード買っただけだけどね」
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★アイテム
アイテム名:水行札
属性:カード
装備条件:【カード装備】習得
魔力:+30 <水>属性付与
解説:ヤーシャの五行思想から生まれた札。水の力を有する。
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アタシが購入したのは火鼠が弱点で持っている<水>属性攻撃を持つカードだ。弱点属性は防御力とかを抜けたダメージが2倍になる。アタシの素の魔力は低いのでクリティカルでないと大ダメージにはならないだろうけど。
「メインはアンタが杭で殴ってもらう形ね。おねーさんは【ランウェイ】掛けたら後ろで応援かな」
「それはいいですけど、火鼠の攻撃はどうするんです? かなり素早いと聞きましたけど」
「アタシはドレス着て炎攻撃無効化できるし、おねーさんも火鼠対策で水の羽衣持ってるみたいだし。噛みつきさえ気を付ければ負ける要素はないわ」
おねーさんも無策で火鼠に向かったわけではない。相手が炎攻撃をするのだから、それなりに対策は考えていたようだ。……まあ、第二区域のモンスターや肝心の火鼠の強さまでは予想外だったみたいだけど。
「そういえばトーカさんにしては珍しいですね。ボスを倒してレベルアップとか考えなかったんですか? レベル80ですから、それなりに経験値? がもらえるのでは?」
「通行書イベントさえなければすぐに向かってたわよ。地道な努力とかやってらんないわ」
「それはいかがなものかと思いますが……」
「ワタクシとしても、通行書が無駄にならずに済みました」
一つの通行書があれば、同じパーティなら通ることができる。おねーさんもパーティインしてもらい、アタシ達は第一区域を進む。通い慣れた廃村を抜ければ、その先にある洞窟に到達する。
「ここから先が第二区域よ。ちょっとおどろおどろした場所になるわ」
「牛頭と馬頭がいるということは、地獄ということでしょうか?」
「そうなの? まあいいわ。動物属性なんだからプリスティンクロースに着替えてってと」
【早着替え】でキョンシー服からプリスティンクロースに着替えるアタシ。
「アメイジング! 原始の衣装に身を包んだ幼い少女。野性的かつ純粋さを感じさせる組み合わせです! 人がまだ文明を築く前から存在していた確かな芸術! まさに美女と野獣! 簡素だからこそ素材が際立ち、ああ、この思いを言葉にできない私の不勉強を呪います! そして幼女に祝福あれえええええええ!」
その瞬間、おねーさんがものすごい勢いでのけぞった。
「あの、ソレイユさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫! ちょっと鼻血が止まらないだけです。しかし何たる不意打ち。このような、オフゥ、素晴らしい世界が、ホヒュ、あろうとは……まさにこの世界は天国!」
「ホントにこのまま天国に行っちゃいそうな勢いね」
これ、着替えるたびにこうなるのかなぁ? 時々変な呼吸をするおねーさんを見ながら、人の業の深さを感じていた。
「……えと、とにかく行きましょう。レベル的に負けはないけど、おねーさん守るの優先で」
「はい。行きましょう」
「お手数おかけします」
そして洞窟の中に入るアタシ達。
日の届かない洞窟の中。明かりは松明とぼんやり光るコケ。天井までの高さは3mほどで、その中をキョンシーや魂のような火の玉。そして牛や馬の頭をした巨人が歩いている。
「ブヒヒヒーーーン!」
早速現れたわね、ウマヅラ。
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名前:馬頭
種族:鬼
Lv:60
HP:178
解説:馬の顔を持つ鬼。亡者を統率する地獄の番人
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第二階層内に一体ずつ存在する馬頭と牛頭の鬼。でっかい鉈を持ったパワーファイター。【スラッシュコンボ】で三連撃してきたり、炎の息を吐いてきたりと結構多彩な攻撃をしてくる。
でもアタシ達にとっては前座にすらならない。
「いきます!」
「ぷくー」
ドクハリセンボンを伴った聖女ちゃんが馬頭に迫る。聖杭シュペインで相手をぶっ射し、吹き飛ばした。<足止め>は入らなかったけど、これでほぼ決まったも同然だ。
「馬は馬らしく、牧場で走ってればいいのよ。身の程を知りなさい、馬・鹿」
【笑裏蔵刀】でクリティカル攻撃。水の力がこもった札が馬頭に向かって飛び、その鼻頭に張り付く。そこから魔力が展開し、馬頭の体内を水の力が駆け巡る。鬼の心臓を捕らえたのか、震えるようにいななく馬。
『格上殺し』系トロフィーの固定ダメージとプリスティンクロースの動物特攻が乗った攻撃。それがクリティカルで入ったのだ。そのまま霧となって消滅する。時間がたてば同じ区域内に
「いえーい」
「え。あ、い、いえーい」
なれない感じでハイタッチするアタシと聖女ちゃん。
「はぅ……! なんて尊い、そしてお強いお二方! 見た目はあんなに潤しく可愛らしいのに、繰り出す攻撃は的確かつ苛烈。知恵と実力を兼ね備えた幼いお二人に、私のキャパはいっぱいいっぱいむきゃあああああああ!」
そして自分を抱きながらきゃあきゃあ言っているおねーさん。うん、もう慣れたけどやっぱりドンびく。
「もうこの辺の敵にてこずることはないわね」
「少し前までオーガに苦戦していたのが嘘のようですね。牛頭と馬頭はオーガよりも強いんですよね」
「まあね。アタシらが成長している証よ。まあ、だからこそこの辺でのレベリングはうまみがないんだけど」
実際、今馬頭を倒して得た経験点は雀の涙。積極的に狩っておくレベルじゃない。
「移動がてらにキョンシー狩っていきましょう。おねーさん、支援ちょうだい」
「はい。皆々様のお召し物、とくとご覧あれ!」
おねーさんが手を広げると、淡い光がアタシと聖女ちゃんを照らす。着ている服が映えるように計算された光の道。【ランウェイ】の効果だ。
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★アビリティ
【ランウェイ】:服を知るからこそ、服を美しく魅せることができる。範囲内にいる自分以外の『装備:服』『装備:ドレス』の能力修正値を二倍にする。MP30消費。
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服とドレス限定のバフ能力。装備効果を二倍するアタシの【カワイイは正義】の他人バージョン。MP消費は大きいけど、アタシ達にとっては相性ばっちり。プリスティンクロースの動物特攻も二倍になるし、聖衣ローラのMP減少も倍になって4分の1になる。
さすがにバグじゃね? って意見もあったけど運営は『仕様です』と返したわ。それはこの世界でも有効らしい。
「素晴らしき恵みよ――」
そして聖女ちゃんが奏でる【人に善意あれ】でHPMPを回復しながら群がるキョンシーも倒していく。MP消費が少ないので、経戦能力が段違い。
「んー、楽勝楽勝。回復したらネズミ狩りね。……ん?」
聖歌の範囲内で伸びをするアタシ。そんなアタシの耳に、ぼそぼそと声が聞こえてくる。
「この先に火鼠がいるのか?」
「ああ、牛頭馬頭は厄介だが、この『赤の三連星』にかかればどうということはない」
「ネズミなんかすぐに倒して、火鼠の皮をアミー様に届けるのだ」
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