28:メスガキは天騎士と会話する
聖女ちゃんの杭が暗黒騎士に突き刺さり、黒の鎧を砕く。
砕いた場所から広がるようにヒビが広がり、そのまま鎧全体が破壊されていく。つながっていないはずの籠手とか兜まで砕けるのは、まあゲーム演出。
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
<条件達成! トロフィー:『ボスキラー』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
「うーっし、一回目。HPMP全快!」
レイドボスを倒した経験点と報酬。さすがに『ボスキラー:暗黒騎士』は一回しか入手できないけど、スキルポイントが上がるのは大きい。あとレベルアップでHPとMPが全快する。
「終わった……んですか?」
「<フルムーンケイオス>そのままだと、あと19999回撃破しないといけないけどね」
「そんなの、ダメですからね」
これ以上アタシに無茶はさせない、とばかりに服をつかんで告げる聖女ちゃん。正直、アタシもこれをつづけるのはごめんだ。終わってほしいと思ってる。ゲームそのものじゃないんだから、ここで倒して『今日のところはこれぐらいで終わらせてやろう』とか負けセリフはいて帰ってほしい。
だけど、さすがにそれは甘かった。
「光ある限り、闇は在る。朝ある限り、夜は来る。故に我が身も、不滅……!」
ゲームでも使っていた暗黒騎士のセリフ。それと共に黒の鎧が再生されていく。周囲の闇が螺旋を描いておにーさんの体にまとわりつき、新たな鎧を形成していく。
「アサギリ・トーカ……!」
おにーさんの声がアタシに向けられる。
「今のうちに、俺を殺せ!」
おにーさん本来の声が、言葉が、意思が、正義が。
「俺は、君への恨みに駆られて悪魔と契約してしまった……! 君を殺そうと、力を欲してしまった! その結果、この街すべてを襲う災厄となってしまった!」
悪魔との契約。
<フルムーンケイオス>でも時折シナリオで出てくるわ。曰く、力を欲してしまった元人間のなれのはて。ボスの設定とかに出てくる輩。たいていは倒すしかないモンスターで、倒した後に人間に戻ってめでたしめでたしか、元から悪人で殺してカタルシスをはらすかね。
「そんな……! だからと言って殺すだなんてできません!」
「いいや聖女コトネ、それは違う! このまま闇に意識を乗っ取られれば、またキミたちや町の人達を襲うことになる! だが今俺を殺せばその悲劇は回避できるんだ!
早く、俺の意識が闇に呑まれる前に殺してくれ!」
おにーさんを包み込む闇は少しずつ鎧を形成していく。あれが完成して鎧が新しく出来たら、また暗黒騎士としてこっちを襲うのだろう。
「でも……!」
「この呪いは簡単には解除できない! SS級魔物となった俺をあと19999回殺さなくては解けないモノだ! いまなら、俺の命を絶つだけで終わらせることができる!
力の誘惑に負けた俺など、無価値! 早く殺してくれ!」
今ここで息の根を断てば、多くの命が救われる。だから殺してくれ。
おにーさんは死を望むわけではない。多くの死を回避するために、自分を切り捨てろと言っている。大を救うために、小を殺せ。それは正しいとか間違ってるとかじゃなく、そうしなくてはいけないからそうするのだ。
助けることができる命が限られているなら、その数が多いほうがいい。トロッコ問題、トリアージ、そう言った生命を選択しなければならない状況がある。そういう時には命を切り捨てて多くを救うのが正しいのだ。
でも、アタシはそんなの知ったことじゃない。
「ほーんと、あれだけ努力がどうとか言ってたくせに簡単に誘惑されるんだから。おにーさんキャラぶれすぎー。今のおにーさんマジ価値ないわよ」
アタシはアタシが言いたいように言うだけだ。空気とか状況とか正義とか知んないもん。
「大体SS級魔物とかなにそれ? どこのラノベの話? 意識が闇に呑まれるとか、俺を殺して先に行けとか、どんだけ自分に酔ってるのよ。あーあ、これだから男子は困るわ、現実味なさすぎ」
「あの、トーカさん今は、そういうことを言っている場合じゃ」
「そんなにアタシが憎かったの? アタシの
何か言いたげな聖女ちゃんを視線で止めて、おにーさんに問いかける。
「い、今はそんなことを」
「答えなさいよ。バッドステータスで弱体化させて高レベルモンスターを狩るやり方が卑怯? レベルに合わせたレベリングこそが正義? だからアタシが間違ってる?」
「……ああ、そうだ。だがそこを悪魔に利用されて」
「そうね。アタシが憎くて憎くてしょうがなかったのよね。おまけに正々堂々と戦いを仕掛けてあっさり負けちゃって。悔しいわよねー。情けないわよねー」
「く……! うううう」
「でも、そんだけ本気で強く思ってたんでしょ。その『正義』を」
びしっ、と指さしアタシは告げる。
「アタシはそんな考え全く理解できないし少しも共感できないしまるっきりどうでもいいしどうなろうが知ったことじゃないけど、本気で自分の道を貫くおにーさんはすごいって思ったわ。妥協せずに突き進む
これは本当だ。正義とかバカにしたりもしたけど、このおにーさんの性格自体は嫌いじゃない。バカみたいだけど、端から見ている分にはウケる人だった。
「だからこんなふうに闇堕ちとか路線変更するのが許せないのよ。バカを貫くなら最後まで貫けってーの!」
「そういう問題ですか!? その、ルークさんの思想とか絶対トーカさんと相いれませんよね?」
「うん。だけど好き嫌いは別じゃない? 敵だけど好きなキャラもいるし、味方だけど邪魔なキャラもいるし。
とにかく、そのキャラ路線はアタシ嫌いだから。だからここで殺さずに黒歴史としておにーさんをからかうネタにさせてもらうわ」
くろれきし? と聖女ちゃんが首をかしげてるけど、説明している時間はない。
「ま、待ってくれ! 今ここで殺さないとまた君たちに襲い掛かってしまう!」
「あの黒いのを19999回殺せばいいんでしょ。ヨユーよ、そんなの」
「無理だ! さっきの戦いだって君は何度も傷ついていたじゃないか! 苦しそうに立ち上がって、そんなことを繰り返せば――」
「うっさいわね。アタシに任せればどーにかなるのよ。そんなこともわかんないとか、ほんとおにーさん頭悪いんだから。
なんでおにーさん、お金くれない?」
人差し指と親指で円を作って、笑顔を向けるアタシ。
「………………は?」
何言ってんのこの子、っていう目でアタシを見るおにーさん。聖女ちゃんもドン引きしてます、ってぐらいに眉をひそめてる。なによう、大事なことなんだから。
「どーにかしたいんだけど、アタシお金ないのよねー。
具体的にはアタシがオークションに出してる『ライトニングバスター』買ってほしいのよ。なんかいろいろ言われてて売れなくて困ってるのよねー」
「いや、俺は……聖剣と聖盾使いだから両手剣はあまり使わないんだが」
「いいじゃないのサブの武器ってことで。<雷>属性ついているから、水系の敵に相性いいわよ」
「相手の弱点を突くなど、卑劣な真似は出来ん!」
「うわめんどくさー。じゃあ合成の材料とかにどう? 最終的には
「ぐぬぬぬぬ……! それは……!」
そんなリアル交渉の結果、ライトニングバスターは落札。アタシの財布の中に大量のお金が入ってきた。
「よっしゃ、2Mガマげっと! 財布が潤ってると頑張ったって気分になるわー」
「……さすがにこの状況でお金の話をするとか、ありえません」
「やはり反省するまで痛めつけなくてはいけないのかだろうか……」
努力した分数字が増えるRPGの喜びを実感してるアタシ。そんなアタシを虚ろな目で見る聖女ちゃんとおにーさんだった。
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